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小説 囚われた男(4)

2006-10-30 11:49:40 | 小説
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 大手町のビルの八階にある商社ユニヴァースの総務課に在籍する江戸川久美子は、午後五時きっかりに化粧室に向かった。
ここの化粧室は、ホテル並みの設備を誇っていて、大きな鏡、洗面部分も広く照明の配慮も完璧で、自然光に近い。したがって、化粧の仕上がりには満足する。鏡の前でボーイッシュな髪形に包まれた色白のやや丸みを帯びた顔に、慣れた手つきでピンクのシャドーを額に薄く塗る。

 突然、背後にぬっと人影が現れた。一瞬ぎょっとしたが、よく見ると経理課の千代田増美が笑っている。
「チョットオー、びっくりするじゃない!」と久美子が口を尖らす。
「ごめん、ごめん! お化粧するのってかなり集中しているんだ」と増美がまじめな顔で言う。
「そうかも、だって今日は金曜日よ」と久美子はうきうきとして言う。アイラインとアイシャドウも引き、唇をワインレッドでキチット輪郭をとって出来上がり。
増美は経理課の近くの化粧室で済ませてきたのだろう。ロングヘアーを肩までたらしダークブラウンに染めている。細面にはよく似合う。アイラインを薄く引いて、素顔のような肌は健康的に映る。

 実際二人は健康そのもので、週一回は、近くのジムでトレーニングに励んでいる。化粧室から出がけに二人は、唇に軽く触れ久美子は舌で増美の歯をなでるキスをした。
 エレベーターで一階に降りて、出入り口の回転ドアに向かう。会社の退け時とあって出口に向かう人で込み合っている。歩道に吐き出されて思わず「寒い!」と二人同時に叫んだ。
 強力な寒気が南下していて関東地方を覆っているせいだ。二人は丸の内線の地下鉄駅へ歩みだした。雲一つない夜空に浮かぶ月の光芒がまぶしく感じられる。
               
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読書 乃南アサ(のなみあさ)「行きつ戻りつ」

2006-10-28 13:55:03 | 読書
 12編の短編集。登場人物に名前がない。主人公は勿論、母、夫、義母、息子、娘、姉、不倫相手、友人、昔の恋人すべて。
 主人公は家庭の中年の主婦。唯一名前のあるのは、物語の舞台となる地名だけ。秋田県・男鹿、熊本県・天草、北海道・斜里町、大阪・富田林、新潟県・佐渡、山梨県・上九一色村、岡山県・備前、福島県・三春、山口県・柳井、福井県・越前町、三重県・熊野、高知県・高知市。
                
 ここで主人公の苦悩の心のひだを撫でるように丁寧に描出して、読者の心を震わせページを曇らせる。

 気がついたのは、“悪い嫁ではなかったつもりだ。だが、褒められるほど良い嫁でもなかったかもしれないとも思う。少なくとも、彼女は「嫁」として扱われるのが嫌だった。
 結婚したときから、「妻」にはなったが「嫁」になったつもりはないという、密やかな反発があったことは否めない”この嫁という表現は女性ならではと思う。

 “月明かりの中で、富士は無言のまま、その黒々とした威容を彼女だけに見せにきているようにさえ感じられる。こんな感覚は、生れて初めてだった。
 彼女は「こわい」と思った。恐怖ではない。人間の力など到底及ばない、だが、何かの意思とエネルギーを持っているに違いないと感じられる存在への、明らかな畏怖だった”わたしはこの感覚はよく分かる。
 中央自動車道や国道139号線を河口湖方面に走っていて、突然冠雪した富士山が現れるとき、背筋に寒気が走る感覚を覚える。
 それは毎回のことで、新幹線から見るときはその感覚はない。突然現れないからだろうと思う。

 それから、並行して読んでいるキャサリン・コールターの「カリブより愛を込めて」の中での表現に対照的な記述がある。
 まず、乃南アサの作品で、夫の浮気相手をとっちめるために出かけてきた中年女が出会ったのはその両親。
“「娘は――史絵は、何も言わないものですから。そのう――相手のことは、何も」
「と、仰いますと? では、娘さんが誰かとお付き合いなさってることくらいは、ご存知だったんですわね?」
 夫婦は「はあ」と口ごもるように頷く。その顔には明らかな苦悩の色が浮かんでいた。彼女は、ようやく溜飲を下げる思いで、
「まあ、そうかも知れませんわね」とわざとらしく背筋をのばしてあごを引いた”

