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読書 三島由紀夫「仮面の告白」

2006-11-23 10:35:10 | 読書
 この人の文体はやはり他の追随を許さないほど独自の感性を見せる。若い頃「潮騒」を読んだが内容は記憶にない。
               
 川端康成の「眠れる美女」を読んだために、川端と親交の深かった三島由紀夫も読んでみたくなった。辞書を片手に読む必要がある。少なくとも私は。
 それに知能を試されているように思われて居心地が悪い。どう考えても、こういう表現は出来ないのではないかと、考えてしまうのがある。

 例えば“波ははじめ、不安な緑の膨らみの形で沖のほうから海面を滑ってきた。海に突き出た低い岩群は、救いを求める白い手のように飛沫(しぶき)を高く立てて逆らいながらも、その深い充溢感に身を涵(ひた)して、繋縛(けいばく)を離れた浮遊を夢みているようにもみえた。
 しかし膨らみは忽ちそれを置き去りにして同じ速度で汀(なぎさ)へ滑り寄って来るのだった。やがて何ものかがこの緑の母衣(ほろ)のなかで目ざめ・立上がった。
 波はそれにつれて立上がり、波打際に打ち下ろす巨大な海の斧の鋭(と)ぎすまされた刃(やいば)の側面を、残るくまなくわれわれの前に示すのだった。
 この濃紺のギロチンは白い血しぶきを立てて打ち下ろされた。すると砕けた波頭を追ってたぎり落ちる一瞬の波の背が、断末魔の人の瞳が映す至純の青空を、あの此世(このよ)ならぬ青を映すのだった”

 それにもう一つ、一枚の絵に釘付けになり、そこに描かれている非常に美しい青年が裸で幹に縛られているのを見て、男の子なら誰しも通過する大事なことを次のように表現している。
 “その絵を見た刹那、私の全存在は、ある異教徒的な歓喜に押しゆるがされた。私の血液は奔騰(ほんとう)し、私の器官は憤怒(ふんぬ)の色をたたえた。
 この巨大な・張り裂けるばかりになった私の一部は、今までになく激しく私の行使を待って、私の無知をなじり、墳(いきどお)ろしく息づいていた。
 私の手はしらずしらず、誰にも教えられぬ動きをはじめた。私の内部から暗い輝かしいものの足早に攻め昇ってくる気配が感じられた。と思う間に、それはめくるめく酩酊を伴って迸(ほとばし)った。――これが私の最初のejaclatio(ラテン語の射精)であり、また、最初の不手際な・突発的な「悪習」だった”いずれにしても詩的ではある。

 それもその筈、三島由紀夫の年譜を見ると六歳の頃から、詩歌、俳句に興味を持ったとある。十五歳で投稿するようになる。
 それだけでなく、天賦の素質も備わっていたのだろう。たまにこんな本を読むのも悪くない気がする。三島由紀夫二十四歳の自伝的作品。

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