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読書「偽りの眼FALSE WITNESS」カリン・スローター著2022年ハーパーコリンズ・ジャパン刊

2023-07-24 17:18:34 | 読書
 率直に言ってワクワクしながら読んだ本ではない。ジョージア州アトランタ、高層ビルが林立する一角にある、ブラッドリー・キャンフィールド&マークス弁護士事務所に所属するリー・コリアー弁護士は、オーナーのコール・ブラッドリーからレイプ容疑で起訴された男の弁護を優先するように命じられる。しかも裁判は一週間後という慌ただしさ。

 釈然としないまま依頼人の書類に目を通す。レイプ犯容疑とされている男は、アンドルー・テナントと言う。ビルの最上階にあるバーの設備とトロフィー類が飾られた豪華な会議室でアンドルー・テナントと婚約者のシドニー、それに母親のリンダと会った。その母親が言った。「私よりアンドルーの方が姉妹のことをよく知っているわ。当時、私は看護婦として働いていたの。夜勤が多くてね。信頼できるベビーシッターはリーと妹さんだけだった」

 リーは体から血の気が失せて冷たくなるような感覚を味わっていた。リーにはキャリーという妹がいる。そのキャリーが十代のころ、それは23年前リンダの息子トレヴァーのためにベビーシッターをやっていた。ところがリンダの夫バディ・ワレスキーというでかい熊みたいな男は暴力的で、キャリーを毎日のように犯し続けていた。

 そして悲劇が起こる。この日も暴力を振るわれ、セックスを求められて思わず包丁を一閃したキャリー。包丁はバディの太ももの内側大腿動脈を切り裂いていた。出血が止まらない。さすがの熊男も膝を折った。キャリーの急報で駆けつけてきたリー。結局どうしたかと言えば、まだ息のあるマディの顔に食品用のラップフィルムを巻き付けて殺害。体をバラバラにして埋めた。

 こういうことが出来るのは、リーが良家の出でなく、犯罪多発地域の出自だからだ。それでも苦学して、ノースウェスタン大学を首席で卒業したリー・コリアー。それを脅かすのは依頼人のアンドルー・トレヴァー・テナントなのだ。なかなか面白い着想だと思った。リー・コリアーが法を駆使してアンドルーを無罪にするのか。そしてその後の展開はどうなっていくのだろうと期待しながら読み進めた。

 ところがそうはならなかった。特にリーが妹のキャリーを心配する心情をくどいくらいに書き連ねる。結局、文体にリズムがないので途中で読むのをやめようかと思った。もう少し読者の想像力を信用してもらいたい。しかも文庫本上下二冊という長さ。

 そうは言っても文脈の中で知らないこと知るというお土産もある。エル・マクファーソン歩き、Nワード、エド・シーランなど。
 エル・マクファーソン歩きというのは、1990年代のスーパーモデルで現在56歳でも変わらぬ肉体を保持している。

 Nワードとは、黒人にないする蔑称ニガーのことである。

 エド・シーランは、イギリスのシンガーソングライター。曲を聴いたが私の好みではない。本にはなにかと得るところがあるものだ。
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映画「43年後のアイ・ラヴ・ユーRemember me」2019年制作2021年日本公開

2023-07-20 09:05:39 | 映画
 高齢の俳優によるコメディ・タッチの涙ボロボロのロマンス映画。クロード(ブルース・ダーン)は年寄りの特権、自由気ままを親友シェーン(ブライアン・コックス)と謳歌していた。そこに飛び込んできたのは、娘セルマ(シェンナ・ギロリー)の夫カリフォルニア州副知事アディソンが辞任するというニュース。理由が腹立たしい買春ときた。

 そこへ更にかつて演劇評論の記事を提供していたモントレー新聞から、元副知事の情報が欲しいと言ってくる。なんだかんだのやり取りのうち、電子版の話になり記事をスクロールしているとき、舞台女優リリー(カロリーヌ・シロン)がアルツハイマー病の記事にクロードが目を止める。編集長の話など馬耳東風、そそくさと帰宅。クローゼットの棚から段ボール箱を取り出し、かつて愛し合った頃のリリーとのツーショットの写真に手を触れる。「今でも愛しているよ」と呟く。

 リリーが老人ホーム「ロングウッド」で暮らしているのがわかる。クロードはアルツハイマー病患者と偽って、その老人ホームに入る。リリーに近づくが、当然クロードとは判らない。大学生の孫タニヤ(セレナ・ケネディ)は、父親アディソン元副知事のスキャンダルに嫌気がさし父親を軽蔑している。父親の低俗な冗談を嫌い家出をして、クロードの家にやってくる。