 一方キャサリン・コールターは“この事件は低劣で、あの男は聡明さに欠ける。わたしは彼をテレビで観たし、証言も読んだ、哀れではあるけれど、それだけでしかない。
 ただでさえ報道過多なのに、なんでわたしがかかわらなきゃならないの?」腕を組み、軽く脚を開いて、あごを突き出す”

 両方とも威嚇のポーズを表しているが、あごを引くと突き出す、面白い対比だと思う。風土の違いが現れているようで。
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小説 囚われた男(3)

2006-10-26 12:54:41 | 小説
 左手の手袋を脱ぎ右手はそのままにズボンのポケットに入れながら、階段を七階まで下りてエレベーターに乗り込んだ。もし誰かに見られたときの用心だ。下りのエレベーターは一人ぼっちだった。下る途中、携帯電話で株価の動向をチェックした。逆指値で利益の確保は確実になった。

 高層マンション「信長」から歩道に出ると、冬枯れの街路樹に鈍い陽射しがハイライトを作っていた。この分譲マンション販売会社の社長が戦国武将ファンでこんなネーミングになったと聞く。

 前方にスターバックスの看板が見えた。仕事のあとのゆったりとした時間が、コーヒーの香りとともにすぐそこにあった。しかし、今夜あと一つ片付けたい仕事があった。
                


 銀座並木通りは、夕刻ともなるとビジネスマンやキャリア・ウーマンでどの店も大賑わいを見せる。ここ『バーニー』も例外ではない。店のオーナーが熱心なローレンス・ブロック好きで、古書店を表向きに営み、時には泥棒になるという主人公のバーニーにちなんで名づけた。
 店内は典型的なアメリカン・スタイルで、中央にU字形のカウンター・バーがあり、その周囲にボックス席が並び、奥には玉突き台とジュークボックスが置かれている。

 そこはジャズが中心で、カントリーはお呼びじゃない。アラバマの田舎町ではないというわけである。低くて狭いステージにカラオケ設備や踊れるスペースもある。そしてカウンターの天井からはテレビがぶら下がっていて、大リーグやフット・ボール、バスケット・ボールの中継が映し出される。

 それらを囲んで一年中沸き立っている。したがってアメリカ人を始め、ヨーロッパの国々からの客も多く国際色豊かな店である。従業員もでっぷりと太ったアメリカ人のチーフ、ジムを筆頭にウエイトレスにもアメリカの女性が混じっている。アルバイトで働いていて、日本語も達者で気安い態度がくつろげる店として広く知れ渡っている。

 料理も無国籍で、主に肉を塩と胡椒で味付けして供するが、凝ったメニューもある。例えば、こちらはロバート・B・パーカーの主人公スペンサーにちなむ「スペンサーの料理」から、チーズボール、帆立貝を使うスカラップ・ジャック、鶏とマッシュルームのクリーム煮、背骨を中心としたサーロインとフィレを含んだ最上質部分の、ポーターハウス・ステーキなど。
もちろん日本料理もある。焼き鳥、串かつは人気メニューである。

 日本人の客層は、大手町をはじめ銀座、新橋、霞ヶ関などのビジネスマンやOLということになる。そんなわけで、この店の客にとってもっとも好ましいのは、ガール・ハントやボーイ・ハントに最適なことだ。
 しかも知的水準も資産水準も高いときている。多くの男女にとって見逃す筈はないのである。今日は勤め人にとって一番うれしい金曜日、多くの美男美女がやってくるだろう。
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読書 リンダ・ハワード「一度しか死ねない」

2006-10-24 10:31:18 | 読書
 前回に引き続き女性作家の作品。タミー・ホウグより読みやすい。くどい記述がないからだと思う。
                
 引退した連邦判事の屋敷で執事として、おまけにボディガードも務めるセーラ・スティーヴンズ30歳。連邦判事が殺害されその捜査を担当した刑事トンプソン・カーヒルは、セーラを一目見るなりオスの本能が刺激される。

