goo blog サービス終了のお知らせ 

Wind Socks

気軽に発信します。

読書「リッチ・ブラッドRICH BLOOD」ロバート・ベイリー著 小学館文庫2025年1月刊

2025-02-17 11:19:02 | 読書と音楽と
 アメリカ南部メキシコ湾に面したアラバマ州に流れ込むテネシー川が、一時停滞するガンダーズビル湖周辺が舞台。州道431号、州間高速道65号線を走るとやたら目につくのは、「1-800GET RICH]」の大型看板。事故や怪我専門の民事弁護士ジェイソン・ジェイムズ・リッチが看板の主。ポルシェ911カレラカブリオレのコンヴァーティブルを駆る文字通りリッチな弁護士である。

 しかし人生は悩み尽きない。ジェイソンもアルコール依存症のよる暴力沙汰で施設に90日間入っていた。ようやく出られたと思うったら、姉ジャナ・ウォーターズが外科医の夫殺害の容疑者となってジェイソンに助けを求めた。刑事事件の経験のないジェイソンが、嘘をつくジャナをどのように弁護するのか興味深く読み進めた。

 ジャナが5万ドルの借金があるという、ドラッグディーラーのタイソン・ケイドという男の存在もこのシリーズの興味深い点だ。最後に「俺もトラブルに巻き込まれたら、誰に電話したらいいかが分かったよ。ジェイソン」

 それにこの著者も架空の街や場所を創造することはなく、実在するものを作中に取り込んでいる。フローラバマ・ラウンジ&パッケージング、ハンプトン・イン、ウィッツエル・オイスター・ハウス等。フローラバマ・ラウンジ&パッケージング についてChatGPTのmonicaに聞いてみると「フローラバマ・ラウンジ&パッケージング(Flora-Bama Lounge & Package)は、アメリカのアラバマ州に実在する有名なバーおよびライブ音楽のスポットです。フローラバマは、アラバマ州とフロリダ州の州境に位置しており、観光客や地元の人々に人気があります。ビーチの近くで、さまざまなイベントやライブ演奏が行われています」とある。

 また音楽も多彩だ。ダリアス・ラッカー「ワゴン・ホイール」、AC/DC「地獄のハイウェイ」、クリス・ジャンソン「バイ・ミー・ア・ボート」、ケニー・チェズニー「ノー・シューズ、ノー・シャツ、ノー・プロブレム」。いい曲ばかりだが、一曲を選ぶとすればポップスターからカントリーに転進した黒人のダリアス・ラッカー「ワゴン・ホイール」にしたい。ビデオの雰囲気もいいので。いずれにしても、リッチ・シリーズの今後が楽しみではある。

 著者ロバート・ベイリーは、アラバマ州出身。アラバマ大ロースクール卒業後、弁護士として活躍し、2014年に「ザ・プロフェッサー」で作家デビュー。以後シリーズ続編「黒と白のはざま」「ラスト・トライアル」「最後の審判」、スピンオフ・シリーズ「嘘と聖域」「ザ・ロング・サイド」、リッチ・シリーズ三部作。単独作品として「ゴルファーズ・キャロル」を発表している。(表紙見開きから)


読書「エイレングラフ弁護士の事件簿DEFENDER OF THE INNOCENT:THE CASEBOOK OF MARTIN EHRENGRAF」ローレンス・ブロック著 文春文庫2024年9月刊

2025-02-02 09:20:56 | 読書と音楽と
 主人公がマーティン・エイレングラフ弁護士で12編の短編が収録されている。マーティン・エイレングラフの人物像は、瘦身矮躯(そうしんわいく 痩せていて背が低い)で細長い口ひげ、薄い唇、落ちくぼんだ黒い目だが、それらを補うように着るものや椅子やソファやリキュール、コーヒーなどには最高の品物を選ぶ。
 
 例えば、真珠貝のボタンがついたダークグリーンのブレザーに、クリーム色のタブカラーのシャツ(タブカラーシャツは、左右の襟部分に先端をつなぐ紐(タブ)が付いているデザインが特徴)、シャツと同系色のフランネルのスラックス、ブレザーより濃いグリーンのシルクのネクタイ、結び目のすぐ下に、銀とブロンズ色の糸で一角獣と闘っているライオンの刺繡がほどこされている。シンプルで磨き上げられてエレガントなコードバンのローファーといういで立ち。伊達男と言えばいいか。これには遠大な男としての欲求が隠されている、 と思われる。それは最終章近くで明らかになる。

