Wind Socks

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「LAのすし店カツヤ」ハードボイルド作家マイクル・コナリーの作品に登場

2018-03-31 16:49:22 | 読書

 2013年に上梓され2017年10月講談社から発行された「罪責の神々リンカーン弁護士 The Gods of Guilty」の中にそれはある。アメリカのフォード・モーターの一部門であるザ・リンカーン・モーター・カンパニー によって販売されている高級車ブランド「リンカーン」の後部座席を仕事場にする刑事弁護士ミッキー・ハラーをリンカーン弁護士と呼ぶ。

 殺人容疑者の弁護を引き受けたミッキー・ハラーは、調査の段階で知った元エスコートで現ヨガ・スタジオを主宰するケンドール・ロバーツを誘い出して食事をする場面がカツヤになる。

 『ケンドール・ロバーツは、正面のカウンターで終業作業に追われていた。髪の毛は頭のてっぺんでお団子にまとめられ、そこに一本の鉛筆が刺さっていた。最後のレッスンの生徒たちが丸めたゴムマットを小脇に抱えて、三々五々出て行こうとしていた。私はスタジオに足を踏み入れ、ケンドールの関心を惹き施錠が終わったあとで話せるだろうか、と訊ねた。彼女はためらった。私が来ることを彼女には伝えていなかった。
「腹は空いているかい?」私は訊いた。
「四クラスを立て続けに教えたの。ペコペコよ」
「ここの通りの先にある<カツヤ>に行ったことあるかい? とても美味しい店だ。寿司屋なんだ。好きならいいんだが」
「寿司は好き。だけど、そのお店に入ったことはないな」
「先に行って席を押さえておくよ。ここの片づけが終わってから来るのはどうだい?」ケンドールはまたもためらった。まだ、こちらの動機を計っていることのようだった。
「遅くならない」私は約束した。ケンドールはようやくうなずいた。
「分かった、そのお店に行きます。十五分ほどかかるかも。シャワーを浴びてさっぱりしないと」
「ゆっくりどうぞ。酒は好きかな?」
「大好き」
「燗それとも冷や?」
「あー、冷やで」
「じゃあ、待ってる」 

 で、ケンドールがやってきて注文したのは「三種類のスパイシーツナ」ミッキー・ハラーは「胡瓜のカリフォルニア・ロール」』寿司屋で二人のデートが始まる。読んでいて二人の行く末が気になる。

 マイクル・コナリーの作品には実在するお店や建物や固有名詞が出てくるのでそれを確かめる楽しさもある。お店もそうだけど大学の名前も実名だ。日本人作家のようにY大学などは一度も見たことがない。あの三島由紀夫ですら新潟県小出町をK町と書く。その点、川端康成には見られなかった。

 ヴェンチュラ通りスタジオ・シティのこの「カツヤ」にはホームページがあってそれには多彩なメニューがある。

その中の一例。
レギュラー・ちらしずし14ドル、ちらしずし14ドル、ミックス・刺身14.8ドル、鍋焼きうどん9,8ドル、ビーフ・テリヤキ12.5ドル、ミックス・てんぷら11ドルなど。箸の使い方も慣れている人も多いようだ。

 ネットの情報ではセレブ客も多く、週1回来るという常連にはキャメロン・ディアス、シャーリーズ・セロン、ヒラリー・ダフなどという。ロサンゼルス方面の観光なら立ち寄ってセレブに拝顔もいいかもしれない。
  
 マイクル・コナリーには、ボッシュ・シリーズもあって、こちらは刑事でジャズ大好き人間。小説の中で蘊蓄を披露する。アマゾン・オリジナルで「BOSCH」シーズン3まで公開されているから映像でも楽しめる。
カツヤのホームページはこちら
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「ベター・コール・ソウル」海外テレビドラマで好評だった「ブレイキング・バッド」のスピン・オフ作品

2018-03-27 16:46:18 | 映画

           
 2008年から2013年に放送された、高校の化学教師がドラッグ製造に手を染め苦境に落ちていくさまを描いた「ブレイキング・バッド」。そのシーズン2第8話から登場したいかがわしい弁護士ソウル・グッドマンの6年前を描く。

 6年前はジミー・マッギル(ボブ・オデンカーク)と名乗り独身の兄チャック(マイケル・マッキーン)の持病「電磁波過敏症」の世話を焼く。この電磁波過敏症は、電気的なものに反応して息苦しくなる。従って家の中でもランタンを灯し、冷蔵庫もなく外から中へは時計、スマホといったものは郵便受けに入れるという具合。太陽にも弱く家の中は薄暗い。