 老人ホーム側の入所者の娯楽として劇団を招く計画を変えさせ、タニヤ所属の大学演劇部が登場することになる。演目は、シェイクスピアの「冬物語」。勿論タニアも演じる一人。セリフを意識的に棒読みして、リリーの舞台女優としてのプライドを刺激する。案の定リリーは感情を込めて往年の姿を再現する。盛大な拍手とともに、クロードを認識する。喜びに震え、かつてリリーと踊った曲ジョージ・ガーシュインの「Embraceable you抱きしめたい」が部屋中に満ちる中、リリーの手を取った。しかも、わが娘セルマと孫のタニヤもクロードの家に移り住むことになる二重の喜びを味わう。ハピーでジンとくる映画だった。それでは「Embraceable you抱きしめたい」をエラ・フィッツジェラルドで聴きましょう。
キャスト
ブルース・ダーン 1936年シカゴ生まれ。演技派で重宝される。娘に力のあるローラ・ダーンがいる。
カロリーヌ・シロル 1949年パリ生まれ。2007年「エディット・ピアフ愛の讃歌」でマレーネ・ディートリッヒを演じた。
ブライアン・コックス 1946年スコットランド生まれ。
セレナ・ケネディ アイルランド生まれ。2017年から演劇活動。
シェンナ・ギロリー 1975年イングランド、ノーサンプトンシャー生まれ。

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映画「聖なる鹿殺しThe killing of sacred deer 」2017年公開

2023-07-13 16:01:58 | 映画
 この映画、つまらないと思う人もいるかもしれない。私も「つまらんホラー映画だな」と観終わったときに思った。しかし、よく考えてみると手術の失敗で家族の誰かを亡くした遺族の気持ちを考えたとき、医師は失敗を認めないだろうから、それではどうすればいいのか。この映画が一例を示してくれる。かなり飛躍はしているけれど……。

 心臓外科医のスティーヴン(コリン・ファレル)は、今日も心臓オペを終えた。過去に手術の失敗で患者を一人あの世に送っている。失敗の原因は何だったのか。それは飲酒の上でのオペだった。その罪悪感からか残されたあの世に送った男の十代の息子マーティン(バリー・コーガン)に何かと気にかけている。この日も高価な腕時計を贈ったりしている。
 スティーヴンは眼科医の妻アナ(ニコール・キッドマン)と長女キム(ラフィー・キャシディ)それに息子ボブ(サニー・スリッチ)と郊外の豪邸に住んでいる。

 このマーティン、突然スティーヴンの病院に現れたり、夕方に会いたいとか言ってくる。つまり相手の事情も考えない思慮に欠けた行いなのだ。それでもスティーヴンは、変わらない交流を続ける。自宅の夕食に招いたり、マーティンの家を訪ねて母親も交えて夕食を共にしたり、いわゆる普通の家庭のお付き合いではある。

 ところがある日、スティーヴンの息子ボブが両足で立てないという病魔に襲われる。精密検査、CTやMRIの結果も異常なしだった。執拗に付きまとってくるマーティン。しかも長女のキムにも同じ症状が現れる。不思議な力を持っているように見えるマーティン。やがてマーティンがむき出しの憎悪を見せるようになる。僕の父親という肉親が、先生のオペミスのために死んだ。だから先生の家族からも、犠牲者を提供する義務がある。スティーヴンは究極の選択を迫られることになる。

 この映画、理詰めで観ると全然面白くない。そうでなかったら、マーティン役を演じたバリー・コーガンの特異なキャラクターとともにホラー映画を味わえばいい。批評家の評判も良く10点満点で7点7になっている。しかもカンヌ国際映画祭でパルム・ドームを争い脚本賞の受賞と記念名誉賞をニコール・キッドマンが受賞している。ただし、家族で観る映画ではない。異様な感じの残る性的描写がるため。
監督
ヨルゴス・ランティモス 1973年ギリシャ生まれ。才能のある監督として評価されている。

キャスト
コリン・ファレル 1976年アイルランド生まれ。
ニコール・キッドマン 1967年ハワイで生まれ、オーストラリアで育つ。演技力も認められるハリウッドの美人女優の一人。
バリー・コーガン 1992年アイルランド生まれ。

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映画「ザリガニの鳴くところWhere the Crawdads Sing」コロンビア・ピクチャー制作2022年公開

2023-07-04 11:29:25 | お酒
 1969年10月30日ノースカロライナ州バークリー・コーヴの湿地に点在する沼の一つで、町の人気者チェイスが遺体で発見される。この事件の背景に、一人の女性の過酷な運命が隠されている。保安官事務所が容疑者として捕えているのは、湿地に一人で住むキャサリン・クラーク、カイヤと呼ばれる(ディジー・エドガー=ジョーンズ)。

 カイヤはもともと、父・母、姉二人、兄と住んでいた。絶えず暴力を振るう父親に嫌気がさして、母がいなくなる、そして姉二人も、兄も続く。父とカイヤの生活がしばらく続く、それも父親が去ってカイヤ一人残される。この設定が私にはどうしても理解できなくて、もやもやとした気持ちを持ちながらの鑑賞となった。

