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宝探しのOL、厳寒のファーゴまでやってきて……「トレジャーハンター・クミコ」2014年制作 劇場未公開

2017-06-28 15:58:57 | 映画

               
 OLのクミコ(菊池凜子)は宝探しが趣味。海岸の洞窟で掘り出したものは、今はほとんど見かけないヴィデオ・テープだった。自宅のアパートで再生してみると経年の劣化と埃で画面がチラチラするばかり。取り出して息を吹きかけて埃飛ばしを何度かするうちに画面がなんとか安定する。

 ジョエル・コーエンの代表作の「FARGO」のタイトルに続いて「これは実話である」という字幕が出る。物語を追っていって終盤、札束の入った大きなカバンを雪の中に埋めるシーンがある。実話であると言う断りがあったことからクミコはカバンの存在を信じるようになる。

 クミコはいつも赤いコートと黒いスカートという出で立ちで恋人もいない。可愛がっているのはうさぎのブンゾーだけ。母親へも滅多に電話をしない。29歳のネクラなクミコには嫌味な上司がいて、ある日「女の子は25歳までに結婚するよ」と暗にクミコを責めるようなことを言い、さらにクミコの後釜に新しく採用した女性を紹介したりする。

 嫌気がさしたクミコは、無断で会社用のクレジットカードを持ってウサギのブンゾーを地下鉄の車内に放ち、涙の別れをして日本を飛び出して宝探しのノースダコタ州ファーゴへ。言葉の壁にぶち当たりながら「ファーゴに行きたいI want go to FARGO」を連発して、老齢の婦人の家に招かれるが夜中に窓から逃げ出したり、モーテルでは会社が手配してクレジットカードが使えなくなっていて花模様の毛布を重ね着してこっそり逃げ出す。

 あてどもなく歩き目撃した人からの通報で警官がやってくる。やってきた保安官代理(この映画を監督するデヴィッド・ゼルナー)のダウンジャケットとブーツを買ってくれた親切心に思わず唇にキスした。驚いた保安官代理、僕には妻と子供があるという困惑の表情。クミコはどう解釈したのか、突然走り出した。タクシーに乗ってまた「ファーゴに行きたい」クレジットカードは使えない。ここは乗り逃げしかない。雪原の奥深くに姿を消した。

 この映画のベースになったのは、ある日本人女性にまつわる都市伝説といわれる。「2001年、コニシタカコさんという東京在住の女性が、前述の映画の舞台の街、ノース・ダコタ州ファーゴから60キロ東に位置する地点で凍死しているのが発見された。
 この事件が都市伝説と化したきっかけは、事件関係者による証言。タカコさんの遺体が発見される6日前にタカコさんを保護したという地元警官が、タカコさんは映画『ファーゴ』の一場面にて同映画の主役が地面に埋めた、ブリーフケースいっぱいのお金を探していた、と証言したことから、このニュースは爆発的に広まった。

 が、実際はタカコさんの宝探しの物語は、のちに米国人ジャーナリストのポール・バークゼラー氏の調査によって真実でないことが明らかになった。その事件の真相は、仕事や、アメリカ人の既婚男性である恋人との破局に悩んだ末の自殺だったことが判明。タカコさんは、元恋人との思い出の場所であるミネソタ州を訪ねたのち、好きな映画だった『ファーゴ』の舞台であるノース・ダコタ州を訪れたのだという。タカコさんが自死の前日に元恋人にかけた40分の電話と、家族に送った遺書から明らかになった。(ウィキペディア)」

 映画は都市伝説の方を追う。クミコは札束の詰まったカバンを発見する。キレイに化粧をして唇に紅をさして今まで見せたことのない満面の笑みを浮かべる。そしてウサギのブンゾーを抱いて雪原の彼方へと去っていく
。多分、凍死寸前の心地よい満ち足りた気分の中で見た幻想をクミコへのはなむけとしたのだろう。
 
監督
デヴィッド・ゼルナー出自不詳

キャスト
菊池凜子1981年1月神奈川県生まれ。
うさぎのブンゾー日本生まれ。

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愛は国さえ裏切るほどの熱情が沸騰する「マリアンヌ」2016年制作 劇場公開2017年2月

2017-06-26 16:11:22 | 映画

              
 1942年 フランス領モロッコの砂漠に落下傘で降り立った男マックス・ヴァタン(ブラッド・ビット)がいた。マックスは英国SOE(特殊作戦執行部)の命でこれからカサブランカのドイツ大使館員マリアンヌ・ボーセジュール(マリオン・コティヤール)と会うことになっている。しかも初対面ときた。

