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映画「I am Samアイ・アム・サム」知的障害者の養育問題(アマゾンプライム)

2018-08-28 16:12:45 | 映画

          
 この映画は重大な問題を内包している。単に知的障害者が子供を育てる適性の云々ではない。まず映画に触れてみよう。

 コーヒーのチェーン店スターバックスでウェイターとして働くサム・ドーソン(ショーン・ペン)は、舌足らずな言葉で来客にコーヒーを配る。
「ディカフェ ダブルトール無脂肪乳のカプチーノだね。いいチョイスだよ ブルース」
「キャラメル マキアート 熱いですよ」
「おはよう バニララテノンフォーム いいチョイスだね」

 みんなに愛されるサムではあるが、彼は7歳児の知能しかない。中年にさしかかった彼の働く場所は限られている。そんな境遇にもかかわらず、彼の子供が生まれるという。急いで病院に駆けつけて出産に立ち会う。 初めてみる出産の現場、驚愕の表情で立ちすくむサム。看護師がタオルにくるまれた女の子を差し出す。ようやく満面の笑み。

 ところが退院の日、相手の女性は姿をくらます。仕方がないかもしれない。相手はホームレスだった。男手で子供を育てる。しかも知的障害のある男。それでも名前はつけた。サムは大のビートルズのファン。「Lucy in the Sky with Diamonds」という曲からルーシー・ダイアモンド・ドーソンとした。

 窓を接するお隣のピアノの上手なアニー(ダイアン・ウィースト)から教えられたり、預けたりしてルーシーはすくすくと育っていく。ルーシー(ダコタ・ファニング)が7歳になるとソーシャル・ワーカーが放っておかない。今後の養育には父親の知能が問題視され施設で保護するという。

 困ったサムは、知的障害の仲間と相談、一流弁護士を選ぶ。弁護士料がいくらだとかは考えない。毎月の給料から支払えばいいと思っている。世間の常識が通じない7歳児そのもの。押しかけられて困ったのがリタ・ハリソン(ミシェル・ファイファー)。

 逃げ口上に「あなたに適した弁護士を紹介する」と言って追い返す。7歳児の知能では相手の態度や口調を推し量ることはできない。言葉を信用して何度もリタを訪問する。困り果てたリタは、結局無料でサムの弁護を引き受ける。

 そして舞台は裁判所に移る。検事側のまるで殺人容疑者に対するような執拗な質問にリタも懸命に弁護する。紆余曲折の末、ルーシーをランディ(ローラ・ダーン)に預けることになる。ルーシーと会う時間も決められているが、そんなことは無視。犬の散歩のアルバイトでランディの家の前を通るのでランディのドアを叩く。迷惑顔のタンディ。

 そのうち近所のアパートに引っ越してきたサム。喜んだのはルーシー。夜な夜な窓から抜け出してサムのところへ。サムはその都度ルーシーを抱いてランディに返す。そんな強い親子の絆を目の当たりにして、身を引くことを決心するランディ。サッカーに興じるサムとルーシー、リタも笑顔。涙ボロボロのハッピー・エンド。さて、実際問題としてこういう結末がいいのか、私にはよく分からない。

 それよりもう一つ問題があるのではないか。映画は触れていないが、知的障害者についてみんなで考えて欲しいというメッセージでもあるように思われる。それは知的障害者のセックスの問題だ。知能は7歳かもしれないが、体は一人前の男に成長する。サムにしてもホームレスの女を孕ませたではないか。

 知的障害者と身体障害者ともにセックスの問題を抱えている。これらの問題についてはノンフィクション「セックスボランティア」に詳しい。とにかく壮絶と言う言葉しかない場面もある。例えば重度の身体障害者。酸素吸入器を頼って生きている人。このままでは女性は誰も相手にしてくれない。「童貞のまま死にたくない」という悲痛な思いをボランティアの手を借りてソープランドで達成したというお話。彼の酸素吸入器は1時間しか持たない。健常者にとって何でもない行為が彼にとっては必死の1時間といえる。体が震えるほどのショックを受けた。

 この映画から波及するこれらの問題にも思いを寄せることが、この映画の価値と言える。ショーン・ペンの演技、ダコタ・ファニングの可愛さ、43歳のミシェル・ファイファーの魅力、それにビートルズのカバー曲の数々で後味のいい映画だった。
  
       
       
