Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『こころと人生』

2019-12-31 20:24:16 | 読書。
読書。
『こころと人生』 河合隼雄
を読んだ。

ユング派の臨床心理学者だった故・河合隼雄さんの講演から、
子ども時代について、
青年時代について、
中年期について、
老年期について、の四つを書き起こした本です。

なんていうか、
子どもにしても中年にしても、
その表面的な行動や言動なんかのベースにある、
見えないところを考えていくことで、
すごく人間理解が進むんですよね。

河合隼雄さんは膨大なカウンセリングをしてこられた方ですから、
それまでよく認識されてこなかった、
人間の行動の背景や原理、仕組みなんていうものを、
こういう比喩は適当か微妙ですが、
ジャングルの奥地の遺跡を発見するみたいな感じで、
見つけてきたような百戦錬磨の心領域冒険家みたいな印象を持ちます。

木を見て森を見ずっていいますが、
木を見て森を見たからこそできあがった学問領域です。
それは、現象学からの流れなんですかね。

本書は、河合さんのユーモラスな語りを、
会場で楽しみながら拝聴しているような感覚で読めます。
しかも、平易な言葉遣いなのに無駄がなくて、
じっくり読み進めているとけっこうきわどいところを舞台としていることに
あるとき気付いたりして、
読み手はそんな場所にいつしか誘われていたりします。
びっくりするくらいです。

そうだそうだ!とか、うわすごい!とか、
再確認したり再発見したり、
解けなかったところを上手に紐解いて見せられたり、
そういう経験ばかりの読書になりました。

そんななかでも、たとえばこういう気付きが得られました。
何か欲しいときに
「へえ、へえ」
と腰を低くして接するのは常套手段というか定石だと思いますけど、
昔からそこにどこかずる賢く立ち振る舞っている感じがして、
自分がやるにはなかなかできない、みたいなのがありました。
そして、同じように感じるかたも多くいらっしゃると思います。

でも、「水は高い所から低い所に流れるもの」と聞くと…、
あれまあ!と思っちゃう。
そっか、そういうもんだよね、と自然に腰を低く出来そうな気がしてきます。
何かが欲しいなら、自分を低くして
そこに流れ込んでくるようにするといいんでしょう。

で、ちょっと角度を変えて考えてみると、
なんか好ましくないものが流れ込んでくるなあと思うのなら、
自分が低い位置にいることに気付けるかだ、と。
そんでもって自分が低いところにいるから、
妙なものが転がり込んでくるということがわかれば、
自分を高くするように仕向けるといいんですね、理論上は。

さらっとそういうことが本書には出てくるから、
そこから自分なりのやり方で解きほぐすように、
そして自分に寄せた知見から考えてみました。
これだけじゃなしにですが、本書から窺えますが、
河合隼雄さんはすごいんです。

というわけですが、
これが本年最後の読書記事になりますが、
本書は本年最大のおすすめ本といえます。
おもしろかったです。


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『星野みなみ1st写真集 いたずら』

2019-12-30 23:36:26 | 読書。
読書。
『星野みなみ1st写真集 いたずら』 星野みなみ 撮影:藤本和典
を眺めた。

「可愛いの天才」と形容される、
乃木坂46での可愛い担当・星野みなみちゃんの写真集です。

ポルトガルで撮影されているのですが、
街並みや風景が彼女にとても馴染んでいてちょっと驚いてしまいます。
おや、まあ!という感じ。

みなみちゃんとポルトガルを繋いでいるのは、たぶん衣装です。
スタイリッシュかつ可愛くて、
主張がある感じの衣装がポルトガルには似合うんですね。
そして、そんな衣装を媒介にしてポルトガルと星野みなみちゃんは溶けあっている。
当然、衣装を完璧に着こなしているというか、
衣装がちゃんと星野みなみちゃんの一部になってるところが、
彼女の可愛いのパワーのひとつなのでは、と思うところです。

「可愛い」は大好きですが、
ランジェリー姿の可愛さにはどきどきしました。

そして、最後のインタビューにもあるように、
乃木坂46の活動が始まってから、
激しい(?)反抗期があったし、
ギャルへの道を選んでいた可能性があったことも話しています。
それを知ると、確かに、
なんていうかソフトなギャルぽさの影を感じるかもしれない、
と見えてきたりします。
そういう人はそういう人で、また魅力があると思いはします。

また、乃木坂46の番組を見ていても、
本質的なところを突くような、
彼女ならではのコメントってでてきますし、
その独特な視点ってすごく魅力的です。
ほんと、おもしろいですからね。