 砂漠の道のかなたに一台の車。マックスは用心深く拳銃の銃把に手をかけて待ち受ける。それは迎えの車だった。運転手が言う。「あなたの妻は紫色のドレス、目印はハチドリ」

 マックスは豪華なシャンデリアの輝くサロンに入りマリアンヌを探す。まさに目印どおりの美人マリアンヌが目ざとく見つけてマックスの腕に飛び込んできた。パリから突然やってきた夫としてマリアンヌは周囲に紹介する。偽の夫婦が受けている蜜命は、ドイツ大使の暗殺だった。

 暗殺は成功して二人はロンドンへ。異質のめぐり合いから惹かれ合った二人は結婚した。ある日、マックスはスパイとレジスタンスを監視しているVセクションから呼び出しを受ける。そして告げられたのが「マリアンヌはスパイだ。ブルーダイ(青色色素検査)で確かめる」このブルーダイというのは、マックスが受けた偽の情報をマリアンヌがドイツ側に送信するかしないかを確かめる手法のこと。このあたりからラヴ・ストーリーが、俄然ミステリー色を帯びる。

 信じられないマックスは真相に迫る。しかし、スパイであることを認めるマリアンヌ。アナという娘までもうけた二人の運命は、マリアンヌ殺害の命を受けているマックスにとっては耐えがたい試練だった。戦争は純粋な愛さえも破壊する。

 マックスの決断は、国を裏切って国外脱出だった。雨の軍用飛行場、プロペラ機のエンジンがなかなか繋らない。異変に気づいたマックスの上司フランク(ジャレッド・ハリス)がやってきた。「マックス、やめろ。義務を果たせ!」 マリアンヌも気配を感じ車のグローブ・ボックスに納めてあるマックスの拳銃を取り出し外に出る。
「マックス 愛しているわ 娘を頼むわ」と言って振り向きながら銃口を顎に下にあてがい引き金を引いた。

 戦争がなければめぐり合わなかった二人だが、戦争のために会いそして愛し合い、そして戦争のために引き離される運命に翻弄されたラブ・ロマンス。50歳を過ぎても瑞々しいラブ・ロマンスを演じられるブラッド・ビット。角度のよって物凄くキレイなマリオン・コティヤール。

 ただ、マックスからの視点で語られており、やや単調かなという印象は拭えない。マリアンヌの視点があればふくらみがあっていい味付けになったかもしれない。
 

 

監督
ロバート・ゼメキス1952年5月イリノイ州シカゴ生まれ。1994年「フォレスト・ガンプ/一期一会」でアカデミー賞監督賞受賞。

キャスト
ブラッド・ビット1963年12月オクラホマ州生まれ。2011年「マネー・ボール」でアカデミー賞主演男優賞ノミネート。
マリオン・コティヤール1975年9月フランス、パリ生まれ。2007年「エディット・ピアフ~愛の賛歌」でアカデミー賞主演女優賞受賞。
ジャレッド・ハリス1961年8月イギリス、ロンドン生まれ。

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七人の侍から荒野の7人、またまたリメイク版「マグニフィセント・セブン」2016年制作 劇場公開2017年1月

2017-06-24 17:23:56 | 映画


 1879年、荒野の小さな町ローズクリークの教会で地元住民たちは、金の採掘会社を営むパーソロミュー・ボーグ(ピーター・サースガード)が町を牛耳ることに喧々諤々この町を諦めて出ようという弱気と戦おうと言う強気が交錯していた。そんな喧騒をぴたりと沈めたのは、扉を開けて入ってきたパーソロミュー・ボーグとその用心棒達だった。用心棒の中には町の保安官も含まれていた。

 壇上に立ったボーグが言う「一家に20ドルで土地を買い上げる。いやならこの土地を出るんだ!」どっちに転んでもただ同然で取り上げられることになる。今まで苦労して開拓した土地をむざむざと手放す気にはなれない。教会から住民を追い出し火を放った。文句を言った住民が袋叩きにあう。

 それを見たエマ・カレン(ヘイリー・ベネット)の夫が抗議するとボーグは近づいてきて拳銃で射殺した。住民の怒りが爆発した。用心棒の腕と住民の腕は違いすぎた。瞬く間に住民の死体がゴロゴロと転がった。燃え盛る教会を背にして悠然と引き上げるパーソロミュー・ボーグ。