  
 ビートルズの歌う曲を使うと膨大な予算がいることから、カバー曲となったという。使われている曲は

「Lucy in the Sky with Diamonds」パホーマーBlack Crowes
「Two of Us」Aimee Mann & Michael Penn
「Across the Universe」Rufus Wainwright
「I'm Looking Through You」The Wallflowers
「Strawberry Fields Forever」Ben Harper 
「Golden Sumbers」Ben Folds 
「You've Got to Hide Your Love Away」Eddie Vedder 
「Blackbird」Sarah Mclachlan
「Mother Nature's Son」Sheryl Crow
 さて、ここでは「Two of Us」パホーマーAimee Mann & Michael Pennでどうぞ!
Two of Us - Aimee Mann and Michael Penn

監督
ジェシー・ネルソン出自未詳

キャスト
ショーン・ペン1960年8月カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。2003年「ミスティック・リバー」、2008年「ミルク」でアカデミー主演男優賞受賞。
ミシェル・ファイファー1958年4月カリフォルニア州サンナアナ生まれ。
ダコタ・ファニング1994年2月ジョージア州生まれ。
ダイアン・ウィースト1948年3月ミズーリ州カンザスシティ生まれ。
ローラ・ダーン1967年2月カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。
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映画「アイズ ワイド シャット」アマゾンプライムで観る Fuck(ファック)がテーマ 1999年制作

2018-08-26 14:06:36 | 映画

         
 原題の「Eyes Wide Shut(眼を大きく閉じて)」は「Eyes Wide open(眼を見開いて)」のナンセンスで、劇中には仮面をつけた人たちの集まりでの乱交が描かれているから、キューブリック監督のユーモアの発露と言える。「セックスは見るものではない。するものだ」と言っているのかな。

 人が生きていく上でセックスの占める割合は、かなり大きい部分になるだろう。切っても切れない関係ともいえる。しかもセックスを楽しむというのも人間だけだ。このセックスは、人を選ばない。天才にも凡人にも公平に与えられている。セックスの後をどう責任をとるかというのが人間性に関わる問題。意外に凡人の方が素直に結婚して責任を果たしているように見える。

 今日(8月24日)アップル社の今は亡き共同創業者のスティーブ・ジョブズの娘リサが暴露本を出版したというニュースがある。(この記事はこちらで読んでください

 リサは婚外子でDNA鑑定でようやくジョブズがわが子であること認めたという経緯がある。ジョブズ23歳の時の子で、出産を機に恋人と別れた。無責任だね。しかも正妻への遺産が2兆円あるのにリサの母親に全くない。リサには数百万ドルと言われる。リサの母親とは血のつながりがないが、リサは血を分けた娘と思っているのかも。単なるはけ口としての母親だった。業績と人間性は関係がないが、男としては尊敬できない。

 そしてこの映画は、ニューヨークの内科医ビル・ハーフォード(トム・クルーズ)とアリス(二コール・キッドマン)の実際の夫婦がコンビを組む。このとき、トム・クルーズ37歳、二コール・キッドマン32歳。娘一人を持つ夫婦、結婚して数年。どこの家庭とも同じように、セックスも毎度おなじみの手順と触れ合いで終わり刺激に乏しい。

 ヴィクター・シーグラー(シドニー・ポラック)夫妻のクリスマス・パーティに招かれる。多くの人が招かれていてステージではバンドが演奏している。ビルはアリスと踊りながらピアニストに気がついた。曲が終わり「あのピアニストは、医学部時代の同僚でニック・ナイチンゲールだ。話してくる」「私はトイレに行きたいからバーで待ってる」ニック・ナイチンゲール(トッド・フィールド)と旧交を温めて「ビレッジの“ソナタ・カフェ”で仕事をしている。よかったら寄ってくれ」とニック。

 パーティから帰ってベッドでマリファナを吸う。やや酩酊のアリス。
「ビル、あなた女の子二人と何をしていたの? やったの?」とアリスは言う。
ビル「何もしてないよ。それより踊っていた男は何者?」
アリス「シーグラーの友人でハンガリー人。私とファックしたがってたわ」

 これなんかわざと下品な言葉とお互い男や女に関心をもたれるという刺激剤なのだろう。「おれの女房とやりたがる男がいるんだ。そんなことさせるもんか。おれ専用なんだぞ」とビルは自分に言い聞かせる。

 そんなときアリスの告白を聞いたビルは、その妄想に付きまとわれる。それはある夏のケープゴッド。「食堂で若い海軍士官がいたでしょ。あの朝ロビーで彼を見たの。彼はチェックインして荷物を持ったベルボーイについてエレベーターに。彼は通り過ぎる時、私をチラッと見たわ。

