Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

短編は90枚であがりました。

2017-01-28 13:16:59 | days
昨年のクリスマスから書き始めた短編は、
1/16に初稿が書き上がり、
それから手入れをして、
現在は第二稿が仕上がった状態です。
少し寝かせてから印刷し、
最後の直しをする予定です。

当初は50枚くらいの、
ここで発表するものを書き上げる予定だったのですが、
書いてみると、予想以上に本腰になり、
90枚の仕上がりになりました。
これだと、また『オール讀物』に送ろうかなあとなります。
6月下旬の締切りですから、
そんなにあわてることもない。

最初から純文学寄りというよりか、
大衆文学寄りを目指して書きました。
前回の短編でも、そういう要素はあったのですが、
今回の短編では、「再生」が重要なテーマです。
再生のためには何が必要なのか。
それをどう獲得していくのかが描かれています、
エンタメ的に。

小難しくなっているところは、今回はありません。
ひとによっては「説教くさいな」と感じられるような部分が、
僕の書くものにはある感じなのですが、
それも今回は(ほぼ)ないと思います。
比較的、読んでいて考えてしまうというよりも、
おもしろいと感じてもらえる作品です。
前々作『虹かける』という短編では、
内容の描写に頼らず単刀直入に説明してしまっている部分がありましたが、
そこらへんは教訓として、今回の短編ではありません。
でも、文体は、前作『微笑みのプレリュード』よりも、
『虹かける』寄りかもしれない。
一人称ですし。
今のところ、自分では気にいっている作品です。

この短編がうまくいかなかったら、
またブログに掲載します。

目下の考え事は、
3月にもう一本短編を書くかどうかです。
書きたい気はしますが、
読書で力をつけたい気もする。
まだわかりません。
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『恋愛論 完全版』

2017-01-27 23:14:59 | 読書。
読書。
『恋愛論 完全版』 橋本治
を読んだ。

けっこう前にスタンダールの『恋愛論』を読みましたが、
それとはまた違ってネイキッドなところのこころを扱った恋愛論です。

話の中心は、著者の初恋です。
それがまた、純真だなあと思った。
実は僕って「純粋」っていうのはあんまり好きではないし、
それにそれは今回のこの事象にたいしては違うと思って考えたら、
純真という言葉が出てきた。
それも、しおしおしたりもするんだけれど、
全体として「陽」に感じた。

読んでいて、これは僕は敬遠してきた領域だという自覚が出てきた。
わかるんですよ、わかるんだけれど、
社会通念上いけないことだとかなり早い段階で意識しちゃうんですよ。
そこを飛び越えちゃってるのが、
橋本さんの純真なところだと思いました。

愛とか恋愛とかの根っこの部分をじいっと見つめ、
それも早熟とさえいえる慧眼ぶりでわかってしまっていた著者。
ある意味それによって、恋愛意識が先鋭化しているのでは、とも疑った。
ある程度バカなほうがうまくいくというか。
でも、バカゆえにケンカ別れだとかするんですよね。
そして、わかっちゃっていても、恋愛感情のほうに重きをおく著者ですから、
そこらへんで硬直はしないようなんです。

感動して、それを自分で噛みしめて、
受けとめることができるひとが恋愛に向いているという。
感動してすぐそれを言葉にして書き留めたりしゃべったりするのは、
感動を受け止めきれていないということらしい。

加えて、恋愛には陶酔意識が必要だという。
これには覚えがあって、
ぼくは20歳頃に友達数人と大学の談話室みたいなところで話をしていて、
「俺は好きなひとに盲目的になれないんだよ」と言ったんだった。
陶酔できないからそうなる。
社会から外れることができなかったんだね、その頃は。

とまあ、序盤のあたりからの感想はこんなところなんですが、
やはり著者がさらけだしてくれた「恋愛体験」からみえるのは、
根本の恋愛感情なんです。
社会ってものをとっぱらって、
人間として裸の状態での「恋愛感情」がつぶさに見える。
そして、男が男を好きになる初恋が語られて、
たとえば、「男が男に恋する」という単調な字ずらだけをみるならば、
「えーー?!」と退く男は多いと思うのだけれど(ぼくだってそうだ)、
そこで壁を作らずに、とにかく話を聞いてみようという気で読むと、
男が男を好きになることだって妙なことじゃないってわかってくるんですよ。
「ああ、そうか、そういう形だってある」とわかるし、
案外、自然なんです。