 荒野に忽然と現れた黒いテンガロンハット、黒いシャツとズボン、黒い馬に乗る黒い顔の男。町のサルーンに悠然と入って来たその男、バーテンダーとなにやら小声で話す。俄然殺気立つ店内。拳銃の轟音が響き静まると三人の死体が転がっていた。

 サルーンの入口テラスに出てみると住民達の群れが押し寄せてきた。「俺はサム・チザム(デンゼル・ワシントン)だ。カンザス州巡回裁判所の委任執行官だ。インディアナ州及び7州の治安官も兼任している」これらは「賞金稼ぎ」と言われることもある。

 サムがこの町の仕事が終わったとして次の町へ向かおうとしたとき「雇いたい」と声をかけてきたのがエマ・カレンだった。ここから先は、もう誰もが知っている物語だ。

 ギャンブラーで二挺拳銃の名手ジョシュ・ファラデー(クリス・プラット)、賞金稼ぎでウィンチェスター銃の名手グッドナイト・ロビショー(イーサン・ホーク)、アジア人のアウトローでロビショーと組むナイフの使い手ビリー・ロックス(イ・ビョンホン)、人里は慣れた山に住むマウンテンマン、トマホークとナイフが得意のジャック・ホーン(ヴィンセント・ドノフリオ)、テキサスレンジャーを殺し賞金を懸けられているメキシコ人ヴァスケス(マヌエル・ガルシア=ルルクオ)、コマンチ族で弓矢とトマホークを武器にするレッド・ハーベスト(マーティン・センスマイヤー)たちまならず者を雇ったサム・チザムがたった3週間しかない時間の中でボーグと対峙する秘策を練る。

 秘策と言ってもたいしたものじゃない。住民に射撃を教えることと塹壕を掘って波状攻撃するとかで町の中心部へおびき入れ両側から一斉射撃を行う。いわゆる鶴翼の陣形だ。敵もさる者引っかくもので多銃身を束ねて機関銃のように弾丸を発射するガトリング砲を持ち出してきた。

 よく知られた物語のリメイクとなればどこかで特徴を出さなければならない。西部劇となればやはりアクション場面だろう。その醍醐味が味わえた。
そして西部劇の必須アイテムのうちの「荒野」「馬」「銃」と砂塵も舞い三人の生き残りが遥かな山に向かって去っていく。



監督
アントワーン・フークア1966年1月ペンシルヴェニア州ピッツバーグ生まれ。

キャスト
デンゼル・ワシントン1954年12月ニューヨーク州マウント・バーノン生まれ。2001年「トレーニング・デイ」でアカデミー賞主演男優賞受賞。黒人俳優としてはシドニー・ボワチエ以来二人目。
クリス・プラット1979年6月ミネソタ生まれ。
イーサン・ホーク1970年11月テキサス州オースティン生まれ。
ヴィンセント・ドノフリオ1959年6月ニューヨーク市ブルックリン生まれ。
イ・ビョンホン1970年7月韓国、ソウル生まれ。
マヌエル・ガルシア=ルルクオ1981年2月メキシコ生まれ。
マーティン・センスマイヤー出自不詳。
ヘイリー・ベネット1988年1月フロリダ生まれ。
ピーター・サースガード1971年3月イリノイ州生まれ。2003年「ニュースの天才」でアカデミー賞助演男優賞受賞。

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同性婚が合憲にまで発展したローレルとステイシーの苦闘「ハンズ・オブ・ラヴ手のひらの勇気」

2017-06-22 15:55:38 | 映画

ウィキペディア「ハンズ・オブ・ラヴ手のひらの勇気」のあらすじのmuseitiによる投稿は、このwebページの作成者によるものです。
              
 これは実話である。ニュージャージー州中央部東、大西洋岸ジャージー海岸に位置するオーシャン郡の刑事ローレル・へスター(ジュリアン・ムーア)49歳は、車で1時間も走ったところにあるバスケット・ボールのチームでその町のチームと対戦した。

 そのチームに若いステイシー・アンドレ(エレン・ペイジ)がいた。ステイシーはローレルに向かってサービスを打った。レズビアン同士、意思は明確に伝わる。試合が終わって外に出たときステイシーがローレルに声をかけた。急速に二人の仲が進みお互い愛し合うようになった。

 ローレルは海を見るのが好きでステイシーとよくジャージー海岸の渚で戯れた。そして二人で住む家を買った。ステイシーは男勝りで車のタイヤ4本の交換を店の最短時間ホルダーの男を破ってみせる。勿論、車の整備もお手のもので、そんな器用なステイシーは内装のリフォームを引き受ける。

