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映画とその脚本「悪の法則THE COUNSELOR」

2024-04-23 14:44:58 | 映画
(映画)監督 リドリー・スコット、キャスト マイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット。(脚本)コーマック・マッカーシー、2013年早川書房刊

 コーマック・マッカーシーの書き下ろし脚本を基に、リドリー・スコットが監督して出来上がった映画だが、批評家の採点が低くコメントも批判的なのが多い。私も期待外れの烙印を押したい。象徴的な豹2頭の扱い以外、女優に魅力がないし主演のマイケル・ファスベンダーの声がざらついていて女たらしの魅力が発揮できていない。あのハンサムなブラッド・ピットも精彩がない。私的にはハビエル・バルデムの脂ぎった粘着質な演技には注目した。それでも獲物を狩る豹のように、メキシコの麻薬カルテルに簡単に射殺されてしまう。死に際が凄惨で恐ろしいのは、ブラッド・ピットだ。ボリートと呼ばれる殺人器具だ。首にひょいとワイヤー付きの首輪をかけられれば、もう絶体絶命強靭なワイヤーがモーターの作動で外せないしワイヤーも切れない。ブーンという悪魔の音とともに頸動脈が切れるのを待つしかない。おびただしい血が噴出して痙攣とともに静かになる。
 物語は主人公の弁護士(マイケル・ファスペンダー)が恋人のローラ(ペネロペ・クルス)といちゃつく場面から始まる。脚本では真っ暗な部屋になっているが、映画ではテキサス州エルパソにある弁護士の部屋。午後の2時、明るい部屋で白いシーツに絡まりながらの会話。
弁護士「僕にどうしてほしい。言えよ」
ローラ「私に触って!」
弁護士「どこを?」
ローラ「ずっと下の方よ」
弁護士「本気かい?」
ローラ「ええ、そうよ」
弁護士「もっとセクシーに」
ローラ「触って」
弁護士「もう濡れてる?」
ローラ「ええ」
弁護士「本当だ」
 この弁護士、恋人を愛するがゆえに一生に一度の大儲けを企む。禁断の麻薬ビジネスなのだ。ところがどう間違ったのか、メキシコの麻薬カルテルに命を狙われる羽目になる。そしてすべてが「手遅れだ」と嘆くしかない。

 結局、麻薬の金2000万ドル(約30億円)は、ハビエル・バルデムの恋人キャメロン・ディアスに横取りされる。彼女は投資の金以外は、ダイヤモンドに換えて香港に高飛びを考えている。豹が獲物に飛びかかり貪り食うのがセクシーだという彼女の心情そのままなエンディングと言える。
 こういうガラの悪い映画であっても、高級レストランで流れる音楽はテイラー・スウィフトでなく、アンネ=ゾフィー・ムター独奏のモーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第2番」なのだ。

 脚本を書いたコーマック・マッカーシーは、1933年ロードアイランド州生まれ。大学を中退すると、1953年に空軍に入隊し四年間の従軍を経験。その後作家に転じる。1973年「チャイルド・オブ・ゴッド」や、1985年「ブラッド・メリディアン」の発表などにより評価を高め、(国境三部作)の第一作となる第六長編1992年「すべての美しい馬」で全米図書賞、全米批評家協会賞をダブル受賞した。続いて三部作の第二作1994年「越境」、第三作1998年「平原の町」を発表。第十長編2006年「ザ・ロード」はピューリッツアー賞を受賞した。映画脚本として書かれた本書は、リドリー・スコット監督により映画化された。名実ともに現代アメリカ文学の巨匠である。

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映画「オーバードーズ破滅の入り口OVERDOSE」2022年フランス制作

2023-08-04 11:08:22 | 映画
 OVERDOSE過剰摂取、今、若者の間で薬の過剰摂取が問題になっているそうな。薬と言っても風邪薬・咳止めなど。この映画の過剰摂取は、過剰摂取をさせる薬物の輸送にまつわるバイオレンス。観た人の、評判はあまりよくない。
 私には徹底したバイオレンスの描写は、消化するのには大変だがラストシーンのサラ(ソフィア・エサイディ)の失意の描写は、犯人を追い逮捕するが自らの伴侶を捕まえようとする刑事の悲しみが彼女の背中にあった。

 スペインのアルカサル・デ・サン・ファン刑務所を一人の男が出所した。男の名前はイゴール(ニコラ・カザレ)。迎えに来たのは、カタルーニヤが地元のギャング組織アルフォンソ・カストロビエのNo2エドアルド(アルベルト・アンマン)。血も涙もない冷酷な男だ。2日後に先導するバイク2台と護衛の乗用車2台と麻薬を積んだピックアップトラック1台が追従するコンボイ計画にイゴールがバイクの1台を操縦する。麻薬捜査官のサラのスマホには、このイゴールの写真が保存されている。つまりイゴールは警察の犬でありギャング組織の裏切り者なのだ。

 フランス、パリ警察署長のリチャード・クロス(アッサード・ブアーブ)が捜査する少年殺害事件がギャング組織と深くかかわっていることがわかり、スペインのサラ麻薬捜査官と共同捜査になる。ギャングの車を連ねるコンボイは、かなりのスピードで高速道路を疾走する。こういうコンボイをホテルに乗り付けるわけにはいかない。目立ちすぎる。どうするかと言えば、田舎の民家に半分脅しながら押し入る。夕食を出させワインをラッパ飲みという行儀の悪さ。しかもこの家のあるじが不審に思って車のナンバープレートを確認していると、気づいたエドアルドが射殺する。とんだ災難を抱え込んだこの一家。

 また、護衛の1台に乗ったザイード(ナシム・リエス)の情婦が薬物の過剰摂取で朦朧とし始める。道路から少し入った空地に止めて様子を見ていた。そこへパトカーが入ってくる。後から来たエドアルドが銃を乱射する。警官全員死亡。