ホモセクシャルだとかレズビアンだとか、LGBTって言われますけども、
本書を読むと、そんなマイノリティとして認識されて、
敬遠されがちなひとたちや意識が、
あたたかな隣人として身近に感じられるようになると思います。
そういう、誤解を解けるようなくだけた告白に本書はなっていて、
LGBTはまったく自分たちと違うひとなんかじゃない!って
わかり始めると思いますよ。

ぼくはけっこうおかまのひとって怖いんですよ。
なんの影響かわかりませんが、
なんか、気に入られると、
力ずくで好きなようにされそうなイメージを持ってしまって、
それでこわいのです。
でも、それって、女の子が男に対してもつ怖さと同じであるし、
実際に、そういう男もいるけれどやさしい男も大勢いるってことで、
それはおかまのひとにも通じることでしょう。

付録の三篇のエッセイも面白かったです。
橋本さんの本は数冊読みましたが、
やっぱりよい目を持っているなあという印象を今回も持ちました。

あと、著者が聞いた言葉ですが、こんなのがありました。
TVの仕事の話で、
「下手なヤツほど、セリフで理屈を言わせるんだ」って
ベテランの役者がいうのには、おおー!って思った。
理屈っぽい登場人物っていうのもいることはいるけどねー。

というわけで、ぜひぜひおすすめの本でした。

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放射能など風評被害につながる記事を修正しました。

2017-01-23 11:52:32 | days
福島第一原発事故による放射能の問題について、
このブログでの過去記事に、
わかっている範囲で注釈を入れました。

震災瓦礫については、
瓦礫ニツイテ2」が答えです。
また、それに絡んで、
瓦礫ニツイテ」と
『福島第一原発--真相と展望』
の記事最下部に注を入れました。
そして、放射性物質が生物濃縮しないことについては、誤解をもたらさないよう
『大人のやりなおし中学生物』」にも注釈をいれました。



僕は原発事故からたぶん2年くらいは怖々としていました。
そんな当時の記事が、下手すると風評被害に加担してしまいますし、
僕がずっとそのときの考えのままではないことも、
あらためて示しておくべきだと思いました。
恐怖心と不安感で、さらに他人の恐怖心に訴えるようなことに
なっているものもありましたから、
その記事だけにピンポイントでたどり着いたひとには、
大きな誤解と間違った知識と心象を与えてしまいます。
当時のあやふやなまま不安感を煽ってしまった部分について、
深くお詫び致します。

放射能(放射線物質や放射線)について、
良書を紹介している記事もありますので、
あらためて読んでいただきたいです。

『いちから聞きたい放射線のほんとう』
『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』
『知ろうとすること。』

ぼくも、いろいろな人のおかげで正しい
放射能についての姿勢を、完璧ではないかもしれないですが、
持てるようになりました。
夏には福島の友人が、桃と葡萄を送ってくれます。
ほんとうにおいしくいただいています。
そして、検査によって大丈夫なことを承知しています。

ちゃんと風評も、このブログの悪いところも
直していかないといけないですね。

まったく、申し訳ないです。




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『夜のかくれんぼ』

2017-01-21 00:00:14 | 読書。
読書。
『夜のかくれんぼ』 星新一
を読んだ。

いま読んでも面白い、
言わずとも知れた名手によるショートショート作品集。

多作なのに、パターン化しないと言われているだけあって、
どの作品も真っ白なところからはじまって
それぞれの個性を持ってできあがっているような、
大粒感のあるショートショートばかりでした。