 ローンの返済はローレルでステイシーが少し負担すると言っても「気にしないで」の一点張り。愛しい二人の時間は、ローレルのMRI検査で暗転する。末期の肺がんだった。ローレルはステイシーの行く末を心配し、自分の23年間に及ぶ遺族年金の受け取り人にしたいと思った。

 オーシャン郡には管理機能と政策立案機能を持っている郡政委員会がある。選挙で選ばれる5人の委員で構成される。ローレルの案件は、結婚したパートナーでないという理由で却下される。

 ニュージャージー州には、結婚していないが共に家庭生活を送る二人をパートナーと認定するパートナー法がある。委員の一人が「パートナー法では同性のパートナーに年金を残すことを認めている」の発言も別の委員が「警察組合との契約では同居人を受取人にすることができない」また「パートナー法は結婚の神聖を冒す」や「これを認めれば保守的なわが郡では政治的に自殺行為だ」同性愛者に対する理解が未熟な時代ならではの結論に至る。

 警察活動のパートナー、デーン刑事(マイケル・シャノン)に同性愛者支援団体のスティーヴン・ゴールドスタイン(スティーヴ・カレル)から電話が入る。ローレルたちの家でゴールドスタインは明確に言う「支援したい。勿論、政治的目的の同性婚の合憲をめざす」政治的利用を嫌うステイシー。ステイシーに年金を残したい一心のローレルには政治的利用でも構わない。

 しかし、何度かの公開郡政委員会でもローレルたちは情緒的な弁論しかできない。
「23年の警察活動で正義を全うし犯罪を防ぎ犯人を逮捕した」
「地域への貢献は絶大だ。今こそ彼女に報いるときだ」しかし、郡政委員はかたくなだった。法は法だ。一旦決定したことは取り消さない。

 それも風向きが変わり始める。デーンは委員の一人に電話で「年金がないものも、複数からもらうものもいる。郡政委員の中にもいる」その委員は「年金記録をあたれ。ただし私から聞かなかったことに」複数からもらっているという委員が判明する。デーンがゴールドスタインに話すと「知事に電話するよ」

 公開郡政委員会は、一人の欠席委員で開かれ採決の結果、ローレルの案件は承認された。そしてローレルには警部補昇格の吉報を持って署長とデーンが訪れた。その夜、ローレルはステイシーに見守られながら安らかな永久の眠りについた。

 ニュージャージ州議会はパートナー法を改正し全公務員の同性パートナーに年金支給を認めた。ローレルの死から7年後の2013年、ニュージャージー州では同性婚が合法化された。2015年6月26日米連邦最高裁は全米で同性婚を合憲とした。ステイシーは今もあの家に暮らしている。

 ローレルを演じたジュリアン・ムーアの死に行く人をかすれた声とやつれた風貌で表現したし、自らをレズビアンを公言したエレン・ペイジも頑張ったと言える。マイケル・シャノンの控え目で抑えた演技に好感が持てる。しかし、批評家の評価は低い。2015年制作 劇場公開2016年11月
 

 
監督
ピーター・ソレット1976年ニューヨーク市生まれ。

キャスト
ジュリアン・ムーア1960年12月ノース・キャロライナ州生まれ。2014年「アリスのままで」でアカデミー賞主演女優賞受賞。
エレン・ペイジ1987年2月カナダ、ノヴァスコシア州ハリファックス生まれ。
マイケル・シャノン1974年8月ケンタッキー州レキシントン生まれ。
スティーヴ・カレル1962年8月マサチューセッツ州生まれ。

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第二次大戦で最後に沈められた重巡洋艦インディアナポリスの史実「パシフィック・ウォー」

2017-06-18 16:24:06 | 映画

              
 史実と言っても大枠はそれに違いないが、水兵同士の喧嘩とか金持ちのお嬢さんに恋したラブ・ストーリー、それにインディアナポリスの艦長と伊58艦長の和解などは脚色なのだろう。

 1945年7月26日テニアン島へ極秘任務の原子爆弾用の部品と核材料を運んだあと、重巡洋艦インディアナポリスは7月30日フィリッピン海で日本の潜水艦「伊58」から発射された6本の魚雷のうち3本が命中、弾薬庫が誘爆し12分後に沈没した。

 インディアナポリスの乗員1199名のうち約300名が攻撃による死亡、約900名が海に投げ出された。インディアナポリスの艦長チャールズ・B・マクベイ大佐(ニコラス・ケイジ)も伊58の艦長橋本以行(もちつら)少佐(竹内ゆたか)も人情味があり常識を備えた人間だった。

