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読書「カササギ殺人事件Magpie Murders」アンソニー・ホロヴィッツ著

2022-03-22 16:07:36 | 読書
 「私はいつも月曜日が好きだった」と言うのはクローヴァーリーフ・ブックスという出版社のベテランの編集者スーザン・ライランド。月曜日が好きだと言えるのは幸せなことだ。週休二日で休み癖がついて、月曜日はなんだか億劫な気分になるのは多くの人が経験していると思う。

 「木曜や金曜はピリピリした緊張感があるけど、月曜に出社して自分の机の上に未開封の封書、校正刷り、営業や広報、版権管理者からのメモなどを見ると満ち足りた気分になる」スーザンはかなり仕事人間。そのスーザンが謎に挑むのである。

 「カササギ殺人事件」は風変わりな構成でなっている。前半、文庫(上)になるが、1955年イギリス、サマセット州サクスビー・オン・エイヴォン村の聖ポトルフ教会で、しめやかに葬儀が行われていた。故人となったのはメアリ・エリザベス・ブラキストン58歳。

 メアリは、この地でパイ屋敷と呼ばれる准男爵のサー・マグナス・パイが住む、エリザベス朝様式の16世紀からつづく屋敷の家政婦だった。玄関ホールの幅広い階段の上り口に倒れているのが発見された。

 口さがない村人たちの噂では、息子のロバートが母親を殺したという。絶対そんなことはないと確信を持つ婚約者ジョイ・サンダーリングが、有名な探偵アテュカス・ピュントをロンドンの事務所に訪ね助力を乞う。しかしピュントは、事件化していないものに手を貸すことはできないと断る。

 ところが数日後、パイ屋敷のサー・マグナス・パイが殺される。事件の担当がバース警察刑事課レイモンド・チャブ警部補、ピュントの旧友でもある。いよいよアテュカス・ピュント登場となった。
 このアテュカス・ピュント像は、アラン・コンウェイという作家が創造し、メアリを殺した犯人に目途をつけて文庫(上)が終わる。

 さて、文庫(下)には編集者のスーザン・ライランドがアラン・コンウェイ著「カササギ殺人事件」の原稿に結末が欠落していることに気が付く。ここから別の謎解きが始まる。

 そして思わぬ驚きの結末が待っている。ただ、この驚きの結末に至るまで偶然が介在するのがやや不満ではある。
 こういう文脈がある。「小説で起きる偶然の出来事が、私はあまり好きではない。論理と計算から成り立つミステリにおいてはなおさらだ。探偵は神の摂理など味方につけず、自力で真相に到達しなくては。もっとも編集者として私がいくらそう思ったとしても、残念ながら、現実に偶然の出来事が起きてしまったのだから仕方がない」と言い訳をしている。この論理で行けば、すべて現実に起きてしまったことだからで済ますことができる。まあ、重箱の隅をつつくことはやめよう。

 このようなストーリー展開は、アガサ・クリスティが良く使う手だというが。この本には謎解き以外にも興味深い記述がある。よく言われる英国の階級意識のこと。卵が二つ、ベーコン・ソーセージ、トマトと揚げ焼きしたパンという完璧な英国の食事。レストランで飲むジュヴレ・シャンベルタンのグラン・クリュ、(日本で1万円台から20万円台までの赤ワイン)。スーザンの愛車MGBロードスター。スーザンの恋人ギリシャ系の男アンドレアス・パタキス。これらが文脈を遊よくして楽しませてくれる。

 題名の「カササギ」は、鳥網スズメ目カラス科の鳥類。大きな脳を持ち鏡に映る姿を見て自分だと認識するそうだ。この物語では、メアリの埋葬の時、ニレの木にびっしりとカササギがとまっていて、埋葬が終わるとカササギたちの姿がなかったという謎めいた雰囲気なのだ。

 著者アンソニー・ホロヴィッツは1955年イギリス、ロンドン生まれ。小説家、脚本家、児童文学作家として多くの著作がある。

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映画「ガラスの城の約束The Glass Castle」劇場公開2019年

2022-03-07 16:20:03 | 映画
 自分の境遇を恥ずかしく思ったことはないだろうか? 父親の職業が、父親の暴力的なところが、母親の優柔不断なところが、貧乏な家庭が……これは実話でニューヨーク・マガジンのコラムニスト、ジャネット・ウォールズの勇気ある自叙伝なのだ。
 2005年に発刊された「ガラスの城」は好評で、400万部を売り上げ31の国で出版された。