昭和の時代に活躍したひとには、
たとえば手塚治虫さんのようなやっぱり多作の人がいる。
そういう時代だったのかなあ。
現代は作りこむことに時間をかけている。
つまり、深さや広大さ、緻密さに時間をかけている。
ゆえに、手塚さんや星さんのように多作のひとってでてこない。
今読んでみてもとてもおもしろいのだから、
これら昭和の時代の多作のなかで生まれたものが、
現代の凝ったものと比べて劣っているものだということはないでしょう。
ファーストフードがはじまった時代のものでもあるから、
インスタントなもののように、
表面的にしか知らないひとは考えるかもしれませんが、
さきほども書いたとおり、そうではなく、
しっかりした醍醐味を感じさせてくれるんですよ、それぞれの作品が。

方法論なんかを再勉強して、
こういうテイストのものを今の世にやってみるのも、
それはそれで「攻め」なのかもしれないし、
読者を再開拓するようなことにもなる可能性ってありますよねえ。
……、いや、そこはライトノベルが後を引き継いでいるのかもしれないね。
ラノベって読んだことがないので、想像で言うのだけれども。

まあ、それはいいとして、
ショートショートを書くひとはとても話し上手なんだろうな、
という気がしました。
殊に、星新一さんなんかはモテそうだし。
知性でモテるんだから、かなわないですね。

また、
星新一さんに限るのかもしれないけれど、
ショートショートって、
現実性を写し取ろうとする気持ちが強いと
上手には作れないんじゃないか、という気がする。
ユニークな発想は、地に足をつけずに生まれていて、
作品にする時、すなわち執筆時にだけ
足を片方地につけながらやっている感じがしました。

それと、
主人公がとっぴな状況におちいってばかりですから、
精神科医がでてくる話が多いです。
そこは、星さんの作品はパターン化していないといっても、
ちょっとパターンを感じるところです。
話を進める上でしょうがないですけどね。

また、彼の違う本をそのうち読もうと思います。
手軽なエンタメとして、
僕としては最高の部類の作家のひとりです。


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『Google Boys グーグルをつくった男たちが「10年後」を教えてくれる』

2017-01-18 00:01:10 | 読書。
読書。
『Google Boys グーグルをつくった男たちが「10年後」を教えてくれる』 ジョージ・ビーム 編 林信行 監訳・解説
を読んだ。

検索エンジンからはじまって世界的大企業になったGoogleの創業者である
ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンのふたりの名言集。
名言といっても、短い言葉でピリッときくようなものではなく、
ちょっと長い文章のような言葉が多いです。
二人のそれらの言葉が大きな文字でページに書かれていて、
その隣に通常の大きさの文字で解説が書かれている。

Googleについては、誰が始めたのかも知らなかったですし、
みんな黒子になってやっているようなイメージがあって、
社員の顔は見えてきませんでした(グーグルアースのために
妙な装置を背負っているひとのイメージはありましたけど)。
こうやって創業者の言葉を中心に、Googleという会社をみてみると、
なかなかユニークでしっかりやってる会社なんだなと、
そんな印象を持ちました。

まず、
「Don't be evil (悪事を働かなくても、お金は稼げる)」。
これは企業理念のうちのひとつです。
お金儲けのためを優先にして、
エンドユーザー(ぼくら)に
不利益や不自由をおしつけることはしない、といいます。
あくまで、お客さん第一のやり方のようです。
このあたりはいまやiPhoneでおなじみのアップル社と共通するところですね。
ただ、こういった、「お客さんは正しい」イズムを持てば、
お客さんのわがままや面倒くさがりを解消するために働くひとたちが
そのシワ寄せを食うことになります。
つまり、ブラック化する危険性がある。
今はきっとそこらへんのせめぎあいの時期なんでしょうね。
お客さんは神様なんかじゃないっていうのがありながら、
でもお客さんの都合に合わせたら儲けられる、というのとの間にいる感覚です。

次に、
Google社は手厚い福利厚生をする会社だといいます。
本社には無料の社員食堂が十数店あり、
無料のカフェがフロアのどこかしこにもあり、
ビリヤードやダーツ、専任のマッサージ師、
スポーツジム、託児所、そして会社内に医者が在中しているようです。
「グーグルの考える福利厚生とは、
社員の人生をよりよく、より快適にすること。」
これを実現しているんですね。