 チャックはHHMという大手法律事務所の創業者で優秀な弁護士。ジミーは通信教育で弁護士資格を取得した。チャックから見れば何ともできの悪い弟に見える。この兄弟の軋轢がいろんな問題を起こす。

 HHMには、キム(レイ・シーホーン)というジミーの恋人がいる。この二人の助け合いもいい味付けとなっている。

 そしてもう一つのストーリーに元警官で今は駐車場のゲート係員をするマイク(ジョナサン・バンクス)が裏社会と係わりながら、孫娘との交流に安らぎを求めている。

 シーズン3は、アマゾン・プライムで有料で観られるが、DVD化はまだのようだ。一言でいえば「面白い」 観はじめると一気に観たくなる。

 私はキムを演じたレイ・シーホーンがお気に入り。40代半ば小じわも見られるが親しみがあって好感が持てる。酔っぱらった口調も上手かった。彼女は、2016年本作でサテライト賞助演女優賞受賞。

 彼女を見ていてふと思ったのが、平昌オリンピックで女子の選手に美人が多いことから、この中からいつでも女優になれるほどの容貌だ。ということは女優も男優もだが、個性がないとその業界で成功はおぼつかないと言える。映画俳優と一般人との垣根が低い感じ。従って俳優も激烈な競争なのだろう。

 この間セクハラを抗議して黒服を着た女優たちは自分の地位が確立している人ばかり。そうでない人はセクハラに抗議なんて他人事なんだろう。

 ジミー役のボブ・オデンカークは、コメディアン、俳優、映画監督、放送作家、脚本家、プロデューサーの顔を持つ。この人50歳を過ぎていて、歳の割に若く見える。本作で2015年第67回プライムタイム・エミー賞ドラマシリーズ部門の主演男優賞を受賞。

 そして特異な顔つきのジョナサン・バンクス。ギャング相手に腹の据わったところが痛快。アマゾンは全話の購入額が2,140円。後で分かったが楽天テレビなら、全話レンタル14日間1,360円。ご参考までに。
  

  
キャスト
ボブ・オデンカーク1962年10月イリノイ州生まれ。
ジョナサン・バンクス1947年1月ワシントンDC生まれ。
レイ・シーホーン1972年5月ヴァージニア州ノーホーク生まれ。
マイケル・マッキーン1947年10月ニューヨーク州ニューヨーク市生まれ。
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「アメイジング・ジャーニー神の小屋より」神の住むところはいつも晴れてお花畑 

2018-03-24 15:45:24 | 映画

           
 幼い愛娘を誘拐されて殺された父親の怒りと悲しみはどうすればいいのか。この映画は一つの回答を示している。示しているが私には受け入れられない。こういう反応を思ってか、最後に「マックの話に懐疑的になる者もいるだろう。本当の話なのか? 判断するのは皆さん自身だ」という字幕。

 本当の話なのかどうかは問題ではなく、ここで言う「赦しなさい。そうすればあなたは報われる」を受け入れるかどうかだろう。マッケンジー(マック)・フィリップス(サム・ワーシントン)の愛娘ミッシー(アメリー・イヴ)が、キャンプ場で行方不明になり血痕のついた衣服が捨てられていたこともあり、この地で起きていた連続殺人の犠牲となったものと判断された。ミッシーの亡骸が見つからない。

 事件以降マックの心は閉ざされ家族とも溝が出来たようだ。雪の日、マックは一通の手紙を受け取った。そこには「マッケンジーへ 会いたければ今週末あの小屋にいる パパより」このパパというのはマックの家族で親しみをこめて神をパパと呼ぶ。

 4WD車を駆って林道の終点から歩いて小屋を目指す。小屋は荒れ果て中にも雪が積もっている。パパは姿を見せない。ふてくされて帰路に就いたマック。前から人の気配。木の幹に隠れて様子を見ていると、顎ひげを生やした男が「マック」と呼ぶ。「小屋で温まろう」と言ってずんずんと先を行く。

 後からついていくと、景色が緑豊かな中に花が咲き誇る桃源郷が現れる。さっきの小屋は、居心地のいい家となっている。出迎えたのはパパ(オクダヴィア・スペンサー)だった。丸顔の黒人女性がパパだった。居心地のいいリビングに入っていくとさっきのひげ面の中東系の男はパパの息子。もう一人アジア系の顔をしたサラユー(松原すみれ)を紹介される。サラユーは「そよ風」という意味も。この中で神は誰? と聞くと全員が「私」と答える。