 リチャードとサラは刻々と入ってくるイゴールからの位置情報に聞き耳を立てていた。出てくるのはけむじゃらの男ばかりだが、私は結構この映画を楽しんだ。リチャードとサラのちょっとしたラブアフェアも彩りを添える。

キャスト
アッサード・ブアーブ1980年フランス生まれ
ソフィア・エサイディ1984年モロッコ、カサブランカ生まれ
アルベルト・アンマン1978年アルゼンチン生まれ
ニコラ・カザレ1977年フランス生まれ
ナシム・リエス1988年フランス生まれ


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映画「43年後のアイ・ラヴ・ユーRemember me」2019年制作2021年日本公開

2023-07-20 09:05:39 | 映画
 高齢の俳優によるコメディ・タッチの涙ボロボロのロマンス映画。クロード(ブルース・ダーン)は年寄りの特権、自由気ままを親友シェーン(ブライアン・コックス)と謳歌していた。そこに飛び込んできたのは、娘セルマ(シェンナ・ギロリー)の夫カリフォルニア州副知事アディソンが辞任するというニュース。理由が腹立たしい買春ときた。

 そこへ更にかつて演劇評論の記事を提供していたモントレー新聞から、元副知事の情報が欲しいと言ってくる。なんだかんだのやり取りのうち、電子版の話になり記事をスクロールしているとき、舞台女優リリー(カロリーヌ・シロン)がアルツハイマー病の記事にクロードが目を止める。編集長の話など馬耳東風、そそくさと帰宅。クローゼットの棚から段ボール箱を取り出し、かつて愛し合った頃のリリーとのツーショットの写真に手を触れる。「今でも愛しているよ」と呟く。

 リリーが老人ホーム「ロングウッド」で暮らしているのがわかる。クロードはアルツハイマー病患者と偽って、その老人ホームに入る。リリーに近づくが、当然クロードとは判らない。大学生の孫タニヤ(セレナ・ケネディ)は、父親アディソン元副知事のスキャンダルに嫌気がさし父親を軽蔑している。父親の低俗な冗談を嫌い家出をして、クロードの家にやってくる。

 老人ホーム側の入所者の娯楽として劇団を招く計画を変えさせ、タニヤ所属の大学演劇部が登場することになる。演目は、シェイクスピアの「冬物語」。勿論タニアも演じる一人。セリフを意識的に棒読みして、リリーの舞台女優としてのプライドを刺激する。案の定リリーは感情を込めて往年の姿を再現する。盛大な拍手とともに、クロードを認識する。喜びに震え、かつてリリーと踊った曲ジョージ・ガーシュインの「Embraceable you抱きしめたい」が部屋中に満ちる中、リリーの手を取った。しかも、わが娘セルマと孫のタニヤもクロードの家に移り住むことになる二重の喜びを味わう。ハピーでジンとくる映画だった。それでは「Embraceable you抱きしめたい」をエラ・フィッツジェラルドで聴きましょう。
キャスト
ブルース・ダーン 1936年シカゴ生まれ。演技派で重宝される。娘に力のあるローラ・ダーンがいる。
カロリーヌ・シロル 1949年パリ生まれ。2007年「エディット・ピアフ愛の讃歌」でマレーネ・ディートリッヒを演じた。
ブライアン・コックス 1946年スコットランド生まれ。
セレナ・ケネディ アイルランド生まれ。2017年から演劇活動。
シェンナ・ギロリー 1975年イングランド、ノーサンプトンシャー生まれ。

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映画「聖なる鹿殺しThe killing of sacred deer 」2017年公開

2023-07-13 16:01:58 | 映画
 この映画、つまらないと思う人もいるかもしれない。私も「つまらんホラー映画だな」と観終わったときに思った。しかし、よく考えてみると手術の失敗で家族の誰かを亡くした遺族の気持ちを考えたとき、医師は失敗を認めないだろうから、それではどうすればいいのか。この映画が一例を示してくれる。かなり飛躍はしているけれど……。

 心臓外科医のスティーヴン(コリン・ファレル)は、今日も心臓オペを終えた。過去に手術の失敗で患者を一人あの世に送っている。失敗の原因は何だったのか。それは飲酒の上でのオペだった。その罪悪感からか残されたあの世に送った男の十代の息子マーティン(バリー・コーガン)に何かと気にかけている。この日も高価な腕時計を贈ったりしている。
 スティーヴンは眼科医の妻アナ(ニコール・キッドマン)と長女キム(ラフィー・キャシディ)それに息子ボブ(サニー・スリッチ)と郊外の豪邸に住んでいる。

 このマーティン、突然スティーヴンの病院に現れたり、夕方に会いたいとか言ってくる。つまり相手の事情も考えない思慮に欠けた行いなのだ。それでもスティーヴンは、変わらない交流を続ける。自宅の夕食に招いたり、マーティンの家を訪ねて母親も交えて夕食を共にしたり、いわゆる普通の家庭のお付き合いではある。

 ところがある日、スティーヴンの息子ボブが両足で立てないという病魔に襲われる。精密検査、CTやMRIの結果も異常なしだった。執拗に付きまとってくるマーティン。しかも長女のキムにも同じ症状が現れる。不思議な力を持っているように見えるマーティン。やがてマーティンがむき出しの憎悪を見せるようになる。僕の父親という肉親が、先生のオペミスのために死んだ。だから先生の家族からも、犠牲者を提供する義務がある。スティーヴンは究極の選択を迫られることになる。

 この映画、理詰めで観ると全然面白くない。そうでなかったら、マーティン役を演じたバリー・コーガンの特異なキャラクターとともにホラー映画を味わえばいい。批評家の評判も良く10点満点で7点7になっている。しかもカンヌ国際映画祭でパルム・ドームを争い脚本賞の受賞と記念名誉賞をニコール・キッドマンが受賞している。ただし、家族で観る映画ではない。異様な感じの残る性的描写がるため。
監督
ヨルゴス・ランティモス 1973年ギリシャ生まれ。才能のある監督として評価されている。

