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読書 三島由紀夫「美徳のよろめき」

2006-12-17 12:54:39 | 読書

               
 こんな書き出しで、この作品は始まる。“非常に躾のきびしい、門地(もんち=家柄)の高い家に育って、節子は探究心や理論や洒脱な会話や文学や、そういう官能の代わりになるものと一切無縁であったので、ゆくゆくはただ素直にきまじめに、官能の海に漂うように宿命づけられていた、と言ったほうがよい。こういう婦人に愛された男こそ幸せである”

 それに三島の女性観が垣間見えると思うのは“節子は優雅であった。女にとって優雅であることは、立派に美の代用をなすものである。
 なぜなら男が憧れるのは、裏長屋の美女よりも、それほど美しくなくても、優雅な女の方であるから”という。確かにその通りなのだろう。

 二十八歳の節子は見合結婚をして、夫の愛の手ほどきを忠実に学習した。子供も一人できたが、何か不十分なものがあった。
 結婚後三年もたつと、夫婦の営みは疎遠になった。結婚前避暑地で知り合った男と交わした稚拙なキス(三島は接吻と書いている)を暇なときなどに思い出していた。

 夫からは巧みなキスを教えられ、時折町のレストランやダンスパーティなどで出会うその男に応用してみるという空想にとらわれたりする。
そして、その男とよろめきの軌跡をたどることになるが……
 文章は長々と続き、一人の女の心の深淵を解き明かしてくれる。この作品は、1957年(昭和32年)4月号~6月号にかけ《群像》に発表されたもの。
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