Fish On The Boat

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『標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学』

2016-04-06 00:21:03 | 読書。
読書。
『標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学』 竹内洋岳
を読んだ。

世界には高度8000メートルを超える山が14座あり、
そのすべてがヒマラヤ山脈と、そのとなりのカラコルム山脈にあります。
ネパールだとかパキスタン、中国の境の山脈です。
そんな8000メートル級の14座すべてに登頂したひとを、
「14サミッター」と呼ぶようなのですが、
日本人としてはじめてその「14サミッター」になられたのが、
著者の竹内洋岳さんです(世界では29人目)。
そんな竹内さんの半生を振り返りながら、
高所登山の魅力や、
彼なりの高所登山にたいする考えかたなどを綴っています。

高所登山をつづけるなかで、
「プロ登山家」を、覚悟を決めて名乗り始めます。
雪崩で死にかけた経験も、失敗談も、
隠すことなく紹介されていました。
それが、竹内流のプロ意識なんですね。

ぼくはEテレの対談番組ではじめて彼のことを知って、
それからこの本を購入し、
14座登頂という偉業についても知ったようなひとです。
登山家といえば、植村直己さんの名前しか知なかったです。
それゆえなのか、登山の話が新鮮でした。
クレバス(氷の地表の亀裂)だとか、
以前『岳』という映画を見たこともあったために
知っていることもありました。
でも、少しずつ高所に体を慣らしていくだとか、
登山に慣れてるならすぐに登るわけでもないのだな、
とド素人的に思ったりもしたのです。
そういうレベルでもとっつきにくさのない本です。

最後のほうで、
登山とはいかなるものなのか、という
著者流の答えが書いてあります。
何度も山に登っても、
それが同じ山であるとしても、
気候や季節などが違うし、
まったく違う顔を見せるのが登山である、と。
だから、登山はすべて、いつもゼロからのスタート。

これは、小説を書くのにも同じことが言えると思いました。
書けば技術は磨かれるし、鍛えられる部分はあるけれど、
書いた経験がそのまま次回に役に立つどころではなく、
想像力を奪ってしまうことになる。
そのため、経験は道具の一つくらいのものであり、
想像力こそを豊かにもってゼロから組み立てていく。
ほんとうにこれは、登山と小説の執筆の共通点だと思います。

それにしても、酸素や水蒸気のうすい8000メートルの世界って、
夜はすごく星がきれいなんですって。
すべての星が、瞬きもせずに強い光を浴びせてくる。
星座もわからないくらいに満天の星が輝くのだそうです。
そして、写真や動画ではなかなか伝わらない、
その場にいるからこその見え方がするそうなんです。
ぼくは一生、そういう体験はできないだろうから、
目いっぱい想像してみることだけにしますかねえ。
たまに雑誌なんかで満点の星の写真がありますが、
ああいうのに近いのだろうなあ。


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