邦題からくる印象は、50代の恋が甘酸っぱく描かれるのかと思うがさほど濃厚にそれがでていない。むしろ原題からのピッパ・リーの過去に多くを費やされる。現在と過去が交互に描かれてる。地味な映画ではあるが、しっかりとした視点や見識に裏打ちされた場面構成は、心地よい印象を残す。
例えばこんな場面。薬漬けの奔放な生活を送っていたピッパ(ロビン・ライト・ペン)は、あるパーティで作家のハーブ(アラン・アーキン)と出会う。30歳の年齢差があるがお金でなく何か心惹かれる。そしてある日ハーブの自宅で
ピッパ「わたしのどこが好き?」
ハーブ「君は見せかけとは違う。大変に知的だ。美人でありながら、そのことに無関心。どことなく悲しげ。そういうところが好きだ。ほどほどに」
ピッパ「その上着が好き」
ハーブ「それだけ?」
ビッパ「あなたの顔と声が好き、そして変かもしれないけど」
ハーブ「何が?」
ビッパ「あなたの感じていることを感じる。あなたが怒ったり喜んだり悲しんだりすると、私の体でそれを感じるの」
ハーブ「それはすごいな。君自身のことで、一番大事な点は?」
ビッパ「私はクズよ」
これ愛の告白そのものだけど、二人の間に甘い空気はなく淡々として事務的だった。30歳の年齢差の男女が置かれる雰囲気を的確に描いてある。ハーブのような年代(このころはまだ50代)になると、若者のような粘りつくような愛の告白とは無縁になる。
年を重ねてピッパは50歳になる。夫は80歳に近い。娘・息子にも恵まれた。そして、誰しもが考えるのが夫婦生活のこと。当然のようにベッドでは何も起こらない。この結婚生活について映画はピッパのセリフで次のように説明する。
「結婚は意志の問題。わたしは夫が大好き。でも、結婚が維持されているのは二人の意志。愛がすべてだと思っているなら誤解よ。愛は来ては去るそよ風」意志の問題として自分を納得させているピッパ。
しかし、夫婦の間には目に見えない小さな溝が刻まれていた。そしてその溝が現われる口げんか。
ハーブ「僕は生きたい。この数年君は僕を埋葬してきた。口に中で土の味がする。死んでほしいか?」
ピッパ「まさか」
ハーブ「君は僕を憐れみ始めた。僕を恐れている。すでに喪に服しているんだ」
ピッパ「あなたが老いて死ぬのが怖い当然だわ」
ハーブ「喪に服されるのは願い下げだ。僕は幽霊じゃない。生きたい。いつ死ぬか誰もわからん。僕を年寄り扱いするな!」
ピッパ「あなたは年寄りよ」
一方ピッパは、親友のカット(ジュリアン・ムーア)の34歳の息子クリス(キアヌ・リーヴス)とめぐり合う。ある夜のドライブで、遂に体を許してしまう。そうこうするうちに夫がこれまたピッパの親友と浮気をしていたのが発覚。離婚話の間に夫が死亡するが、ピッパは開放された気分に浸る。
そしてクリスとともに50歳の旅立ちと相成る。50歳の女が34歳の男と? 不思議がる必要はない。現代は30歳の年齢差であろうが、50歳であろうが恋のはじまりは、いたるところにある。
監督
レベッカ・ミラー1962年9月コネチカット州生まれ。劇作家アーサー・ミラーの娘でダニエル・デイ=ルイス夫人
キャスト
ロビン・ライト・ペン1966年4月テキサス州ダラス生まれ。’94「フォレスト・ガンプ/一期一会」でガンプが恋をするヒロインを演じて一躍注目された。
アラン・アーキン1934年3月ニューヨーク生まれ。相当な経歴の持ち主。’06「リトル・ミス・サンシャイン」で三度目の正直で遂にアカデミー賞助演男優賞の受賞を果たした。
キアヌ・リーヴス1964年9月レバノン/ベイルート生まれ。’94「スピード」で有名になり、’99「マトリックス」が決定打となって今や有数の男優の一人。
ほかにジュリアン・ムーア