 マクベイ艦長は、直属の士官が横柄でわがままな性格を諌めたり、沈没する艦のできるだけ最後に脱出したり、漂流中もなけなしの缶詰を部下から先に与えたりした。一方の橋本艦長は、伊58潜水艦に搭載している人間魚雷・回天をできるだけ使わないという配慮をしていた。

 インディアナポリスの海に投げだされた約900名の兵士のうち救助されたのは316名だった。マクベイ艦長もその中の一人だった。士官の中でただ一人の生き残りとなった。サメの餌食もあったが、多くは水、食料の欠乏、体温低下、生きる意志の喪失それから起こる幻覚症状などで命が奪われた。米軍基地が通信傍受を受けながら適切な処理を怠ったのも多くの死者を出した要因に拍車をかけたといわれる。

 生き残ったマクベイ艦長には、遺族からの怨嗟の声が渦巻き、さらに軍事法廷が待っていた。訴因は、1魚雷の回避に有効といわれるジグザグ航行を怠った罪。2退艦命令を出す時期を怠った罪。

 この二つの訴因は、軍事法廷にかける必然があるのだろうかと思う。極秘任務ということで駆逐艦の護衛もついていない。どうやって潜水艦から逃れよというのか。魚雷3発を受け弾薬庫の誘爆という事態では、真っ先に消火活動と破損箇所の修復だろう。状態の確認と可否の判断は、いくら急いでも5分はかかるだろう。それから全員を脱出させると考えると時期を怠ったとは思えない。

 面白いのは、1について敵国だった橋本艦長を予備審問に呼び証言させていることだ。戦争が終わっているとはいえ敵国だった艦長を証言台に立たせる。自国の潜水艦長たちや専門家で事足りないのかなあ。アメリカ人特有の合理主義かもしれない。

 その橋本艦長の証言は「あの位置関係ならジグザグ航行していても撃沈できた」というものだった。私の印象としては、同じ軍人同士の連帯感があって、最前線で命を賭けて戦う艦長を航行の仕方で軍事法廷で裁くという見識に反逆したかもしれないとも思う。

 映画でも証言を終えた橋本元艦長がマクベイ大佐の目を見つめて小さくうなずく場面がある。「どうだ。これでいいだろう?」と言っているようだ。映画では予備審問なのか本審問なのかは分からない。判決は、1は有罪、2は無罪だった。

 映画では、法廷の外の庭でマクベイ艦長と橋本艦長の劇的な対話が用意されている。
橋本「日本ではあり得ないことだ。立場が逆でもあなたが召喚されることはなかった」
マクベイ「回避策はあっただろうか?」
橋本「あなたの艦は無防備でわれわれが近くにいた。大日本帝国海軍の艦長として敵を殺すのが任務だった。だが、人として後悔している」
マクベイ「貨物の中身はおおよそ見当はついていた。私も任務を果たした。だが、人としてまったく名誉など感じていない」
橋本「貨物の運搬を阻止していたら結果は違っていただろう。今日、かつての敵を許すことができた。いつの日か人として許し合えるだろう」二人は挙手の礼で別れを告げた。

 この場面は、オバマ大統領が2016年5月27日広島訪問、安倍首相が2016年12月27日真珠湾を訪問したことを連想した。

 また、人間魚雷・回天もそうだし特攻隊(神風特別攻撃隊)も同列で人命軽視の日本人と言われても仕方がない。特攻隊の発想は誰か。第二次世界大戦以前からあって城英一郎少佐の頭の中で芽生えていた。1931年山本五十六少将と相談。「最後の手は肉弾体当たり、操縦者のみにて爆弾搭載射出」が了解事項のようだった。橋本艦長も人命をむざむざと捨てる気になれなかったのだろう。良心的な軍人もいたということだ。少し救われる気持ちになった。

 マクベイ艦長は、ジグザグ航行をしなかったとして有罪になったが、上官たちの尽力で有罪が取り消された。それでも遺族からの怨嗟は止まず1968年拳銃自殺で幕を閉じた。

 軍法会議から50年後、ハンター・スコットと言う12歳の少年がこの事件を知り調べ始めた。その結果、「当時の海軍上層部がインディアナポリスの位置情報をきちんと管理できなかったことが大きな理由であり、そのことを隠すために彼に罪をなすりつけた可能性が高いことが判明した。橋本艦長が予備審問の際にマクベイ大佐を擁護する内容を証言していたが、本審問ではカットされているという事実も判明し問題とされた(ウィキペディア)」 