 その日の午後あなたとセックスをした。でも、ずーとあの人のことが心に残っていた。もし、あの人が私を欲したら、それがたったひと夜限りでもすべてを捨てられると思った。でも、不思議なのはそのとき一番あなたが愛おしかった。そしてその時、私はあなたを愛しながら胸が痛んでいた」

 聞きながらアリスを上目づかいに凝視するビル。「そうなのか。おれを愛しながら他の男とのセックスも期待する。心の闇か」と思うが、一人でぼんやりとしているとき、妻と海軍士官のセックスを想像してしまう。

 患者宅からの緊急電話で夜訪問する。すでに患者は死んでいた。しかし、あろうことかこの家の娘がビルにキスしてきた。「愛している」と何度も言う。ビルはくじける心を気丈にも耐えながら呼び鈴に救われる。彼女の恋人が来訪した。しかし、女は理解できない思いで辞去する。

 アリスの待つ家に帰るのも何故かためらいの気持ちがある。あの告白がビルを混乱させている。交差点の信号が赤で立ち止まっていると横に女が立った。
「私の家に来ない? すぐそこよ」
「えっ、君のところに?」
「分かるでしょ」
「まあね」

 ビルの頭の中は“娼婦なら後腐れがない。別のセックスを楽しむのも悪くない”部屋に入って「じゃあ、決めよう。金額を」「150ドルでいいわ」女はビルにキスをしてきた。(ちょっと待った。娼婦は口にキスをしない人が多い筈。娼婦でもプライドがある。好きな人のために口へのキスは断固拒否する筈だ)

 ビルの携帯電話が鳴った。アリスからだった。「患者宅でもう少し時間がかかる」と言って誤魔化す。セックスする気持ちは消え伏せた。女に150ドルを握らせて外に出る。

 ぶらぶらと歩いて気が付いたら、ニックが働く「ソナタ・カフェ」の前だった。何かが起こる期待とどうしても自宅への道のりが長くいつまでも歩いていたい気分だ。ニックが演奏するジャズが終わった。

 ビルがビール、ニックがウォッカトニック。ニックが言う「目隠しをして演奏することがあるよ」驚くビル。ビルが聞き出したところによると、「これから演奏する場所は毎回違う。しかも分かるのが1時間前。目隠しがずれて目にしたものは、あんなのは初めてだった。あんな女たちも」

 俄然興味を覚えたビル。そこへニックの携帯が鳴る。ニックは返事をしながらナプキンに何かを書く。そのナプキンには「フィデリオ」とあった。ニックによるとこれはパスワードで仮面仮装が条件という。一緒にはいけない。「じゃあ、住所を教えてくれ」とビル。映画は、ここら辺りからミステリアスな展開になっていく。

 真夜中を過ぎて閉店していた貸衣装店に無理を言ってマスク、マント、靴を借りてタクシーで、ニューヨーク州南部ロングアイランド北岸にあるグレン・コーブの壮大な屋敷に着いた。案内されてマントにマスク姿で見たものは、黒い布で目隠しをされたニックがオルガンで荘厳な音楽を奏でている。
 その広いフロアにはTバックショーツだけのマスクをした女性たちが円形に並んでいる。その中央にマスクをして長い杖と振り香炉を持った男が、女の前で杖をドンと音をたてると女はマントを着てマスクをした男と別の部屋へ移動する。

 ビルもその部屋へ移動する。そこはいろんな体位の乱交が繰り広げられ、マスクとマントの人たちがそれを見ている。やっと気付いた。ここは秘密の仮面仮装セックス・パーティだ。すると女が現れ「このままでは危険だから、すぐに帰った方がいい」と言うがビルの好奇心は素直ではなかった。

 ぶらついていると強引にさっきのフロアに突き出された。女の前で杖をドンと突きたてていた男が言う。「このハウスのパスワードを言え」
ビルは「忘れた」と答えた。門とハウスにパスワードがあるとは思ってもみなかった。
男は言う「マスクをとって裸になれ!」
 逡巡していると吹き抜けの2階から女の声。さっきこのままでは危険と言った女だった。「やめて、その人を行かせて 私が身代わりになります」

 ここの状況を口外するなと言われて追い払われた。翌日、貸衣装店に返品したが、入れた筈のマスクだけがない。不思議に思いながらもその代金を払うことで決着した。腑に落ちないことが多いあのパーティ。