 映画の出だしはジャネットが成人して、婚約者の証券アナリストのデヴィッド(マックス・グリーンフィールド)を交えた仲間内の食事会で、ジャネット(ブリー・ラーソン)の家族について問われたとき、少し言いよどみながら「母はアーティストで、父は起業家です。質の悪い漂青炭を効率よく燃やす技術を開発しています」と言う。

 これはデヴィッドと打合せ済みで、回答をでっちあげてあった。ジャネットはそこそこの収入を得られるコラムニストとして、世に出ようとしていた。過ごしてきた家族、特に父について恥ずかしさと憎しみを払しょくできないでいた。

 父レックス・ウォールズ(ウディ・ハレルソン)は、アル中で暴力をふるう男だったが、自由な精神と行動が変わり者に見えた。ボディの塗装が剥げ、穴の開いたワゴン車に妻ローズマリー(ナオミ・ワッツ)と子供4人を乗せて放浪する。荒野で野宿をする。枝ぶりのいい木を見つければ、ローズマリーは絵筆を握る。学校教育を否定する。子供たちは学校には、行っていない。その代わりに本を読ませる。レックスは博識だからいろんなことを教えていく。ジャネットには白紙のノートを渡して、これに綴っていけ。

 レックスのひどい時は、食べ物がないのに自分は酒を飲む。ようやく丘の上にボロ家を見つけ住みつく。庭にガラスの城を作ろうとジャネットと約束する。しかし、父の行状にたまりかねて、ジャネットは家を出る。

 父と疎遠な中、ジャネットはデヴィッドと結婚して素敵な家に住んでいる。二人とも成功した結果だった。今夜も裕福な顧客とのディナーが待っている。これはあくまでもデヴィッドのビジネスのため。

 その席でデヴィッドがジャネットの父に話を振った。いつもの偽りの話へと。ジャネットは「ちょっと失礼します」と言って席を立った。

 化粧室の鏡の前で父を回想した。ウォールズ家の人間は腹の中で炎が燃えているとも言ったし、悪魔を退治する鋭いナイフも見せてくれた。ジャネットは思う「私の中の恥じらう気持ちは悪魔かもしれない。子供は両親を選べない。したがって、両親は子供を健やかに育てなければならない。それが義務だ。父のような育て方がいいとは言えない。でも、父に変わりはない。どんなことがあっても」ジャネットの恥じらう気持ちと憎しみは、鋭い刃によって断ち切られた。

 席に戻ったジャネットは「両親は空きビルの不法居住者です。3年間ホームレスで昔から貧乏でした。父は研究なんかしてないけど、何でも答えてくれた。誰よりも賢い人です。そして酒浸りで、やることが中途半端、性格も破綻している。でも、誰よりも大きな夢を持ち、自分に正直です。私にもそうあれと」
 デヴィッドに向かって「ごめん、行くわね」デヴィッドとの関係も終わり、ジャネットは新しい門出に向かって歩き始めた。残念なのは、父が約束したガラスの城が出来なかったことだ。でも、その城は私が造る。

 ジャネット・ウォールズ本人は、1960年アリゾナ州フェニックスで生まれる。フェニックスからカリフォルニア州サンフランシスコ、ネバダ州バトルマウンテンとホームレスの生活を経てウェストバージニア州ウェルチの小高い丘の上の家に落ち着く。電気も水もない3部屋の家だった。

 17歳でニューヨークに出て妹ロリと一緒に住む。法律事務所で1年間電話番の仕事をして、助成金、ローン、奨学金でバーナード・カレッジ・コロンビア大学に学び1984年卒業する。
 ブルックリンの新聞「フェニックス」の記者、1987年から1993年までニューヨークの雑誌「インテリジェンス」にコラムを執筆、1993年から1998年まで男性誌「エスクァイア」のゴシップコラムを書き、以後有料テレビチャンネルのMSNBCや各テレビ局にも出演している。

監督
デスティン・ダニエル・クレットン1978年ハワイ州マウイで日系アメリカ人の母とアイルランドやスロバキアの血を引く父親との間に生まれる。2013年ブリー・ラーソン主演の「ショート・ターム」が批評家からの熱烈な支持を得て各地で多くの賞を受賞、ブリー・ラーソンも高い評価を得た。