 三人の神に迎えられたマック。運命が神の仕業と心得ているマックは、娘の運命に異議を唱え、いまだに犯人が捕らえられないのは神の怠慢だと非難する。神は優しく辛抱強くマックに接し赦しと再生を伝えていく。

 病院で目覚めたマックは、道路で大型トラックとの事故を起こしていたのを知る。昏睡状態で見た神。相手を赦すことを受け入れたマック。宗教映画だから無神論者の私にはためになる映画ではなかった。 

 が、ここに登場する白人系、黒人系、アジア人系、中東系という地球上の人種に関係なく、等しく広く宗教は普遍的なものという一つのメッセージを見る。それにしても、神の住むところは凍てついた風景とか荒れ狂う暴風の風景でなく、穏やかで小鳥がさえずり緑豊かな中に無数の花々が咲き誇る。万国共通の天上の楽園のイメージ。2017年制作 劇場公開2017年9月
  
監督
スチュアート・ヘイゼルタイン1971年6月イギリス、イングランド生まれ。

キャスト
サム・ワーシントン1976年8月イギリス生まれ。
オクタヴィア・スペンサー1972年5月アラバマ州モンゴメリー生まれ。
アヴラハム・アヴィヴ・アルーシュ1982年6月イスラエル生まれ。
ラダ・ミッチェル1973年11月オーストラリア、メルボルン生まれ。
アリシー・ブラガ1983年4月ブラジル、サンパウロ生まれ。
松原すみれ1990年7月東京生まれ。母松原千明 父石田純一 
アメリー・イヴ カナダ生まれ。
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「ボンジュール、アン」ワインと料理とモーツァルトそれにルノワール、大人の女と男のロードムービー 

2018-03-19 16:10:09 | 映画

            
 フランシス・フォード・コッポラの妻エレノア・コッポラが80歳にして作った初長編。自身の体験が基になっているそうで、情熱は年齢と関係がないのがよく分かる。ようやく男と女を理解したと言ってもいいかもしれない。

 アン・ロックウッド(ダイアン・レイン)は50代。子供たちは成人し著名なプロデューサーの夫マイケル(アレック・ボールドウィン)とカンヌ国際映画祭からバカンスに出る予定だった。
 が、マイケルに急用が入りブタベストに行くことになった。ところが同行する予定だったアンの耳の状態が良くない。飛行機はムリとなって列車でパリへ。そこに口を出したのがマイケルの仕事仲間ジャック・クレマン(アルノー・ヴィアール)。「私も車でパリへ帰るから、一緒に乗って行きましょう。送りますよ」女性関係でフランス男を信用していないマイケルは、一瞬考え込むがOKを出す。

 マイケルとアンの夫婦関係はやや古風。忙しさにかまけてアンをお手伝いさんのように扱うこともある。このホテルでも手荷物の運搬を「ポーターに頼んでくれ」とアンに指示。自分はさっさと階下に降りる。内線電話は「回線が混んでいます」と言う。仕方がないからアンは自分で運ぶ。この辺はエレノア・コッポラの10代のころ、女は夫のために家庭を維持して自分を犠牲にしていたと言って不満を述べている。それを具象化したのだろう。

 さて、おんぼろの車のエンジンをかけモーツァルトが流れる中を出発したアンとジャック。パリまで7時間の行程が、ジャックの強引な寄り道もあってパリには翌日の夜に着くと言う結果になった。

 その寄り道の行程でワインや料理を堪能。「美人だね」「一緒にここへ来れて嬉しいよ」フランス男のお世辞。ジャックの歯の浮いた褒め言葉に観る私はうんざり。アメリカ人のアンはどう思っているのか。

 しかし、ワインや料理の豊かな話題はやがてアンの気持ちにも変化が。セザンヌで有名はサント・ヴィクトワール山、映画を発明したリュミエール兄弟の研究所、ローマ人が残した城や水道橋、ラベンダー畑、織物博物館、地元の市場を見て回り極上のチーズを試食。

 その合間にレストランでの食事には必ず供されるワイン。シャトーヌフ・デュ・パプ、甘みと酸味がほどよいバランスを保つ世界で最も多く栽培されている品種グルナッシュの赤。日本では1本14,000円ぐらいで売られている。

 コンドリュー、地方の名前のコンドリューで生産されるワインは非常に美しい黄金色が特徴だ。フルーツ、ハチミツ、リンゴなどの甘い香りを楽しむとともに、ほんのりとした酸味とボディが後から広がる。この感覚はコンドリューワインでしか味わうことができない。 日本では7,000~8.000円。