 受けている診断予約を変更して、イギリスの4WD車レンジローバーでグレン・コーブの屋敷に向かった。大きな門の前で監視カメラに顔を見せて待った。やがて木々の間からロールスロイスに乗った男がやってきて一通の手紙をよこした。そこには「ビル・ハートフォードへ 無駄な詮索はやめろ これは2度目の忠告だ これ以上は言わんぞ 君の身のためだ」とあった。このミステリーについてはこれ以上書かないことにする。意外な人物が関わっている。

 人類の根源と言えるセックスを描き妄想から派生する人間の愚かさにも触れるが、最後のセリフは逃れられない究極を示すのか。
「アリスどうする?」すべてを告白したビルの質問。
アリス「大切なのは今、私たちは起きている。そしてこれからも目覚めていたい。あなたを愛している。だから私たち大事なことをすぐにしなきゃダメ」
ビル「何を?」
アリス「ファック」
  
  
  
 監督のスタンリー・キューブリックは完ぺき主義者だったらしい。一つ一つのシーンが長い。しかも飛行機恐怖症でイギリスでしか映画を撮らない。したがってトム・クルーズ、二コール・キッドマン夫妻も1年ほどイギリスに住んだ。アメリカの自宅に拘った二コール・キッドマンとの破局はこれが原因ともいわれる。1928年7月ニューヨーク市ブロンクス生まれ。1999年3月没 アカデミー賞にはあまり縁がない。ノミネートはされるが1968年「2001年宇宙の旅」で特殊効果賞の受賞のみ。

キャスト
トム・クルーズ1962年7月ニューヨーク州シラキュース生まれ。1990年キッドマンと結婚、2001年離婚。
二コール・キッドマン1967年6月ハワイ、ホノルル生まれ。2002年「めぐりあう時間たち」でアカデミー主演女優賞受賞。
シドニー・ポラック1934年7月インディアナ州ラファイエット生まれ。
トッド・フィールド1964年2月カリフォルニア州ポモナ生まれ。 
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映画「クロワッサンで朝食を」アマゾン・プライムで観るジャンヌ・モローの遺作 2012年制作

2018-08-22 16:22:58 | 映画

         
 原題は「パリのエストニア」。エストニア出身のパリで長く住む高齢のフリーダ(ジャンヌ・モロー)のもとへ、エストニアから家政婦としてやってきたアンヌ(ライネ・マギ)。

 フリーダは気分が天気のように変わり思ったことをずけずけと口にする。老人の身勝手だがアンヌも母をなくして老人を少しは分かっているつもりでいたが、フリーダは一筋縄ではいかない。

 空港に迎えに来たステファン(パトリック・ピノー)もフリーダの口吻に乗せられるなと念を押した。早速苦情が飛んできた。近所のスーパーでクロワッサンを買って朝食に出した。「スーパーで買っちゃダメ。パン屋さんのクロワッサンでないと食べない」

 聡明で我慢強いアンヌは近所のパン屋でクロワッサンを買って紅茶とともに出した。フリーダはにっこりと納得の笑顔。

 さて、このクロワッサン。ウィキペディアによると[三日月」と言うフランス語のようで三日月の形をしていた。映画では、三日月でなくストレートな形だった。

 ちなみに私の朝食もクロワッサンとバナナ、ベビーチーズ、トマトジュース、コーヒーだ。このクロワッサンもストレート。バナナとパンの取り合わせ。アメリカン・ミステリーで女性がトーストにバナナを切って載せて食べる場面。アメリカ映画でティーンエイジャーの娘が食パンにバナナのスライスを載せて食べる場面と最初は取り合わせに違和感を持ったが、クロワッサンとバナナの朝食にした結果、今では病みつき状態。

 私にとってバターを含んだクロワッサンとバナナの甘みにチーズの味とコーヒーの苦みですっきりとした朝になる。

 道草はこれくらいにして、フリーダの厭味も続く。余生いくばくもないフリーダの寂しさを理解したアンヌは、近所にあるエストニア福音教会で話を聞く。かつてフリーダも熱心な信者だったが、最近はエストニア人を嫌っているようで足が遠のいているとのこと。アンヌは、フリーダに教会の人が会いたいと言っていると招待を提案する。

 そしてやって来た三人の信者。フリーダは三人が会いたいから来たと思っている。三人はフリーダが会いたと言ったと思っている。会話はやがて昔と変わらないフリーダに気分を害しアンヌが画策したことも明らかになる。喧嘩別れの昔馴染みとなった。

