Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『人魚姫』

2013-11-27 22:04:20 | 読書。
読書。
『人魚姫』 アンデルセン 絵:清川あさみ 訳:金原瑞人 写真:鈴木理策
を読んだ。

アンデルセンの名作『人魚姫』を、
清川あさみさんが刺繍やビーズで作った布の「絵」で彩る絵本です。

僕は、『人魚姫』の話を、140字くらいのツイッター程度の要約みたいなものでしか
知らないというか、覚えていないというか、その程度の認識加減だったので、
今回アマゾンで本書を見つけた時には、これは楽しめそうだと直感して、
購入したのでした。

清川あさみさんについては、『美女採集』という展覧会を今年の春に札幌で
見てきたので、細かい刺繍やビーズで作られた、特有の美しい世界に触れた経験から、
きっと、このコラボも想像以上のものになっていそうだし、
第一に、写真を使わない刺繍とビーズだけのこの「絵」で、
清川あさみさんをもっとよく知れるのではないか、と思いもしたのでした。

読んでみて、清川あさみさんの刺繍とビーズによる「絵」は『人魚姫』にぴったりでした。
そればかりか、物語の世界のイメージを牽引する役割もはたしていました。
「『人魚姫』をね、こういう視覚的な世界観でもってイメージして読んでみると、
どうですか、本当に宝物みたいな物語に感じられるでしょう?」とでも
言われるかのように、そのとおりに、豊かな『人魚姫』の世界に連れ立っていってくれます。
童話なんだし、それぞれ読む人のイメージのほうが豊かなんじゃないのかな、と
思う方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも、僕が物語だけから
イメージを喚起するものよりも、優れたイメージの提案がなされていたんじゃないかな。
とはいえ、人魚姫の具体的なイメージ、それもリアルにイメージさせたら、
僕のほうがこの「絵」よりも具体的で美しいものが頭の中だけならば出てくるかもしれないですけれど、
この清川さんの「絵」の抽象世界具合がまた美しいのであって、素晴らしいのです。

さてさて、『人魚姫』の物語自体はどうだったかというと、実に面白かったです。
アンデルセンは19世紀のデンマークの人で、『マッチ売りの少女』もこの人の作です。
それぞれの世界を越えて結びつくことのむずかしさ、もしかすると、分不相応さには
不幸が訪れることをさとす話かもしれない。
それでも、それにあらがう勇気だとか気持ちの強さ、そしてもっと根本の「愛」というものを
アンデルセンは否定していないし、それが美しいのだと考えてもいると思いました。
『マッチ売りの少女』だったらば、不幸なマッチ売りの少女に訪れるマッチを擦った時だけに
現れる想像上の幸福というような、ある種、その少女の人生を不幸一色じゃないとする弁護というか、
弁護しながらもこれじゃいけないだろうという問題提起もさりげなく感じれたりもするような気がします。
両者に通ずるのは、主人公が痛みや苦しみに耐えるところでしょうか。
耐える美しさがそこにありますし、周りから見れば、耐えさせないで解放してあげたい気持ちが働くでしょう。
実は『マッチ売りの少女』も140字の要約といった具合のツイッター程度の知識しかないので、
あまり深くは追求できません。追求できないのならはじめから書かなきゃ良かったのかな…。

童話と言ったって、『人魚姫』は全然、薄っぺらじゃないです。
人魚の妖しさもあるし、人間から思われている人魚の魔性についての言及もあるし、
それでいて、人魚世界の美しさが語られていて、そういったところだけでも、深みがありますよね。

本書は税別で2000円でちょっと高い大型本ですが、
プレゼントに喜ばれそうな作品ですし、自分で買っても大事したくなるような本です。






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『科学と宗教と死』

2013-11-24 22:43:09 | 読書。
読書。
『科学と宗教と死』 加賀乙彦
を読んだ。

著者の加賀乙彦さんは、作家で精神科医でキリスト教徒。
1929年生まれですから、もう八十余歳になります。
Wikipediaで調べてみると、谷崎潤一郎賞などいろいろな賞を取っていて、
僕が知らないだけで、著名な作家の人なのでしょう。
本書はそんな加賀さんの自伝的要素の濃い、柔らかい言葉で読みやすい論説文です。