 コート・ロティ、このワインは主に赤ブドウ品種のシラーと、白ブドウ品種のヴィオニエで作られている。この2品種のうち、シラーをメインに製造されており、ヴィオニエの比率は20%以内と定められている。しかし最近では、ヴィオニエをあまりブレンドせず5%程度にとどめ、ほとんどシラーだけで作られているワインが多い。

 タンニンが多く含まれ、味わいは力強くて濃厚。色濃く、香りも力強いため、男性的なワインだと表現される。色味は黒く見えるほど深い赤色で、スパイシーな香りが特徴。若いワインは飲みづらくもあるが、長期熟成することでタンニンがまろやかになって飲みやすくなり、余韻漂う味わいに変化していく。日本では20,000円前後。

 ポンコツの車がついにファンベルトが切れる故障、YouTubeで見たと言うアンの方法がパンストを代用するというもの。映画では動いたが、本当かな。

 途中友人から貰ったという大量のバラの花も、ルノーの新しい車に積んでいよいよパリへ。パリへもう少しというところで空に半月が見える。
 「暮れなずむ空にかかる 細い月 一度だけ出会った娘の くっきりとした眉を想う」俳句よと指を折りながら言うアン。

 どこにも寄らないでパリへ行こうと言っていたアンが「ヴェズレーよ! 標識を見た? あの大聖堂を見たい」あの大聖堂とは、1979年にユネスコの世界遺産として登録された「サント=マドレーヌ大聖堂」のこと。

 リチャード1世が十字軍遠征の前に訪れたし、マグダラのマリアの遺骨も納められている。アンは聖母マリアの前で39日間しか生きなかった息子デヴィッドを想って 涙を流す。このときはジャックも真剣な面持ち。

 レストランでの食事の後、突然ジャックはアンと踊り始める。踊りながら「ルノワールのブージヴァルのダンスだよ」たとえジャックがどこにでもいるおじさんでも、美味しいワインと洗練された料理それにウィットとユーモアで心地よい雰囲気に包まれれば、たいていの女性はふわふわと雲に乗った気分のなるではないだろうか。エレノア・コッポラは、女を落とすにはこういう風にしなさいと言ってる気がする。

 パリの友人のアバートに落ち着いたアンにジャックはバラの花10本から12本を抱えて戻って来た。そして愛を告白する。アンにしても好ましく思うジャックだがマイケルがいる。やんわりと引き離して「ダメよ」

 ジャックはフランス男、簡単にあきらめない「今度アメリカに行く。その時会おうよ」。帰って行ったジャックのキスの余韻は、夢見るような表情と笑みが浮かぶ。幾つになってもこの新鮮な気分は捨てがたいもの。アンはジャックに会うのだろうか。それは分からない。

 夫婦で同じ旅をしても記憶には残るが、刺激的な思い出とはならない。夫があろうと妻があろうと、ほかの男や女に興味が向くのはこの刺激に魅力があるからだろう。ジャックが持ってきたバラの花10本から12本には花言葉がある。「私とつき合ってください。これ以上ないほど愛しています」なのである。

 おそらく大方の女性は、こういう体験をしてみたいと思うだろう。それほど魅力的な観光ガイド映画でもあり、大人のラブ・ストーリーである。

 それでふと思ったのである。黒人やアジア人が演じたら……。残念ながらフランスが舞台ということもあって、欧米人でないとこの雰囲気は出ないように思う。欧米人の肌の色、髪の色、体つきに挙措はDNAだから仕方がない。

 もう一つじっくりと見ていたのは、ワインの飲み方。レストランでワインを注文する。ウェイターは注文した人にテイスティングを求める。この映画でジャックが注文するがテイスティングをアンに振ることもあった。そのテイスティングの仕方もかなりラフだった。教科書通りのグラスの持ち方とか味わい方などではない。家庭で日常的にワインを飲む国の人の作法は参考になる。2016年制作 劇場公開2017年7月
  

  
監督
エレノア・コッポラ1936年5月カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。

キャスト
ダイアン・レイン1965年1月ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。
アルノー・ヴィアール出自未詳 テレビの仕事が多い。
アレック・ボールドウィン1958年4月ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。
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「パターソン」ありふれた日常から紡ぎだされる一編の詩 2016年制作 劇場公開2017年8月

2018-03-16 15:49:49 | 映画

            
 月曜日から日曜日までニュージャージー州パサイク郡パターソン市の路線バスの運転手パターソンの日常を詩をちりばめた映像で描く。

 パターソン(アダム・ドライヴァー)と妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)とブルドックのマーヴィンが住む一家がある。パターソンは詩作が趣味、ローラはケーキ作りとデザインが趣味、マーヴィンは従順な犬のふりをして曲者。