キャスト
コリン・ファレル 1976年アイルランド生まれ。
ニコール・キッドマン 1967年ハワイで生まれ、オーストラリアで育つ。演技力も認められるハリウッドの美人女優の一人。
バリー・コーガン 1992年アイルランド生まれ。

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映画「荒野の誓いHOSTILES」2017年制作

2023-06-08 08:38:57 | 映画
 憎む相手と交流するに従い相互理解が深まるというお話。1892年荒野の一軒家にコマンチ族が襲い掛かり、一家皆殺しを企てた。夫・子供三人が犠牲に、ただ一人生き残ったのが妻であり母親のロザリー(ロザムンド・パイク)。

 その地方の砦にはインディアン討伐に勇猛をふるったジョー・ブロッカー大尉(クリスチャン・ベール)がいた。「軍人は殺すのが仕事だ」と言って憚らない。そのブロッカー大尉にシャイアン族の首長イエロー・ホーク(ウェス・スチュディ)がガンで余命いくばくもないことから、故郷モンタナ州にある熊の渓谷まで護送する大統領令が発せられた。大尉はしぶしぶ受けるしかなかった。

 途中一家惨殺されて生き残ったロザリーを助け出し同道する。長い旅の間にはコマンチ族の襲来もあったが、共に戦い寝食を共にすることで相互理解と友情すら生まれる。そしてブロッカー大尉とロザリーの間にも微妙な感情の渦が起き始めた。

 西部劇で楽しいのは馬の疾走だろう。馬の走る姿がキレイだ。この映画にはそれがなかった。しかし、山の穏やかな稜線を馬に乗った人々が行くショットや荒野を大俯瞰するショット、朝日が昇る場面を観ながら、これがロケーションであることを望まずにはいられない。

 そしてラストシーンが気に入った。シカゴ行きの列車に乗るために駅までロザリーを送ってきたブロッカー大尉。プラットホームで別れの言葉。ロザリー「ありがとう……」あとの言葉が続かない。列車に乗り込んでも言い残したくないという素振りで「ありがとう……」で車内に消えた。

 うなずいただけの大尉は、何か考えているようなのだ。列車が動き始めると大尉は、ゆっくりと歩きながら最後尾の列車のステップに乗り込んだ。やがてドアを開けて車内に消える。ロザリーの満面の笑みが見えるようだ。この映画、批評家の評価が高いようだ。

監督スコット・クーパー 1970年ヴァージニア州アビントン生まれ。
音楽マックス・リヒター 1960年ドイツ生まれ
撮影マサノブ・タカヤナギ 高柳 雅暢 群馬県高岡市出身。2011年ハリウッドデビュー

キャスト
クリスチャン・ベール1974年イギリス、ウェールズ生まれ。2013年公開の「アメリカン・ハッスル」でアカデミー賞主演男優賞を受賞。
ロザムンド・パイク1979年ロンドン生まれ。オクスフォード大学で英文学を学び、優秀な成績で卒業。2014年の「ゴーン・ガール」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

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映画「私の名作映画」

2023-04-27 15:42:02 | 映画
 十人十色と言われるように人それぞれで、例えばイギリスの映画雑誌「エンパイア」の歴代ベスト100のうちベスト10を見ると
   1ゴッドファーザー 
   2レイダース/失われた聖櫃 
   3スターウォーズ/帝国の逆襲 
   4ショーシャンクの空に 
   5ジョーズ 
   6グッドフェローズ 
   7地獄の黙示録 
   8雨に唄えば 
   9パルプフィクション
      10ファイト・クラブ となっている。
 
 もう一つ、アメリカ、ロサンゼルスにあるAFI(American Film Institute)のベスト10では
   1市民ケーン 
   2ゴッドファーザー 
   3カサブランカ 
   4レイジングブル 
   5雨に唄えば 
   6風と共に去りぬ 
   7アラビアのロレンス 
   8シンドラーのリスト 
   9めまい 
  10オズの魔法使い となっている。
 国が違えばかなり色合いが違ってくる。ゴッドファーザーと雨に唄えばが共通している程度だ。

 そして私のベスト10は
   1第三の男 
   2ゴッドファーザー 
   3風と共に去りぬ 
   4カサブランカ 
   5ウェスタン 
   6若草物語 
   7十二人の怒れる男 
   8裏窓 
   9男と女 
  10理由なき反抗 とずいぶんと違ってくる。
 
 さて私の選んだベスト10について少しコメントしてみよう。
 1第三の男(1949年)は、なんといってもラスト・シーンが忘れられない。キャロル・リード監督、名優といわれるオーソン・ウェルズ、ジョセフ・コットン、イタリアの美女アリダ・ヴァリのキャスト。そしてアントン・カラスのツイターの演奏するテーマ曲。モノクロ映像が織りなす光と影がミステリアスで、戦争の負の遺産を背負った人たちの生きざまを哀しくも美しく描く。特にラストシーンでの女を怒らせれば怖いぞと警告にすら見える。
 
 第二次大戦後のオールトリアのウィーン。アメリカ人作家ホリー・マーチンス(ジョセフ・コットン)は、親友ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)から仕事の依頼でやってきた。ハリーのアパートを訪ねると管理人から、前日自動車事故で亡くなったと告げられる。信じられない思いから、真相究明に乗り出す。

 その過程でハリーの恋人アンナ・シュミット(アリダ・ヴァリ)と出会う。二人で再び管理人と会って、第三の男の存在を知る。そしてハリーが闇で粗悪なペニシリンを売りさばき、多くの人々が苦しんでいる実態も知る。ハリーがそんな極悪非道な男だったのを知り、帰国を決める。

 そしてアンナに挨拶のために行く途中ハリーに遭遇、ハリーは闇に紛れて姿を消す。この事実を警察のキャロウェイに相談する。念のために墓を掘り返すと、別人の遺体が出てきた。同じころアンナがパスポートの国籍偽造で逮捕される。警察はホリーにハリー逮捕の協力を求めて来た。ホリーはアンナ釈放を条件に受け入れる。そして罠をしかけてホリー自らの手でハリーを射殺する。ハリー埋葬の日、アンナはホリーと目を合わすこともなかった。

