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読書「帰郷戦線ー爆走ーThe Drifter」心的外傷ストレス障害(PTSD)の元海兵隊中尉が主人公

2019-05-29 15:49:48 | 読書

           

 かつての戦友ジミーの自殺を知り、その家族へのねぎらいとして100年以上経った家の修理をするピーター・アッシュ。ピーターは、海兵隊の中尉で帰国してから起こる頭痛、吐き気、冷や汗、めまいに悩ませられている。特の狭い空間が要注意。したがって大自然でテントを張って寝るか、ピックアップ・トラックの荷台で寝るかしかない。いわゆる戦場を経験した兵士に起こるPTSDだ。

 家の床下から、獰猛な犬と40万ドルの入ったスーツケースを発見した。未亡人ダイナに聞いても心当たりがない。黒いフォードの大きなSUVに乗る謎の男。ダイナの友人ルイス。退役軍人センターの元空挺部隊員ジョシー。ダイナの家族以外はすべて元軍人なのだ。こういう設定も珍しい。

 当然謎を追えばアクション場面も出てくる。しかし、この本の狙いはアメリカ軍の兵士そのものから、除隊後のあり方に問題があるというもの。

 「アメリカの徴兵制度は、ヴェトナム戦争の和平協定成立時の1973年1月に廃止され、現在では基本的に志願制となっている。そのため、まともな職につけない生活困窮者や除隊後の奨学金が目当ての若者、市民権を得るために入隊した不法移民といった社会的弱者だ。国へ帰ったあとも、国のために戦った者たちが報いられることは少ない。みなそこに自分たちの居場所を見つけられず、満たされぬ思いを胸に抱えて、荒廃した街の裏通りをさまよっている。本書の原題The Drifer(さまよえる者)なのだ。」(以上訳者あとがきより)

 著者が帰国した若者に「国のために戦ってくれて、あいがとう」と言ったら、その言葉を聞くと虫唾が走ると言い返されたという。「おかえりなさい」と言って欲しい。上記にあるように国のために行ったのではない、自分の都合で行っただけ。それでもアメリカでは、制服に対する敬意はみんなが持っているようだ。

 さて、日本も厳しい戦争を体験した。当然PTSDもあったが、それはひた隠しにされた。明るみに出てきているが、どうして日本人は、特攻隊とか人間魚雷という人命軽視の発想と戦争による心の病を隠蔽するねじれた発想をするのか。戦時下という特異な状況下といえるが、理解に苦しむ。

 今の日本人は、そんなことしないよと言える? DNAが人命軽視となっていたら分からないよ。そんな心配をした。

 著者ニコラス・ぺトリ ワシントン大学、ミシガン大学卒。本作で国際スリラー作家協会賞とバリー賞の最優秀新人賞を受賞。ミルウォーキーに妻子と住み大工や建築検査官として働いている。

 

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映画「華氏119」ドナルド・トランプ??????

2019-05-26 16:13:53 | 映画

          

 紙の引火点「華氏451度」とドナルド・トランプが2016年の大統領選で勝利宣言をした2016年11月9日をかけた題名。熱気を帯びた大統領選挙、国民が醸し出す熱い思いを表象する華氏。

 その大統領選挙でヒラリー・クリントンが女性初の大統領として優勢だった。メディアも盛んに決定したような報道を流した。ドナルド・トランプという不動産王の素人に危惧もして、アメリカの大統領選に無関係の日本に住む私も女性初の大統領に期待した。

 悲しいかなわが日本は、アメリカの振る舞いに大いに影響される。だからまるで我が国の選挙のように、日本のメディアが取り上げる。そんなことでみんなが予想しなかったドナルド・トランプの勝利となった。

 冷やかすつもりで集会に出たトランプ。大勢の聴衆を見て不動産ビジネスの勘が働いたのか「アメリカ大統領もまんざら悪くもなさそうだ」と思ったに違いない。出馬するからには当選を目指そう。キャッチフレーズは何がいい? 不動産取引で受ける国民経済の感触は、豊かさとは縁遠い。メディアにもホストとして参加した経験もあり、自己顕示欲の強さと相まって特異の弁舌で白人中間層に的を絞る。

 「アメリカ・ファースト」「アメリカの豊かさを取り戻そう」「アメリカン・ドリームを実現しよう」雇用の確保と応分の所得。特にラストベルトといわれる中西部地域と大西洋岸中部地域の一部が、民主党の地盤でありながらトランプのTPP離脱政策に呼応してトランプ支持になった。