 寝室にはパターソンの海兵隊正装姿の写真と両親の写真が飾ってある。パターソンは毎朝6時過ぎに目を覚まして、ローラの頬や額や腕にキスをして、椅子に畳んで置いた衣服を持って部屋を出る。キッチンの椅子に座って牛乳に浸したシリアル食品を食べる。別の椅子にはマーヴィンがすやすやと眠っている。

 弁当を持ってバスの車庫へ歩いていく。歩きながら頭の中で詩作する。バスの運転席で頭の中の詩をノート・ブックに書く。
“愛の詩”
「我が家にはたくさんのマッチがある 
 常に手元に置いている
 目下、お気に入りの銘柄はオハイオ印のブルーチップ
 でも、以前はダイヤモンド印だった」

 書いているとバス車庫長ドニー(リズワン・マンジ)がやってきて「調子はどうだい」と声をかけてくる。それが合図のようにパターソンはエンジンをかける。バスは1940年代有名お笑いコンビ、アボットとコステロのうち“ルー・コステロ記念館”をかすめ、荒れた歩道、雑草に覆われた空き地、サッカーやバスケット・ボールをする少年たちを横目に走っていく。

 白人と黒人が約30%ずつを占めるこの町で乗客もそれを反映している。いつもと同じ風景。昼食は落差23メートルのグレートフォールズを見渡せるベンチで摂る。同時に詩作のひと時を楽しむ。帰宅した時、郵便ポストを確かめる。そこで気がつくのはポストが傾いていることだ。まっすぐに戻して家に入る。ローラの魅力的な声が歓迎する。食後はマーヴィンの散歩。いつも立ち寄るのはドク(バリー・シャバカ・ヘンリー)のバー。これがパターソンの日課。疲れが出るのか徐々に起きる時間が僅かながら遅くなる。それ以外は変わることのない一週間の筈が……

 ちょっとした変化があるものの平々凡々な日常は、多くの人とさして変わらない。単調な映画と思われるが、なんと飽きがこない。演出の冴えと詩の効果かもしれない。

 パターソンが帰路、一人の少女に出会う。彼女は詩を書いていてそれを読んでくれた。
“水が落ちる”
「水が落ちる 
 明るい宙(エア)から 
 長い髪のように 
 少女の肩にかかりながら 
 水が落ちる 
 アスファルトの水たまりは、汚れた鏡 
 雲やビルディングを映す 
 水は私の家にも 
 私の母にも 
 私の髪にも落ちる 人はそれを雨と呼ぶ」

 映画の中でいくつかの詩があるが、この詩が一番好きだ。

 パターソンは、“光”
 「君より早く目が覚めると 
  君は僕の方を向いていて顔は枕の上 
  髪は広がっている 
  僕は勇敢に君の顔を見つめ愛の力に驚く 
  君が目を開けないかとか 
  脅えないかと恐れながら 
  でも、日光が去ったら君も分かるだろう 
  どんなに僕の頭や胸が破裂しそうか 
  彼らの青は囚われたままだ 
  まるで日の光を見られるのかと恐れる胎児のように 
  開口部がぼんやりと光る 
  雨に濡れた青灰色に 
  僕は靴紐を結び階下に下りてコーヒーを淹れる」

 これらの詩作は、ニューヨーク派の詩人ロン・パジェットによるもので制作に参加している。パターソンとローラの雰囲気は、O・ヘンリーの短編「賢者の贈り物」を連想してしまった。そして曲者のブルドックのマーヴィン。こいつがパターソンが帰る前にドアを開けて出てきて、前足でポストを傾ける。一種のお遊びなんだろうが、もっと深刻な悪さをする。それは映画を観てのお楽しみとしよう。
  
監督
ジム・ジャームッシュ1953年1月オハイオ州アクロン生まれ。


ロン・パジェット1942年オクラホマ生まれ。1960年からニューヨークに住む。

キャスト
アダム・ドライヴァー1983年11月カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。
ゴルシフテ・ファラハニ1983年7月テヘラン生まれ。
リズワン・マンジ1974年10月カナダ生まれ。
バリー・シャバカ・ヘンリー1954年9月ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれ。
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「アトミック・ブロンド」女007と言ったところか 2017年制作 劇場公開2017年10月

2018-03-13 15:37:27 | 映画

            
 007ジェームズ・ボンドが海外で情報活動を行うMI6(英国情報局秘密情報部)の所属だったが、ローレン・ブロートン(シャリーズ・セロン)も有能なMI6のエージェント。