 早くも33頁目でセーラもまるで野獣の本能のように、男のフェロモンを嗅ぎ取る。
 引用すると“彼を一目見たときから鼓動は早くなっていて、今でもやけに速いペースで跳ねている。神経化学物質のいたずらか、生命の不思議か、はたまたその二つが結びついたものか、いきなり彼に欲望を感じてしまったのだ”

 女性作家二人の作品から窺えるのは、女性も内奥では性を強く意識しているということだろう。それにしてもこの人のセックス・シーンはまるで格闘技。とはいっても参考になる記述もある。

 射撃場で、左手で銃を撃つ場面“左手で銃を取り、右手で左手首をつかんで支え、冷静にいつもの手順で弾倉が空になるまで標的を撃った”

 それに葬儀については、この物語の舞台がアラバマ州で“南部の葬儀は伝統と格式があり、感傷的だが最後には慰めがもたらされる。
 葬列が墓地まで進む間、通りかかった車はみな停まった。葬列が滞りなく進むように、警察車両が交差点を遮断していた。
 セーラはずっと、葬儀の際の交通エチケットを面白く思っていたが、いざ葬列の中に入ってみると、その思いやりがありがたかった”死者に対する敬意と哀悼がみてとれほっとする。

 余情が足りなかったかなとは思うが。著者は全米女性の圧倒的な支持を誇る人気作家というが。
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囚われた男(2)

2006-10-22 12:46:53 | 小説
ためしに小説を書いてみました。出来栄えの方は保証できませんが、お楽しみください。
 事業で成功し金に困らない生活が身についた男の自信も窺える。
「東だが、どんなご用件で?」食えない男だ。千葉から用件を電話で聞いているはずなのに。話す用件なんてないに等しいからどうでもいいが。
「千葉からお聞きだと思いますが? 失礼ですが、入れていただけませんか?」と生実が言う。ドアを一旦閉めて、チェーンのガチャガチャと言う音とともにドアが一杯に開けられた。
 「どうぞ」東は大理石の廊下を先に立ってリビングの方に歩き始めた。

 生実は肩でドアを閉め、ジャケットの右ポケットに入れていた手をゆっくりと抜き出した。
リビングに置いてあるソファの前で、東は振り向いて驚愕の表情を浮かべた。目は大きく見開いて口をぽかんと開けている。まるでアンコウが大口を開けたみたいだ。
 生実が両手で構えて握っているスミス&ウェッソン九ミリオートマティック拳銃は、ぴたりと東の心臓に照準を合わせている。音もなく発射された弾丸は、確実に東の心臓を撃ち抜いていた。弾丸を受けた反動で東は仰向けに倒れた。ソファの前のクリスタル製のテーブルにぶつかることもなく。
               
 生実は、部屋を見回した。パナソニックの六十五型大画面テレビと五・一チャンネル・システム・シアターがすえられている。大振りの観葉植物が二本、入口の近くとソファの奥に置かれている、ソファの後ろの壁には、生実の知らない画家の、ブルーと白が基調の、どこか海浜のカフェテラスの人々が描かれた絵がかけられていた。
 大きく開口をとった窓から東京湾が望め、陽射しを受けた波頭がきらりと光るのが見えた。

 腕の時計を見ると五分経過していた。東の目は虚空を睨んで、今にも飛び掛ろうとしているように怒りがにじんでいた。血の海はゆっくりと広がり始めていた。頸動脈にラテックスに包まれた手で触ると、何の反応も返ってこなかった。完全に死んでいる。もう、大口をたたくことも、心にもないほめ言葉や女を口説くことも出来ない。

 ドアに向かいながら、目の隅にテーブルの写真に気づいた。手に取って見ると、一瞬息を呑んだ。一人の女性と二人の子供が、満面に笑顔を貼り付けて写っていた。
 その女性に気を取られていた。女性は三十代後半か四十代始めかもしれない。若く見えるが、子供の母親だろう。着ている服装から結婚式で撮ったようだ。すらりとした体に濃紺のスーツが細面の顔立ちを引き立て、真珠のネックレスが一層楚々とした雰囲気を醸しだし、イヤリングがカメラのフラッシュに反射している。乳房の大きさがはっきり分かるくらい、胸が突き出ている。生実は股間の疼きを感じた。
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囚われた男(1)

2006-10-18 13:40:05 | 小説
ためしに小説を書いてみました。出来栄えの方は保証できませんが、お楽しみください。


 
               