 このことからマクベイ艦長の名誉回復運動が広まり、ビル・クリントン大統領の署名によって無罪が確定した。この映画もドキュメンタリー・タッチで描いてあるが、マクベイ艦長に焦点を当てて人間性に迫れば見応えのある作品になったと思う。2016年制作 劇場公開2017年1月






監督
マリオ・ヴァン・ピーブルズ1957年1月メキシコ・シティ生まれ。

キャスト
ニコラス・ケイジ1964年1月カリフォルニア州ロングビーチ生まれ。1995年「リービング・ラスベガス」でアカデミー主演男優賞受賞。
トム・サイズモア1961年11月ミシガン州デトロイト生まれ。
ユタカ・タキウチ (竹内ゆたか) 岐阜県生まれ。2000年5月渡米。

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実力者を起用しながら不発の映画「アンダーテイカー葬る男と4つの事件」2009年制作 劇場未公開

2017-06-16 10:16:20 | 映画

                   
 わが国で劇場未公開はうなずける。主役はジェシカ・ビールと言ってもいい。レイ・リオッタ、エディ・レッドメイン、フォレスト・ウィテカー、クリス・クリストファーソンというキャスティングは豪華というよりも堅実といえる。

 レイ・リオッタは特異な性格俳優だし、エディ・レッドメインは、2014年に「博士と彼女のセオリー」でアカデミー賞主演男優賞受賞したように隠れた逸材、フォレスト・ウィテカーも2006年に「ラストキング・オブ・スコットランド」でアカデミー主演男優賞を受賞した。また、クリス・クリストファーソンは、カントリー音楽界での大御所と言う存在。

 こういう面々が参加していながら、建築で言えば大黒柱がしっかりしていない。料理で言えば基本の味付けが曖昧といえるだろう。愛をテーマにしていながら一本の太いストーリーがなく散漫だった。クリス・クリストファーソンなんかは、最初のバスの場面だけ。クリス・クリストファーソンを起用する必然が分からない。

 レイ・リオッタやフォレスト・ウィテカーの過去もハッキリしない。唯一ストリッパーを演じたジェシカ・ビールのすらりとした肉体が目に焼きつくぐらいだ。レビューもすべてが酷評だ。エディ・レッドメインが可愛いというコメントが目についた。

 これを監督したのは誰かとみると、ベトナム出身のティモシー・リン・ブイ。暗くてじめじめしているのは生まれ育った環境の反映か。
 

 
監督
ティモシー・リン・ブイ1970年4月ベトナム、サイゴン生まれ。

キャスト
ジェシカ・ビール1982年3月ミネソタ州エリー生まれ。
レイ・リオッタ1955年12月ニュージャージー州ニューアーク生まれ。
エディ・レッドメイン1982年1月イギリス・ロンドン生まれ。
フォレスト・ウィテカー1961年7月テキサス州ロングビーチ生まれ。
クリス・クリストファーソン1936年6月テキサス州生まれ。

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ウェストコースト・ジャズの代表的プレイヤー、チェット・ベイカーを描く「ブルーに生まれついて」

2017-06-13 15:57:28 | 映画

               
 チェット・ベイカー(1929.12.23~1988.5.13)は、1950年代ロサンゼルスを中心に西海岸一帯で演奏されていたウェストコースト・ジャズの代表的トランペット奏者、ヴォーカリスト。

 他によく聞く名前としてバリトンサックス、ピアニストのジェリー・マリガン、ピアニストのディヴ・ブルーベック、ドラマーのチコ・ハミルトン、サックスのアート・ペッパーなどがいる。

 チェット・ベイカーを演じるのはイーサン・ホーク。この時代のジャズメンの多くは、いわゆる薬漬けで人生の放浪者とでも言えばいいか。チェット・ベイカーも例外ではなかった。ヤクのトラブルであごを砕かれ再起まで時間がかかったが、ようやくニューヨークの名門ジャズクラブ「バードランド」での演奏に漕ぎ着ける。ここで認められればヨーロッパ・ツアーも夢ではない。

 マイルス・デイヴィスやディジー・ガレスピーも来ているのを目にしてパシフィック・ジャズ・レーベルのプロデューサー、リチャード・ボック(カラム・キース・レニー)に言う。ヘロインの解毒や維持療法に用いられるメタドンを「飲んでいない」
「緊張するのは分かるが、自信を持て! 大丈夫だ」とリチャード。
化粧台にはろうそくが揺らめき、注射器とヘロインの粉が置いてある。
「それは止めた方がいい」とリチャード。

