Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『明日の幸せを科学する』

2017-11-27 22:42:15 | 読書。
読書。
『明日の幸せを科学する』 ダニエル・ギルバート 熊谷淳子 訳
を読んだ。

ハーバード大学の心理学者が、
心理学や行動経済学、社会学などを駆使して、
どうやったら、未来の幸せを的確に予測できるかについて、
多数の実験例を紹介しながら考えていく本です。

個人的に、序盤からもうアツいです。
なぜなら、最近、いつも頭の中で転がしている考えと
おなじ考えを著者が述べて始めたからです。

<人間はコントロールへの情熱を持ってこの世に生まれ、
持ったままこの世から去っていく。>
というわけで、常々ぼくも考えていることですが、
ひとは自分自身にしろ他者にしろ、
支配したい欲求にがんじがらめですよね。

<生まれてから去るまでのあいだにコントロールする能力を失うと、
みじめな気分になり、途方にくれ、絶望し、陰鬱になることがわかっている。>
自律性(自己コントロール性)が他律性にとってかわられると、
生きることに随伴している幸福感が消し去られてしまうんです。

また、他律性を発揮する人も、
そのコントロール性に幸福感や活き活きした感覚を得るようですが、
その他律性を取り上げられるとダメージを受けて生命力も衰えるとのこと。
ならば、はなから他律性については否定的にとらえて生きていた方がよい。
ぼくはそう考えていました。

と、まあ、ここまではさわりの部分であって、
その後、本書の論旨はここから離れ、
いかに人は錯覚し、今現在に引きずられ、
ものごとを合理化してしまうことについて、
語られていきます。
それらがあるために、
人は未来の幸せをちゃんと予測できないのです、と論証していく。

また、ちょっと寄り道になりますが、
こんな金言もありました。
<説明は、経験から感情の衝撃を奪ってしまう。
経験をさもありがちなことに見せ、それ以上考えるのをやめさせるからだ。>
論説書のほうが小説よりも多く読んでいる
---そしてたまに小説を書くという行為をする---
ぼくが自覚していないといけない点でした。

さあ、ここからはいきなりネタバレになってしまうのですが、
結論として、どうやったら一番、未来の幸せを予測できるのか、
その方法として、自分の未来について想像するよりか、
それを経験している他人の話を聞いたほうが、
断然、役に立つと結論づけています。
他者の経験をものにしろ、経験を盗め、ですね。

そういうわけで、コミュニケーションが大事なんだよ、
っていうところに修まってきます。
他人の話や経験談を聞くことなんですよね。
自分が経験できないことを教えてもらう。

大事になってくるのは、
ストレスの少ない、円滑なコミュニケーションの雰囲気作りですかねえ。
システムづくりといってもいいですが、
もっとふわんとしたものなんじゃないかなぁ。

人は、グループに溶け込みすぎないことを好むことも、
本書で述べられているところなのですが、
だからといって、孤独を好みすぎると、幸せを掴みづらくなりそうです。
まあ、ここでいう孤独は、完全に内に閉じちゃうことで、
ネットの中でも、他者の書いたものを読まないだとか、
ほんとうに遮断してしまう人のことをいいます。

本書を読み解いてみて、
そして、自分なりの観点をまじえると、
ひとりでいること、つまり他者との距離をとりつつも、
本だとかネットだとかが中心だとしたって、
他人の経験は役に立つんだろうね、
とそのように要点をとらえました。

例えると、競馬でですね、
厩舎のコメントやJRA-VANっていうソフトから得られるデータ
(京都競馬場の芝1200mはどの枠のどんな脚質の馬が有利)
を摂取して馬券を買うことって、
レースでどれが一着二着三着になるかという未来を、
他者の経験や事実から予測することです。
そういうのを信用したほうが、
個人的には的中率は上がるなと感じていますから、
本書の論旨も間違っていなそうだな、なんて
現実的に腑にも落ちました。
そんな理由かい、と思われそうですけども。

さてさて、
久しぶりに星を五つ満点でつけたい本でした。
おもしろかったですよー。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『O・ヘンリ短編集(二)』

2017-11-12 22:50:09 | days
読書。
『O・ヘンリ短編集(二)』 O・ヘンリ 大久保康雄 訳
を読んだ。

子どものころに読んだ記憶のある『賢者の贈りもの』から始まる、
短編作家のレジェンド、O・ヘンリの作品集第二集です。

『賢者の贈りもの』は、年若く貧しい夫婦が、
お互いにクリスマス・プレゼントのために、
自分の大切なものを手放してプレゼントを買う話。
子どものころには、なんて悲しいんだろう、
どうにもやりきれない、と感じていたように思う。
いまはもうちょっと、苦味と、あたたかさまで感じてしまった。
そして、子どものときも、今も、この作品からは、
言葉にするまでもなく、まずその第一に、
美しさをずばっと感じています。

「第一集」にくらべて、
まあ、読んでいるときのこちら側のコンディションは
大いに関係あるでしょうけれども、
そういうのを抜きしていえば、
迫力とひきつける力の強い「第二集」と言えますかね。
読んでいて夢中になる感覚、
意識する前にぐっと取りこまれてしまう感覚、
そういうのが強く、この読書にはありました。