加えて思い出すのが、
乃木坂ドキュメンタリー映画の第一段で言われていたことなんですが、
AKB48のライブで乃木坂46のお披露目をやったときに、
センターの生駒里奈さんが、
もうどうしよう、という不安に支配されたまま、
みんなで舞台に出ていかなくてはならなくて、
そこで生駒さんが一言しゃべるのがまたプレッシャーだったと思うんですが、
その出がけに、生駒さんの隣にいたみなみちゃんが
ぽんぽんっておしりを叩くんですよね。
ほら、いくよ、がんばんな、みんなついてるよ、
っていう温かな寄り添いの意思表示だと思いました。
メンバーがそのシーンを振り返って、
「みなみのいいところだよね」って言っていて、
乃木坂いいなあ、って思いました。

あと、本写真集でもクロワッサンをかじっていますが、
彼女はパンが大好き。
そこは僕としてはごく個人的に好きなところです。
パン好きって親近感を感じてしまいます。

最後に。
ワンカット、好きな写真をあげるとすると、
ヘアゴムを下唇にひっかけるようにくわえながら、
髪を後ろにまとめている横顔のカットです。
こういう何気ないところで、男は心をくすぐられがちかなあ。

そういう、男心をくすぐられるシーン満載。
それってやっぱり、タイトル通りに、
「いたずら」なんでしょうかねえ!
とっても可愛かったです!


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『まちづくりの仕事ガイドブック』

2019-12-28 14:41:17 | 読書。
読書。
『まちづくりの仕事ガイドブック』 饗庭伸 小泉瑛一 山崎亮 編著
を読んだ。

大げさな言い方かもしれないですが、
「まちづくりの仕事」であるものを、
全方位から集めたガイドブックである、
と言えると思いました。

20年くらい前に村上龍さんが、
『13歳からのハローワーク』という、
世の様々な仕事を収録・解説したガイドブックを世に出されて、
ベストセラーになりましたが、
本書はまちづくりの仕事にだけ焦点を当てて、
当事者たちに自分の仕事を紹介してもらうという体裁で編まれています。

だいたい、見開き2ページでの仕事解説なので、
ちょっと浅く感じるような、
もっと長く読んで詳しく知りたいような気がしてきますが、
読んでいるうちに、
これはいろいろな角度からまちづくりをする仕事を知る
よいきっかけをつくる本だなあ、と捉えられるようになり、
楽しむように読めました。

執筆者には、熱い人もいれば、冷静な人もいるといった感じです。
なかには、専門外の建築の分野等、
興味は無くても自分とあまり接点が無かった分野に飛び込んで、
その業界ならではの言葉や文法を覚えてきた、という人もいます。
なるほど、そうだよなあ、と共感に似た尊敬の念を覚えますよね。
言葉を知ることで、知らなかった概念を知ることができる。
そういう考え方や捉え方、角度、視点があったのか、と知って、
それが身に付けば考えが多様になりそうです。

また、「まちづくり」にはまず「ひとづくり」である、
と僕自身で考えるところがあるのですが、
地方の町に優秀な人を誘致することもそうだし、
人とのつながりをつくっていき、お互い高めあう事もそうだし、
っていうようなことを述べている方もいらっしゃって、
素直に同意するとともに、
その流れがあってよかったなあと嬉しくもなりました。
まだ細い流れであっても、それがあると喜んじゃいますよね。

大学生くらいが読むと一番いいのでしょうけれど、
なかなか理解するのは大変かもしれないです。

建築や都市計画などのハード面での仕事が多かったです。
でも、割合は少なくても、人との繋がりや福祉などのソフト面の重要さも
しっかり書いてあります。

正解がこうだっていうものがないことが顕著で、
それぞれが前線に立って試行錯誤し、
切り開いて生み出していくことが求められる。
エキサイティングだし、不安だし、っていうぐらぐら揺れる中で、
でもきっと楽しく仕事ができるだろうなあ、と
読んでいて思いました。


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短編発表in「カクヨム」

2019-12-26 13:58:26 | days
小説投稿サイトの「カクヨム」に、
新作の短編をアップしました。

タイトルは
『ランベイビー、ラン』
です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893284384/episodes/1177354054893284464

「アパートの二階、自室にいた若く痩せた男は、
雨の中、傘も差さずに眼下を走り抜ける女を目撃する。
どうして? なぜ? なにかあったのか?