 フリーダは激昂してアンヌに「出ていけ」と罵倒。アンヌは出ていく。夕刻、フリーダはアンヌ、アンヌと広いアパートを探し回る。「出ていけ」と言ったことを忘れている。

 アンヌは終電まで地下鉄駅で過ごし、早朝までパリを歩き回る。空が白み始めたエッフェル塔で、スーツケースに入っているクロワッサンをかぶりつく。

 エストニアには午後の便に乗るため、あれほどきつく罵倒したフリーダであっても、一言別れのあいさつを残したいと思った。ドアを開けるとフリーダが迎えた。ハグも謝りの言葉も何もない。

ただ「入って」フリーダ。
「でも」とアンヌ
「ここはあなたの家よ。入ってちょうだい」フリーダ。
踵を返して自分の部屋に入るフリーダの後姿を見つめるアンヌで映画は終わる。爽やかで余情のある幕切れだった。

 ジャンヌ・モローは、1928年の生まれ。出演時84歳。この五年後2017年に89歳で世を去った。歳をとるに従ってあくの強い顔になった。若かりし頃の面影がない。カトリーヌ・ドヌーヴと対照的かな。それでもイヤなばあさんを好演していると言ってもいいか。アンヌを演じたライネ・マギは、楚々とした風情の品のある顔立ちで印象に残った。
  
  
  
監督
イルマル・ラーグ1968年5月エストニア生まれ。

キャスト
ジャンヌ・モロー1928年1月フランス、パリ生まれ。2017年7月没
1960年「雨のしのび逢い」でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞
ライネ・マギ1959年2月エストニア生まれ。
パトリック・ピノー1961年生まれ。
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映画「カジノ」アマゾン・プライムで観るギャングが支配していた1970年代のカジノ。1995年制作

2018-08-19 18:32:42 | 映画

           
 実話に基づいた映画でマーティン・スコセッシ監督が1990年の「グッドフェロー」に続くギャングもの第2弾というところ。

 マーティン・スコセッシは、1942年生まれだから制作時は53歳。1980年「レイジング・ブル」、1988年「最後の誘惑」、1990年「グッドフェローズ」、2002年「ギャング・オブ・ニューヨーク」、2004年「アビエイター」、2006年「ディパーテッド」、2011年「ヒューゴの不思議な発明」、2013年「ウルフ・オブ・ウォールストリート」がアカデミー賞監督賞にノミネートされ、そのうち2006年「ディパーテッド」が受賞している。

 題材に取り上げたのはモデルの人物フランク・“レフティ“・ローゼンタールという男でシカゴでは有名なノミ屋だった。映画ではサム・“エース”・ロススティーン(ロバート・デ・ニーロ)で1970年代全米で唯一賭博が合法のラスベガスで「タンジール」を任されて膨大な現金収入をもたらしていた。出演時ロバート・デ・ニーロは40歳代に見えカッコいい52歳。

 カジノの奥まった立ち入り禁止の部屋では、おびただしい現金が計算され係員は適当にちょろまかし、ギャングのボスたちに現金を届ける男も警備員、駐車場係にも現金をはずむ。すべてが現金によってスムーズに回転していた。

 エースはフロアに立っていかさまを鋭く嗅ぎ分ける。自身もシカゴでの不法賭博の経歴の持ち主。悪は悪でないと発見できないと言いたげ。シカゴの旧友ニッキー・サントロ(ジョー・ペシ)もべガスにやって来た。そしてエースの用心棒となった。この男、身長が低いがやたらと気が短い。エースの身辺に災いをもたらすことになる。

 ある日フロアーで見つけた賭博師の美女ジンジャー・マッケンナ(シャロン・ストーン)に一目惚れしたエースもとんでもない女を抱え込むことになる。

 シャロン・ストーンこのとき妖艶な37歳。この役の熱演でシャロン・ストーンはアカデミー主演女優賞にノミネートされている。ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、シャロン・ストーンと脂の乗り切った時代の俳優で、178分という長尺も退屈する暇もなかった。

 この映画の中で一つのエピソードが語られる。それは一人の日本人のギャンブラーのこと。K・K・イチカワでモデルは、山梨県の不動産業兼貸金業『柏木商事』社長・柏木昭男。やくざ顔負けの荒っぽい手法による地上げで財を成し、カジノでの賭けの積極さから「戦士」と呼ばれたが、1992年1月3日に自宅兼事務所で何者かに約20カ所をメッタ刺しにされて殺害された。犯人は見つからず2007年に時効。アメリカで有名となった料理人「ノブ・マツヒサ」こと松久信幸がイチカワを演じている。