「人生を取り戻したい。音楽をやりたいんだ。思い通りに……」注射器のほうへあごをしゃくって「自信が湧くんだ。テンポが広く感じられる。一つ一つの音の中に入れる」
リチャードは持ってきたメタドンを注射器と並べて「どちらでも、君が決めろ」と言って出て行った。

 そしてステージでは、自信たっぷりに「I've never been in love before恋をしたこがない」を歌う。しかし、ヘロインをやめられない彼から、婚約者のアフリカ系アメリカ人のジェーン・エレイン(カーメン・イジョゴ)が去っていった。

 ステージは成功し、以後チェット・ベイカーはヨーロッパで過ごした。そして1988年5月13日オランダ、アムステルダムのホテルの窓から転落死。原因は不明。

 チェット・ベイカーは、1986年に初来日している。イーサン・ホークは、6ヶ月のトランペット特訓があり歌も歌っている。なかなか渋い声でチェット・ベイカーとは違った味があった。

 批評家の平均点は7点でそこそこ評価されたということか。チェット・ベイカーのヴォーカルでの代表曲「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」をイーサン・ホークでどうぞ! 2015年制作 劇場公開2016年11月
         

               

 
監督
ロバート・バグーロー1974年1月カナダ、オンタリオ州ロンドン生まれ。

キャスト
イーサン・ホーク1970年11月テキサス州オースティン生まれ。
カーメン・イジョゴ1973年10月イギリス、ロンドン生まれ。
カムラ・キース・レニー1960年9月イギリス生まれ。

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モダンジャズ・ピアニスト、ジョー・オルバニーの内実「ロウダウン」2014年制作 劇場未公開

2017-06-11 16:02:27 | 映画

                
 モダンジャズのピアニスト、ジョー・オルバニー(1924年1月12日~1988年1月12日)について娘で作家のエイミー・オルバニーが内実を明かす。

 ジョーもご多分に漏れずヘロイン中毒。娘エイミーが全てを見定める。チャーリー・パーカーとも共演したほどの男も中毒から抜け出せず63歳で生涯を終えた。

 そのジョー・オルバニーを演じるのは、2013年ダウン症で首から下が麻痺した男がセックス・カウンセラーを受けるという「セッションズ」でその男を演じたジョン・ホークス。

 その娘エイミーをエル・ファニング、それにジョーの母親グラムをグレン・クローズという配役。かなり地味な作品でエル・ファニングの可愛さが目立った。

 グレン・クローズも70歳に近いが、かつて「危険な情事」のストーカー女やテレビドラマ「ダメージ」の冷血な弁護士などの鋭いナイフのような雰囲気が残る。ジョー・オルバニーの演奏は、YouTubeで聴ける。劇場未公開は仕方がないか。
 

                 
監督ジェフ・プライス出自不詳

キャスト
ジョン・ホークス1959年9月ミネソタ州アレクサンドリア生まれ。
エル・ファニング1998年4月ジョージア州生まれ。ダコタ・ファニングは姉。
グレン・クローズ1947年3月コネチカット州グリニッチ生まれ。

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人生に影を落とす避けられなかった事故「誰のせいでもない」2015年制作 劇場公開2016年11月

2017-06-09 17:08:33 | 映画

                
 ストーブをがんがん焚いている板塀の隙間も見える小さな小屋で目を覚ましたトマス(ジェームズ・フランコ)。外はカナダ、ケベック州モントリオール郊外の湖。今は真っ白な雪原が広がり、氷に穴を開けて魚を釣る人やスノーモービルで遊ぶ人たちが見える。

 恋人サラ(レイチェル・マクアダムス)に携帯で電話をかける。
「どうだった。書けた?」とサラ
「いや」トマスは小説を書くために一人の静かな環境に身を置いたがアイデアの欠片も出てこなかった。

 サラの家に向かう途中道路工事で迂回を余儀なくされた。降りしきる雪で視界がさえぎられ周囲に住宅も見当たらない。突然左斜面から黒いものが飛び込んできた。急停止して前に回ってみると、子供が一人うずくまっていた。助け起こし怪我がないか確かめて斜面の上に建つ家へ。

 ノックに答えて出てきた母親ケイト(シャルロット・ゲンズブール)は「弟はどうしたの?」と子供に聞く。そう弟は車の下で死んでいた。

 この事件はやむを得ないということで不問となったが、トマスに与えた影響は計り知れない重圧となった。自殺未遂まで起こしたが、人は経験で強くなるとでもいうように執筆がはかどるようになる。