 じゃあ、トランプとはいったい何者なのだ。女性蔑視や人種差別発言を取り上げられたりした。無類の子煩悩ぶりも見せる。娘のイヴァンかが可愛くて仕方がないという風情。(その気持ちは分かるよ。自分の娘が美人に生まれたら、周囲に見せびらかしたい。なにしろ血を分けた娘なのだ。妻はあくまでも他人)。

 そのイヴァンカを大統領就任後、大統領補佐官に任命し、娘婿のジャレッド・クシュナーも大統領上級顧問として身近に置く。こういう身内の構成に批判はある。クシュナーは、ハーバードを首席で卒業だから無能ではないだろう。面白いのは、クシュナーはこの映画の製作者マイケル・ムーアを好意的に見ていることだ。

 ヒラリー・クリントン陣営は、民主党の支持者の女性初の大統領に熱狂から悲嘆にくれる様。この映画を製作・監督したマイケル・ムーアの生まれ故郷ミシガン州フリントの水質汚染問題。

 州政府は、飲料水に鉛が含まれているにもかかわらず「大丈夫」だと言い続け被害を拡大した罪。この地を訪れたオバマ大統領がスピーチの途中、「水が欲しい。グラスに入った水をくれ」水質に問題がないのをアピールする。ところがオバマは、唇に水をつけただけで飲んでいない。この欺瞞を看破する。

 学校の教師があまりにも低い給与に業を煮やし、一州のストライキから全米に広がった様子。学校での銃乱射事件から高校生が銃規制に立ちあがり議員に迫る。ドナルド・トランプの集会では、意に反する女性の質問を力で排除する。

 とにかく反権力の色合いが強いマイケル・ムーアはこのままではトランプ政権はファシズム化するだろうという。しかし、トランプ政権は長くて2025年までだから危惧にすぎない。

 2019年の今日(こんにち)、米中貿易に端を発した中国の覇権への野望を抑え込みにかかっていることを思えばトランプが悪とは決めつけられない。共産主義・中国の野望を放置することは出来ない。これは民主主義国家の共通した認識だろう。とにかく特異な視点を持つマイケル・ムーアの作品だから、中身を吟味咀嚼する必要はあるだろう。

 今現在次期大統領候補に名乗りを上げている中にヒラリー・クリントンの名前がない。実はロシア疑惑は、ヒラリーの方がひどいという噂がある。もともと親中派だから、トランプのようにはできない。

 今思えば、トランプの勝利でよかったのかもしれない。勿論、日本へのマイナスの影響もあるが、中国の世界制覇が暗黒を意味するとすれば、その影響は我慢しなければならないだろう。

2018年制作 劇場公開2018年11月 なお、第43回トロント国際映画祭ドキュメンタリー部門オープニング作品。

監督・脚本

マイケル・ムーア1954年4月ミシガン州フリント生まれ。
ヒラリー・クリントン支持を表明したが、中西部のラストベルトを取材して白人中間層がヒラリー支持を失いつつあるのを見てトランプ当選を予測したそうだ。
ジャーナリスト、ドキュメンタリー映画監督、脚本家、テレビプロデューサー、テレビディレクター、政治活動家の顔を持つ(ウィキペディアより)

    

   

   

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映画「おとなの恋は、まわり道」人生、恋愛、セックスに毒舌の応酬

2019-05-22 16:23:33 | 映画

             

 いうなれば毒舌漫才と言ってもいいかもしれない。しかもものすごく低予算に見える。キャストは、ウィノナ・ライダーとキアヌ・リーヴスの二人だけ。思ったことをすべて飾らずに言えば映画の中のセリフのようになる。