 さて、ここでまた気になるのがこの松久信幸。1949年3月埼玉県生まれ。もともと料理人で1987年にビバリーヒルズ、ラシエネガ通り(La Cienega Blvd.)にレストラン「MATSUHISA」を開店した。同店は開業3年目にはザガット・サーベイに掲載・高評価を得た。同店の常客であった俳優ロバート・デ・ニーロの誘いにより、1993年8月ニューヨーク市トライベッカに「NOBU(NOBU New York City)」をデ・ニーロとの共同経営により開店した。現在東京港区虎ノ門「NOBU TOKYO」ほか世界に展開している。

 さて、カジノといえば先ほどわが国でもIR(統合型リゾート)法案として成立した。この映画でも今ではディズニーランド化しているとして、最早ギャングが横行する場所ではなくなったという。ぜひそうあって欲しい。
     
  
  
       
監督
マーティン・スコセッシ1942年11月ニューヨーク市クイーンズ、フランシング生まれ。

キャスト
ロバート・デ・ニーロ1943年8月ニューヨーク市生まれ。1974年「ゴッドファーザー、パートⅡ」でアカデミー助演男優賞受賞。1980年「レイジング・ブル」でアカデミー主演男優賞受賞。
シャロン・ストーン1958年3月ペンシルヴェニア州生まれ。
ジョー・ペシ1943年2月ニュージャージー州ニューアーク生まれ。1990年「グッドフェローズ」でアカデミー助演男優賞受賞。
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映画「ロング、ロングバケーション」キャンピング・カーのロード・ムービー

2018-08-13 16:18:42 | 映画

           
 小学生や中学生の子供を連れた若い世代のキャンピングでなく、老夫婦の人生最後の旅というロード・ムービー。

 夫ジョン(ドナルド・サザーランド)妻エラ(ヘレン・ミレン)の二人はマサチューセッツ州ボストン近郊のウェルズリーの町から、フロリダ州キーウェストにある「ヘミングウェイの家」へのロング・ドライブ。しかも息子や娘に無断でのドライブ。息子や娘にこのドライブの事を話せば猛烈な反対に見舞われるのは確実。反対するのは当然で、エラはがんで入院の予定だしジョンは認知症の進行中という状態。
 しかもメンテナンスも不十分なキャンピング・カー「レジャー・シーカー」なのだ。しかし、家族にとっては思い出のキャンピング・カーでもある。

 ボストンからインターステイト・ハイウェイ95号線を南下、フロリダ州USハイウェイ1号線から41号線に乗りキーウェストを目指す。無謀ともいえるこの旅は、過去を振り返り残り少ない未来とどのように対応すればいいのか、それを探す旅でもあった。
 
 ジョンは英文学の教授でアーネスト・ヘミングウェイに傾倒していて、人生最後にヘミングウェイの家をこの目でみたいと言ったのが発端。時々、昔のエラの恋人の話を持ち出してエラを困らせたり、キャンプ場でかっての家族写真をスライド上映して過去を慈しむ。子供連れの女性の教え子に遭ったり、若い男二人の路上強盗をライフルで追っ払ったり、エラを置き忘れたりして着いたヘミングウェイの家。(どうやら実際のヘミングウェイの家でロケをしたようだ)

 静かに観賞できると思っていたがなんと結婚式で騒々しい。エラは辟易するが急に容体に変化が起きる。こんなときジョンがいない。ジョンは結婚式で踊っていた。周囲の人の機転で病院へ。

 ようやく病院に着いたジョンに医師たちは言う「生きているのが不思議なくらいがんが進行している」そんな医師の言葉も意に介さない二人は病院を脱出する。懐かしのわが「レジャー・シーカー」。

 いつものようにスライド上映。エラはエンジンをかけ排気ガスを車内に取り入れる準備をしてキャンピング・カーのベッドに横たわり、ジョンの胸に手を重ねて若き日のポーズを思い描きながら文字通りロング、ロングバケーションへと旅立った。エラは俗に言う心中と思っていない。永遠の愛の帰結と思っている。
  
  
  
  
 並んだ二人の棺に重なるようにカントリー・ミュージックの「Me and Bobby McGee」が流れる。アメリカ映画のこういうロード・ムービーのBGMは定番のようにカントリーだ。

 歌っているのはジャニス・ジョンブリン。ジョンブリンは、1943年1月19日テキサス州ポートアーサーで生まれる。1960年代後半ロックシンガーとして活躍。麻薬常習の悪癖があって1970年1月4日ロサンゼルス、ハリウッドのランドマーク・モーター・ホテル、105号室、ベッド横の床に倒れ死亡しているのが発見された。27歳だった。