 グレアム・グリーンの原作と脚本になっているが、小説のほうでのラストは、ホリーの腕にアンナが手をかける場面らしい。甘いラヴロマンスとして終わるが、映画ではそうではない。ホリーの裏切りに怒っているのだ。女を怒らせると、ほんとうに怖い。

 2ゴッドファーザー(1972年)は、イタリア移民の悲哀を描き出した大叙事詩というけれど、マフィア映画がここまで支持されるとは驚きではある。主題曲ニーノ・ロータ作曲の「愛のテーマLove Theme From The Godfather」の心地よい響き、出演する俳優の豪華さ、ストーリーへの共感と相まって映画の魔力のなせる業か。

 この曲は、最初に「Speak Softly Love」としてアンディ・ウィリアムスが歌った。私は今でもしょっちゅう聴いている。

 3風と共に去りぬ(1939年)も南北戦争を背景にした大叙事詩といえる。主役を演じるのはスカーレット・オハラ役のヴィヴィアン・リー。この映画も女の強さを描いている。そして相手役レッド・バトラー役としてクラーク・ゲーブル。クラーク・ゲーブルを見たとき、ちょび髭でにやけている感じが好きになれなかった。ところが後年東京地下鉄丸ノ内線でクラーク・ゲーブルのちょび髭のないハンサムなそっくりさんを見かけた。改めてクラーク・ゲーブルがハンサムなのを知ったのだ。以後違和感を持っていない。この映画の主題曲「タラのテーマ」もいい曲だ、すぐに頭の中で鳴り出す。

 4カサブランカ(1942年)。個性的なハンフリー・ボガードとスウェーデン出身の美人女優イングリッド・バーグマンの共演。1941年の「ジェキル博士とハイド氏」でイングリッド・バーグマンがすごくキレイだったのを思い出す。この映画も主題曲「As time goes by」の心地よい旋律とともに大義を重んじ愛を捨てる格好いい男ハンフリー・ボガード。ボギーという二ックネームで親しまれる。

 5ウェスタン(1968年)西部開拓時代の末期、私利私欲の輩が多い時代に、女が敢然と立ち向かい生きていく。それを助けるまさに大義を重んじる男たちを描く。エンニオ・モリコーネの音楽が冴える。それは抒情的な「Once Upon a Time West」。

 さらにギャングの親玉役のヘンリー・フォンダ。牧場主家族皆殺しの場面。子供を射殺するときの表情が、あの知的で穏やかなヘンリー・フォンダが豹変して、鬼の形相といってもいい恐ろしい顔が今でも忘れられない。

 6若草物語(1949)マーヴィン・ルロイ監督四姉妹を演じるのはジューン・アリソン、ジャネット・リー、マーガレット・オブライエン、エリザベス・テイラー。作者ルイーザ・メイ・オルコットの半ば自伝的小説であり、児童文学、家庭小説、少女小説、青春小説、教養小説、女性文学でもあるとウィキペディアにある。四姉妹の成長物語でもある。

 この映画を観たときエリザベス・テイラーの美しさに心を奪われたのである。「世の中にこんな美女がいる」と。もっと鼻を高くしようと、洗濯ばさみを鼻に挟んでいるシーンの映像は今でも鮮明だ。

 7十二人の怒れる男(1957年)父親殺しで起訴された少年の裁判で、証拠や証言が少年に全く不利な状況下だった。陪審員全員一致の有罪を多くの人が確信していた。しかし、陪審員番号8番の男(ヘンリー・フォンダ)による提案が、次々と矛盾を露呈していくという脚本と演出の圧倒的な力で、観る者を感動の虜にする。この映画の再放送を私の中学生の息子と娘と観たとき、二人とも感動していたのを覚えている。

 8裏窓(1954年)アルフレッド・ヒッチコックが制作した一級のサスペンス映画。足を骨折したカメラマン(ジェームズ・スチュアート)がアパートで自宅療養中、暇を持て余し裏庭の窓から人々を観察し始める。怪しい男を発見する。恋人のリザ(グレース・ケリー)に手伝ってもらうが、男が感づいて襲ってくるというサスペンスなのだ。美女グレース・ケリーを堪能したものだ。

 9男と女(1966年)フランスの恋愛映画。映画のスクリプト係のアンヌ(アヌーク・エーメ)とレーサーのジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)の恋物語。フランシス・レイの主題曲とともに忘れえぬ映画となっている。20年後の1986年「男と女Ⅱ」として続編が作られ、2019年「男と女 人生最良の日」として三部作の掉尾を飾った。 ジャン=ルイ・トランティニャンの遺作となったし、 アヌーク・エーメも最後の作品になるのだろう。彼女は90歳で、まだ人生を楽しんでいる筈。

 10理由なき反抗(1955年)1955年9月30日24歳の若さで他界したジェームズ・ディーン。1955年の「エデンの東」、1956年「ジャイアンツ」。「エデンの東」でスターの地位を不動のものにしたが、運命はいたずら者でディーンの命を奪った。若者の理由なき反抗は、誰にでもあること。過ぎ去って振り返ってみれば、赤面のことばかり。アメリカの作曲家でジェームズ・ディーンの友人デイヴィッド・ダイアモンドは「私は彼ほど孤独な人間をほかに知らない」と言う。確かにそういう表情とか所作に現れていた気がする。

 それでは記憶に鮮やかな「第三の男」のラストシーンを観てください。映画の雰囲気を味わっていただけると思う。はらはらと落ちる落ち葉が、アンナの寒々とした心を表しているかのように。
ホリー「キャロウェイ 彼女の面倒を頼む」
キャロウェイ「彼女が断るさ」
ホリー「降ろしてくれ」
キャロウェイ「時間がない」
ホリー「このままじゃ帰れん」
キャロウェイ「冷静になれ」
ホリー「そんな器用じゃないさ キャロウェイ」
ホリーはジープから降りてアンナを待つ。