オチが読めるものも何作品かあることはあるのですが、
語り口が軽妙で、おもしろいんです。
もちろん、翻訳の妙でもあるのでしょう。

本作品で最後の短編である「運命の道」は、
これはこういう読み解き方でいいのかわかりませんが、
滑稽小説だよなと読んで、気にいってしまいました。
ずっと昔の小説でも、現代に通じるようなシニカルさです。
笑いととらえていいのか迷いますが、
これは笑いとしてはよく出来ているように思いましたよ。
最近のコントはTVでたまに見ると、
かなり食いついているような笑いだとして、
くつくつと笑っていますが、
この作品を現代のコントとしても、
まあ「古典的」とされるかもしれないですが、
それでも、安心して笑いながら、
その裏にある狂気みたいなものにも
腹をよじれさせるひとは多いのではないでしょうか。

ということで、第二集を読んで、
ますますO・ヘンリが好きになったのでした。
おもしろい。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『言える化 「ガリガリ君」の赤城乳業が躍進する秘密』

2017-11-05 21:44:16 | 読書。
読書。
『言える化 「ガリガリ君」の赤城乳業が躍進する秘密』 遠藤功
を読んだ。

僕の子どものころから大人気のアイスキャンディー、
「ガリガリ君」や「BLACK」をはじめとする、
「強小」企業・赤城乳業。
2000年には「ガリガリ君」の年間売上本数が1億本を突破する。
2012年には、なんと4億本を突破します。
ここまでの国民的人気アイスキャンディーをつくり、育てた赤城乳業とは、
どんな会社なのか。
「言える化」を重要なポイントとして見ながら、
若手起用、薬品工場並みの衛生管理を徹底した新工場、遊び心、などを紹介します。

赤城乳業は活力のある元気な会社で、
若者が活躍しているのが読んでいてわかるのですが、
こりゃここで生半可な気持ちで仕事していると潰れてしまうなと思いました。
会社に片足突っ込んでる態度じゃ仕事にならないです。
そういうところでの、就活での相性はあると思います。

しかし、モデルとして見習ったらいいのでは、
と強く心が躍るようなポイントがあります。
その最たるところが、さっきも言いましたが「言える化」なんですね。

よくあるように、経験がある者がすべてやっていくようでは、
人は育たないし新しいアイデアや発想は生まれない。
干渉するのは容易く、放置するには忍耐がいる。
そこを踏まえて「言える化(社長や役員など上層のひとにとっては「聞ける化」)」できると、
組織は活性化するんだと分析している。

個人的な感想ですが、
経験のあるそれなりに歳をとったひとばかりで議論をして、
良いの悪いのを決め、
ものごとをやっていこうとするのが我が町の特色だなあと、
最近見えてきていて、これはいわゆる老害じゃね?って
思ったりしたんだけれど、
それが明確に解析された感があります。

経験のあるひとがいつまでも若い人に干渉をして自分の意見を通すようなのは、
目先の効率しか見えていないということであり、
人を育てることや、
人々が自分なりに動いてなんとかしようとする苦労の裏側にある
幸福感を持ってもらうことを否定していることになる。

経験からくる考え方や意見、
そしてそれらを通そうとする行為には、
成功体験がその土壌にあったりしますが、
この例からも、成功体験がものごとをいい方向へ進めるための
邪魔になることがわかると思います。
成功体験が、人を育てるために脇役になっていく道を阻害するんですね。

「言える化」を進めていくための仕組みとして、
本書では次の四つがあげられていました。
・失敗にめげない評価の仕組み
・部下が上司を評価する仕組み
・「学習する組織」へ脱皮する仕組み
・帰属意識を高める仕組み

いろいろな人間がこの社会にはいますし、
合う合わないはもちろんありますが、
赤城乳業のやり方って、「生きやすさ」から考えても、
わりと門戸の広さを感じます。

こういうモデルから考えてみて、
いろいろと改良して実践することで、
また様々な、ある方面では生きやすい会社、
またこっちの方面でもまた生きやすい会社、
ひいては、働きやすい会社の種類が増えていくのではないかなあと思いました。

良書です。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『殿様は「明治」をどう生きたのか』

2017-11-02 20:57:40 | 読書。
読書。
『殿様は「明治」をどう生きたのか』 河合敦
を読んだ。

幕末に藩主だった殿様たちは、
明治に新政府になって以降の時代、どう生きたのか。
江戸三百藩のなかから、14名の大名を選び、
その生涯について、各々十数ページで紹介する本です。

大政奉還、そして版籍奉還、最後に廃藩置県。
こうやって、幕藩体制が終わりを迎えます。
その激動の時代、単純なイメージでですが、
生活力がなさそうにも思える殿様たち。
しかし、そんなイメージとは違い、
その地位を活かして勉学に励んで見識を高め、
激流を懸命に泳ぐかのような生きざまをみせています。

松平春嶽、山内容堂など、
NHK大河ドラマ『龍馬伝』に出てきた大人物も収録されています。
本書ではちらっと脇役で出てくる程度でしたが、
勝海舟というひとは実におもしろそうですね。
そのうち、彼についての本を読んでみたくなりました。

それにしても、開国するやいなや洋行する殿様の多いこと。
本書で取り上げられているひとたちが、
特別そうだったこともあるのでしょうけれど、
それでも、鎖国から一転、開国して、
急に英語を勉強して、
一丁前にオックスフォード大学に通う人もいました。
昔のひとは、やることや娯楽の選択肢が今よりも少なかっただろうから、
そのぶん集中力が高かったのでしょうかね。

ここから、軍部が力をつけ、ゆくゆくは太平洋戦争に突入する運命ですから、
そのまばゆく華やかに感じる明治期の片隅に暗雲を感じさせるのですが、
でも、たぶん、すごいエネルギーの渦巻く時代だったのだろうなあ、と思いました。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする