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読書「パリのアパルトマンUn appartement a Paris」ギョーム・ミュッソ著集英社文庫2019年刊

2023-12-12 09:49:27 | 読書
 クリスマス休暇で賑わうフランスはパリ。今は亡き天才画家だったショーン・ローレンツが住んでいた家に逗留予定のイギリス人の元刑事マデリン・グリーン。それに加え アメリカ人劇作家のガスパール・クタンスが鉢合わせする。どうやらネット回線の不備で二人同時に滞在を受け入れたようで、どちらかが出ていかなくてはならない。

 この邸宅を貸し出したのは、ショーン・ローレンツの包括受遣者であり遺言執行人の美術商ベルナール・ベネディックで、マデリンはショーン・ローレンツの詳細を聞くはめになり、さらに行方不明の三点の作品捜索を依頼される。このようにして鼻っ柱の強いマデリンと風変わりなガスパールの共同作業が始まる。いくつかの迷路をたどって物語は終結するが。読んでいて楽しい作品ではある。

 著者の好みのものと思われる例えば音楽、クラシック(シューベルト ハンガリー風のメロディ、モーツァルト フルートとハープのための協奏曲、ベートーヴェン ピアノソナタ第28番)ジャズ(オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット)オールディーズ(ディーン・マーチン、ルイ・アームストロング、ナット・キング・コール、フランク・シナトラ)ワイン(ジュヴレ=シャンベルタン、シャンポール=ミュジニー、サン=テステフ、サン・ジュリアン)やウィスキー(日本製がよく出てくる)の蘊蓄、偉大な芸術家たちの金言、それに社会批評も含めて文中に散りばめられている。特にクリスマス休暇のフランスを皮肉を込めて表現してある。

 パリ症候群と題して「初めてパリを訪れる日本人や中国人のうち毎年数十人が深刻な心的障害の症状を見せ、頻繁に入院。あるいは帰国させられというのである。フランスに着いたとたん、彼ら旅行者は妄想やら鬱状態、幻覚、偏執症など奇妙な症状に苦しめられる。長い時間はかかったけど、精神科医たちがその原因らしきものを突きとめた。

 光の都として美化されたイメージと実際のパリとの落差により旅行者の違和感が高ずるからというのがそれである。映画や宣伝でもてはやされる『アメリ』(アメリは2001年4月に公開されたフランス映画で、アメリというパリジャンの日常を描きヒットした映画)のすばらしい世界を期待してきたというのに、彼らが味わうのは冷淡で刺々しい街の雰囲気だった。夢想していたロマンティックなカフェとかセーヌ河岸の古本屋、モンマルトルの丘といったパリ像は、サン=ジェルマン=デ=プレの不潔さやスリ団などの治安の悪さ、各種公害、大都市にありがちな醜さ、メトロなどの老朽化した交通機関といった現実を目にして崩れてしまう」という具合なのだ。

 また、絵画のシマウマの中にQRコードが隠されているというくだりがあって、ネットやコンピューターに疎いガスパールに「あなたは人間社会の外で生活しているから知らないのでしょうけど、今の世の中、これは当たり前のものだからどこにもこれがついている。包装用のダンボール箱、美術館の中の説明、カード、交通機関の切符とか……」とマデリンが言ってのける。

 QRコードは言わずと知れた日本の自動車部品メーカー、デンソーが開発したもので、特許権を行使しないと宣言していることもあって世界中に普及しているようだ。このQRコード、個人でも使えるので名刺なんかに利用するのもいいかもしれない。等々、他愛なお話しでした。
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読書「夜と少女La Jenne Fille et La Nuit」ギョーム・ミュッソ著集英社文庫2021年刊

2023-12-01 08:44:10 | 読書
 これは愛をめぐるサスペンスである。新刊が出るとみんなが競って買い求め、夏場の海辺のパラソルの下やそよ風の吹く自宅のパティオで読みふける作家トマ・ドゥガレが、久しぶりにニューヨークから自身の生まれ育った土地、南フランスのアンティーブの街に帰ってきた。

 それはトマが卒業した高校、在外駐在員の子女を修学させるために、フランス公立教育施設協会が1967年に創立したコートダジュールでは特異な国際高等学校なのだ。その創立50周年記念祭が行われるためでもあり、自身が犯した罪の発覚を怖れてでもある。

 トマの十代のころ強烈な恋心を抱いたのは、少女ヴィンカ・ロックウェル。2017年いつものカフェのいつもの席、風が松の枝を揺らすその下のテーブル、ヴィンカがいつも飲んでいたチェリーコークも注文する。音楽が流れていた。R・E・Mの「ルージング・マイ・レリジョン」。そして観た映画について熱っぽく語り合った。音楽が終わった。ヴィンガはレイバンのサングラスをかけてチェリーコークを一口飲むと、レンズ越しにウィンクを送ってきた。彼女のイメージが霞んで完全に消えてしまうと同時に、魔法のようなおしゃべりの時間も消え去った。トマはもはや、あの1992年の気楽な夏の暑さの中にいない。失われた青春時代の夢想を追って走り回り息を切らし、孤独で悲しかった。ヴィンカと会わなくなってから25年も経っていた。

 捜査当局は。哲学教師のアレクシス・クレマンとヴィンカが手に手を取って消えたと断定していた。否応なしに調査をするトマによって恐ろしい真実が明らかになっていく。トマの両親の秘密、トマに幼少の頃から思いを寄せる心臓外科医のファニー・ブラヒミの秘密、親友の政治家のマキシム・ビアンカルディーニの秘密、マキシムの父の秘密、そしてトマ自身の秘密。人間は家族のため、恋人のためそして嫉妬のために殺人を犯す。

 最終的に明らかになったのは、ヴィンカ・ロックウェルが生存していることだった。そういえばニューヨークの公園でちらりとヴィンカを見た記憶を蘇らせるトマだった。読者に今後の展開を(今後があるとすれば)委ねながら物語はこれで終わるが、その今後を考えるのも楽しいものだと思う。頭がよくて美人でスタイルのいいレズビアンのヴィンカ・ロックウェルの未来はバラ色に包まれている。作家のトマとの邂逅の末ハッピーエンドまたはヴィンカに薬物摂取の過去があるので身を持ち崩して悲惨な状況もあり得る。続きを書くとすれば、ハッピーエンドがいいかな。

 この小説を読みながらgoogleマップで南フランスのアンティーブの街を疑似体験をしてみると、道は狭いし国道も日本の二車線道路と同じ、ピザの店が多いし地中海料理を看板にする店のメニューを見ると、炒め物が多いし焼いた魚は丸ごとお皿に載っているし、日本料理のあの繊細さはない。ニースに近づくと海岸線も長い印象だが、私の住む千葉の60キロにも及ぶ九十九里海岸線が誇らしく思えてくる。

 R・E・Mは、1980年に結成されたアメリカのロックバンド。代表作は1991年の『アウト・オブ・タイム』でグラミー賞7部門にノミネートされた。収録曲「ルージング・マイ・レリジョン(Losing My Religion)」は全米4位を記録。Best Short Form Music VideoとBest Pop Performance by a Duo or Group with Vocalを受賞。(ウィキペディアより)2011年解散。
では、「ルージング・マイ・レリジョン(Losing My Religion)」を聴いてください。
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