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懐かしの映画「陽の当たる場所A Place in the Sun」1951年パラマウント映画製作 1952年日本公開

2023-03-09 17:09:08 | 映画
 貧しい生い立ちでろくに教育も受けていない男の悲惨な人生。男の名前はジョージ・イーストマン(モンゴメリー・クリフト)。彼の縁戚に伯父のチャールズ・イーストマン(ハーバート・ヘイス)がいた。チャールズは水着製造工場を経営していて羽振りがいい。ジョージがホテルのボーイをしていた時、この伯父に偶然出会い「わが社で働け」の一言がジョージにとって、上昇への階段になるはずだった。

 女工のアリス・トリップ(シェリー・ウィンタース)と親しくなり、懐妊する事態にまで発展する。そんな時、伯父のチャールズから一族に紹介すると言われて会ったヴィッカース家のアンジェラ・ヴィッカース(エリザベス・テイラー)。今まで会ったことない美しい女性にショックを受ける。 が、あまりにも身分が違うと心のどこかが囁いていた。しかし、アンジェラとより親しくなり、アリスがじゃまになる。ジョージに一度はアリスを亡き者にという感情がわいたが、思いとどまる。しかし、思わぬ事故でアリスが死亡する。

 警察は殺人事件として取り上げる。裁判が開かれフランク・マーロ検事(レイモンド・バー)の追及が厳しい。死刑判決を受けたジョージにアンジェラが訪れる。「一生忘れない」という言葉に、ジョージは「どうか、忘れてほしい」と答える。ジョージの母親ハンナ(アン・リヴィア)と牧師から、「実際に殺人を犯したか否かにかかわらず、アリスの死を望んだジョージの心に罪がある」という重い言葉をジョージは受け入れていた。

 エリザベス・テイラーにはジョージばかりでなく、私もショックを受けた方なのだ。「若草物語」の彼女を見たとき「世にもこんな美女がいるのか」とショックだった。一緒に行ったガールフレンドも巷の女性も目に入らなくなったという現象だった。自惚れが強すぎた若き時代の忘れえぬ想い出と言えばいいか。モンゴメリー・クリフトの暗い雰囲気が白黒映画と相まって、ミステリアスに仕上がっている。

 この映画を監督したのは、ジョージ・スティーヴンス。1904年12月8日~1975年3月8日70歳で死去。以下この人の特徴をウィキペディアから。「戦前は娯楽映画を中心に撮ったが、第二次世界大戦中はアメリカ陸軍の映画斑に所属して戦意高揚映画の製作にあたった。西部戦線では連合軍の進撃に随行し、なかでもダッハウ強制収容所では解放直後から現場の記録撮影に従事し、ニュルンベルク裁判ではそのフィルムで制作された映画が証拠として上映された。
 
 凄惨な戦争を実体験したことから、戦後は人間の内面を描いた作風に変わる。1948年の『ママの想い出』を皮切りに、1951年にジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の『アメリカの悲劇』のリメイク『陽のあたる場所』でアメリカの上流社会を夢見る若者の悲劇を描き、見事アカデミー監督賞を受賞。

 続いて1953年、西部劇の名作『シェーン』で少年の視点を通して西部に生きる開拓者とガンマンの交流を描き出した。して1955年、壮大な家族ドラマでジェームズ・ディーンの遺作となった『ジャイアンツ』でその名声を決定的なものにした。本作では2度目のアカデミー監督賞を受賞、アメリカの家庭劇を中心に描いたことから、ドメスティック・リアリズムの巨匠と称された。

 モンゴメリー・クリフトは若くしてこの世を去った。1920年10月17日~1966年7月23日45歳で死去。ネブラスカ州オマハ出身。ウィキペディアより「子役として13歳でブロードウェイで初舞台を踏み、以後10年間は舞台で経験を積み、多くの作品で主演を務めて高い評価を得た。ハリウッドからの誘いを断り続けていた彼だが、1948年、ジョン・ウェイン主演の『赤い河』で映画デビュー。同年の『山河遥かなり』でナチスによって母親と離ればなれにされた事によって、恐怖のあまり人間不信に陥り失語症となった少年を保護した心優しい米兵を演じアカデミー賞にノミネート。

 その後『陽のあたる場所』、『地上より永遠に』でもノミネートされ、二枚目俳優として活躍する。1950年頃からアレルギーと大腸炎に悩まされるようになり、その結果、アルコールとドラッグの問題を抱えるようになる。更に1956年に交通事故に遭い顔面を負傷、整形手術をする[3]も顔の筋肉の一部が動かなくなってしまい、以後更に健康上の問題を抱えるようになる。1959年にはテネシー・ウィリアムズの戯曲の映画化『去年の夏 突然に』、1961年にはマリリン・モンロー、クラーク・ゲーブル主演の『荒馬と女』に出演。1961年の『ニュールンベルグ裁判』ではアカデミー助演男優賞にノミネートされ、その後の活躍も期待されたが、1966年に心臓発作で死去した。

 エリザベス・テイラー、1932年2月27日 ~2011年3月23日79歳で死去した。イギリス出身の女優。少女時代からメトロ・ゴールドウィン・メイヤー (MGM) で子役として映画出演しており、成人後には「ハリウッド黄金時代」(en:Hollywood's Golden Age) を代表する大女優の一人となった。世界的にもっとも有名な女優の一人であり、優れた演技力、美貌、豪奢な私生活、そして珍しいスミレ色の瞳で知られていた。

 レイモンド・バー1917年5月21日 - 1993年9月12日76歳で死去は、ブリティッシュ・コロンビア州ニューウェストミンスター出身の俳優。。第二次世界大戦中は海軍に入隊したが、沖縄戦で負傷し帰国。海軍を退役後、演劇に興味を抱き1946年に初めて映画に出演する。続く10年間に90作品に出演した。『陽のあたる場所』、『裏窓』といった作品に出演した。悪役を多く演じたが、1957年にE・S・ガードナーの『ペリー・メイスン』シリーズのテレビドラマ化でペリー・メイスン役を演じ、テレビスターの仲間入りをした。同作品は人気を博して9年間続き、1959年と1961年にエミー賞主演男優賞を受賞した。1967年にはもう一つの長寿ドラマシリーズ『鬼警部アイアンサイド』で、車椅子の刑事役を演じた。