走る女と、若く痩せた男を中心に流れていく、
群像的現代ファンタジー。」(概要)

9855文字、かつエンタメですので、
そんなに時間がかからずにすらっと読めると思います。
ぜひ、ご一読いただけると嬉しいですー。
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『余命10年』

2019-12-23 00:59:01 | 読書。
読書。
『余命10年』 小坂流加
を読んだ。

この小説はたぶんライトノベルで、
ライトノベルって初挑戦だったのですが、
思ったよりもずっとしっかりしているものなんですね(偏見持ち、かつ不遜)。
途中まで、いい意味でふつーの日常感覚という感じがしました。
がしかし、最後、クライマックスには大の男が滝涙しました。
しょっぱい涙がたくさんでてしまいました。

主人公の茉莉は遺伝性の不治の難病によって、
20歳のときに「余命10年」を宣告される。
それからの10年をたどる物語です。

限られた短い人生を、その女性はどう生きるのか。
何を選択し、何を諦めるのか。
等身大の心理でしっかり考えられていると思いました。
それが正解ではないかもしれない。
けれども、それがひとりの女性が選んだ「人生の送り方」であったことに、
ああだこうだと他者が干渉するものではないと思えてくるし、
きっとそれは正解に近い。

悩み、葛藤、諦め、悔い、そして、よき想い出。
クライマックスでは、そういったものたちが読者にぐっと迫ってくるでしょう。

また、お茶の家元に体験教室に行った章が素晴らしくて、
一番のお気に入りなんですが、
著者のテクニカルな部分として、
そこの章の言葉遣い、描き方が、
僕についているぶんにはか弱い筋肉なのに、
著者にとってはちゃんとした筋肉であるものをつかっている感じ。
なんていうか、感性中心に、レトリックを展開するというのですかね。
そういう技術と力をなんとかして僕も養おうと思いました。



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『ユマニチュード入門』

2019-12-11 19:17:52 | 読書。
読書。
『ユマニチュード入門』 本田美和子 イヴ・ジネスト ロゼット・マレスコッティ
を読んだ。

フランスで生まれた、
介護ケアの哲学であり、方法論であり、技術であるのが、
このユマニチュードです。
考案者のイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏、
自らの入門講座。

帯には「認知症ケアの新しい技法」と銘打ってありますが、
表紙カバー裏には、
「ケアを必要とするすべての人に使える、汎用性の高いもの」
と書かれていて、読了した僕にもそう思える内容でした。

<人は、他者から人として遇されなければ
「人たる特性」を持つことができません。
あなたが私を人として尊重し、
人として話しかけてくれることによって、
私は人間となるのです。>『ユマニチュード入門』裏表紙カバー裏の文言。

母親を介護している身としてそのとおりだと思うし、大切な前提でしょう。

人間扱いしなくなることによって、
被介護者は人間性を無くしていき介護がどんどん困難になっていくし、
介護するほうもそんなふうに人を扱うことで
人間性をなくしすさんでいったりもする、つまり悪循環。

「いわゆる効率化」で、
被介護者の気持ちを考えずに抑制したり拘束したり
無理に手をつかんでひっぱっていったりしてしまうけれど、
ユマニチュードの方法論で「いわゆる効率化」をやめると、
被介護者が人間性を取り戻していき
介護がうまく回るようになっていくようで、
これはほんとうの効率化になる。

実践は難しいことは難しいけれども、
とくに介護する側のこころに大きくやわらかくポジティブに作用するのが
ユマニチュードだと思った。

怒鳴ったり、無理に掴んでひっぱっていったりするのって、
自分の本意に反する点でまず介護する側のこころがやられるし、
そういう行為に慣れたら慣れたで道を踏み外す選択を
不可抗力的にしてしまったことになります。
ユマニチュードの哲学、方法論、技術は、
うまく巷間に浸透するならば、超高齢社会の光になるのではないか。

ユマニチュードの基本は、
「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つです。
それらを正しく行うことで、人間らしい介護ができるようになるし、
介護者も被介護者も幸せな状態に1段階(あるいはそれ以上)シフトすると思う。
本書では、哲学を語った上で、
イラストをまじえて実践の方法を説明しています。
むずかしい本ではないので、介護に疲れて本を読む気もおきないような人でも、
少しずつだったら負荷なく、でも得るものを得ながら読めるでしょう。

最後に個人的な感想を含めて。

ケアの中心にあるのは、
病気や障害ではなく、ケアを必要とする人でもない、と書かれている。
じゃあ、なにがケアの中心にあるのか。
それはケアを受ける人とする人の「絆」である、と。
むむむ、と考えてみるとつまり、「関係性」だ。
相手だけでもなく、自分だけでもないものだ。