 ジョプリンの死後制作された1971年1月発表のアルバム『パール』は、彼女の短いキャリアにおける最高の売り上げを記録した。このアルバムからは、クリス・クリストファーソンのカバー曲「ミー・アンド・ボビー・マギー(Me and Bobby McGee)」がビルボードのチャート1位を記録とある。というわけで、その曲をどうぞ!カントリーがお好きでなくても、なぜか味があるのではないでしょうか。2017年制作 劇場公開2018年1月
Janis Joplin- Me and Bobby McGee

監督
パオロ・ヴィルズイ1964年3月イタリア、トスカーナ生まれ。

キャスト
ヘレン・ミレン1945年7月イギリス、ロンドン生まれ。2006年「クイーン」でアカデミー主演女優賞受賞。
ドナルド・サザーランド1935年7月カナダ、ニューブランズウィック州セントジョン生まれ。
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映画「ハッピーエンド」イザベル:ユペールが出ているので観たが群像劇だった。13歳の少女が主役かな!

2018-08-09 16:16:27 | 映画

           
 オープニングは非常に風変わりな映像から始まる。スマホで遠くから撮った映像で、一人の女性が浴室で就寝前の歯磨きなどを行っている。その映像にキャプションが入る。

 「うがいをする」その音「吐く」「髪をとかす」「ブラッシング」「クリームを塗る」「肌のチェック」「おしっこ」おしっこの音 「水を流す」大きな音 「浴室を出る」「消灯」。

 次が自分の飼っているハムスターの映像。ゲージ入れたハムスターは元気に動き回っている。「これ私のハムスター。飼って1年半。さっき餌に薬を入れた。ママのうつ病の薬。どうなるかな。ママはマジでウザい。泣き言ばかり。みんなもうんざり。パパは何年も前に出てった。24時間愚痴ってばかり、だから今は私にブチまける。(ハムスターが動かなくなった。小さなスコップでつつくが死んでいるようだ)一丁上がり、これが効くかも」

 別の部屋の映像。「人を静かにさせるって簡単。これから救急車を呼ぶ。これでデカい口は叩けなくなった」この映像を撮っていたのはエヴ(ファンティーヌ・アルデュアン)で、まず母親を撮り、ハムスターで薬の効き具合を確かめ、実際に母親に大量の抗うつ薬を飲ませた。病院の処置室に横たわる母親の足をガラス越しに眺めるエヴ。母親の薬のことを尋ねられても知らないという。この可愛い顔のエヴの心の闇は誰も知らない。

 エヴの実の父親はトマ・ロラン(マチュー・カソヴィッツ)で、外科医。ロラン家の広大な屋敷に三家族が同居している。ロラン家は建築業で財をなし創業者のジョルジュ・ロラン(ジャン=ルイ・トランティニャン)と会社を切り盛りしている娘のアンヌ・ロラン(イザベル・ユペール)とその息子のピエール・ロラン(フランツ・ロゴフスキ)それに息子のトマ・ロランと妻のアナイス(ローラ・ファーリンデン)と赤ん坊のポール。

 この家族には独特の雰囲気がある。笑顔のない家族でアンヌに至っては、夕食の席で息子ピエールがワインの注いでいるとき、アルコールを控えるように小言を言う。一人前の大人のピエールが口答えをする。

 それを見ていたジョルジュが「親子げんかは食後にやってもらうとありがたい」とすげない。ダイニング・ルームには美術品の大きな絵画が飾ってあり、骨董品もところどころに見える。

 そんな家族のもとにエヴがやってくる。トマに「パパ」とエヴが言うが、暖かいハグはない。やっとトマの妻アナイスが抱きしめる。

 よく見られる三代目の不甲斐なさ。ジョルジュ、アンヌ、ピエールと引き継ぐはずがピエールにやる気がない。ジョルジュの車いす生活を目の当たりにしながら甘えるにもほどがある。そんな訳でアンヌがピエールの専務の役を解任する手続きを進める。

 エヴは父親トマのパソコンから卑猥な言葉のチャットで秘密を知った。ジョルジュおじいちゃんの85歳の誕生パーティでコントラバスを演奏した彼女じゃないだろうか。エヴは、その様子からアナイスと別れてその女と結婚して私は施設に入れられのかもしれない。それが嫌で持っていたママの薬を飲んで自殺未遂を起こした。

 そんなある日、「I Love Japan」と胸に書いた黒いTシャツでジョルジュおじいちゃんの部屋に行った。おじいちゃんは秘密を打ち明けてくれた。会ったことがない祖母の話だ。
 「ベッドに寝たきりで、口もきけない。私が介護した。会社をお前の伯母に譲り世話をした。そして不快でバカげた苦悩に3年間苦しんだのち、結局私は妻の首を絞めた。正しい選択だった。後悔したことはない。一度もない。これを話したかった」