 政治・軍事・経済対立の東西冷戦が、1947年から続いて1989年秋ベルリンの壁崩壊が迫るころ、英国とソ連(現ロシア)の情報戦が熾烈を極めていた。MI6のエージェント、ジェームズ・ガスコイン(サム・ハーグレイヴ)が、KGBの男に追われベンツで吹っ飛ばされた揚句射殺され、腕時計に仕込んだリストを奪われる。

 傷や体の節々の痛みのアイシングのために氷風呂に浸かるローレンにとって、ジェームズは愛する人だった。アイシングを終えて二人がほほ笑む写真を焼却した。リスト争奪戦を終えて今、傷をいやすローレン。これからMI6の本部で一切を報告しなければならない。

 私たちはその報告をフラッシュバックで観ることになる。銃の扱い、ナイフの扱い、格闘技や身のこなしは超一流のローレン・ブロートン。しかも超美人ときている。屈強な男を次から次へと倒していく。しかも男を漁ることはしない。言い寄られても静かに流す。 が、恋人を殺されてからは男が信用できないのだろう。レズビアンの兆候が見える。

 騙し騙されの諜報戦だから入り組んでややこしいが、スタント出身の監督だけあって例えばジェームズ・ガスコインがベンツに吹っ飛ばされる場面は見事だった。ジェームズを演じたサム・ハーグレイヴも本業はスタント。飛ばされ方がびっくりするほどうまい。

 それにシャリーズ・セロン。格闘しているときは、顔や体が埃だらけ。美貌が台無し。戦い終わってCIA専用機でエメット・カールフェルド(ジョン・グッドマン)と顔を合わせた時、びっくりするほどキレイだった。

 監督はBGM音楽にも凝っているようだが、私にはよく分からない。製作費3千万ドル、興行収入1億3千万ドルだった。
   
監督
デヴィッド・リーチ出自未詳 

キャスト
シャリーズ・セロン1975年8月南アフリカ生まれ。2003年「モンスター」でアカデミー主演女優賞受賞。
ジェームズ・マカヴォイ1979年4月イギリス、スコットランド、グラスゴー生まれ。
ジョン・グッドマン1952年6月ミズーリ州セントルイス生まれ。
サム・ハーグレイヴ出自未詳
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「バリー・シール/アメリカをはめた男」銃やコカインの密輸で一時は家に入らないくらいの札束にまみれた男

2018-03-10 15:28:45 | 映画

            
 これが実話ということで、こんな男もいるんだと感心しきり。バリー・シールをトム・クルーズが嬉々として演じているのが面白い。

 1970年代のバリー・シールは、航空会社TWAの腕利きのパイロットとして働いていた。夜間の自動操縦は退屈とばかり、手動に切り替えて急旋回や急降下をやって客室の酸素吸入器をすだれのようにぶら下がらせる。「乱気流に入りました」とアナウンスして平然としている。

 こんな男に目をつけたのがCIA(アメリカの中央情報局)。CIAのエージェント、モンティ・シェイファー(ドーナル・グリーソン)が「中米や近隣諸国に潜む武装組織の空中写真を撮ることだ」と言う。2000ドルと言う報酬で承諾。対象をハッキリと撮るには低空飛行しかない。低空飛行は、武装組織の銃撃にあう危険がある。それでもいい写真を届けるシール。

 そんなことをしているうちにパナマの独裁者ノリエガとCIAを仲介していた。その立場を利用してコロンビアの犯罪組織メデシン・カルテルのコカインをルイジアナ州に密輸する。その手法も場所を指定して空中投下で取締当局の目を逃れる。

 さらにニカラグアの親米反政府組織、コントラに武器を密輸する任務も請け負う。ところが、コントラが本気で政府を倒す気がないと確信したシールは、その武器をコロンビアの犯罪組織メデシン・カルテルに横流ししてさらに儲けていった。

 裏組織の取引は現ナマだから札束は家を覆い尽くした。銀行に預けたり、地中に埋めたり、倉庫を建てて納めたり、今のようにマネーロンダリングでケイマン諸島やスイス銀行という手がなかったのかも。

 しかし、いいことは長続きしない。暴走を続けるシールをCIAは見捨てて地元警察とDEA(麻薬取締局)とFBI(連邦捜査局)とATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)が逮捕するのを黙認した。逮捕されたシールには、ホワイトハウスが求めているニカラグアの左派武装勢力であるサンディニスタ民族解放戦線が麻薬の密輸に関与している証拠を求められ司法取引として釈放される。それはメデジン・カルテルを裏切ることになる。そうはいってもとる道は一つ。証拠を当局に渡し自由の身となった。