そしてその「絆」はフェアなものであるかどうかが大事なのではないか。
それは他者を尊重し自分も尊重するということだけれど、
ある人にとっては「絆」がそういった種類のものではなく、
他者(ケアされる人)は自分に従属しているとする封建的な「絆」だったりもする。
在宅介護で旦那が奥さんを看ている場合とか。

僕の家の在宅介護の状況をみていても、
ケアの中心に母をおいて父が献身的にやっているかと思うときもあれば、
「お前のためなんだ」をダシにして自分の不安を中心にして
強制ケアをしているように思えるときもある。
で、「絆」を中心にしているようなときも、
その文脈がコロコロ変わっているような気がする。

そこをしっかり改めて、
「絆」を自分と他者はフェア(対等で公平)なものだ、
と認識することが前提としてのものと固定できたら、
それだけで環境が変わるから、
母も「ひとりの人間として扱われている感覚(人としての尊厳)」を持ちやすくなり、
良い方向に向くかもしれない。
大体、僕と母二人の時だと症状は軽い。

つまりは、長い月日をかけてこじれにこじれてしまい、
面倒くさくて視野が狭くて頭が硬くてっていうふうになった父のケアを十分にやるほうが、
まわりまわって母の介護はうまい方向へ向かうんだろう。
しかし、もうこじれすぎていてどうなるかはわからないのだけれど。
それでも、やってみる価値はあると思いました。


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『読書会入門』

2019-12-07 23:54:47 | 読書。
読書。
『読書会入門』 山本多津也
を読んだ。

「読書会」という集まりがあって、
いろいろなところで小規模にも中規模にも開催されていることを
僕が知ったのはごく最近です。
たぶん、ツイッターで読書会について書いていらっしゃる方がいた。

こうやって読書記事を中心にブログを書いている僕ですから、
「それ、いいなあ」とは思うのですけども、同時に、
どんな雰囲気なんだろう、
とやや自分に合わない方向でイメージしたり、
人前で感想を話すなんてハードルが高いかも、
とスピーチをするかのように考えてしまったり、
人見知りだからちょっと緊張しそう、
といった、「ちゃんとしなきゃ」的な姿勢が顔を出してきたり、
そうやって読書会に壁を感じさせたものです。

でも、どうやら、読書会とは楽しむものであって、
肩の凝らない集まりとして、少なくとも本書の著者が主催している
読書会・『猫町倶楽部』は存在しているようです。
本書は、そんな『猫町倶楽部』の誕生きっかけ、運営方針、などを紹介し、
読書会でいろいろな人たちと語り合うことが多角的な読書になることを示し、
加えて、読書会は居心地の良いコミュニティとしての面があることも示してくれます。
いいですよね、そういう「居場所」って。

僕も、職場での雑談で、「我が街にも読書会があればいいのに」
と言ったことがあって、僕が主催してもいいのだけれど、
はたして人が集まるのだろうかと考えてもみました。
しかし、それ以前に、僕自身が介護をしているので、
読書会の当日にドタキャンする事態が十分に起こり得るため、
今はちょっと難しいなあとあきらめた経緯がありました。
でも、誰かがやってくれたら参加したいですよね。
今日はいけません、って断ることができる気楽さで。

また、僕がこれまで考えてきたことやそれらによって生まれた姿勢なんかが、
著者の述べていることと折々で重なっていて、
僕も似たような道をたどってきたんだな、と気づかされるというか、
やっぱり「全ての道はローマに通ず」だし、
その道端で目にする物すらローマに通じるための標識みたいなもので、
それだってローマへ到着する前に各々の場所で
各々が目にしていたりするんだなと思えました。
たとえば、
「読書でグレーに留まる力を養う」そして
「曖昧さを抱え続けることが知性」というのがあるんですが、
これは僕の言葉で言えば、留保する力、
白黒決めずにどっちつかずの状態のまま自分の内に抱えておくことがよいのだ
とする姿勢とおんなじようなことです。
そのような自分との共通項を、ぽこぽこと、
本書では何度かお目にかかることになりました。

読書会の基本的なポリシーみたいなところは、
読んでいると、そうだそうだ、と読めますし、
そこで言われている大事なことにあまり目新しさは無いのだけれど、
大切なことなんだよなあ、と思える点は、
きっとその論理を含んだ考え方全部が、
時代の進みによってここ何年かで
コモディティ化してきたものであったからではないか。
それだけ、無理なく、既視感すら感じながら読めました。
でも、そこで述べられたことは、至極まっとうな考えだと思いました。