 ある男が言う「あなたのやり方はよく存じ上げています。エイレングラフさん。あなたの依頼人が裁判にかけられたことは滅多にないし、あなたが法廷に足を運ぶことも滅多にない。あなたが弁護を引き受けると、いつも不思議なことが起こる。証拠がすり替わったり、新しい証拠が出てきたり、別の誰かが自白したり、事件が事故になったり……そう、いつも何かが起こるんです」

 確かにそうなんだ。短編第1篇「エイレングラフの弁護」ではっきりとわかる。ドロシー・カルヘインは息子のクラークがフィアンセを殺した殺人容疑に問われている。クラークはオックスフォード大学に留学した経験があり、キャドモン会の会員になり会員証となる特製ネクタイを持ち帰った。(このキャドモン会は、チャットGPTに問い合わせても存在は確認できない。従って著者の創作だろう)凶器がそのネクタイであって殺人は確かな局面に至っていた。

 成功報酬制と言えばいいか、依頼人に有罪の結論が出されれば報酬はなし、いかなる形であろうとも自由の身になれば高額の弁護料が発生する。ドロシー・カルヘイン夫人の場合、7万5千ドルの負担がかかる。1か月後、息子は無事放免となった。しかし、カルヘイン夫人が気にかけているのは、息子のアリバイが明確になったのはいいが、オックスフォード大学のキャドモン会員専用のネクタイで三人の女性が殺されたことだ。そして不思議なことにエイレングラフ弁護士の経費の説明の中に、オクスフォード大学に行ってキャドモン会でネクタイを4本買ったというではないか。仰せの7万5千ドル(日本円で156円換算、1150万円ほど)を払ったのはいいが、すっきりとしないのは何故だろう? まさかと思うがエイレングラフに殺人や文書偽造や脅迫の疑いはないだろうか。それは大いにあるのである。

 エイレングラフは、詩集を読むことでマイナスイメージをいくらかでも和らげている。詩を引用したりして。各篇はお話としては面白いのだ。著者ローレンス・ブロックは、若いときというか書き出しの初期には、ポルノ小説も書いていたそうな。その片鱗が見えるのが、「エイレングラフの決着」「エイレングラフと悪魔の舞踊」である。

 「エイレングラフの決着」は、ドアを開けたときミズ・フィリップスはまぶしいほどの美貌の持ち主で、身長はエイレングラフより数インチ高い。一見無造作だが丁寧にカットされた黒髪、スーパーモデルのような顔立ち、小鹿のような大きな瞳、淫らに見える一歩手前のふっくらとした唇が誘うようだった。

 さてこのミズ・フィリップスだが、その名前は守衛に告げたもので本名はアリシア・レイヴェンストックという。かつてテグラム・ボーグという若い男を射殺したとして容疑者にされたとき、エレイングラフに助けを求めてきたのが、アリシアの夫ミラード・レイヴェンストックなのだ。しかも草々に容疑が晴れたため弁護料を値切っていったという顛末がある。

 夫がエイレングラフのことを散々こき下ろし値切ってやったと自慢げに言っていたのも影響したのか、離婚を決意したアリシアが相談に来た結果が今日なのだ。エイレングラフに依頼したおかげで、夫は刑務所へ、協力した刑事は自殺という結末を迎えた。新調した濃紺のピンストライブのスーツ、シャツはフレンチブルー色、生地はブロードクロス、襟はスプレッドカラーでお洒落なエイレングラフ。

 アリシアがとうとうと述べる感謝と喜びの声から沈黙が訪れた。目が合う。お互いの呼吸が同調し、沈黙のうちに親密さが深まっていく。最後にアリシアが言ったのは、余計な合いの手を省くと「あなたがドランブイ(リキュールの一種)を持ってきて、私がそれに口をつける前にふと思ったんです。私たちは寝室に行って愛し合ったあと、そのお酒を飲んだ方がいいんじゃないかって。あなたが私を求めていることは、私を見る目つきで分かっていた。それで気分を害したわけじゃないのよ、マーティン。あなたは下品でもいやらしくもなかった。とても素敵だった。私は胸のときめきを覚えた。実際のところ、あなたはとても魅力的な人よ。一緒にいたら安心でき、心からくつろげる。それであなたと寝たいと思った。でも、タイミングが悪かった。それにあなたにどう思われるか分からなかったし。だってそんなことをしたら、わたしのために親身になって仕事をしてもらうための色仕掛けと思われかねないでしょう。だからそのときは何もしないで、一緒にお酒を飲みノッティンガム・テラスの自宅に帰ったんです。でも今はもう何の問題もない。小切手を最初にお渡ししたのは、済ませておかなきゃならないことを先に済ませておきたかったから。私のろくでなしの夫と浅ましい警官についての話ももう全部すんだ。いま私はこれまで以上にあなたを求めてる。あなたもそうでしょ、マーティン」「これまで以上に」とマーティン「だったら、ドランブイは後回しにしましょ」