 モーテルを転々としながら、車に爆弾を仕掛けられていないかとエンジンをびくびくしながらかける。これがいつまで続くことやら。

 おおよそこんなストーリーを中年を過ぎたトム・クルーズが、まるで「トップ・ガン」のパイロット役のように楽しんでいる。それもそのはず、映像の飛行機エアロスターはトム・クルーズが操縦しているとのこと。観る私も楽しんだ。

 ちなみにこの映画、評論家の評判がよく製作費5千万ドル、興行収入1億8千万ドルで黒字。観て損は無いというところ。2017年制作 劇場公開2017年10月
  
監督
ダグ・リーマン1965年7月ニューヨーク州ニューヨーク市生まれ。製作総指揮が多い。ハリウッド映画では2004年「ボーン・スプレマシー」他。テレビ映画では「コバート・フェア」「SUITS/スーツ」など。

キャスト
トム・クルーズ1962年7月ニューヨーク州シラキュース生まれ。
ドーナル・グリーソン1983年5月アイルランド、ダブリン生まれ。
サラ・ライト1983年9月ケンタッキー州ルイズヴィル生まれ。
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「テイキング・チャンス」アマゾン・プライムで観る、戦死した兵士を故郷へ送り届ける軍の儀式 

2018-03-07 16:24:41 | 映画

           
 77分という短い時間に描かれる濃密な人間の心には、ひたすら畏敬の念を覚える。19歳の海兵隊兵士チャンス・フェルプスは、2004年イラクで戦死した。

 チャンス兵士を故郷に送り届ける任務を希望したのはマイク・シュトローフル中佐(ケビン・ベーコン)だった。彼には妻と二人の子供を抱える家庭もあった。送り届ける一週間の旅に妻はやや不満だ。しかし、マイクにはこれをどうしても完遂する必要があった。

 デラウェア州ドーバー空軍基地からペンシルベニア州フィラデルフィア、ミネソタ州ミネアポリス、モンタナ州ビリングスそしてチャンスの故郷ワイオミング州の田舎町まで、棺を車に乗せるときと降ろす時、飛行機に乗せるときと降ろす時、マイクはゆっくりと右手を挙げて挙手の礼で応える。

 東海岸から西海岸に横断する長旅、飛行機や車を乗り継ぐ毎日。都合で棺を格納庫に一夜置くことになり、マイクは棺の傍で過ごすという。空港職員は寝袋を持ってきてくれた。

 いよいよ最終行程。葬儀社から迎えが来る。マイクは霊柩車の後をレンタカーで追尾する。この霊柩車は、外から星条旗に包まれた棺が見える。山や緑に包まれた道路をゆっくりと走る霊柩車。追い抜こうとする大型トラックは急に減速する。目ざとく見つけたのは星条旗、トラックのヘッドライトが点灯される。後から来た車すべてがライトを点して隊列を組む。国のために命を捧げた兵士への敬意が感じられるいい場面だった。

 そして遺族と対面して遺品を手渡す。時計やペンダント。血ぬられていたこれらを、丁寧に拭き取られている。マイクは飛行機の中で客室乗務員から貰った十字架を「これは自分に貰ったのではなくて、チャンスに捧げるものだと分かった」と言って遺族に渡す。

 マイクは心に負い目を抱えていた。朝鮮戦争に従軍した高齢の元兵士に「私は行くべきだった。私に出動命令が下ることは分かっていた。だが、それに気づかないふりを続けた。戦死者リストを確認し知人の名がないことを祈って夜を過ごした。なぜ、こうなったか。妻と子供のいる生活に慣れ過ぎたのかもしれない。だから内勤希望を出し認められた。戦場に出ない私は兵士ではない。チャンスは本物の海兵なんだ」
「あなたは違うと? 家族と過ごしたいという願いは悪ですか? 自分を責めないで。彼を護衛した証人なんですよ。証人が消えれば故人も消えてしまう」と元兵士。

 墓地に置かれた棺に最後の敬礼を捧げてチャンスを送り、自宅のドアを叩いた。どうしてもこれをやり遂げたかったのは、チャンスへの心からの鎮魂とともに自らの魂の安寧を求めたからにほかならない。暖かい光の中で子供たちとマイクの晴れ晴れとした声が賑やかだった。

 一つの死が生きる糧として、もう一つの肉体に宿る。ケビン・ベーコンの控え目で苦渋の表情が印象的だった。2009年制作のテレビ映画。DVDセル&レンタルなし。
  
監督
ロス・カッツ1971年5月フィラデルフィア生まれ。2016年「きみがくれた物語」がある。

キャスト
ケビン・ベーコン1958年7月フィラデルフィア生まれ。
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「エルELLE」レイプをテーマにした良質の映画 2016年制作 劇場公開2017年8月