東日本大震災によって意を深めたといった感じで、
宗教、そして祈りというものの意味の大きさを読者に問いかけます。
この「祈り」についての考えは、僕がこの間書いた短編、
『忘れられた祈り』のテーマとかなり通じるものがありました。
この小説を書くにあたって考えたこと、書いているうちに出てきたことなどが、
加賀さんの「祈り観」と相当な部分で重なっています。

また、政府というものは信用できないものだということを、
戦時中の大本営発表と震災時の「ただちに健康に影響はない」というアナウンスとを
共通するものとして捉え、切り捨てています。

後半になって、かなり宗教論の色合いが濃くなりますが、
その中でも、仏教での親鸞の言葉などが面白かったですね。
吉本隆明さんの親鸞の本を読んだことがあったんですが、
それはけっこう難解なうえに、もうほとんど覚えていないのですが、
本書で触れられた親鸞のことについては、そういえばそうだった、といった感じに
ついていくことができました。
親鸞とキリストの共通点などは、聖者としての高みが両者とも同じくらいだったのかなと
思えました。

生々しい「死」の感覚、それは著者にとっては、「死は鴻毛より軽い」と教えられた
軍国主義の時代での死生観がまずありながら、戦時中の空襲での黒焦げの死体、
戦後まもない頃の新宿駅などでの、復員兵などの餓死した死体などを見て形成された意識で、
現在のように、ドラマや小説や映画などでありふれた
「にせものの死」で濁されてしまう「死」の感覚とはまったく違う、
そういうふうに著者は書いていたと思います。
それが震災によって、人々はそれまでのウソの「死」から生々しい「死」を
感じ直すことになった。
それで、そういう「死」を目前にした今、祈りや宗教が大事なんじゃないかと
主張しているわけです。

柔らかな筆致で、かゆい所に届くように、深い思索をわかりやすく
表現してくれている、そんな本でした。

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『地球が教える奇跡の技術』

2013-11-20 23:14:53 | 読書。
読書。
『地球が教える奇跡の技術』 石田秀輝+新しい暮らしとテクノロジーを考える委員会
を読んだ。

シロアリの巣(蟻塚)からヒントを得て生まれた無電源エアコンの技術。
汚れのつかないカタツムリの殻からヒントを得て生まれたキッチンシンク。
などなど、そういった、自然世界由来のテクノロジーを集めて紹介する本かと思えば、
それはほんとに序盤と終盤だけで、あとは地球環境問題の話だったりします。
地球環境とくに、エネルギーの枯渇と気候変動によって、2030年頃に世界は
もしかすると気候崩壊というめちゃめちゃな世界に陥る可能性があるんです、
だから、ライフスタイルを変えていかねばいけません、たとえば…というような
語り口で語られるのが、本書の内容の中核部分です。

本書では、ちょっと駆け足ながらも、オーガニック野菜や
エコロジカル・フットプリント方面の話から、
地下資源、鉱物や化石燃料の埋蔵量と採掘可能量及び年数といった話、
江戸文化に見る、粋というスタイルを見つめ直す話などなど、
範囲を広くあつかっているせいもあって、固有名詞などの説明はあまりなく、
少しは環境問題を知っている(新聞を読んでいる程度でしょうか)ことが
求められます。

それで、鼻息荒くまくしたてる論調ではなく、慎重な態度のように
読み受けられました。ただ、一か所、「○○そうに思えますよね」という、
一見よさげに思えることを、科学的なデータなどを挙げていないにもかかわらず
奨励するようなところがあって、そこはマイナスかなぁと読みました。

本書は震災以前に出た本です。
なので、原発への態度はどうかなと思いましたが、
まぁやっぱり詳しくはありませんが、おおむね今の時代で原発について
いやでも勉強した人は、読んでその言葉足らずな部分も読むことができます。
脱原発の姿勢です。

そんなわけで、本当は、もっと自然界からの恩恵として得たテクノロジーの
話を目的として読みたかったのですが、それはここで読んでくださいと、
本文中に紹介されているサイトがありました。
すごい自然のショールーム
なので、そういうテクノロジーについてだけ知りたい人は、
このサイトだけで事足りてしまいます。
環境問題についての知識や考えを深めたい人は本書を手にとってみてください。