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懐かしの映画「風と共に去りぬGone with the wind」1939年アメリカで公開

2023-03-05 09:44:38 | 映画
 1861年から1865年まで続いた南北戦争の真っただ中、ジョージア州のタラで大きなプランテーションの娘スカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)がたどる苦難と希望を描く。

 今どきの映画と違って、オープニングはタイトルやスタッフ、出演者の字幕が流れる。それが終わるころ「貴族社会と綿花栽培に象徴される古き良き南部で、紳士と淑女、主人と奴隷の世界が終ろうとしていた。もはや物語にしか見いだせない遠い夢の世界、その世界は風と共に去りぬ」のテロップ。
 風は南北戦争を意味し、南部の敗戦とともに旧来の制度は無くなったのだ。南北戦争は奴隷解放の戦争でもあった。この時の大統領はエイブラハム・リンカーン、共和党だった。

 主役のスカーレット・オハラは、独善的で自己主張が強く感情をすぐに爆発させる。芯は強いものを持っていて目を見張る美人。男からちやほやされて育った令嬢。戦争は人々の心を荒廃させ苦難のどん底に落とし込む災厄なのだ。それを身をもって体験するスカーレット・オハラ。

 彼女には一途に想う人がいた。それは幼馴染のアシュレー・ウィルクス(レスリー・ハワード)。アシュレーへの想いは。アシュレーの妻メラニー(オリヴィア・デ・ハヴィランド)の死後まで続く。しかし、別の男レット・バトラー(クラーク・ゲーブル)の存在も気になるものの一つだ。

 レット・バトラーもサウスカロライナ州チャールストンの貴族階級の出自ではあるが、奔放な性格とともに機を見る目を持つ精力的な男なのだ。私はこの映画を最初に見たとき、クラーク・ゲーブルのあのちょび髭のにやけた表情が好きになれなかった。そして後年、東京の地下鉄丸ノ内線車内で色の浅黒いクラーク・ゲーブルそっくりな男を見た。この男にはちょび髭はなかったが、ハンサムな男だなと思った。クラーク・ゲーブルはハンサムなんだ。そんな経緯があって、今回この映画を観ても違和感を覚えなかった。

 むしろ、スカーレットがアシュレーの本当の気持ち、「心から愛しているのは、妻メラニーなんだ」の言葉をようやく受け入れ、レットを愛していることにも目覚める。しかし、時は遅かった。レットは部屋で自分の衣類をカバンに詰めていた。「別れる」という。レットの決断をうながしたのが、スカーレットがいまだにアシュレーの写真を持っていたためだ。スカーレットの「愛している。お願い、留まって!」の言葉も空しく響くだけだった。玄関ドアで「残された私はどこへ行けばいいの?」とスカーレット。レット・バトラーは「俺には関係ない」と冷たく言い放つ。そして霧の中へと去っていく。この場面を観ながら(それでいいんだ。スカーレットの悲嘆にくれる演技や悲しみの演技に付き合う必要もないよ。自分の人生を歩んだ方がいいと快哉した)と思ったものだ。

 しかし、スカーレットはしたたかなのだ。これからの人生を考える。はたと気がついたのは、タラ! 私のふるさと。彼を取り戻す方法はタラに戻ってから考えよう。明日には明日の新しい風が吹くわ。そしてTHE END。

 ヴィヴィアン・リーが随一の美人というけれど、この映画の出演女優はみんな美人だ。この頃は、女優は美人でなくてはならなかったのだろう。今の女優を見ているとハッとするような美人女優は少ない気がする。演技中心の雰囲気か。

 この映画で最も印象に残ったのが、南軍の劣勢の中、アトランタで出産を終えたメラニーと子供、それにスカーレットと下女、レット・バトラーが馬車を操る。アトランタを脱出する燃える大きな家屋が倒壊する前を馬車に乗って通過する場面だ。一幅の絵のような気がした。それにテーマ曲「タラのテーマ」

 この映画には多くのエピソードが見られる。いくつかウィキペディアから拾ってみよう。
(1)日本での公開 1952年9月4日公開され大ヒットした。戦火に焼けただれたタラの農場で力強く立ち上がって行くヒロイン、スカーレットの姿に、戦争に打ちのめされながらも復興に生きた当時の日本人は目の覚めるような感銘を受けたとある。

(2)アメリカで有名なセリフは、ラストシーンでレットが去り際に吐く捨てゼリフである。スカーレットに「あなたが行ってしまったら、私はどこで何をすればいいの?」と聞かれたレットは、「Frankly, my dear, I don't give a damn.(率直に言おう。知ったこっちゃない)」と振り向きざまに言う。英語の「damn」は本来、強い罵倒語であることから製作当時は映画において禁止用語とされ、使うべきではない言葉と考えられていた。セルズニックはアメリカ映画協会に5000ドルの制裁金を払って使用を認められた。2005年、逆にアメリカ映画協会はこれを「アメリカ映画の名セリフベスト100」の第1位に選んでいる。

(3)インフレを調整した歴代の興行収入では、2020年現在でも『風と共に去りぬ』が1位である。

(4)第12回アカデミー賞
作品賞:風と共に去りぬ
監督賞:ヴィクター・フレミング
主演女優賞:ヴィヴィアン・リー
助演女優賞:ハティ・マクダニエル
脚色賞:シドニー・ハワード
撮影賞(カラー):アーネスト・ホーラー、レイ・レナハン
室内装置賞(美術賞):ライル・ウィーラー
編集賞:ハル・C・カーン、ジェームズ・E・ニューカム
特別賞:ウィリアム・キャメロン・メンジース(劇的な色彩の使用に対して)
技術成果賞:R・D・マスグレイヴ(風と共に去りぬの制作における調整された機器の使用の先駆者のために)
ノミネート
主演男優賞:クラーク・ゲイブル
助演女優賞:オリヴィア・デ・ハヴィランド
作曲賞:マックス・スタイナー
特殊効果賞(視覚効果賞):ジャック・コスグローヴ、フレッド・アルビン、アーサー・ジョンズ
音響賞:トーマス・T・モールトン