 はじまりは搭乗口から。バラバラに人が待っている。一番前というあたりにリンジー(ウィノナ・ライダー)が立っている。スーツケースをごろごろと転がしながら行ったり来たりしていた髭面の男フランク(キアヌ・リーヴス)が、リンジーの横に立った。視線をリンジーに何度か向けて「いい服だね」(普通はこんなことは言わない。「ここが先頭ですか?」とかなんとか言うだろう)まあ、思ったことをすぐに言うとなると、彼女の服が印象に残ったと思えばいい。
リンジーも「ありがとう その上着も」
フランク「ありがとう 遅れないかな」
リンジー「オー あそこ見て」と指さす。「この航空会社は時間に正確なの。グーグルで検索したら、98! 96! 98%のユーザーが満足。ネットの支持率よ。ものすごく高い支持率よ。ものすごく高い評価かも。クカモンガ在住の友達メアリーも星3っ。すごく褒めてたわ。機内のスナックも」
フランク「いいね」と言いながらリンジーから一歩前へ出る。
それを見たリンジー 「何のつもり?」
フランク「何?」
リンジー「一歩前に出た」
フランク「いいや」
リンジー「とぼけないで、ずるい」
フランク「何だって?」
リンジー「ちゃんと見てたんだから」
フランク「何を?」
リンジー「私の横に並び洒落た上着を着て愛想よく話しかけ、時間を気にするふりをしてうまく割り込みさりげなく私の前に出た。15秒前、あなたは後ろにいた。忘れてると思うの?」
フランク「まさか」と言って一歩前に出る。
リンジー「ほら、また前に出た。それってまるで武術みたい」(英語の発音はドージョウと聞こえたが。道場か。つまり忍者が使う武術のつもりかな)
フランク「時間を気にしながらゲートに来て楽しい会話を試みた。しかし、君が冷淡だったからそれを避けるために前へ出た」そしてまた一歩前へ。
リンジー「ほら、またやった」
フランク「このぼくが綿密な計画を立てて8席しかない座席に策略をめぐらせていると?」
リンジー「待って、おかしいわ。前じなく後ろに行けば?」
フランク「そしてまた追い越せと?」
リンジー「5年前なら平凡なことを言ったと思うわ。“騎士道は死んだ”こんな表現じゃ甘いわ。礼儀の存在しない世界。あなたはそこの住人。あなたと同じ分類に入るのは投資銀行家、政治家、テロリストだわ。あなたたちは基本的に礼儀やルールを軽蔑している。優先的に搭乗するのは無理よ。特別な理由がない限り。理由があるの?」
フランク「ああ、早く乗りたい」そして小さな声で「ウザい」

 しかし、世の中こんな二人がセックスをするんだよ。遠くの田舎ロサンジェルスとサンフランシスコの中間点でワインカントリーのサンルイスサビスポに降り立った二人。いがみ合う二人にどういうわけかどこでも隣り合う席になる。

 結婚式場から抜け出して散歩に出た。起伏のある草原。突然現れた山猫か? ヤマライオン? クーガー? とにかく猛獣。リンジーに逃げろと言うフランク。リンジーも「私が残るから」。ここでの応酬は、フランクの奇声で獣は逃げた。二人も逃げた。  草原の勾配はきつい。二人とも転げながら重なった。フランクはいきなりリンジーにキス。ここからは詳しく書かなくてもいいだろう。

 その後、ホテルの部屋に落ち着いた二人。リンジーの皮肉と毒舌は消えていた。(これがまさしくセックスの効用、性的満足は女性を優しくする)フランクも同じ。

 やや斜めに見る傾向のフランクでも、こと美人に関しては自説を展開する。あるいはリンジーが言ってもらいたがっているのかも。「君の顔立ちはまさに黄金比だよ。美しい女性がほほ笑むと頬にできるラインで、頬骨から斜め下に向かうアーチ状のラインで見る人の目を口元にくぎ付けにするんだ。美的に素晴らしい。僕の経験上、美しい女性は90%の確率でこのラインがある。民族を超えたラインだ。そして君はスリムだがダイエットはしていない。もっと聞きたいかい? セクシーだが品のある曲線。完璧なバランス。ほどよい引き締まり。まさに理想的なボディだ。鍛えられた腕は健康的だがレスビアン風ではない。足首を見れば分かるよ。この体形は変わらないと」(そうかなあ、私は変わると思うよ。洋梨形に)

 今度はお返しにフランクのことをリンジーが言う。「聞きたいはずよ。あなたハンサムでとても力強い目をしている。髪の毛もフサフサしてるし、口角は目を二等分する縦線からはみ出していないわ。横顔はアゴと下唇が同じ高さ。理想的だわ。ボディは頑丈でしなやかでやせ過ぎでもない。着こなしも高得点。Tシャツの裾をインして清潔感を演出、パンツは浅く穿き靴は正統派、そして素晴らしいペニスを持っている。すごくよかったわよ。まっすぐなペニスは、いまどき珍しい。バレエチックな形をしていた。悩みの種になるほど大きくないけど、バカにされるほど小さくもない。ちょうどいいサイズ」(リンジーは何を言いたいんだろうね。まっすぐなとかバレエチックとか)

 フランクは、真面目な話をし始める。「人間は滑稽だ。哀れなケダモノと同じさ。愛は高尚なものだと信じたいのに。僕らが惹かれる基本的な理由は見てくれだ。そして色や手触り、匂い、味、距離感バカげている。セックスしている人の格好を考えると吐き気がする」(吐き気はしないけど、見るものじゃない。あれは二人で楽しむものなのだ)

