Wind Socks

気軽に発信します。

映画「男と女 人生最良の日 LES PLUS ANNÉES D'UNE VIE」2019年フランス 劇場公開2020年1月

2020-06-29 10:36:44 | 映画
 この映画を監督したクロード・ルルーシュ82歳、アンヌ役のアヌーク・エーメ88歳、ジャン・ルイ役のジャン=ルイ・トランティニャン89歳、唯一主題曲を作曲したフランスの人気歌手カロジェロ49歳という、まあ若い年齢の人が含まれているが高齢者向け映画と言えるだろう。
 果たして若者が観て共感してくれるだろうか。共感する筈がないし、人生末期を若者が分かってたまるかという気もする。

 なにせ痴呆気味の男が、かつて愛し合った女の事だけを思い出して口癖のように息子に話すお話なのだ。

 1966年、無名でスポンサーがつかないので自主制作したクロード・ルルーシュの出世作「男と女」、作曲のフランシス・レイの主題曲もヒットした。
 この映画の主人公ジャン・ルイは、レーシング・ドライバーで女好き。映画関係の仕事をしているアンヌのふたりは恋に落ちる。”恋は盲目”とはよくいったもので、恋人たちは二人の世界をどん欲に楽しみ、ふと気になる言葉に(私の記憶ではどんな言葉か忘れている)「なぜだ?」とジャン・ルイ。
 ノルマンディーのホテルの一室(?)。アンヌは「電車で帰る」と言って無言の別れのプラットフォーム。ジャン・ルイの背に遠ざかる電車。車に乗り込んだジャン・ルイ。永遠の別れを否定するあふれる恋情は、電車の終着駅パリに向けてアクセルが踏み込ませる。パリでプラットフォームに駆け上がったジャン・ルイ、それを見つめるアンヌ。無言の抱擁。フランシス・レイの曲「ダバダバダ…」が纏わりつく。ここで映画は終わる。ハッピーエンド。

 それから20年後として1986年「男と女Ⅱ」を制作。全て1966年と同じスタッフとキャスト。私にとって記憶に残る映画でもなかった。

 そして53年後の本作。どんなお話を紡いでくれるのかと興味を持っていた。80を過ぎた人間にとって、未来を語る情熱はもうない。ひたすら過去を振り返ることばかり。軽い痴ほう症のジャン・ルイも例外ではない。
 気を利かせた息子がアンヌを訪ね「一度父に会って欲しい」と懇願する。アンヌは名乗らずにジャン・ルイに近付く。映画だから時折めくるめく肌を合わせる映像が挿入される。

 1949年から1990年発売のシトロエン・2CV四速MT車に乗ってドライヴにも出かける。懐古趣味のクロード・ルルーシュなのか。
 ジャン・ルイは、ときどきじっとアンヌを見つめる。かつてのアンヌだと確信が持てないらしい。アンヌを手放さないために、雨中の国道をノルマンディーからパリへぶっ飛ばしたジャン・ルイなのに。

 そしてアンヌは、ジャン・ルイを伴って思い出の地ノルマンディーを訪れた。ジャン・ルイに記憶が戻ることはなかった。シトロエン・2CVは、輝くばかりの落日のノルマンディーの渚に向かう。落日はやがて漆黒の闇へと変える。それは二人のエンディングを暗示するように映画も終わる。かぶるように流れるのは、カロジェロ作曲の「LES PLUS ANNÉES D'UNE VIE(最長の人生)」。

 それにしてもジャン=ルイ・トランティニャンの老けようは、80歳を過ぎれば驚くほど容貌が変わる見本のようだが、アヌーク・エーメの10歳は若く見えるのと対照的だった。

 万物はやがて衰える。過ぎる時間の残酷さを受け、短い人生を懸命に生きるために愛し合う本能を与えられているのだから、それを享受するラブロマンスを避ける必要もない。たとえそれが不義の恋であろうとも。

 人は死ぬとき何を思っているのだろう。ジャン・ルイのように、愛した女性を思いながら静かに人生を終わるのもいいかもしれない。それでは、「LES PLUS ANNÉES D'UNE VIE(最長の人生)」を聴いていただきましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「レディ・マエストロ」監督マリア・ペーテルス 主演クリスタン・デ・ブラーン2018年