クモの糸は鉄よりも軽いのに強度が同じくらいでしたっけ、
そんなすごいモノらしいのですが、数年前に日本の若い人が率いるベンチャー企業か何かが
人工的に生み出すことに成功しましたね。
これは今後の展開に注目だなと期待していますが、それからはけっこう静かなようで。
そのうち、衣服もクモの糸製のものにかわっていくかもしれないですよね。
丈夫そうだけど、暖かいのかなー。

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『徳川将軍15代 264年の血脈と抗争』

2013-11-10 23:17:20 | 読書。
読書。
『徳川将軍15代 264年の血脈と抗争』 山本博文
を読んだ。

そのタイトルの通り、徳川15代将軍それぞれの跡の継ぎ方を主として
徳川家を説明する本です。
誰がどんな女性を正室や側室に迎えたり手をつけたりして、誰が生まれて
どこへ嫁いで行ったかとか、跡を継いだかとかばかりで200ページが過ぎていく本です。
しかし、読んでいて、江戸時代の流れというのはやはり将軍が中心なので、
そういった血脈と抗争の歴史が十分に江戸時代のある意味では中核として見てとれるんですよね。
まぁ、庶民の側からも江戸時代をみてみなければいけませんが、
政治だとか諸大名や朝廷などとの関係は、こういった血脈の部分からしかわからなかったりします。
また、そういう血筋の良い女性ばかりを大奥に入れて手をつけていたのではなく、
そこかしこから気に入った女性、たとええば農家の女性や町民の女性、旗本家の女性などに
来てもらって手をつけることも茶飯事だったみたいですね。
そうして、11代の家斉は、53人の子どもを作ったようです。
本書では著者が、そんな家斉に対して「慎みのない行動を」とたしなめた様なことを書いていたりします。
僕の知識では、大奥に似たものには、中国の後宮を思い浮かべるのですが、
たとえば漢の時代の景帝は家斉くらいの子だくさんで、三国志の主人公劉備は、
そんな景帝の子孫ということになっていたりします。
しかし、子だくさんだと、どこに嫁にやろうかとか婿に出そうかとか大変だそうで、
持参金の問題もあって、こういうところで幕府の財政は疲弊したようですね。

家康の時代はドンと構えながらも神経をとがらせている感じで過ぎていき、
吉宗くらいになると、なんだかほんわかした平和の中でのいざこざといった感じがしてきて、
幕末になると、もう現代のような神経の使い方で気ぜわしく、
もう世の中がうまくまとまらない感じの中での徳川家の話になっていました。
264年の長きにわたった幕府ですからね、そういった空気感の違いって出てきますよね。
それにしても、夭逝した子どもたちが多いです。
昨今の平均寿命の伸びは長寿化もありますが、子どもの死亡率の低下が大きいなんて言われますよね。
そして、15代も将軍がいれば、おっとりしたのも名君も言語に障害があるような人も出てくる。
一つの家系をずっとみていくと、平均してそんなものなのかなと思ったりもします。
健康体ばかりが輩出される家系があるならば、すごいですよね。
医療の進歩で、そういう家系が今後増えていくのでしょうねぇ。

本書は、江戸検定試験に役立つ本に認定されているのかな?
そんな印が付いた本です。200pちょっとでまとまっているので、読みやすかったです。
あとがきには、15代慶喜以後、16代当主となった家達以後のこともちょっと書いてありますので、
興味のある方はそこも含めて楽しむと良いでしょう。


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『大震災後の社会学』

2013-11-07 23:18:07 | 読書。
読書。
『大震災後の社会学』 遠藤薫:編著
を読んだ。

2011年3月11日14時46分に発生した東日本大震災。
そこから見えた、現代日本の社会システムの有り様、
被災直後の被災地などの様子から考えること、
そういったことを論じた本ですが、
いくらか、象牙の塔的な、大学の研究室に篭って書きました的な、
思考や論理や理論などの頭でっかちさが気になりもする本でした。

というのも、この本よりも先に、同じようなテーマの本である、
東浩紀:編『思想地図β vol.2』を読んでいたからでした。
『思想地図β vol.2』のほうが、実際の被災地の状況にこまかく、
ソーシャルメディア空間の出来事にもくわしく、
それらからのフィードバックは、現場主義的なスタンスを基礎としていて、
現実に見合っている、論考集というよりはルポルタージュ的性格の強めの本でした。