それではテーマ曲「タラのテーマ」を聴きましょう。
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懐かしの映画「哀愁Waterloo Bridge」1940年公開のラブロマンス

2023-03-02 11:22:54 | 映画
 アメリカでは1940年に公開されているが、日本では1949年。太平洋戦争が終わったのが1945年、当然それまではアメリカ映画を観ることはできなかった。国民が政治に関心を寄せなくする愚民政策3S(スリー・エス)を戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が行ったことで(行ったと言われている)大量のアメリカ映画が入ってきた。3Sつまり(screen,sport,sex)のもとアメリカ映画やアメリカ音楽が怒涛のように押し寄せてきた。私なんかまだティーンエイジャーだったから、西部劇ばかり観ていた。

 この映画、劇場で観たのか、テレビの再放送で観たのか記憶が定かでない。ウォータールー橋のロバート・テイラーとこの当時、随一の美貌の女優ヴィヴィアン・リーをかすかに思い出す程度だ。ヴィヴィアン・リーは「私は女優ではない。女優とは美貌を売り物にしている者で、私は舞台俳優だ」と言ったとか。それでも気になる映画の一つだ。

 第一次世界大戦下のイギリス陸軍の将校ロバート・テイラーとバレリーナのヴィヴィアン・リーの悲恋物語。ウォータールー橋を渡っているときに空襲警報が鳴り響く。サーチライト群が夜空に数条の光を投げる。バレリーナの一団が声をかけてきた。「どちらに行けばいいの?」ロイ・クローニン大尉(ロバート・テイラー)は、地下へ行こう。一団が動き出したとき、バレリーナのマイラ・レスター(ヴィヴィアン・リー)が手提げ袋を落として中身が飛び出る。拾い集めるロイとマイラ。

 地下では必然的に群衆の中で二人だけになる。べらべらとよく喋るロイ大尉、しかも人でうずまる地下でタバコを吸う。今では考えられない喫煙者。それはともかく、マイラの舞台を観たり、ナイトクラブで蛍の光が流れる中、一本一本ローソクの炎が消されていく。最後の一本が消されたとき、ロイとマイラの熱き口づけ。といっても当時のキスシーンは、子供だましの感あり。バレー団の掟では、恋愛はご法度。マイラの親友キティが強烈な反論をしたため、ともにクビになる。

 戦時下の職探しは難しい。ましてやバレリーナとなれば実利的ではない。貯えも底をつきつつあって、キティに尋ねた。つまり家賃や生活費をどのようにしているのか。キティは口ごもりながら、身を売っていると打ち明ける。

 マイラのショックは大きかった。 が、それ以上に大きかったのは、恋人ロイの母親とレストランで待ち合わせているとき、何気ないく見た新聞の戦死者欄に、ロイ・クローニンという名前があったことだ。生活が苦しい中、生涯の柱であったロイの死亡は、マイラをどん底に突き落とした。ロイをしのんで思い出のウォータールー橋にたたずむ。

 声をかけてきた男に応える。キティと同様、娼婦に身を落とした。商売は鉄道駅だ。肌もあらわな商売用の服装で、終戦のために続々と兵隊たちが帰還してくるのを眺める。その集団の中に、ロイ・クローニン大尉もいた。

 先に気がついたのはロイ大尉だった。嬉しい二人の再会。ロイは性急で「結婚しよう」。結婚式はロイの実家。馬車から見る家屋は、何部屋もある豪壮な邸宅。ロイの父親、母親、何人もの使用人に挨拶。しかし、マイラはこの家庭の重圧を感じ始める。もともと律儀で嘘のいえない性格は、結婚をあきらめる方向へ流れていく。マイラはロイの母親マーガレットに打ち明ける。マーガレットは動じなかった。「明日の朝、もう一度話し合おう。気にしなくてもいい」と温かい言葉も。

 しかし、マイラは手紙を書いた。「この感謝の気持ちは、うまく表現できません。しかし、私たちには未来は存在しません。これ以上書けません――――さよなら、マイラ」をロイ宛に残しロンドンに帰ってしまう。

 どうして未来がないのか、なぜ帰るのか、ロイには見当もつかない。探し出して聞かねばならない。ロイはロンドンのアパートへ行く。勿論マイラはいない。親友のキティもマイラが戻ったのを知らない。キティの協力で心当たりを当ってみる。場末の酒場や、いかがわしいダンスホール、そしてウォータールー駅など、ロイはマイラの身に何が起きていたかをようやく理解し、マイラがもう二度と自分の前に現れないことを悟る。

 傷心のマイラが選んだのは、思い出のウォータールー橋にたたずみ回想を重ねるが心は晴れない。おびただしい軍用車の通過、ヘッドライトが何をささやくのか、マイラは突然身をひるがえして車列に飛び込む。

 1939年9月3日、第二次世界大戦序盤の英独開戦の日。イギリスがドイツへ宣戦布告し、ロイ・クローニン大佐はフランスへ赴くことになる。その途中、ウォータールー橋にたたずみマイラからもらったお守りビリケン人形をそっとなでる。心から愛した女性マイラの忘れえぬ面影をしのぶ。

 白黒映画の追想形式でマーヴィン・ルロイが監督。ロバート・テイラーとヴィヴィアン・リーの美男美女の共演で、またテイラーもリーも自身の出演作の中で一番好きな作品は『哀愁』と答えたという。特に日本では戦後公開され、大ヒットを記録、日本映画界にも大きな影響を与え、『また逢う日まで』や『君の名は』といったメロドラマの傑作を誕生させるきっかけとなった。(ウィキペディア)