 セロファン・テープを貼りつけた人差し指で、エレベーターの昇りボタンを押し込んだ。乗り込んで十階のボタンを同じ指で押す。内部は、黒っぽい鏡板仕上げの落ち着いたパネルが張ってあって、蛍光灯の光で輝いているように見える。
 自分の姿が映っていて、服装の点検や髪型を整えるのには丁度いい。そのような意図があるのだろうか、その点は判然としない。今日はクリーム色のチノパンにブルーのボタンダウン・シャツ、ノーネクタイでこげ茶色のコーデュロイのジャケット、靴は先端に金具の入ったウレタン底で、音のしない茶の革靴という出で立ち。

 服装に問題はなさそうだ。ジャケットの袖に傷があったり、ズボンに小便の跡が残っていたりはしていなかった。スピーカーからピアノ・ジャズが静かに流れている。ビル・エヴァンスか? と考えていると、三階で止まって五十代の中背のすらりとした、顔に品のいい表情を湛(たた)えた女性が乗り込んできた。男はかすかな笑顔でうなずいて挨拶をした。女性は六階で降りた。降り際に笑みを返してきた。そして一人取り残された。

 男は、すばやくラテックスの手術用手袋を両手にはめ、ジャケットの右ポケットからスミス&ウェッソンM5906九ミリオートマティック拳銃を取り出し、左ポケットのサイレンサーを装着して右ポケットに戻した。
 チンという音で十階であることが分かり、グレイのリノリューム張りの廊下に踏み出した。左右に目を走らせ右手に非常口とエレベーター横に階段があるのを確かめた。

 1015号室のブザーを押して待っていると、くぐもった高齢者特有のしわがれた声が「どなた?」と男の声が問いかけてきた。その声は不意の来訪者を嫌う、怒りがにじんでいるようだった。
「生実(おゆみ)と申します。早朝から申し訳ありません。千葉の使いで参りました」とドアの外の男は言った。
「チョット、お待ちを」ドアをチェーンがかけられた分だけ開けられて、男が立っているのが見えた。年恰好は六十代後半、ごま塩頭に顔はそばかすが浮き出て血色もよく健康そうだ。淡い白の襟付きシャツにえんじ色のVネックセーター、ブルーのフラノ地のズボンに柔らかそうな室内用の靴を履いている。そう、ここは欧米式の住宅だと聞いている。
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読書 タミー・ホウグ「心ふるえる夜に」

2006-10-17 13:51:47 | 読書

                
 “その男を目にした瞬間、体じゅうに強い電流が走ったような衝撃を受けた。がっしりした広い肩に、盛り上がった上腕の筋肉。裸の広い胸には薄っすらと汗が光り、鍛え上げられた筋肉を日焼けした張りのある肌がおおっている。
 彫像を思わせる完璧な形の上下の唇が合わさった大きな口は、高級コールガールにもひけをとらないほど官能的だ。セレナの頭から爪先まで、これまで経験したことがないような震えが走った”これが導入部分に展開される。

 男はラッキーという心に傷を持つ荒っぽいやつだ。女は精神科医で理知的。この相反する男女の反目しながらも、肉体的に結ばれていくという雄と雌の宿命が描かれる。

 この人の作品は以前「ふたりだけの岸辺」を読んでいて読後感は良かった。この作品はロマンス小説にサスペンスを織り込んだ最初の作品らしい。しかも10年前の。
 この人はセックス描写も克明に描くが、三回も同じような場面は食傷気味だ。それにチョットくどい表現も気になる。それは「ふたりだけの岸辺」にもいえる。この人のクセなのだろう。それにしても、彫像のような肉体美の男に女性は陶然となるようだ。

「急いで鍛えなくちゃ!えっ、もう遅いって?」しょんぼり

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読書 ジェフリー・ディーヴァー「クリスマス・プレゼント」

2006-10-05 11:25:24 | 読書

               
 16編のミステリー短編集。一言で言えば、次の展開が待ち遠しくページをめくるのももどかしい。チョット大げさかもしれないが、最近では珍しく興奮した作品。
 いずれも意外性に富んでいて、作家が読者を誘惑して、本の中に叩き込むのを究極の目的とするなら、成功している。