 このアリシアも相当な女なのだ。夫が撃ち殺した若いデグラム・ボーグと浮気していたのだ。そんな事情を知るエイレングラフ弁護士もしたたかな男といえる。「エイレングラフと悪魔の舞踊」の見開き1頁目につぎの詩が書いてある。
髪は白くなっても愛は緑なして育つ
今年は去年のことを知らない
昨日は明日に対してもう何も言うことはない 
アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン
アルジャーノンって聞き覚えがあるなあ、と思っていたら、小説「アルジャーノンに花束を」に登場するハツカネズミの名前は彼にちなんで付けられたものだという。それに「髪は白くなっても愛は緑なして育つ」っていいじゃないですか。に登場するハツカネズミの名前は彼にちなんで付けられたもの。
 海外ミステリーでは、音楽のヒントがよく書かれているが、今回はそれがない。私が選ぼうと思う。「You're A part of me」カナダ出身のアン・マレーが歌う。
 著者ローレンス・ブロックは、1938年ニューヨーク州バッファロー生まれ。20代のころから多数の筆名で旺盛な執筆活動を開始。ブロック名義では私立探偵スカダー、殺し屋ケラー、泥棒バーニイなどのシリーズが日本でも高い人気を誇る。アメリカ探偵作家クラブのエドガー賞最優秀長編賞を92年に「倒錯の舞踏」で受賞した他、同最優秀短編賞を2度受賞、94年には多年にわたるミステリ界への貢献に対して同巨匠賞を受賞している。代表作に「殺し屋」「八百万の死にざま」「泥棒は選べない」などがある。


読書「復活の歩みリンカーン弁護士RESURRECTION WALK」マイクル・コナリー著 講談社文庫2024年9月刊

2025-01-25 09:45:04 | 読書と音楽と
 ヒスパニック系ギャングのホルヘ・オチョアは、やってもいない殺人の罪で14年間コルコラン州刑務所に収容されていた。仮釈放なしの終身刑を服すこの刑務所で、生涯を全うするのはむつかしい。首を切られたり、切り刻まれたり、オカルト的妄想をもつ男が同房者の耳と指を切り落とし、ネックレスを作ったという逸話のある刑務所なのだ。

 生き延びたホルヘ・オチョアが放免される日を迎えた。それに尽力したのがアメリカの高級車リンカーンを事務所にする、ミッキー・ハラー刑事弁護士だ。待ち構えるのは、オチョアの家族、ミッキー・ハラーそれにメディアのカメラとレポーターたち。ニュースヴァリュ―は抜群で、カリフォルニアの有名人になったミッキー・ハラー。依頼は間断なくやってくるが、選別するのは異母兄のハリー・ボッシュ。数十年にわたる殺人事件を解決してきた刑事ハリー・ボッシュは、現役を引退してミッキー・ハラーの調査員を務める。

 ボッシュは一通の手紙に関心を寄せた。ルシンダ・サンズという女性で、保安官補の夫殺害の罪で仮釈放なしの終身刑を示唆され、無能で怠慢な弁護士の口車に乗せられて罪を認めてしまったという。この案件に取り組むのだが無罪放免という結末が見えているが、ライフルや拳銃、ナイフという凶器と同等の力を持つ言葉や頭の回転の速さで堪能できるのが法廷劇といえる。

 それらを楽しめると同時に著者の実在する場所や地域の引用は、何かしら役に立つのではないだろうか。こんな記述がある「ボッシュは北向き101号の入り口に入った。ロータリーにはテントや段ボール・ハウスが並んでいた。直近の市長選挙は、市にあふれかえったホームレス問題でどちらの候補が、ましな仕事をするかが焦点になっていた」これはアメリカが抱えている問題だ。こういうミステリー本にまで記述されのは、問題の深さが伺える。