 年月は留まることを知らず事故から11年が過ぎた。今やトマスは、サイン会も開く作家となった。サラとは別れトマスの版元の出版社に勤めていたアン(マリ=ジョゼ・クローズ)と結婚して、生意気で口が達者な一人娘と仲良く暮らしていた。ようやく過去の傷が癒されようとしているとき、精神的に不安定と思われるケイトの息子から手紙が届く。

 人生の光と影を描き完璧な人間はいないと言っているようだ。ただ、批評家の評価は高くない。
 
監督
ヴィム・ヴェンダース1945年8月ドイツ、デュッセルドルフ生まれ。

キャスト
ジェームズ・フランコ1978年4月カリファルニア州生まれ。
シャルロット・ゲンズブール1971年7月イギリス、ロンドン生まれ。
マリ=ジョゼ・クローズ1970年2月カナダ、ケベック州モントリオール生まれ。
レイチェル・マクアダムス1978年11月かんだ、オンタリオ州生まれ。

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父親が目覚めるとき「エリザのために」2016年制作 劇場公開2017年1月ルーマニア語

2017-06-07 16:58:45 | 映画

               
 どこの国の人も自分の娘や息子にいい教育を受けさせ、将来を期待するものだ。ルーマニアの中部・北西部にあるトランシルバニアの小さな町に住む警察病院の医師ロメオ・アルデア(アドリアン・ティティエニ)もその一人。

 一人娘のエリザ(マリア・ドラグシ)は、イギリスの大学へ進学して心理学を学ぶ予定だ。そのためには高校の最終試験で90点以上の優秀な成績を残さなくてはならない。彼女には十分可能と踏んでいるロメオ。

 試験を翌日に控えた朝、いつものようにエリザを車で学校に送っていく。この日は校門前でなく一つ手前の交差点でエリザを降ろした。ロメオは急いで女の部屋へ急ぐ。早朝の情事というわけ。悪い知らせは悪事に重なるのか、情事が佳境に入ったとき携帯が鳴った。「エリザが暴漢に襲われてレイプ未遂で怪我をした」というものだった。

 エリザの動揺は深刻だったが、試験に集中できるのか不安を抱え込んだのはロメオだった。さあここからが問題だ。ロメオは必死でエリザの合格にあらゆる手を使う。

 昵懇の警察署長から副市長へ、そこから校長へエリザを置き去りにした作為が進む。映像で見る限りロメオの気持ちも分かる。古びた集合住宅の1階に住むロメオから見るルーマニアは、決して住みよい国とは思えない。エリザの幸せを思って英語の特訓までしてイギリス留学を夢見てきた。それを目前に不幸が襲うとは許しがたい。

 しかし、不仲な妻もエリザにしてもルーマニアを離れることにそれほど固執していない。思い入れはロメオだけ。挙句の果てに妻から追い出されるロメオ。しかも副市長の汚職関連で検察の事情聴取の対象にもなる。自己中心の男に愛想を尽かした妻、もてあます愛情を娘に向け男の本能はかつて治療を通じて知り合った小学校教諭の一児の母と共有の時間を過ごす。世界中どこにでもいる男。その男があっけなく改悛するというお話。

 この映画の映像が今のルーマニアを表しているのだろうか。集合住宅の外壁は黒ずんで汚れ、室内のキッチンは狭く小さな冷蔵庫が見える。テレビ、あったかな。今から約30年前の日本を連想するが。

 それに医師なのにこういう住宅に住んでいるとは。アメリカやフランス映画では、医師ともなればプール付の豪華な屋敷住まいが多いが。ロメオが外国に目を向けるのも致し方ないかもしれない。ちなみにルーマニアの人口は1千9百万人ぐらいで、名目GDPが11,000ドルぐらい。日本は40,000ドル。

 卒業記念写真撮影のとき、エリザが笑顔を見せたのがこの映画の唯一つの微笑だった。この映画を監督したクリスティアン・ムンジウは、2007年「4ヶ月、3回と2日」でカンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞。本作でも監督賞を受賞している。こういうテーマで2時間を見せる力量がある。眠くならなかった映画の一つ。
 
監督
クリスティアン・ムンジウ1968年4月ルーマニア生まれ。

キャスト
アドリアン・ティティエニ出自不詳 
マリア・ドラグシ1994年ルーマニア生まれ。


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