また、
「20%ルール」なるものが存在します。
週五日勤務の社員だったら、そのうち一日は
自分の好きな研究をしていていい。
食堂の利用状況をもっと快適にする研究などでもいいし、
文化遺産や世界遺産を研究してもいいそうです。
そういうなんの関係のないようなところから
アイデアが生まれたり、他の考えと異種交配したり、
そもそも社員自身がそういう好きな研究ができて
活力がアップしたりするんでしょう。
おもしろいなあと思います。

ただ、Googleにはほんとうに優秀な人間しか入社できない。
スティーブ・ジョブズが「一流の人間とだけ仕事するのが大事」
と言ったそうですが、それを守っています。
エリートばかりのエリート企業だから、
ぼくはこれまであんまりGoogleにたいしてのカラーを
見いだせなかったのかなあと思いました。
そういう、ぼくみたいに感じていたひとっているはずです。

とまあ、Googleの紹介的性格が強いかもしれない。
でも、よく読むと、そこに成功の哲学が読みとれます。

すぐに読めてしまうライトテイストな本ですから、
ちょっと一服中に読もうかなと思ったら、
すらすら読めてしまうことでしょう。


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『橋本奈々未1st写真集 やさしい棘』

2017-01-17 12:00:01 | 読書。
読書。
『橋本奈々未1st写真集 やさしい棘』 橋本奈々未 撮影:長野博文
を眺めた。

先ごろ今年の2月20日での引退を表明した乃木坂46の橋本奈々未1st写真集。

ななみんのかわいさと美しさの両方楽しめて、
さらにテレビではあまり感じられないやわらかさまで見ることができます。
いやあ、いい写真集じゃった。
太ももがまぶしい。
水着よりもこういう下着で部屋にいるところのショットのほうが
セクシーかもしれないですね。

帯に秋元康さんが
「橋本奈々未には隙がない。
この写真集で少しだけ、心を開いた気がする」
と評を寄せています。
いつものことながら、言い得ている感じがします。

橋本さんは北海道旭川市出身なんですよね。
ぼくも同じ道産子として、
こんなめんこくてきれいな子が道産子だと
自慢したくなりますね。

乃木坂卒業まであとひと月ちょっと。
しかと見届けます。


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『ひらいて』

2017-01-16 22:42:46 | 読書。
読書。
『ひらいて』 綿矢りさ
を読んだ。

中盤、おい!こんな展開かよ!と
主人公の破天荒な行動にかき乱されたけれど、
最後まで読んでよかった。
最後まで読んで、まるごと一冊で完結する立派な小説でした。
「高校生の青春と恋愛を瑞々しく描いた傑作」と
裏表紙に書かれていて中盤までではウソだろと思いましたがね。
どろどろしてきます。

主人公の「愛」みたいな女子はいるなあと思った。
破天荒さをちょっと差し引いた「愛」はいる。
「なんでも自分の思う通りにやってきて、
自分の欲望のためなら、他人の気持ちなんか、一切無視する奴」
それが「愛」でありLOVEのどうしようもないところでもありますね。

「なぜすべて奪うまで気づけない。欲しがる気持ちにばかり、支配されて」
と自分と重ねるようにサロメを評する後半の愛ちゃんです。
そういうひといるもんねえ。
それが本当のLOVEだと言わんばかりに。
まあ、愛の強さにはそういう面もあるけれど、
愛を野放しにしている感じがします、僕なんかには。

書き方としては、
正面突破の姿勢ではあるのだけれど、
直球ばかりではなく、
変化球も交えた組み立てのピッチング的でした。
著者の地力を感じる一冊です。


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『この世界の片隅に』(映画)

2017-01-07 16:08:35 | 映画
アニメ映画『この世界の片隅に』を観てきました。

主人公の声を担当するのは、能年玲奈さんから芸名を変えたのんさん。
子どものころから物語は始まりましたが、
あ~、能年ちゃんだ~ってすぐに顔が浮かんだのですよ。
しかし、もう序盤まもないところで、
声はすぐに主人公のすずのものになっていました。