 ドジャー・スタジアム 今や大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンさらに山本由伸、佐々木郎希も加わったドジャースの本拠地球場だが、150年前はチャベス渓谷と言って墓地だった。これは日本版ウィキペディアにも書いていない。

 イタリアン・レストラン「ドラゴ・セントロ」、ハリウッドの俳優御愛用のレストラン「ムッソ&フランク」などLA旅行には参考になる。そしてアメリカ特有の変遷、50年前違法だったマリファナが今ではカリフォルニア州では、制限付きながら買うことができる。

 そしてハリー・ボッシュ愛聴のジャズ、ターンテーブルのLP盤に針を落とす。ウェイン・ショーターの「ハリーズ・ラスト・スタンド」を聴きましょう。

  著者マイクル・コナリーは、1956年フィラデルフィア生まれ。フロリダ大学を卒業し、新聞社でジャーナリストとして働く、共同執筆した記事がピュリッツァー賞の最終候補まで残り、ロサンジェルス・タイムズに引き抜かれる。1992年作家デビューを果たし、現在は小説の他にテレビ脚本も手掛ける。2023年アメリカ探偵作家クラブ巨匠賞受賞。著書はデビュー作から続くハリー・ボッシュ・シリーズの他、本作につながるリンカーン弁護士シリーズ、女性警察官レネイ・バラードが活躍する「鬼火」「ダーク・アワーズ」「正義の弧」など多数がある。(本書カバー見開き1頁目より)

読書「終の市(まち)City in runs」ドン・ウィンズロウ著 ハーパーbooks2024年6月刊

2025-01-11 09:57:41 | 読書と音楽と
 ダニー・ライアンは「夢だ」と、恋人の心理療法士で大学教諭のイーデン・ランダウに言う。その夢が実現しつつある。ラスベガスのホテル王ヴァーン・ワインガードが進めているさらなるホテル買収を、横から手を出して手中に収めようとした。

 ラスベガスでホテル業の覇権を狙ったダニー・ライアンは、アイルランド系のマフィアの一員として名を馳せた過去がある。今は堅気とされているが、華々しく表に出られない。従って「タラ」グループの共同出資者の地位に甘んじている。しかし実際の経営にはアイデアマンであるダニー・ライアンの影響が大きい。ホテルを買収しカジノホテルを建て巨万の富を築いている。

 ヴァーン・ワインガードがデトロイト系マフィア アリー・リカタに上納金を払っていることもあり、調子に乗って横から手を出したダニー・ライアンに刺客が送り込まれる。こうして幾つも血が流れ悲劇が積み重なっていく人生。脳腫瘍のため他界したダニー・ライアンの意思を受けた息子イアンが、妻エイミーとともにダニーの遺灰を海に流す。有形のものは、必ずいつかどこかで無に帰する。ラストは哀切に満ちたものになっているが、跡を継いだ息子は、父親以上に事業を発展させるという一条の光が見えるのは後味のよさとして記憶に残る。

 本作は2021年「業火の市」、2023年「陽炎の市」に続く三部作の最終章ということになり、前二冊を読まなくても結構楽しめるものとなっている。私はドン・ウィンズロウの作品は、「ニール・ケアリー・シリーズ」や「ボビーZの気怠く優雅な人生」などでファンになったが、こんな犯罪小説を書くとは思いもしなかった。快い驚きでもある。

 さて、ダニー・ライアンは夢を実現しようと努力するが、夢を歌う歌曲も聴いていただきましょう。バリー・マニロウの「Who needs to dream?」とカーペンターズの「I won't last a day without you愛は夢の中に」です。

 著者ドン・ウィンズロウは、数々の賞を受賞し高い評価を受ける世界的ベストセラー作家。「野蛮なやつら」「キング・オブ・クール」「ザ・カルテル」「ダ・フォース」「ザ・ボーダー」「業火の市」「陽炎の市」といったニューヨーク・タイムズベストセラー作を含め、これまでに25作を上梓。「野蛮なやつら」がオリバー・ストーン監督によって映画化されたほか、「犬の力」「ザ・カルテル」「ザ・ボーダー」の3部作はテレビシリーズ化が決定し2024年に放送予定。現在複数の作品の映像化企画がパラマウントやNetflix、ワーナー・ブラザース、ソニーなどで進行中、ウィンズロウは本書を最後に作家を引退すると発表している。(本書裏表紙見開きから)