読書。
『香水――香りの秘密と調香師の技』 ジャン=クロード・エレナ 芳野まい 訳
を読んだ。
エルメスの人気調香師による、香水についての網羅的に概説する本。
香水の歴史的部分、人間の嗅覚の構造、香水の原料や抽出方法、調香師になるための勉強、調香師の職業的な部分、香水とは何か、マーケティング、香水を市場に出す過程などなど、ほんとうに香水全般を扱っています。そして簡潔。
どの章も興味深いのですが、たとえば抽出方法の章で解説される、植物から香り成分を抽出するいくつかの方法のどれもが、人間ってよく考えるものだなあ、と思えるものでした。どうしてそうやったらできるとわかったのだ? というように。いくつかの抽出方法のひとつを以下に書いてみます。揮発性溶剤にいれて香り成分を溶かし込んだ溶剤を回収し、それを気化して回収する。残った部分は残った部分でエチルアルコールと攪拌して凍らせ、濾過し、非混和性の植物の蠟と、香りの混じったアルコールとに分離する。最後に、アルコールを気化すると「アプソリュ」呼ばれる素材が出来上がります。こういった単純ではない過程を踏んだりするのです。また、こないだ別の本で学んだ超臨界流体による抽出方法、こういった現代の技術による抽出方法もありました。
いちばんおもしろかったのは、調香師のその仕事・職業面を解説した章です。ここだけで一冊になるくらいのエッセンスがあります。というか、世の中にある多くの本って、こういう部分のみにスポットライトをあてて語るようなものが多いです。それはそれでクローズアップされていて、点として学ぶ、あるいはエッセンスとしてのいくつかの点を学んで線を結ぶ、といった作りになっていると言えるかもしれません。本書は調香師の仕事のそれ以外のまるごとを扱っている点が、調香師ひいては香水の現実面をしっかり読者に知らせるものとなっていますから、視野を広く持って香水を知れますし、夢だけを語るのではない仕事面のあれこれを知れる仕様になっています。
というところで、その、調香師のその仕事・職業面を解説した章から引用を。
_________
香水モデルも、ファッションと同じように、それが生まれた時代に属している。やがて時代遅れになる。時代遅れにならないためには、いつまでも修業時代と同じように、物や人びとに好奇心を持ち、つねに探しつづけなければならない。探しつづけ、そしてときには、見つけることもある。(p69)
_________
→創造する分野に共通する金言だと思いました。
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喜びは利己的なもの。贅沢とは、分かち合うことである。あらゆる芸術的な職業と同じように、香水製造が目指すのも、なにより感覚に喜びを与えることだ。人間としてそして調香師として、まず自分が喜びを感じなければ、人に喜びを与えることはできない。驚かせる喜び、想起させる喜び、暗示する喜び、そして、すこしずつ謎を解かせる喜びだ。香水は、匂いの書いた物語。そしてときに、思い出の書く一篇の詩なのである。(p80)
_________
これもクリエイターにとって共通のことを言っているなあ、と肯きながら読みました。
香水の分野でこそのおもしろい言葉もいろいろあったのですがここでは紹介しません。それは本書を読んでのお楽しみにさせてください。
香水の世界は濃密だ、と知れる一冊です。創られた香水に著作権はないのですが、創作物としての著作権を認められるような判例がフランスではでたことがあるとも書かれていました。創った香水に著作権は得られなくとも、本書を読むと、調香師は芸術の分野にいる人たちだとわかるでしょう。こういった本を読むと、その営為に触発されます。世界は広い。
『香水――香りの秘密と調香師の技』 ジャン=クロード・エレナ 芳野まい 訳
を読んだ。
エルメスの人気調香師による、香水についての網羅的に概説する本。
香水の歴史的部分、人間の嗅覚の構造、香水の原料や抽出方法、調香師になるための勉強、調香師の職業的な部分、香水とは何か、マーケティング、香水を市場に出す過程などなど、ほんとうに香水全般を扱っています。そして簡潔。
どの章も興味深いのですが、たとえば抽出方法の章で解説される、植物から香り成分を抽出するいくつかの方法のどれもが、人間ってよく考えるものだなあ、と思えるものでした。どうしてそうやったらできるとわかったのだ? というように。いくつかの抽出方法のひとつを以下に書いてみます。揮発性溶剤にいれて香り成分を溶かし込んだ溶剤を回収し、それを気化して回収する。残った部分は残った部分でエチルアルコールと攪拌して凍らせ、濾過し、非混和性の植物の蠟と、香りの混じったアルコールとに分離する。最後に、アルコールを気化すると「アプソリュ」呼ばれる素材が出来上がります。こういった単純ではない過程を踏んだりするのです。また、こないだ別の本で学んだ超臨界流体による抽出方法、こういった現代の技術による抽出方法もありました。
いちばんおもしろかったのは、調香師のその仕事・職業面を解説した章です。ここだけで一冊になるくらいのエッセンスがあります。というか、世の中にある多くの本って、こういう部分のみにスポットライトをあてて語るようなものが多いです。それはそれでクローズアップされていて、点として学ぶ、あるいはエッセンスとしてのいくつかの点を学んで線を結ぶ、といった作りになっていると言えるかもしれません。本書は調香師の仕事のそれ以外のまるごとを扱っている点が、調香師ひいては香水の現実面をしっかり読者に知らせるものとなっていますから、視野を広く持って香水を知れますし、夢だけを語るのではない仕事面のあれこれを知れる仕様になっています。
というところで、その、調香師のその仕事・職業面を解説した章から引用を。
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香水モデルも、ファッションと同じように、それが生まれた時代に属している。やがて時代遅れになる。時代遅れにならないためには、いつまでも修業時代と同じように、物や人びとに好奇心を持ち、つねに探しつづけなければならない。探しつづけ、そしてときには、見つけることもある。(p69)
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→創造する分野に共通する金言だと思いました。
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喜びは利己的なもの。贅沢とは、分かち合うことである。あらゆる芸術的な職業と同じように、香水製造が目指すのも、なにより感覚に喜びを与えることだ。人間としてそして調香師として、まず自分が喜びを感じなければ、人に喜びを与えることはできない。驚かせる喜び、想起させる喜び、暗示する喜び、そして、すこしずつ謎を解かせる喜びだ。香水は、匂いの書いた物語。そしてときに、思い出の書く一篇の詩なのである。(p80)
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これもクリエイターにとって共通のことを言っているなあ、と肯きながら読みました。
香水の分野でこそのおもしろい言葉もいろいろあったのですがここでは紹介しません。それは本書を読んでのお楽しみにさせてください。
香水の世界は濃密だ、と知れる一冊です。創られた香水に著作権はないのですが、創作物としての著作権を認められるような判例がフランスではでたことがあるとも書かれていました。創った香水に著作権は得られなくとも、本書を読むと、調香師は芸術の分野にいる人たちだとわかるでしょう。こういった本を読むと、その営為に触発されます。世界は広い。