ヴィヴィアン・リー(1913年11月5日 – 1967年7月8日)は、イギリスの女優。1939年の映画『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラ役と1951年の映画『欲望という名の電車』のブランチ・デュボワ役でアカデミー主演女優賞を受賞した。

ロバート・テイラー( 1911年8月5日 – 1969年6月8日)はアメリカの俳優。ネブラスカ州フィリー出身。

この映画アマゾン・プライムで会員なら視聴できる。

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映画「リトル・シングスThe little things」2021年制作

2023-01-29 14:32:15 | 映画
 カリフォルニア州中南部カーン郡に位置する、人口9番目の都市ベーカーズフィールドの保安官ジョー・ディーグ・ディーコン(デンゼル・ワシントン)は、周囲を灌木に囲まれ芝生のない土の地面に平屋の家屋と犬一匹と共に暮らしている。かつてロサンジェルス市警の敏腕刑事だったが、誤って女性を射殺したのが原因で左遷されているのだ。

 強盗犯の起訴に必要な証拠を、ロサンゼルス保安局科学捜査課へ取りに行ってくれという依頼を受ける。そこの殺人課では、猟奇的な連続殺人事件が多発している件で忙殺されていた。ブリーフィングの会場では、ジム・バクスター刑事(ラミ・マレック)が記者会見をしていた。

 バクスター刑事とはさっき会っている。駐車場が満杯のためパトカーの前に止めたディーコンの車を、レッカー移動しようとしていたのを「移動するな。ちょっと知らせてくれればいいじゃないか」と文句をつけた。

 ジム・バクスター刑事は、大学出の刑事で髭をすっきりと剃り、白いワイシャツに紺のスーツそして黒い靴、まるで投資会社の課長クラスの雰囲気。一方ディーコンは、太った体にダブダブの制服と黒いキャップといういで立ち。ともに犯罪捜査には腕が立つディーコンとバクスターの二人。根っこの部分では共鳴するものがあるのかもしれない。

 取調室で尋問したことのあるアルバート・スパルマ(ジャレッド・レト)を車の中で監視を続ける。毎日となると根をあげるのはバクスター刑事の方だ。「こんなことで人生を終えると思うとうんざりする」と言う。こういうのが刑事の仕事と割り切っているディーコンは、これが仕事だとなだめにかかる。ぶつくさ文句を言うバクスター刑事の家は、プール付きのそれなりのものなのだ。(それなのに文句を言うのかと思ったりする)

 ディーコンが飲み物とか食べ物を買うために車を離れる。容疑者のスパルマがそれを見ていたかのように、車に座るバクスター刑事に声をかける。「遺体を埋めた場所に案内する」と。躊躇するバクスター刑事。スパルマは口が上手い「そうだよなあ。おれと一緒なら躊躇するよな。だが、大丈夫だよ。心配いらない。乗ってくれ」

 バクスター刑事が乗り込んで車は発進した。すれ違いにディーコンが気づく。買ったものをほっぽり出して追跡にかかる。スパルマの運転する車が到着したのは、幹線道路からかなり離れた閉まっていたゲートをあけて砂埃をあげながらたどり着いた広いくぼ地だった。スパルマがシャベルを投げる。バクスター刑事に掘れと言う。さすがにバクスター刑事も、拳銃を抜いて「お前が掘れ」という姿勢。ここでまたスパルマの口先が勝る。

 バクスター刑事が掘っていると「いや、そこじゃなくてこっちかな」とスパルマ。何カ所か掘ってまた同じセリフ。ついにバクスター刑事の忍耐が切れる。シャベルを振り回してスパルマの頭部を直撃、ぶっ倒れるスパルマ。スパルマは死んだ。頭を抱えて呆然とするバクスター刑事。

 そこへ追ってきたディーコン。周辺をチェックして「こいつをここへ埋めろ。1時間ほどして帰ってくる」ディーコンはスパルマの車に乗って犯罪多発地域で、キーを群れる若者に放り投げてスパルマのアパートに向かう。スパルマの持ち物すべてを黒いごみ袋にいれ、自分の車に移す。

これは「ささいなことThe litlle things」なのだ。
 ディーコンが女性を射殺したとき、遺体から銃弾を抜き取ったにもかかわらず、鑑識の「刺し傷が原因とする」という提案に関係者がうなずく。つまり警察関係は、いつもささいなこととして処理していると言うことだ。どこの国もこんなもんでしょう。私も交通違反をもみ消してもらった経験があるもの。

 今回はネタバレも甚だしいが、「the litlle thins」に言及したかったからで悪しからず。私はこの映画、小品ながら後味がいいと思っている。デンゼル・ワシントンは当然ながらバクスター刑事役のラミ・マレックも雰囲気もいいし特異な風貌もよかった。さらに容疑者スパルマを演じたジャレッド・レトも憎々しい演技で、第78回ゴールデングローブ賞の助演男優賞や第27回全米映画俳優組合賞の助演男優賞にノミネートされた。

 ラミ・マレックは、 1981年ロサンゼルス生まれのアラブ系の俳優。2018年公開の伝説のロックバンドクイーンを描いた伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』ではボーカルのフレディ・マーキュリー役で主演。2019年2月24日、第91回アカデミー賞で主演男優賞を受賞し、アラブ系の俳優としては初となるオスカー俳優となった。

 ジャレッド・レト1971年生まれは、アメリカ合衆国ルイジアナ州ボージャーシティ出身の俳優、ミュージシャン。兄と組んだロックバンド「サーティー・セカンズ・トゥー・マーズ」のボーカルも務める。1990年代に俳優デビューし、2013年公開映画『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞など主要な映画賞で助演男優賞を獲得。

 こんな演技派三人も揃え凡作になるはずがない。監督のジョン・リー・ハンコックは、クリントイーストウッドが監督した「真夜中のサバナ」の脚本も手掛け、映画製作を学んでいる筈。

なお、この映画はアマゾンプライムで鑑賞できる。

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