 ちょっとホットした気分になったエヴは話し出した。「クラスの友達を毒殺しようとした。毒殺とはいえないけど、パパが出てった後、ママは私を臨海学校へ行かせた。精神安定剤をくれた。日に半錠飲むこと。イヤだった。嫌いな子がいた。毎日、彼女の食事に薬を……どんどんおとなしくなるの。ある日卒倒したので、医者が調べて原因がバレた。そこを追い出されただけだった。でも、後悔してる」

 秘密を共有した二人は、アンヌの婚約発表パーティでも並んで座った。海浜に面した壁も柱もドアもテーブルも椅子も真っ白な会場には、小ざっぱりとした人たちで一杯だった。突然、解任されたピエールが現れた。しかもみすぼらしい服装の数人のナイジェリア人を伴って。真っ白なシーツに黒いしみが浮かんだような違和感の世界。

 そのドサクサにまぎれてジョルジュはエヴに車いすを押させて外に出た。コンクリートの道は波打ち際へと続いている。傾斜を下り波打ち際に着いた。「もっと前へ」とジョルジュ。エヴは逡巡する。気配を察知したジョルジュは、「戻りなさい」。

 エヴはゆっくりと戻り始める。ジョルジュは車いすを海に突っ込んだ。波は胸まで届く。死を覚悟したジョルジュ。最愛の妻をなくし車いすのさびしい人生。もともと自殺願望を持っていた。今がチャンス。

 戻って行くエヴが振り返った。おじいちゃんが波に揺られている。スマホを取り出していつもする動画を撮る。どんなキャプションにしようかなと考えているんだろうか。「パパ」という大きな声。トマとアンヌが必死で波打ち際に走って行く。ここで映画は終わる。

 「ハッピーエンド」? 実に皮肉なタイトルだ。ヨーロッパは今移民問題で揺れていて、映画でもアンヌの婚約発表パーティにナイジェリア人を登場させたのも皮肉と言える。汚れのない真っ白な部屋で豪華な食事をたのしむ白い肌のフランス人、黒い肌に粗末な衣類をまとったナイジェリア人。

 「あなたはこれを見てどう思いますか」と問われているようだ。あなたはたまたま白い肌のフランス人に生まれただけ、彼もたまたま黒い肌のアルジェリア人に生まれただけ、どこに違いがある? 

 も一つ、エヴがスマホで動画を撮るがそのSNSについてミヒャエル・ハネケ監督の言葉がある。「そうですね。たとえばカフェに行って周りの家族やカップルを観察してご覧なさい。彼らは大抵、みんながそれぞれスマートフォンを見ていて、たいして会話もしていないでしょう(笑)。ソーシャルネットワークの発展は、ここ十数年でわたしたちのあり方を大きく変えたと思います。このわたしにしても、スマートフォンなしではもう生きていけない。それは便利で素晴らしい一方、大いなる危険がある。人とのダイレクトなコンタクトを失い、完璧に自閉症的になる。そういう自閉症的な社会を描くことに興味があったのです。もうひとつ言えることは、いまやどこにいてもみんなインターネットで何でも世の中のことを知ることができる。情報の洪水です。でもそれらは表面的なものだけで、実際に体験したことではない。それはリアリティとはまったく関係がない。結局我々は何も知らない、見ていないのと同じです。でもそれが現代に生きる我々の運命でもあると思います」そういうことでエヴの存在も納得というわけ。2017年制作 劇場公開2018年3月
  
  
  
  
  
監督
ミヒャエル・ハネケ1942年3月ドイツ、ミュンヘン生まれ。2001年「ピアニスト」でカンヌ国際映画祭グランプリ受賞。2009年「白いリボン」、2012年「愛、アムール」でカンヌ国際映画祭パルム・ドール賞受賞。

キャスト
イザベル・ユペール1953年3月フランス、パリ生まれ。
ジャン=ルイ・トランティニャン1930年12月フランス、ヴォクリューズ生まれ。
マチュー・カソヴィッツ1967年フランス、パリ生まれ。
ファンティーヌ・アルデュアン2005年1月ベルギー、ムスクロン生まれ。
フランツ・ロゴフスキ1986年2月ドイツ生まれ。
ローラ・ファーリンデン出自未詳。
トビー・ジョーンズ1967年9月イギリス、ロンドン生まれ。
コメント
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