世界の片隅にいた、かけがえのない“ふつう”の女の子の話。
妙な言い方になるけれど、「珍しいくらいに“ふつう”」なのでした、
主人公のすずちゃんは。
平和から戦争という状況下になっていって……
呉に暮すふつうという宝石はどうなっていったのか。

すずちゃんのような子はとくに守りたくなります。
ちょっとぼうっとして忘れっぽくて、
絵を描くのがとても上手。
そしてかわいい。
贅沢することとはちょっとちがった豊かさがそこにあるような。
たとえ贅沢したとしても、
こころを無くさないひとびとがスクリーンの中にいたような。

途中、憲兵が出てくるところがあって、
なんだか迷惑な連中だなあと見ていたけれど、
今の社会、ネット社会にも、
憲兵にたとえられる感じの気質になってしまっているひとびとは
多いなあと思う。

時代考証がしっかりしている感じで、
でも、それも柔らかく黒子として使われている感覚で、
物語の柔軟さを損なっていませんでした。
ことさら強調することなく、その時代はそうだったんだと
自然に骨組された知的な処理の仕方だと思いました。

最後に、ここはネタバレになるので注意。
八月十五日の日本降服を告げるラジオ放送での、
すずの反応が印象深かったです。
きっと、あそこで初めて強い怒りをみせたすずにとっては、
「そのくらいのちんけな覚悟で戦争しやがって」と思っていたのかもしれない。
いつもの穏やかなすずには、
みんな懸命に、最後の一人まで戦争する覚悟なんだから、
わたしも足手まといにならないでがんばろうという
気概があったのかなあと思いました。

というわけで、
これまでたくさんの人が見てくれたから、
公開劇場拡大によって、
こうしてこの映画をみたかった僕もみることができました。
大作のような派手さはないけれど、良作まちがいなしです。
こまかいいい仕事をしています。
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『人生の教科書 [情報編集力をつける国語]』

2017-01-06 00:45:48 | 読書。
読書。
『人生の教科書 [情報編集力をつける国語]』 藤原和博 重松清 橋本治
を読んだ。

コミュニケーション力を育てるためにはどうしたらよいのか。
それは、情報編集力として、
表現力を養うことでコミュ力があがるのだ、
というのが本書の考えでした。
ただそこでは、内気さや恥ずかしがりなどを
考慮された部分はありません。
コミュ力の高低には、
内気さなどの心理的な要素も関係してくると思うのですけども。
そこのところはまず置いておいて、読み始める。
本書は中学生を対象にしていますが、大人も先生も読んで損なしですね。

藤原さんの考えだと、
戦いというものがなくなっていけば、
コミュニケーションはいらなくなっていくとされる。
ゆえに、無視とかハブとか、
社会はどんどん戦わない方向に向かっているから、
そういうディスコミュニケーションによる
仲間外れやいじめの方法がでてくる。

つまり、
戦わず、コミュニケーションせずにいけば、
それは無に帰す方向に進んでいきます。
何も生むことはなく、ゼロを目指す行為です。
へんな言い方になりますが、省エネ型なんです。
でも、戦いというものは、
破壊によって無に帰す要素はあるのだけれど、
戦うことによって建設していく可能性や、
創造していく可能性を含んでいる。
批判というものがよく、
論文などを磨きあげる重要な行為だとされるのも、
戦いによって創造や建設が行われることを意味しています。
理性で監督しながら戦うことが大事なのかもしれない。
感情的になって、批判が非難になったり、
自分の意見や気持ちを押し付けようとしたりすると、
それは理性から外れた、単なる無益な戦いになるでしょう。

本書は序盤から、
文章の書き方にも触れています。
どうやったら魅力的な、ひとを引きつける文章になるか。
そこらにいたっては、
文章指南の本をほとんど読んだことがない僕でしたから、
こんな簡単に効果をあげられる手法や視点があるのか、
と感心しましたし、
今書いている短編の冒頭部分で使ってみたりしました。
自分流でやってきて、ちょっと壁がみえるけど、
どういう壁かもわからないなあというひとは、
もしかすると本書の講座によって乗り越えられるかもしれない。