 さらに「人間なんて美しいものじゃない。必死に生き残ろうとする極めて不快な種族だ。人がものを食べる姿や、鏡に映る排泄中の自分をじっくり見てみろ。哀れな営みだ」(たしかに食べる姿で気になっているのは、箸は小さく切ったものはいいが、エビの天ぷらのようにかぶりつくというのは見た目がよくない。ましてや妙齢のご婦人となればなおよくない)

 まあ、いろいろと屁理屈も交えて蘊蓄を傾けている。もうこの段階では、リンジーの方はフランクと長く付き合いたいと思い始めている。フランクはムリだと一蹴する。旅は最終段階に入った。空港から自宅へというコースだ。タクシー乗り場でハグして別れを惜しむ。リンジーが乗り込んでタクシーの運転手に「……通り14番地まで行って」それを聞いたフランク「番地まで言っちゃダメだぞ」リンジーは「気遣ってくれるの?」「いや、みんなに言っているよ」なんか可愛げのないフランクだよなあ。タクシーが動き始め、窓から手を出しているリンジーは中指を立てて「ファック・ユー」のサインを出していた。

 フランクはアパートの自室でテレビをつけるが手持無沙汰。何か足りない。あるいは欠けているのかも。リンジーがノックの音でドアを開けるとフランクが立っていた。恋とセックスは、人生の必須の要件。なんぴともその魔力からは逃れられない。この映画はそれだけの話。2018年制作 劇場公開2018年12月

  

  

  

  

監督

ヴィクター・レヴィン1901年生まれ。

キャスト

ウィノナ・ライダー1971年10月ミネソタ州ウィノナ生まれ。47歳。

キアヌ・リーヴス1964年9月レバノン、ベイルート生まれ。54歳。

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映画「追想 On Chesil Beach」悔やんでも悔やんでも悔やみきれないこともある。

2019-05-19 13:50:07 | 映画


             

 「ケネディ大統領とイギリスのマクミラン首相の会談が行われた」というラジオ・ニュースが流れる1962年、心から愛し合うフローレンス・ボンティング(シアーシャ・ローナン)とエドワード・メイヒュー(ビリー・ハウル)の二人。

 新婚旅行でドーセット州のチェシル・ビーチにある浜辺のホテルに投宿した。時はロックンロール全盛時代で、エドワードはロックンロールの創始者ギタリストのチャック・ベリーがお気に入り。フローレンスは音楽大学でヴァイオリンを専攻し、エニスモアと名付けたカルテットを編成して将来の大成を夢見ていた。

 ホテルの部屋でラジオをいじくってチャック・ベリーを探すエドワード。早く彼女を抱きたいが、間を持たせるのに苦労する。どういうわけか新婚旅行の二人にしては、少し硬い雰囲気が流れている。会話の端々から過去に飛び、二人のなれ染めや生い立ちに家庭環境が明らかになって行く。

 エドワードの両親は、父が学校の教師で母は素っ裸で庭に飛び出す異常行為があり脳に障害がある。フローレンスの家庭は、事業を発展させた父のもと健やかに育った。父の性格に厳格すぎるきらいがあるとしても。階級制度のあるイギリスでは、相容れない家庭だろう。その苦難を乗り越えて、結婚にこぎつけた二人の愛情の深さは誰も犯すことは出来ない。その筈だったのが暗転する。

 初夜といえば、男にとっても女にとっても記念すべき劇的な夜の筈。ところがフローレンスに覆いかぶさって抱き寄せると「過去に何人の女性と……?」「その女性の名前は?」エドワードはそれどころではない。セックスに未熟なフローレンスは、台所に転がっている大根のように、脚を閉じたままで何もしない。

 のしかかって苦労するエドワードを見て、フローレンスはセックス・ガイド・ブックを思いだす。「手を添えて挿入しなさい」フローレンスはその通りにした。若いエドワードにとって手を添えられるということは、最大の刺激になった。彼はそのままフローレンスの股間に射精した。エドワードは恥ずかしさでうろたえた。もっと驚いたのがフローレンス。枕で精液を拭ってそのまま飛び出していった。そのフローレンスを追ってチェシル・ビーチの砂利の浜辺へ。

 フローレンスのいい訳を端的に言えば、「私はあなたを心から愛している。私は不感症だから別の女とのセックスは認める。そんな形で結婚生活を送りたい」これに激怒したエドワード。結局、二人は6時間の結婚生活で幕を閉じた。

 容赦なく時は過ぎて行く。長髪に渋みを増したエドワードは、ロックンロール専門の小さなレコード店を経営している。ある日、中学1年生ぐらいの女の子がやってきて「チャック・ベリーのレコードありますか?」と聞いた。