 子供を見捨てる母親と父親。こんな環境で育った子供は、どんな人間になるのだろうか。この映画は一つの回答を示している。沼で採れるムール貝を買い取ってくれた黒人夫婦の存在が、生き延びる術(すべ)を与えた。そういう生い立ちを語るカイヤの弁護を務めるのは、引退したトム・ミルトン(デヴィッド・ストラザーン)。

 成人したカイヤにもロマンスが訪れる。カイヤの兄の友人だったテイト・ウォーカー(テイラー・ジョン・スミス)との出会い。学校へ行っていないカイヤには、テイトからの読み書き、計算、読書の楽しさを教わり湿地の生物や植物の記録を始める。このころの二人は、恋人関係にあった。大学進学を決めたテイトは、必ず戻ってくると言ってカイアと別れを告げる。その時、書き留めた生物や植物の記録を出版社に送るといいと言って出版社のリストを書き残していた。

 音信不通状態が続くテイトとの関係の隙間に忍び込んだのがチェイス(ハリス・ディキンソン)。この男、婚約者が有りながらカイヤを口説こうとしている。町で偶然チェイスと婚約者に出会って、その事情を知るカイア。カイアは距離をおこうとするが、それでも付きまとうチェイス。

 遺体発見現場がやぐらの下ということで、落下したと推定された。鑑識による死亡推定時刻は、午前0時から2時の間。しかも赤い毛糸の糸くずが付着していた。遺族の話では、いつもしていた貝殻の素朴なネックレスがなくなっていたという。

 赤い毛糸の帽子が、カイアの家から発見されている。素朴な貝殻のネックレスは、かつてカイアがチェイスにプレゼントしたものだった。その事情は保安官事務所は、把握していない。検察官の主張は、証拠の赤い帽子と事件当夜、町で出版社の編集長と仕事の打ち合わせをしていたというが、バスの時刻表からみてバスで湿地に帰り事件を起こして引き返せるので犯人はカイアであると言う。
 形勢不利と見て取った弁護士のミルトンは、証言台にカイアを立たせようとするが、湿地の娘と嘲りの感情を持つ町民に前ではイヤだと明言。そこでミルトンは、最終弁論で「出された事実だけをもとに判断してほしい」と陪審員団に告げる。結果は無罪。

 映画はこれで終わらないのである。大学を卒業して戻ってきたテイトと結婚し、沼の生物・植物の図鑑も順調に発刊され、穏やかな人生が過ぎていく。やがてカイアが死を迎える。老いたテイトがカイアの遺品を懐かしむ。その時出てきたのが素朴な貝殻のネックレスだった。

 沼地でたった一人で生き抜いた女にとって、生きるとはどういうことかをよく知っている。この沼に生息するワニや毒蛇や鳥たちと同じように、災厄は逃げるのでなく叩き潰すことなのだ。冒頭に字幕が流れる。「沼は死を熟知している。死を悲劇にしないし罪にもしない」

 この映画を見た多くの人々の評価が高い。ただ、専門家と言われる批評家の評価は低い。「カイア役のデイジー・エドガー=ジョーンズは持てる力の全てを捧げている。しかし、結局のところ、『ザリガニの鳴くところ』は原作小説を再構成して、雰囲気に不自然なところがないドラマを作り上げることができなかった」

 この作品の製作に加わっているのが女優のリース・ウィザスプーンであり、劇中歌「Carolina」を歌っているのがテイラー・スウィフト。そして2023.4.16付けアメリカの最大スポーツ雑誌、スポーツ・イラストレイテッドから発表されたのは「人気ポップ歌手テイラー·スウィフトが次にデートしそうな男性のリストに大谷翔平が含まれました。テイラー·スウィフトの次の恋愛のオッズに関するプレスリリースを受け取りました。予想される名前に、Shohei Ohtaniも含まれています。現役MLBプレイヤーがこの様なものに含まれてからどのくらい経ちましたか、野球は再びクールになりましか?」という記事があった。

 ジョークにしてもテイラー・スウィフトのお相手が大谷翔平とは? 15年のうちお相手を16人も変えた女性スウィフトとなれば、翔平は知らん顔だろうけど。それにしてもエンタメ業界にも波及するとは、大谷翔平は世界の恋人にもなったのだろうか。余談はさて置いてテイラー・スウィフトの「Carolina」を聴きましょう。



キャスト
カイヤ役のデイジー・エドガー=ジョーンズ。1998年生まれのイギリスの女優。2020年のアイルランドのテレビドラマ「ふつうの人々」で主演。英国アカデミー賞テレビ部門賞にノミネートされた。
引退した弁護士トム・ミルトン役を演じたデヴィッド・ストラザーン。1949年生まれのサンフランシスコ出身。2005年公開の「グッドナイト&グッドラック」でジャーナリスト役を演じヴェネツィア国際映画祭男優賞受賞とアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。
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