しかし、あらためて重松さんすげえなと思いましたよ。
例題に小説が使われていて、本人がでてくる講義もあるのですが、
その講座の中で、まだ中年になる前の重松さんが、
いい考察をするしいい問題点をもってくるんですよ。
やっぱりちゃんとした作家はいろいろ悩んだり考えたりして、
頭を使っているなあと思いました。
最後のほうの重松さんが書いた章を読むと、
重松さん自身の業だとかをうっちゃらずにわかっていて、
自身は大したことのない人物だという認識があり、
悪いことやこずるいことをやってきた半生があり、
その魂をいまでも抱えているからこその苦しみが、
一応、作家としての養分にはなっているようだけれど、
人間としてはどうなんだろう、という疑問を自身にたいして抱いている
という感じがしましたね。
まあ、自分自身と向き合わないひとは作家にはなれないんだろう。
向き合ってるだけ、なんとかまともさと糸一本で繋がることができている。
そういった印象を持ちました。

古文のところでは、
橋本治さんが愉快にときほぐした解説をしてくれます。
大和時代の古事記や日本書紀から、鎌倉時代の徒然草くらいまで、
漢字と平仮名や片仮名が混淆した日本語になっていく過程を
見ていくようになっています。
そこで、たとえば、
天才的歌人と言われる柿本人麻呂の歌
<あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む>
の橋本治さんの解説が愉快だった。
彼の妙語訳が
<こんな長い夜をひとりで寝るのかよォ>。
「かも寝む」の「かも」が語句を強める意味で、
「かよォ」となるらしいです。
枕草子の橋本さん訳だと、清少納言はひっきりなしにイライラしています。
これも笑えましたね。

情報編集力、コミュニケーション力、
そういったものを題材にわかりやすく、
いろいろな題材をつぶさにみていく目を育もうとうするなら、
やっぱり、300ページくらいの分量だと
ちょっと足りない気がしました。
それでも、エッセンスは十分にあります。
柔らかな表現力、柔らかな解釈力そして、柔らかなこころ。
それらを養い、生きていくための武器や防具にするための教科書でした。


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『若者と労働』

2017-01-03 02:13:49 | 読書。
読書。
『若者と労働』 濱口桂一郎
を読んだ。

とてもおもしろかったです。
現代の日本の労働状況をときほぐして説明してくれる本でした。

日本の、職業に直結しない教育の度合いというか、
卒業して就職へ臨む若いひとたちの
「これまでの教育が職業に役立つかどうか」の意識というかは、
先進国で最下位だったそうです。
義務教育を受けても、それがその後の就職にはつながらないと
日本人は考えているし、実際そうなのでした。

そんな日本の労働システム。
本書では、メンバーシップ型と読んでいます。
年功序列だとか、新卒一斉就職だとか、
そしてそれらとマッチングした企業内のシステムだとか、特殊なんですね。
欧米に限らず、中国を含むアジアの先進国にも、
日本のようなメンバーシップ労働システムはないそうです。
日本では、仕事のスキルのない新卒者をいっせいに採用して、
社内で少しずつ教育して使いものになる労働者に育てていきます。
一方で、欧米型では、スキルのない若者は採用されません。
欠員がでたときに、その仕事ができる人を公募して、
若者にしろ中年にしろそこは構わず、
持っているスキルで採用の有無を判断するそうです。
その結果、若者たちが就職できないという問題を生みますが、
公的な職業教育制度があったりして、
その問題に対処しているそうです。

もともと「人」を大事にする思想ではじまった
メンバーシップ型労働システムなんだそうだけれど、
法律など建前としては欧米的なジョブ型労働システムを
よしとしているようです。
ハローワークでの職探し、職業訓練、などは
「仕事」に「人」をはりつけるジョブ型の考え。
日本的なのは、「人」に「仕事」をはりつけるメンバーシップ型の考え。

そして、いまや学生たちは就活と職探しを別々に考えているらしい。
職探しは就活より下とみていて、
なんとしても新卒で就職しようと躍起になる。
給料もそんなに違わなくて、
長い時間かけて取り組んだとしてどこがブラックかもわからなくても、
既卒で職探しはしたくないみたいなんですよね。