エドワードは「あるよ。君が聴くの?」
「いえ ママの誕生日に 年寄りよ 36歳。聴くのはクラシックばかりだけどチャックは好き」
「僕もだ」
「“陽気に弾んでいる”って」

 ここでエドワードの顔色が変わる。あの新婚の初夜、ホテルの部屋で交わした会話と同じなのだ。

 それに気づかない少女は「驚かせたいけどいくら? 75ペンスしか」彼女の提げているヴァイオリン・ケースに“エニスモア楽団”のワッペンが見える。この子は確実にフローレンスの子だ。
「いや いいよ。君にあげる。持ってって」
「いいの?」
「ああ お母さんに伝えて“誕生日おめでとう”と」
「誰からって言えばいいの?」
「ああ それは…店からだ」出て行こうとした少女に「君 名前は?」
「クロエよ。クロエ・モレル さよなら」

 出て行った少女の後姿を眺めながら、エドワードに複雑な思いが駆け巡る。ホテルの部屋で「子供が産まれたらクロエと名付けたいわ」と言っていたフローレンス。チェシル・ビーチで「ごめんなさい。帰りましょう。二人で」とフローレンスの言葉をかたくなに拒んだエドワード。心の優しさを忘れたエドワード。

 それから時は流れエドワードも老境にさしかかった。ラジオから「半世紀前、音楽大学の学生四人が、その技術を磨くために好きな曲を練習した。そのエニスモア・カルテットが10月ロンドンのウィグモア・ホールで結成45周年を祝う。これがエニスモア・カルテットのラスト・コンサートになります」

 舞台でヴァイオリンを演奏するフローレンスの目に老いたエドワードを捉えた。うなずくエドワードの目から大粒の涙があふれている。生涯独身を貫いたエドワードにとって、フローレンス以外の女性との結婚は考えられないことだった。ではなぜあの時、彼女が悪くはないのに、拒絶したのか。思いやりの心があればともに解決する努力をしたはずだ。彼女の不感症も父親からの性的虐待の影響もあるという。

 不感症といっても妊娠は可能なのだ。人生で重大な過ちを犯したエドワードは、心奥にフローレンスへの愛を抱きながら死への旅路につくことだろう。観ている方も、感情移入すると涙が止まらない。四重奏の曲が多く挿入されていて、心理描写に効果的だった。

2017年制作 劇場公開20188

 

監督ドミニク・クック出自未詳

原作イアン・マキューアン「初夜」19486月イギリス、イングランド、ハンプシャー州生まれ。

脚本イアン・マキューアン

キャスト

シアーシャ・ローナン19944月ニューヨーク州ニューヨーク市生まれ。2007年「つぐない」でアカデミー賞助演女優賞にノミネート。2015年「ブルックリン」でアカデミー賞主演女優賞にノミネート。2017年「レディ・バード」でアカデミー賞主演女優賞にノミネート。 

ビリー・ハウル198911月イギリス、イングランド生まれ。

 

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気になる女優「ローレン・アンブローズ」

2019-05-16 16:10:18 | 俳優

     

 2001年から始まって2005年まで続いたテレビドラマ「シックス・フィート・アンダー」のクレア役でブレイクしたローレン・アンブローズ。あれから14年、1978年2月コネチカット州ニューヘブン生まれの彼女は41歳になった。

 映画やテレビドラマでゲスト出演が多くレギュラー出演がないのが残念だが、過去にオペラ歌手を目指してトレーニングをしたのが役に立っているようだ。

 2001年に写真家のサム・ヘンデルと結婚、二人の子供とロサンゼルスに住んでいる。29歳のとき、2007年5月ピーブル・マガジン恒例の世界で最も美しい人々100人のうちの1人に選ばれた。

 そして「ええ、私はいつも歌っていました。そして、常に私の人生の中に音楽があることに心がけています」その意気込みが結実したのか、ニューヨーク・ブロードウェイで公演された中から選ばれるトニー賞を、2018年度のリバイバル作品ミュージカル部門「マイ・フェア・レディ」で主演女優賞を受賞した。

 その第1幕で歌われる「I Could Have Danced All Night(踊り明かそう)」を歌うローレン・アンブローズを、トニー賞の舞台とリハーサルの場面でどうぞ!

