関ヶ原の戦いのあと徳川家康は、秀忠と妻の江との間に生まれた千姫を、亡き秀吉の三男秀頼に嫁がせ地歩を固めるための手を打った。秀頼11歳、千姫7歳だった。
大阪城下の町人は、まだ子供の夫婦の初夜を話題に載せてあれこれとうるさい。今まで読んできたこの時代の小説は、大体教科書的で作家の創造性が見られないものが多かった。この本は私の好みにぴったりだ。いわゆる人間のナマの生き様が描かれる。
秀頼の母、淀君を馬鹿な女と切り捨て、秀頼もぶくぶく太った能無し男で11歳のくせに性的には早熟とある。なにしろ淀君の溺愛は、11歳にもなる秀頼を添い寝して勃起に驚くという具合。男の子は、最初に女を感じるのは母親だと著者もいう。その通りだと思う。
千姫に付き添ってきた一人に松坂局、呼び名おちょぼがいた。千姫を大阪城から逃げる算段をしたり、再婚相手桑名藩主本多忠政の嫡男・本多忠刻の男色相手、宮本武蔵の養子・三木之助を誘惑して忠刻と千姫の夫婦円満を計ったりした。
私は千姫より、このおちょぼに感情移入してしまった。それにしても戦国時代の女性ほど哀れなものはない。家中心の考え方の犠牲者ではあるが、おちょぼのようにけなげに千姫に仕え、機知を働かせて困難や危機を乗り越えていくしたたかさを持つ女もいる。