話は変わりますが、教育について著者は言います。
大学の文科を抜本的に見直すべきと。
あいまいな「人間力」なるもの、
潜在能力なるものを面接官がみて内定をあたえるのを無くすならば、
戦力になる職能の有無をもっているかどうかを見るべきだと。
そういうのが、偏差値を一元的に信奉する価値観を改め、
中学や高校で荒れる生徒までをも減らすのだ、といいます。
本書の後半で語られますが、
「人間力」という潜在能力でひとを判断するメンバーシップ型は、
その潜在能力を信じて、いろいろな仕事を割り振り、異動させたりもして、
社員を成長させていくシステムです。
しかし、仕事の能力ではなく「人間力」という抽象性に注目すると、
たとえば不採用になったときなどに、人間性や人格を否定されることになります。
そうやって自分が悪いんだという一種のマインドコントロールに陥ります。
自分の精神面や人格を変革しなければならないという観念を持ってしまい、
だから、「自分探し」などという錯覚にはまってしまったりもするわけですね。

なるほど、と思いながら、
でも、ぼくは、
文科系に進路を取るなら、
自律性を養うカリキュラムをもうけてもらって、
必要ならば学生が自分なりに知識や技術や資格をとっていくように
育てればいいのではないのでしょうか。
文科系をなくせ、という話にはならないとぼくは考えます。
文科系の生き方、そういう自由はあっていい。

また、
労働基準法がどうあれ、
社員というものは基本的に残業をするもので休日出勤を断れないもので、
それらに反すると解雇されて当然だと最高裁の判例があるようです。
この本に、いろいろと判例がちょこっとずつ載っているのだけれど、
法律の建前の部分に反する判決がでていたりします。
表向きはこうだけれど実際はこうだから、
と暗黙の内に了承して声すら上げないことってけっこうありますけども、
たとえば労働システムなんかの現実を踏まえていて、
「しょうがない、そういうもんだ」みたいに飲みこんだりします。
そして、一事が万事みたいにあちこちで
「しょうがないんだ」と適用しちゃう。
それこそが、メンバーシップ型の実際面なのですが、
そこを巧みに利用して、ブラック企業がでてきたわけです。
詳しい部分は本書を読んでください。

それと、へええ、と思ったのが、
同一労働同一賃金の議論は、50年代60年代からに一度あったことですね。
そのときの議論は70年代のオイルショックなんかの影響で負けたらしいです。

日本には基本的に下記の二つしか働き方がありません。
メンバーシップ型と非正規社員です。
本書の終いのほうになると、もうひとつの労働者のタイプを提言してくれます。
これは非常に注目すべきだなと思いました。
日本のメンバーシップ型のいわゆる正社員は、みんなが総合職で、
管理職を目指すというのをよしとしすぎるんです。
転勤も昇進もない一般職を目指すような男は採用されない、という風潮も
根強くあるそうですね。
そこらあたり、欧米各国と比較すると、顕著にわかるらしく、
一般職こそふつうの職のありかただとして、欧米では多くのみんなが働いている。
もしかすると、世間の世知辛さってものを生む大きな原因が、
この総合職でなければ正社員ではないという体質なのかもしれない。

あとがきでは、
労働法について、それが建前としての色が濃いものだとしても、
学ぶべきですよ、と言っていました。
会社に適応することはいいことですが、
同時に抵抗するすべを持つこと、抵抗することそのものも大事だといいます。
そうやって抵抗して解雇される危険性があった
これまでのメンバーシップ型の体質が、
ブラック企業を生んだ原因でもありますから、
しっかり、そこらあたりは改善していかないと、というわけでした。

長くなりましたが、中身の濃い良書です。
善良な経営者に読んでもらって、雇い方に着いて見識を深めてほしいです。
ふつうのいろいろなタイプの労働者のひとたちも
読んで知っておくと、
自分の気もちや態度に自信が持てるようになると思います。

社会よ、少しずつ良いほうへ変わってゆけ。
そのきっかけになる可能性を秘めた本です。

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