それが、今回の『大震災後の社会学』だと、
一人の頭を絞って、なんとか絞り出したものでできている論考集といった性格が強いです。
といったって、データや取材を元にしていないわけではないですし、
役に立たないことを述べている本でもない。
ようは、読者の好みの面も関係するかもしれない。
『思想地図β vol.2』が対象に対して直截的な性格をしているとすると、
本書は、対象から抽出して加工し、学問として扱える形に
一般化するような性格をしているように読めました。
時間がある人や興味のある人は、あわせて読むといいですが、
震災被害の深みに触れる意味では、『思想地図β vol.2』のほうが
読むべき本かなと思います。

『大震災後の社会学』、本書は7つの章と序章、最後の章の9つで構成されています。
世界から見た東日本震災というテーマもあれば、
震災で浮き彫りになった日本の社会システムの脆弱性もありますし、
ボランティア活動に的を絞ったものもあれば、
防災システムの在り方を論じたものもあります。
そういう意味では、多角的なのですが、
視点が施政者の側に立っているような書き方なのです。
筆者たちが若い人ばかりなので、そうなったのかもしれませんが、
チーフの遠藤さんが書いた序章からして少し鼻息の荒いトーンに
読めますので、そこらへんのコンセプトがもうそうだったのかなぁと
考えたりもしました。

もう少し、自分の足で稼ぐような、
行動で得た情報が満載の本だと読むのがはかどったかもしれないです。
学問的に震災を分析して考えていきたい人は勉強になるでしょう。
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『潔く柔く きよくやわく』

2013-11-01 14:59:49 | 映画
長澤まさみさんの主演映画『潔く柔く』を観てきました。
原作はいくえみ綾さんのコミックで、女性の間ではかなりのヒットした作品のようです。

そういう女性向け漫画が原作なので、
女性が特に楽しめるような、男性はなんとなくしかわからないような
映画になっていやしないかなと少しばかり心配していましたが、
それはまったくの杞憂で、頭の先からつま先まで映画の世界に浸かりながら観られて、
心が静かにしゅわしゅわするような感じで感動したり泣きそうになったり、
ときにはくすっと笑えたりと、充分に楽しませてもらって帰ってきました。
傑作です。

主人公カンナ(長澤まさみ)の、罪が無くさわやかで甘い青春が突然の終わりを告げる。
そして抱えた苦しみ、痛み。
一方、ロクも独自の苦しみを抱え持っていたわけで。
そんな二人を中心に話は進んでいって終わっていきますが、
全編にわたって、フィルムの淡い感じの色遣い、セピアがかった色遣いがやさしいのです。
あれは苦しみや痛みのみの色遣いではありませんね。
彼らから発せられる、苦しみを抱えたうえでの切なさややさしさ、そしてそれとリンクして、
見守るほうの(これは監督や観客の視点であり、神の視点です)暖かさや慰めやよりそう感じを
表しているでしょう。そしてそれは、人生の苦みを通り越した上での「潔く柔く」
つまり、潔くて柔らかい感じでもあると思います。
映画が終わって流れてくる斎藤和義さんの「かげろう」という曲のテンポやサウンドも、
それらとピッタリでした。そういうわけでこの映画の世界観の構築面は抜群です。

また、ここでは紹介しませんが、印象的なセリフも多数ありました。
哲学的、というと堅苦しく聞こえてしまいますが、
カンナたちが人生や苦しみに真正面から向かいあったからこそでてくるような
思いや達観やらがときにセリフになって彼らの口から発せられます。
そういうところを流してみてしまわないように、ぜひとも
観に行く方はなるべく途中でトイレに立たないでほしいですね。

それにしたって、長澤まさみちゃんは美しいわかわいいわスタイルがいいわで、
ストーリーの導入時は彼女に魅了されていて、そのうちにいつのまにか
映画に引き込まれていました。素晴らしい女優さんです。

一昔前は、秋になると女性が好きそうな切なかったり
コミカルだったりしながらちょっと泣けるような
ハリウッド製の恋愛映画が公開されたものですが、
邦画でもこんなに観ていて夢中になってしまう恋愛映画が
公開されるようになったなぁと感じていました。

お金を払って、時間を作って観るだけの価値のある映画でした。
それでリターンが倍返しです。

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