 例えば、最初の1篇「ジョナサンがいない」マリッサ・クーパーは、ジョナサンとの記憶は一箇所に行き着いてしまう。ジョナサンのいない人生。
 読者は夫が交通事故か何かで亡くなったと思うだろう。おまけにデイル・オバニオンと言う男をレストランで待つという。てっきり新しいボーイフレンと思い込む。
 高級住宅地で、ケーブルテレビ会社員ジョゼフ・ピンガムと名乗る男に主婦が殺される。主婦のセーターを脱がせ、ジーンズのボタンをはずしながら思案する。マリッサ・クーパーになんて名乗ったのか。思い出して納得する。マリッサは夫殺しを依頼していた。

 これが巧妙に語られる。それに、気の利いた表現、
 “楓(かえで)や樫(かし)の葉は、金色だったり、心臓のような赤だったりする”
 “涙は感情という天候の気圧計だ”
 “あの陽光をごらんなさい。栂(つが)や松の黒い幹に輝くリボンをまとわせている”などが心憎い。

 著者は子供の頃から短編をせっせと書いていて、長編よりも難しいという。1950年シカゴ生れ。ミズーリ大学でジャーナリズムを専攻。雑誌記者、弁護士を経て40歳でフルタイムの小説家となる。

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映画 「ブロークバック・マウンテン(‘05)」

2006-10-01 11:49:57 | 映画
 映画データベース・サイトallcinema onlineでの書き込みを見ると、哲学的考察やカウ・ボーイの内面への接近、詩的な記述、大好き、切ないなど概ね評判がいいようだ。
 紛れもなく一つの愛の形であることだ。1963年ワイオミング州ブロークバック・マウンテンでの一夏の出来事が始まりだった。
 羊番のイニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)の二人のカウ・ボーイは、寒い夜テントの中で結ばれる(結ばれるという表現がいいのかよく分からないが)。
                
                 左 ヒース・レジャー 右 ジェイク・ギレンホール
 男と女の愛と同じように喜びや苦しみに満ち、人生を歩むことの辛さが二人にのしかかる。それぞれ妻帯し子供をもうけ家庭を築くが、釣りやハンティングと称して密会する。
 20年の歳月が流れイニスは離婚され、ジャックは同性愛者ということで殴り殺される。イニスはかつてジャックと殴り合って出した鼻血のついたジャックと自分の衣類を見て、目に潤む涙とともに呟く。
 「ジャック、忘れないよ」そこで映画は終わる。

 私はどうにも感情移入が出来なかった。頭ではこんな形の愛を受け入れているが、生理的にも感情の面でもムリなようだ。
 映像や音楽の美しさや俳優の演技は申し分ない。そして、若手の素晴らしい女優たちを堪能した。カウ・ボーイがキャンプする場面は、行ってみたくなるほど綺麗だった。
 そして、ヒース・レジャーのカウ・ボーイらしい喋り方も、オーストラリア出身の彼にはキツかったかな?よく分からないが。
 それにしても、俳優というのは与えられた役柄に没入し、全身で表現しようとする。全裸になったり男同士のキス・シーンをしたりという過酷さ。敬意を表する以外なにものもない。

 監督 アン・リー1954年10月台湾生れの実力派監督。
 キャスト ヒース・レジャー1979年4月オーストラリア、パース生れ。
 ジェイク・ギレンホール1980年12月ロスアンジェルス生れ。
 ミッシェル・ウィリアムズ1980年9月モンタナ州生れ。
               ミッシェル・ウィリアムズ
 アン・ハサウェイ1982年11月ニューヨークブルックリン生れ。
               アン・ハサウェイ
 リンダ・カーデリーニ1975年6月カリフォルニア生れ。
               リンダ・カーデリーニ
 アンナ・ファリス1976年11月メリーランド州ボルティモア生れ。
               アンナ・ファリス
 ケイト・マーラ1983年2月ニューヨーク生れ。
               ケイト・マーラ

‘05年アカデミー賞を監督賞アン・リー、脚色賞ラリー・マクマートリー、ダイアナ・オサナ、作曲賞グスターボ・サンタオラヤ、アルゼンチン生れ。などが受賞している。
 主演男優賞ヒース・レジャー、助演男優賞ジェイク・ギレンホール、助演女優賞ミッシェル・ウィリアムズ、撮影賞ロドリゴ・プリエト1965年メキシコシティ生れ。などがノミネートされている。
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