キャスト
ブリー・ラーソン1989年カリフォルニア州サクラメント生まれ。フランス系アメリカ人。

ウディ・ハレルソン1961年テキサス州ミッドランド生まれ。特異な性格俳優であるが、生い立ちも特異、性格も特異でこの映画の役にもピッタリ。父親はマフィア雇われの殺し屋、母は弁護士秘書。父親は1978年連邦判事射殺の罪で終身刑、刑期中に死亡。ウディ本人は数々の問題行動を起こし、たびたび警察に逮捕される。有名なのが大麻合法化活動家としてらしい。

ナオミ・ワッツ1968年イギリス、イングランド、ケント州生まれ。アカデミー賞にノミネートされるが受賞に至っていない。

マックス・グリーンフィールド1979年ニューヨーク州ドブス・フェリー生まれ。

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読書「ガットショット・ストレートGutshot Straight」ルー・バーニー著2014年刊

2022-03-05 20:45:23 | 映画
 ライトを浴びて淡いグリーンにきらめく瞳。チョットゆがんだ笑み。興味をそそる鼻の上を横断して散らばるそばかすの彼女の名前はジーナ。
 どんな危ない局面でも、パンツにお漏らしをするようなことのない胆力のある女なのだ。

 そのジーナに参ってしまったんのがシェイクという男。チャールズ・サミュエル・ブション通称シェイクという男は、自動車窃盗の罪でカリフォルニア州ミュール・クリーク刑務所に収監されていて、15年の刑を終えようとしている42歳の白人男である。

 刑務所で鍛えられたのか、あるいは元々の性質なのか何事にも動じない。その彼が誓いを立てている。出所したら絶対悪事の道は入らないと。
 レストランを開く夢を、個室のベッドであれこれと想像する。レストランはメニューが命だ。フライパンで揚げるフライドチキン、小麦粉はごく薄く振り、スパイスはたっぷりと効かせて。マッシュポテトにまったりと濃厚なグレーヴィー・ソースを添えて。オクラも数本、もちろんシェイクの祖母がよく作ってくれたようなルーを絡めて。
 魚のグリル焼き。種類は新鮮で美味しければ何でもいい。かけるのはレモン風味のグルノーブル・ソースあたりか。

 ところが裏稼業の身では、おいそれと更生の道を歩かせてはくれない。バスでロサンゼルスに着いた。隣に座った婆さんをタクシーに乗せて見送ったとき、音もなく長い黒色のリムジンが滑り込んだ。
 助手席側の後部のスモークガラスがするすると下りるとアレクサンドラ・イランドリャン(レクシー)の笑顔があった。かつては濃密な時間を共に過ごした相手。シェイクが知る中で、最も美しく最も恐ろしい女なのだ。

 アルメニアに生まれ16歳でトルコ国境の山岳地帯を根城にする部族軍頭領に嫁入り、20歳の頃にはその頭領を始末してリーダーとなり、近隣の部族軍を配下に収め数年後アメリカに移住した。
 今ではロサンジェルス中のアルメニア人ギャング全体を支配している。彼女の肌触りはぬくもりがあるが、心は氷点下の冷たさ、油断のならない女だ。

 その女レクシーにハリウッドにあるステーキハウスで頼まれたのが「ラスベガスまで車を運転する。男と会ってその車を渡す」シェイクが後を引き取って「その男からブリーフケースをもらう。飛行機でロサンジェルスに戻って、ブリーフケースを君に渡す。それで2万ドル」義理もあるし、レストラン開店資金も必要だし、やむを得ず引き受ける。
 ラスベガスまで転がす車のトランクに、猿ぐつわと手錠という格好で入れられていたのがジーナなのだ。

 ギャングの悪の世界で生き延びようとする一人の男を,、コメディタッチで描くクライム・サスペンス。わたしにはあまり余情のないストーリー展開のため、感情移入できなくてやや退屈だった。
 この本の前に読んだルー・バーニーの「11月に去りし者」の方が私の好み。

 ちなみに、題名の「ガットショット・ストレート」とは、ポーカー用語、ガットショット・ストレート・ドローのこと。別名インサイド・ストレート・ドロー。たとえば手持ちのカードが3・4・6・7・8なら,間の5を引くとストレート完成となる状態のことと解説がある。

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