  

  

 

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海外テレビドラマ「シックス・フィート・アンダー」ちょっと古いが、なかなか面白い

2019-05-13 21:40:06 | 海外テレビ・ドラマ

             

 アメリカのケーブル・テレビ局HBO制作の2001年から2005年にかけて放送されたドラマ。父ナサニエル・フィッシャー(リチャード・ジェンキンス)が交通事故で急死。

 残された遺族は妻のルース(フランセス・コンロイ)、長男ネイト・フィッシャー(ピーター・クラウス)、次男ディヴィッド・フィッシャー(マイケル・C・ホール)、長女クレア・フィッシャー(ローレン・アンブローズ)だった。

 この一家は、葬儀社を営んでいる。次男のディヴィッドが家業を手伝っていたが、父の急死でシアトルで食品会社の幹部社員だった長男のネイトが帰って来た。残された家族がどのように生きて行くのか、それらを飾らずに本音で語られる。

 ネイトがつきあうセックス依存症の女ブレンダ・チェノウィス(レイチェル・グリフィス)との関係。

 弟のディヴィッドはゲイで黒人のキース・チャールズ(マシュー・セント・パトリック)を恋人に持つ。

 母親のルースも夫の死後、いろいろな男性とつき合うようになるが、自身の経験が優先して相手とよく問題を起こす。口調もヒステリックに叫ぶこともあって、去って行った男もいた。

 遅くに出来た女の子クレアは、末っ子らしく自由気ままで生意気盛り。早くもセックスに目覚めようとしている。

 葬儀社であるためいろんな遺体が運ばれてくる。安らかな傷一つない遺体ばかりではない。交通事故のようにかなり遺体の損傷が激しい場合もある。それらを元通りに修復して、棺を開けて遺族や親族が気持ち良く別れる準備を担当するのがエンバーマー(遺体衛生保全士)のフェデリコ・ディアス(フレディ・ロドリゲス)だ。

 これらの人たちの喜怒哀楽が鮮やかに描かれ、テレビドラマ対象のエミー賞を2002年監督賞など6部門で、2004年には母親役のフランセス・コンロイが主演女優賞を受賞した。

 このドラマは、上にあげた魅力的な俳優たちに負うところも大きい。2001年出演当時、ピーター・クラウス36歳、マイケル・C・ホール30歳、レイチェル・グリフィス33歳、マシュー・セント・パトリック33歳、ローレン・アンブローズ23歳、フランセス・コンロイ48歳でローレン・アンブローズ以外は一番魅力的な年代だ。

 ピーター・クラウスは、いかにもアメリカの好青年の風貌だし、レイチェル・グリフィスは、目が魅力的、ローレン・アンブローズは、すごい美人ではないが親しみのあるルックス、フランセス・コンロイは、品のある顔立ちで芯の強い母親役が魅力的だった。ローレン・アンブローズの演技も確かなものに見えた。

 食傷気味になったのは、ゲイのキスやセックス・シーンの多さだった。もう、いい加減にしてくれと言いたくなった。

 しかし、感動的だったのはシーズン5でネイトが急死するが、ネイトの希望は棺に入れずに買い取った土地に布に包まれてシックス・フィート・アンダー、約3.6メートルの深さに埋めて欲しいというものだった。その場面が描写されるが、本来死者を弔うとはこのような素朴な儀式だったのだろう。参列者が土をかけて死者との別れは感動的ですらあった。

  

 

  

 さらに面白いのは、最終第12話が「未来」で原題が「Everyone's waiting(みんな待っている)」となっていて、クレアがトヨタ・プリウスに乗って、大平原の一直線の道路をニューヨークへ旅立つ画面に重ねてネイト以外の人々の未来が語られる。この未来はネイトが待つ冥土のことなのだ。

 その死亡記事は、母親ルース・オコナー・フィッシャーは、2025年3月12日79歳で死去。2005年にバンガ・キャニオンでペットショップを営んでいた。

 キース・ドウェイン・チャールズは、2029年2月の火曜日の朝、突然死亡。チャールズ・セキュリティ・カンパニーを創設していた。享年61歳。

 ディヴィッド・フィッシャーは、2044年75歳でエコ・パークで死去。フィッシャー・アンド・サンズ葬儀社を2034年に引退後、地元の劇場で俳優として活躍した。

 フェデリコ・ディアスは、2049年2月故郷プエルト・リコでのバカンス中急死。享年75歳。エンバーマー(遺体衛生保全士)としてフィッシャー・アンド・サンズ社に勤め、その後パートナーとなりフィッシャー・アンド・ディアス社と社名変更。2006年にハリウッドのデロンプレ・アヴェニューにディアス・ファミリー葬儀社を開業している。

 ブレンダ・チェノウィスは、2051年3月自宅で死去。享年82歳。家族形成の中における、天才児の役割に関する書籍を執筆。その分野の研究においては第一人者として知られており、南カリフォルニア大学の社会学部のカリキュラムにもこれらの科目を数種類追加している。