2020-06-04 15:50:12 | 映画
 女性がオーケストラを指揮するなんて考えられない時代、愛する人も捨て、ただひたすら指揮者への道を歩んだアントニア・ブリコの成功物語。

 アントニア・ブリコに触れると1902年6月26日オランダ・ロッテルダム生まれ。カトリック教徒の母とイタリア人ピアニストの父の間に生まれるも生後まもなくウォルティウス夫妻の養子となり、6歳の時にカリフォルニアに移住。
 
 10歳の時にピアノを習い始め音楽家を志す、その後、カリフォルニア大学で音楽を学び、卒業後は音楽教師ジグムント・ストヨフスキに師事。1927年、本格的に指揮者を目指すべく、名指揮者カール・ムックの門を叩き、ベルリン音楽アカデミー(現ベルリン芸術大学)指揮科に入学。

 1930年、ベルリン・フィルの指揮台に立ち、指揮者デビュー。1938年、女性として初めてニューヨーク・フィルを指揮し、15,000人の聴衆を熱狂させた。(1989年死去)とネットにある記事。

 履歴書向きの淡々とした経歴でしかないが、映画はブリコ役のクリスタン・デ・ブラーンの気が強いがさわやかな印象を持つ役柄にピッタリの女優に目が離せなくなる。

 悲しい生い立ちとお金持ちの息子フランク(ベンジャミン・ウェインライト)との成さぬ恋物語。それに色を添えるクラシック音楽、マーラー「交響曲第4番」、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第32番」 ストラヴィンスキー 「火の鳥」。男装の女性ロビン(スコット・ターナー・スコフィールド)の助力もあって女性のオーケストラを指揮することになる。あろうことかフランクの母親にも嫌がらせを受け窮地に立つ。

 そんな時、ルーズベルト大統領の妻、エレノア・ルーズベルトからの「心置きなくおやりなさい」という言質を貰いラジオで発表した。その効果は絶大で観覧の申し込みが殺到した。

 心にもなくフランクの求婚を断っていたが、演奏会の前、何年振りかのヨーロッパから帰国挨拶にフランクの屋敷を訪れた。フランクは結婚していて男の子までいる。ぎこちない雰囲気の中で、「今夜の演奏会には来てくれる?」「いや、行かない。妻は行くよ。僕は子供の世話があるから」とフランクは静かにドアを閉めた。

 ドアの内側でアントニアを愛する心の感情に呻吟するフランク。フランクは、中国人のお抱え運転手の部屋に入っていった。箸で食事中のこの男が立ち上がった時、箸一本が落ちた。それを見たフランクはその箸を手に取って、かつて演奏会場の男子トイレで箸をタクトに指揮の真似をしていた若きアントニアを思い出した。

 ブリコは、エレノア・ルーズベルト夫人を迎え舞台から挨拶してオーケストラに向き合う。ところが楽団員の視線が舞台の下に注がれている。振り向いて見たものは、通路にイスで腰かけているフランクだった。口元に笑みをたたえたアントニア・ブリコは、本物のタクトを静かに振り下ろした。

 エンディングロールには、気落ちするような字幕が流れる。「アントニア・ブリコは、名門オーケストラからゲスト・コンダクターとして招かれるが、首席コンダクターの職に就くことは一度もなかった。2017年のグラマフォン誌は、世界トップ50の指揮者を発表、そこには女性は一人も見当たらない」



 これは一体どういうことなんだろうと思ってしまう。そこで執拗にネットで女性指揮者を探した。たどり着いたのは、「otomamire」というサイト。女性指揮者ランキングがあって、女人禁制のクラシック音楽界。そんな考えが未だに指揮者の世界では横行しているのが現実ですとある。

 そんな中で世界ベスト10を挙げてある。10位に日本人の西本智実50歳。現在はイルミナートフィルハーモニーオーケストラ芸術監督兼首席指揮者。

 9位カナダ人のバーバラ・ハンニガン49歳。バーバラ・ハンニガンは元々ソプラノ歌手で、後に指揮も始めた。歌いながら指揮をするという、変わり種指揮者でもある。2018/2019シーズン、スウェーデンのエーテボリ交響楽団の首席客演指揮者。

