読書。
『ちゃんと話すための敬語の本』 橋本治
を読んだ。
非常に読みやすくて、文体が柔らかく丁寧で、
かゆいところに手が届くような内容の本でした。
「ちゃんと話すための敬語の本」というタイトルですが、
本文中に書かれているとおり、
「正しい敬語の使い方を教える本」ではなくて、
「みなさんでそれぞれ、正しい敬語の使い方を考えてください」という本です。
そうやって、敬語の使い方を考えるための、
言葉というものや尊敬の気持ちや、敬語がうまれた背景としての
身分というものについての説明をしてくれています。
つまりは、「敬語を実践するための準備を整えてくれる本」なのでした。
面白い本だなぁと読んでいたら、最後の方に、読者の対象を10代の初めにした、
なんて書かれていました。そのくらいがちょうどいいのよね…。
そうなんですよねぇ、小学校の高学年にでもなれば、
それまではなんともなかった場面が、敬語を使う場面に変化したりする。
敬語使用の荒波に放り出されてしまうにしては、敬語というものの知識や背景、
そしてそれを要求してくる社会というものに対する知見が足りない。
きっと、著者の橋本治さんは、「それじゃ、フェアじゃないじゃないか」と
考えられて、この本を書いてくれたのかもしれないですね。
この本が説く、敬語のあり方のカギは、他人との距離にありました。
距離によって、言葉の使い方は変えるものなんだっていう姿勢で
説明されています。
ただ、やはり、世の中はこの本のとおりの、
「距離感だけで言葉を使い分ける社会」ではありません。
本文中にも書かれてはいますが、社会による人のランク付けというものを、
今でも信じて疑わない人たちは山ほどいるでしょう。
そして、そういう社会通念みたいなものって、
すごく堅い壁のようなものだったりしますね。
個人の力では打ち破れなかったりする。
そこを、こういう本が、読む人の共感を呼び、静かに波紋を広げて、
その波の力によって壁を共振させて崩していくことになることもあるでしょう。
僕はそういうのを見てみたい人です。
敬語の技術に関しては、他の本で勉強するのが良いです。
尊敬の敬語、謙譲の敬語、丁寧の敬語、それぞれの種類については
この本では勉強できません。
ただ、かえすがえす書きますが、敬語を使う一人の人としての、
足元を固めてくれる本ではあります。
スタートラインに立たせてくれる本です。
よーいどんで走り出す時に、適切なスタートの姿勢を教えてくれる本です。
そういう意味で、とても価値のある本だと思いました。
全127Pと、ちょっと薄めの本ではありますが、内容が薄いことはありません。
著者が対象とした小学校高学年の人はいざ知らず、
中学生でも大学生でも、大人でもおじいちゃんでも、いつ読み始めても遅くはないです。
敬語というものはなんなんだろうと一度でも感じたことのある人、
他人との言葉の使い方に息苦しさを一度でも感じたことのある人は、
手に取ってみるといいでしょう。