 クレア・フィッシャーは、2085年3月13日マンハッタンにて死去。享年102歳。フォトジャーナリストとして50年近く活動。作品はワシントン・ポスト誌、W、FAC誌などの表紙を飾った。多くの写真家がデジタルスキャンやコンピューター処理を施して作品を作る中で、彼女は銀カラー写真の手法をとり続けていた。ニューヨークやロンドンのギャラリーで数多くの個展を開催。2018年よりNYUのTisch School of the Artsにて写真を教え始め、2028年には終身在職権を与えられた。

 このようにして遥かな未来では、ネイトが満面の笑みでみんなを迎えている様が見えるようだ。人物形成の脚本というのは、綿密な人物構成で成り立っているということがこの死亡記事でよく分かる。

 私はクレア・フィッシャー役を演じたローレン・アンブローズが特に好きで毎回、にやつきながら観ていた。そのローレン・アンブローズの歌声も聴けるからアップしておこう。

  

 その曲は、「You Light Up My Life(あなたは私の人生を照らしてくれる)」で、邦題が「恋するデビー」となっている。これは「砂に書いたラブレター」の甘い歌声で人気歌手だったパット・ブーンの娘デビー・ブーンのデビュー曲なのだ。

  

 1977年ビルボードのチャート1位を10週記録した。しかもアカデミー歌曲賞、ゴールデングローブ賞主題歌賞を受賞し、翌年にグラミー賞最優秀楽曲賞も受賞した。デビー・ブーンの歌唱もお楽しみください。

 この作品を製作総指揮・脚本を1999年「アメリカン・ビューティー」でアカデミー賞脚本賞受賞のアラン・ボールが主に務める。なお、DVD化されていないのでアマゾン・プライムで観るしかない。

 

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読書 ノア・ホーリー著「晩夏の墜落 BEFORE THE FALL」

2019-05-05 17:32:08 | 読書

               
 マサチューセッツ州デュークス郡にあるマーサズ・ヴィニヤード島の飛行場を離陸したプライベートジェット、オスプライ700SLが、18分後大西洋に墜落した。
 座席数は9席あって乗客はニュース専門局の「ALCニュース」の代表デイヴィッド・ベイトマン、その妻マギー、娘レイチェル、四歳の息子JJそれにイスラエル人の護衛ギル・ハルク。銀行家のベン・キプリングと妻サラ。マギーに誘われて搭乗する貧乏画家のスコット・バローズが加わる。

 クルーは、イギリス人の機長ジェームズ・メロディ、テキサス州オデッサ出身の副操縦士チャーリー・ブッシュ、誰もが誘いたくなる美女でドイツ生まれの客室乗務員エマ・ライトナー。

 幸運にも海に投げ出されて生きのびるのは、スコット・バローズとJJ。スコットはJJを助けながら泳ぎ、ロングアイランドの突端モントークにたどり着き九死に一生を得る。

 墜落の謎を残しながら、原題の「墜ちる前」のベイトマン家の人々、銀行家それに生きのびた後のスコットと絡む大富豪の娘レイラそれにマギーの妹エレノアなどと「ALCニュース」の司会者ビル・カニンガムの狡猾なインタビューがニュースそのものが違法な盗聴のあげく無残なエンタテイメント化しているという馬鹿げた現状の告発ともいえるのが本作ではないだろうか。

 孤児となったJJを引き取ったのは、マギーの妹エレノアだった。JJの表情から笑みが消えた。もっと悪いのは、エレノアの夫ダグ。自称作家と言うがパソコンかタイプライターの前に座るよりも、バーカウンターに座っている時間の方が多いという男。

 JJが相続する巨額の遺産。現在の市場価値で1億3百万ドル(約113億円)、大部分は信託財産としてあり、これの10%に相当する1千30万ドル(約11億3千万円)の養育費用も別途用意してあった。

 エレノアは、JJのための費用であって自分たちが自由に使うおカネではないと思っている。ダグは違う。それよりも嬉しいのは、スコットがJJに会いに来たときJJの表情が明るくなることだった。

 相続財産の3分の1を継いだ29歳のレイラ・ミューラーは、世界の富豪399番目に位置する。桁違いの金を持つレイラのレベルの富は市場の変動を凌駕している。金額が大きすぎて破産のしようがない。特定の恋人がいるわけでもない。言い寄る男は星の数ほどだが、下心の中に金の匂いを嗅いでいることも明らかだ。