 8位にメキシコ人のアロンドラ・デ・ラ・パーラ40歳。2017年、クイーンズランド交響楽団にオーストラリア初の女性音楽監督。その美貌から各国の多くの女性誌のカヴァーページを飾っているとのこと。

 2位にはアメリカ人のカリーナ・カネキラス37歳。現在、オランダ放送フィルハーモニックの首席指揮者。そして何といっても2019年9月からはパリ管弦楽団の首席指揮者に就任だろう。そして、ベルリン放送交響楽団の首席客演指揮者への就任も決まっているという。グラマフォン誌はどうやら偏見を持っているのかも。ここに挙げた人たちは、若くて美人なのだ。こういう記事に興味のある方は、こちらからどうぞ!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「リチャード・ジュエル」監督クリント・イーストウッド 2019年

2020-06-01 17:26:12 | 映画
 大衆文化、ファッション、時事問題を扱う月刊雑誌「ヴァニティ・フェア」に、調査ジャーナリストでヴァニティ・フェアのベテラン、マリー・ブレナーが1997年「アメリカの悪夢:リチャード・ジュエルのバラード」としての寄稿文が基となっている。

 法執行機関の捜査でよく言われる、組み立てたストーリーに沿ったシナリオ作りが多いということ。まさにリチャード・ジュエルに起こったことなのだ。FBIは、第1発見者が「往々にして犯人であることが多い」を前提に無理な捜査を強行する。

 1996年夏、ジョージア州アトランタで第26回オリンピックが開催された。リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)は警備員として参加し、彼の母親バーバラ(キャシー・ベイツ)は開会式のケニー・ロジャースのステージを楽しんだ。去る3月亡くなったケニー・ロジャースの1978年のヒット曲「ザ・ギャンブラー」を歌うステージが挿入されている。

 大会7日目夜中の1時過ぎオリンピック公園の屋外コンサート会場で爆破事件が発生する。キャンバス地のリュックサックが警官によって時限爆弾と判明していて、このリュックサックを不審に思って通報したのがリチャード・ジュエルで、群衆にも避難を呼びかけた。しかし、爆発によって2名の死亡と111名の負傷者という大惨事になった。爆弾に釘が仕込まれていたため負傷者が多数出た原因。

 警備員リチャード・ジュエルの通報や避難誘導がなかったら、もっと多くの被害者が出たとして英雄に祭り上げられた。 が地元紙の記者キャシー・スクラッグス(オリヴィア・ワイルド)の特ダネ記事「FBI、英雄警備員を疑う」を大きく報道。一転してリチャード・ジュエルは、英雄から容疑者に転落した。

 この情報を得た手法がFBI捜査官ブルース(ディラン・カスマン)にキャシー・スクラッグスが体を提供して得たものとして描かれる。とはいっても露骨なセックス描写はない。バーのカウンターに座ってそれを匂わせるという按配。かねがね映画の中のセックス描写が不要だと思っている私には、クリント・イーストウッドの控えめな手法にベテラン監督の心根を見た気がした。

 ところがこの描写に異を唱える一部の批評家や記者たちのボイコット運動まで起きた。故人となったキャシー・スクラッグスが反論できない状況の中で真実でない描写について、脚色されたことを正式に認めよと主張したのが、「FBI、英雄警備員を疑う」を大々的に報道した地方紙だ。

 これに対して製作会社ワーナーブラザーズは、「情報源(アメリカの悪夢:リチャード・ジュエルのバラード)に基づいているとし、真っ先に特ダネ記事として報道した地方紙に揶揄するような反論を行っている。

 ワトソン・ブライアント弁護士(サム・ロックウェル)がリチャード・ジュエルをサポートして、FBIの捜査を断念させた。



 批評家の評価は高い方だが、興行収入は意外に伸びなかったようだ。それではここで追悼を兼ねてケニー・ロジャースの「ザ・ギャンブラー」を聴きましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする