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映画「3時10分、決断のとき(‘07)」

2010-01-18 11:49:56 | 映画

 久々に骨太の西部劇を観た。大体西部劇というのは、男くさい映画でひげ面で汚れていて、景色も干からびて乾いた砂の匂いがする。ここで描かれるのは、男の存在価値であって、女性は添え物に過ぎない。この辺も女性が敬遠する理由であり、この映画も女性好みの映画ではない。と、あるサイトで書いたところ、コメントを戴いたのは女性だった。私は男の思い上がりを、痛く反省した。
 小牧場主のダン(クリスチャン・ベイル)は、借金に苦しんでいて、貧乏な生活に妻や息子たちからも蔑みの目で見られていた。妻は借金は済んでいると思っているが、実は一部の返済に過ぎない。牛の餌や水、それに末っ子マークの薬代が必要だった。納屋を焼かれ牛も失いこの土地が抵当流れの危機に直面していた。
 駅馬車襲撃の現場に遭遇して早撃ちガンマン、ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)と出会い、おまけに酒場で逮捕されたベンを200ドル欲しさにユマ行きの列車に乗せるために護送することになる。この護送と列車の発車時刻3時10分前の駅舎でのダンとベンのやり取りがベンの琴線に触れるクライマックスとなる。
 ダンは北軍の元狙撃兵で脚に負傷している。ベンが問いただしても口を開かなかったが、駅舎で首を絞められながら言うダンの言葉。「誇るものが何もない。この脚だって退却のとき味方に撃たれた。事実を話したら息子たちはどう思う?」ベンの手が緩められた。男は誰だって、誰にも言えない負い目を抱えひたすら男であることを忘れまいとしている。
 この悪党だって心の奥に何を抱えているのか知る由もない。「ワルには非常さと瞬時の決断が必要だ。俺は殺人を躊躇しない」と言うベンという男。そのくせ聖書を精読していて、おまけに拳銃の銃把には、キリストの磔刑が彫られてある。
 列車が構内に入ってきて、囚人用貨車にベンを乗り込ませた。「よくやった!」ベンの言葉が終わらないうちに、ベンの子分チャーリー(ベン・フォスター)の銃弾がダンを倒していた。車外に出たベンに拳銃が渡された。銃把の磔刑を見たベンは、いきなりチャーリーと子分たちを撃ち殺す。おそらく心の中で、キリストの名に於いてと叫びながら引き金を引いたのだろう。まさに男の挽歌である。
 父を追っていた息子ウィリアムが駆け寄って瀕死の父に「尊敬するよ」。ダンは微笑んだ。正しいことを命をかけて子供に教えること、身をもって示したことに満足したのだろう。ベンは囚人用貨車に戻り、拳銃を渡した。列車は雪原の彼方に消えようとしていて、車内のベンが口笛を吹いた。瞬間に愛馬が列車を追っていった。
 さて、私はベンがすんなりとユマの刑務所に行ったのか、あるいは愛馬に乗り姿を消したのか図りかねている。むしろ愛馬とともにいずこともなく姿を消し、再び悪党の首領として暴力の美学を貫いて欲しい気もする。おそらく、これは観客に委ねられたエンディングなのだろう。クールな悪党ラッセル・クロウは、凄みにチョット欠けるが精一杯演じている。
 ダンの息子ウィリアム役のローガン・ラーマンの印象は、今後伸びる予兆を見た。老いたピーター・フォンダも好演していた。「ワイルド・バンチ」のヴァイオレンス、「ハイ・ヌーン」の孤独を連想させて、余情の残る映画だった。(残念ながら、わたしは古い映画の引用しか出来ない)

 監督ジェームズ・マンゴールド1964年ニューヨーク生まれ。‘05年「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」で、主演のリース・ウィザースプーンがアカデミー主演女優賞を受賞。
         
         右からラッセル・クロウ クリスチャン・ベイル 
         
         右からラッセル・クロウ ベン・フォスター
         
         右からクリスチャン・ベイル ローガン・ラーマン

ラッセル・クロウ1964年ニュージーランド、ウェリントン生まれ。
 クリスチャン・ベイル1974年イギリス、ウェスト・ウェールズ生まれ。
 ローガン・ラーマン1992年生まれ。
 ベン・フォスター1980年ボストン生まれ。
 ピーター・フォンダ1939年ニューヨーク生まれ。「イージー・ライダー」が印象的。父にヘンリー・フォンダ、姉ジェーン・フォンダ、娘ブリジッド・フォンダ。
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