 航空機や車や災害の事故現場ばかりを描く無欲なスコット・バローズに関心を持つのもレイラなのだ。スコットのベッドに全裸でもぐりこむレイラでもある。ところがスコットは何もしない。

 エレノアを訪ねるスコット。レイラと一夜を共にするスコット。ニュース専門局は、自分たちの推測したストーリーに固執してインタビューもそちらの方へ誘導する。特にひどいのは、「ALCニュース」のビル・カニンガムだ。ニュースをエンタテイメントと思っているようで、違法な盗聴までやってのける。

 なぜ、スコットが生き残ったのか? ひょっとするとテロリストではないか。スコットがプライベートジェットに乗れたのは、ALCニュースの代表デイヴィッドの妻マギーと寝ているからではないか。さらにエレノアとも怪しいしレイラとも、なんて際限がない。日本のテレビ局と変わりなさそう。

 これらを一気に打ち砕くのがスコット。「あんたたちは電話を録音していた。エレノアの家の電話を。それで突き止めたんだな―――レイラの自宅からおれがエレノアに電話したときに、おれの居場所を。エレノアの電話を逆探知して。ガス(国家運輸安全委員会調査主任)の電話も盗聴してたのかい? FBIの男の電話も? つまり―――情報漏れの件も。そういうやり方であの文書も入手したんだな? あんたたちは彼らの電話を盗聴していた。ジェット機が墜落し、人が死んだ。あんたたちはその犠牲者と関係者の電話を盗聴していた」

 ここでビルの言葉が入る。「大衆には知る権利がある。偉大な男を失ったんだ。デイヴィッド・ベイトマンを。巨星を。われわれには真実を知る資格があるだろう」
「ああ。だけど、それが違法だということは分かってるのかい? 自分が何をしたのか。しかも、言うまでもないが―――人の道に外れた行為だ。で、おれたちはここに座り、あんたは何を心配してるんだろうね―――おれが一人の女と合意の上で関係を結んだかどうかってことかい? そのくせ、実際にあそこで起こったことは何一つわかっちゃいない。副操縦士が操縦室のドアをロックして機長を閉め出したんだよ。彼がオートパイロットのスィッチを切ったんだよ。それで機体をダイブさせたんだ。ドアに六発――銃弾が――撃ち込まれた。撃ったのはたぶんベイトマンのボディガードで、なんとかドアを開けてジェット機のコントロールを取り戻そうとしたんだろう。だけど、出来なかった。だから、みんなが死んだ。人が死んだんだ。家族のいる。子供のいる人たちが。彼らは殺されたんだ。で、あんたはここに座って、おれのセックスライフについて質問してる。恥を知れ」

 ビル・カニンガムはスコットに殴りかかろうとするが周囲のカメラマンに抑えられて動けない。それを尻目にエレベーターに向かう。スコットの頭の中では、JJがどこかで待っている。JJに泳ぎを教えてやろう。それとともに自分も再生のボタンを押す時。が漂う。

 この航空機事故は陰謀やテロとは何のかかわりもない。副操縦士のチャーリーが客室乗務員のエマに復縁を迫り無視された結果だった。頭のネジが少しゆるいチャーリーとエマは、一時熱愛の関係だった。ところがセックス中、チャーリーは両手でエマの首を絞め殺すかというとき、強烈なオーガズムに襲われてわれを忘れた。以来エマはチャーリーから距離を置き始める。チャーリーは、わざわざエマと同組に乗務する細工までして許しを請う筈だったが、エマに無視され頭のネジが外れて自爆行為に突き進んだというわけ。

 事故原因については拍子抜けするが、本質はニュース番組の現状についての鋭い指摘と言ってもいい。著者ノア・ホーリーは、テレビ番組プロデューサー、脚本家、作曲家、映画監督でもあり、テレビドラマでは「BONES」「FARGO/ファーゴ」などのヒット作がある。

  

ノア・ホーリー

 この作品で、2017年度アメリカ探偵作家クラブ長編推理小説部門でエドガー賞を受賞した。この作品に出てくるマーサズ・ヴィニヤード島にまつわるエピソードがいくつかある。

①1969年7月18日ロバート・ケネディ司法長官の選挙スタッフだったメアリー・ジョー・コペクニを乗せて運転していた弟のエドワード・ケネディ上院議員が誤って橋から落下する事故を起こした。エドワードは酒を飲んでいたため、メアリーを死なせたにもかかわらず現場から逃亡した。世界で話題になった。

②1974年、スティーヴン・スピルバーグはこの島で映画「ジョーズ」を撮影した。

③ビル・クリントン元大統領夫妻とその娘が夏の休暇を過ごすことでも注目された。(ウィキペディアより)

 

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