Fish On The Boat

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『きみ去りしのち』

2016-04-18 01:03:50 | 読書。
読書。
『きみ去りしのち』 重松清
を読んだ。

まだ1歳の誕生日を迎えたばかりの息子を失くした父親の旅の物語。

出だしがうまいなあ、
と最初は技術的なところに目を向けて読んでいたのですが、
読み終わる頃にはそういうことよりも
物語に入り込んで味わうというふつうの読書になっていました。
物語の中へと引き込む力に負けたのです。

それに、だんだん、登場人物の動きやセリフが
こなれていったのだと思います。
それで、読んでいて自然に感じられる土台が前半部分に作られて、
その貯金分みたいなもので、
後半の大事なところをスパートをかけているような感じでしょうかね。
こういうのは、長編だからこそ効く「溜め」と「解放」なんじゃないか、と、
長編を書いたことのないぼくは考えるのでした。

第五章では熊本が舞台になります。
なに言ってるんだとおもうひともいるでしょうが、
熊本地震とシンクロしてしまった感があります。

はじめて小説を書いたひと月後に東日本大震災が起きました。
今回、4作目を書きあげてひと月後に熊本地震。
小説を書くと1/2の割合で地震が起こっています。
まあ、ナンセンスな話だけれど、
縁起を担ぐひとならやだなあって思いますよね。

物語のほうはというと、
主人公は、最初は北へ北へと進み、それから西へ西へと進んでいきます。
東京を中心に、です。

幼い息子の死をうまく受け入れることができず苦しむ主人公と、
同様に苦しむ、妻の洋子。
そして、前妻との子である明日香と父親の微妙な距離感での再会。
そしてその前妻の向かっていく死というもの。

全9章のうち、それぞれの章に、
それぞれ個別の、人生の問題や壁のようなものが描かれています。
そうしながら、全体として、主人公たちの問題が、
解決へなのか、消滅へなのか、進んでいく。
人生を省察したその知見からの描写や語りにこそ、
重松清が読ませる力が宿っているように思います。
いろいろと取材にもとづく描写や知識が語られていて、
勉強しているなあと感じさせられても、
そこはやはり二番手の感慨なような気がするのです。
物語の構築上、リアリティだとかをだすための
素材なんだよなあという感じ。

重松さんは、オトナであるだけでなく、
子どもの心理にもよく通じていると思いながら読みました。
ぼくの子ども時代に感じたことを掘り起こされるような
気さえしました。
そういうところが、
重松さんの一番のストロングポイントなのかもしれないです。

おもしろかった。


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