2018-03-04 16:43:51 | 映画

            
 この映画の主人公を誰もやりたがらないだろう。しかし、人物造形は挑戦する価値はありそう。この映画を監督したポール・ヴァーホーヴェンは、「ニコール・キッドマンならミシェルという難役を演じられるという確信を抱いていた。キッドマンの他にも、ダイアン・レイン、シャロン・ストーン、ジュリアン・ムーア、マリオン・コティヤール、シャーリーズ・セロン、カリス・ファン・ハウテンがミシェル役に想定されていた。
 ヴァーホーヴェンはアメリカ人女優がこのような大胆な役を演じたがらないことに不満を述べている。ヴァーホーヴェンはオファーを受ける可能性があった唯一の女優としてジェニファー・ジェイソン・リーの名を挙げたが、知名度の不足から起用に至らなかった」 とウィキペディアにある。

 とにかくこのミシェルという女性は、レイプされた後も何事もなかったように掃除をしワインを飲むそして残酷。警察不信で被害届を出さない。この役をイザベル・ユペールが相変わらず動き回りながら的確に演じる。2016年だと63歳。さすがにアップではそれなりの年齢を感じさせるが、ちょっと離れた全身像とか化粧でキレイにすると細身で若さも見える。

 やっぱり世の中はなるようにしてなる。二コール・キッドマンの主演を想像してみたが、身長180センチの大女ではレイプ犯がぶっ飛びそう。イザベル・ユペールがこれ以上の適役は無いと思わせるところがすごい。

 ハリウッド女優がなんで敬遠したかといえば、多分ではあるがオナニー場面を演じなければならないからだと思う。しかもこの場面の必然性が見えない。それでもイザベル・ユペールは、双眼鏡片手に自宅前の家に住む若い銀行員パトリック(ロラン・ラフィット)との妄想を描きながらせっせとオナニーに励む。

 ミシェルの家族関係も特異。父は連続殺人犯で服役中、ミシェルは憎悪している。母イレーヌ(ジュディット・マレー)は、自分より年下の男とセックスを楽しんでいる。その最中にミシェルはずかずかと入って行く。それを見ても平気な顔で話しかける。

 ミシェルは、IT企業の社長だ。IT企業と言ってもゲーム制作会社だ。その作品もセックスがらみ。そういう立場なのに息子ヴァンサン(ジョナ・ブロケ)は、アルバイトをしている。母と息子はあまりうまくいっていない様子。この息子の恋人がものすごくキツイ女。二人の間に生まれたのが黒い肌の子。どう見ても二人の子供には思われない。嬉々として育てるから不思議。

 ミシェルの残酷なところといえば、友人のアンナ(アンヌ・コンシニ)の夫ロベール(クリスチャン・ベルケル)と肉体関係があったとアンナに告白するところだろう。なんで親友を嘆かせるのか。ミシェル独特の感性かもしれない。

 レイプ犯は誰なのか。大よその見当はついていた。はずれなかった。そしてミッシェルの氷のような反撃と今までの事はまるでなかったような親友アンナとの友情がホット。女は強く永遠の謎と言えるかもしれない。

 フランス語のELLEは「彼女」の意、つまりミッシェル。監督のポール・ヴァーホーヴェンは、もう80歳ながら新しいものに挑戦していると公言する。その志は大いに評価し、このセックスにこだわる映像に長い人生の帰結点と思っていいのかも。80歳になってようやく分かる類のもの。とは言っても不必要なシーンやよく分からない場面もあるが、ミッシェルを演じるイザベル・ユペールの存在感がすべてを納得させるのだろう。

 そのことは第69回(2016年)カンヌ国際映画祭コンペティション部門で高い評価を得たし、昨年の第89回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。受賞は「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン。
  
監督
ポール・ヴァーホーヴェン1938年7月オランダ、アムステルダム生まれ。

キャスト
イザベル・ユペール1953年3月パリ生まれ。
ロラン・ラフィット1973年8月フランス生まれ。
アンヌ・コンシニ1963年5月フランス生まれ。
シャルル・ベルリング1958年4月フランス生まれ。
クリスチャン・ベルケル1957年10月ドイツ生まれ。
ヴィルジニー・エフィラ1977年5月ベルギー・ブリュッセル生まれ。
ジュディット・マレー1926年11月フランス生まれ。
ジョナ・ブロケ1992年7月ベルギー・ブリュッセル生まれ。
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