というわけで、
今回は、こないだ上原ひろみさんのコンサートへ行った時に、
丸善&ジュンク堂で購入した中から、
コンサート会場で開演時間までの時間を使って読んだものを読了して
感想そして紹介をいたしました。
すぐ読めて読書会が知れるので、
興味のある方は目を通してみると良いですよ。


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『パリのグランド・デザイン』

2019-12-02 23:07:04 | 読書。
読書。
『パリのグランド・デザイン』 三宅理一
を読んだ。

花の都と呼ばれる大都市・パリの、都市計画の源流をみていくのが中心の本。
アンリ四世からルイ十六世まで、
ざっと五代の王の時代の建築と都市整備をたどります。

まず本書は、リシュリュー枢機卿という人物からはじまります。
鉤鼻で、権謀術数にたける策士といった風貌で、
デュマの『三銃士』では悪役として描かれていますが、
まあ、実際は権力争いで苦労しながらも生き延びた人でもあるようなので、
実際、政治力があった人物なのでしょうが、
その名もリシュリューという小さな町をつくっていて、
その街のすぐれた美的であり機能的であるデザインこそが、
その後のパリの都市整備(当時は「美装」と呼んだそうですが)の
源流と位置付けられそうなのでした。
いわば、結果的に、リシュリューは、
その後のパリの都市計画にむけた先駆的なイメージを持っていた。

建築も都市整備も、
そこに住んだり行き交ったりすることになる人々の動線を考えるし、
建物や街並みのデザインの美しさ・芸術性も考えて、
などなどいろいろな面をミックスして、
建築家の思う「これだ!」という良いところで落とし合わせて案として完成する。
そして建築アカデミーの会員たちのそういった案を集めたコンペ(設計競技)で、
実際に施工するデザインを決めているのですが、
そこには、権力争いや利権も絡んでいる場合もあったようです。

読んでいてふと思い浮かんだのは、
20年くらい前までが最後だろうか、
いい車を持っていることがステイタスっていう価値観がありましたよね。
そういうのを遡っていくと、
王様だとか宮廷貴族による宮殿などの建設、
つまり建築こそが、ステイタスを誇るいちばんの手段というところに行き着くなあと。
でも、一呼吸置いて再度、あたまの中をめぐらしてみると、
ステイタスを誇ることは確かにあっても、
芸術をそこに作りあげる欲望、美的な渇望があるなあとわかってきました。

また、話は逸れるけれど、こういうのがありました。
「効率を最大限とする近代的な合理性の考え方」なる一文が出てきて、
著者は「中庸の思想といえばそれまでだが」と引き取っているのだけど、
なぜそれが中庸かといえば、
合理性で失われるものを思考の内に入れているからですね。
たとえば豊かさを失しているわけです。

効率重視の合理化で
「お金が節約できたじゃないか!」
「時間が節約できたじゃないか!」
などの面ばかりを掲げて人々にそれしか見せないような現代において、
それが染みついてしまいほかに注意が向きにくくなっている中では、
自分たちの効率化の考えが中庸なものだとはなかなか気付けないわけですよ。

合理化を行使したことによってすべてを得られたんだ、
っていう感覚ってあると思うのです。
欲張りである我らの、その欲っするものすべてが手に入ったような錯覚。
それも最短で、というような。
そこのところをぐわあっと俯瞰して、
トレードオフの視点で見てみると、
やっとのことで「なんて中庸なんだろう」と気付けるのかもしれない。

そうなんですよね、
トレードオフっていう、
「何かを手に入れるとき」だとか
「何かを選択するとき」だとかに、
何を失うのか、なにが手に入れられないのかをしっかり意識しておく視点は、
木を見て森を見ずを回避するのに役立ちますよね。

閑話休題。

その時代時代で、いろいろな建築家が才能を弾けさせている一方で、
そういった建築家を抜擢する過程で政治があり、
事情があり、
うまく潮流にのって才能を形にできた人もいれば、
歴史に残らなかったけれど、
好人物だったり個性的だったりした人もいたかもしれない。
人の世とはそういうものだなあと最近は思いもするんですよ。
本書は表立ったところの、
パリが都市として成立するその風を感じられる感があります。

建築なんてほとんど追ったことのない分野ですが、
たまにそういう方面に触れてみるのも面白い読書体験になりました。
最後に一言ですが、
パリは下水施設の成立が遅く、汚くて臭かったという話を
たとえば『ブラタモリ』で聞きましたし、
それは本当だということですが、
そのあたりの話はありませんでした。
視覚的な部分に重きをおいた、パリの都市計画のお話でした。


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