暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

東京教室の初釜と英語の百人一首

2020年02月07日 | 稽古備忘録・・・東京教室の稽古

   

 

1月28日(火)はS先生の東京教室の初釜でした。

前日からの雨が夜中に雪になり、横浜のチベットと呼んでいる我が家はうっすらと雪景色の朝でした。

今年の初釜の水屋方は暁庵の所属する2班(I氏、Oさん、Iさん、OYさん、ルースさん、暁庵)が担当でしたので、いつもより早めに家を出ました。

 

  (これは数年前の雪の日の写真です)

皆さま、初釜らしい華やかな着物と帯をお召しなので、もうそれらを鑑賞するだけでも心浮き立つ思いです。
暁庵の初釜と同じですが、古代紫色の無地紋付に金茶地唐花文の丸帯を締め、白い帯締めを結びました(書いておかないと何を着たのか、すぐ忘れてしまうのです)。


あけましておめでとうございます
 今年もどうぞ宜しくお願いいたします


今年も変わりなくS先生の東京教室の初釜に参加し、社中の皆様と共に新年をお祝いできる幸せを感じました。

ご挨拶を交わすと、決められた席へ移動し、2班の皆様と「花びら餅」を運び出しました。いつもS先生が初釜に使う茶道具と川端道喜製「花びら餅」を持ってきてくださいます。

初釜は、先生の新しい年への意気込みや社中への思いを嬉しく感じる、素晴らしい時間でもあります。

 

 

S先生の濃茶の初点が始まりました。
総勢16名、心を一つにしてS先生の濃茶点前に魅入ります。
茶入が長緒でした。長緒の扱い、茶杓を清める所作、茶碗の拭き方など、何一つとして見逃したくありません。皆さまもきっと・・・。
やがて馥郁とした香りが満ちてきて、濃茶が練りあがりました。

如心斎好みの嶋台(慶入造)の鶴で頂戴しました。香り、濃さ、お練り加減好く、すっーと喉を潤すまろやかな甘みのある濃茶を二口半頂戴しました。濃茶は福寿園の「栄松の昔」(だったと思う)です。

お道具の拝見をしながら、S先生のお話を興味深く伺いました。

茶入は膳所焼の広口。黒味がかった釉薬の色が広口の形をきりりと締めているように感じ、添っている象牙の蓋のなんと薄く繊細なこと、時代を経たあめ色が心に残ります。

2つの添った仕覆も拝見させて頂きましたが、触るのが怖かったです。間道ともう一つの裂地の片身代わりが優雅で凝った作りになっていました。

茶杓は、S先生の華甲のお祝いに坐忘斎お家元から頂戴した「天眼(てんがん)」でした。形や削りがとても豪快な印象の茶杓で、ふと玄々斎の茶杓を思い出します。

「天眼」とは、天人の眼を持ってものごとを見るように・・・なにか心の奥底まで見通すような、鋭さと優しさを持った眼なのでしょうか・・・。

 

  露地の敷松葉が美しく色を染め上げて・・・

 

S先生の濃茶が終わり、員茶之式で全員で薄茶を点て、薄茶を頂きました。

今年は2班が担当なので、亭主はルースさん、札元は暁庵、目附はIさんです。

百人一首の札を十種香札の代わりに使うことにしました。昨年、京都国立博物館で「三十六歌仙」展があったのに因み、百人一首に含まれる三十六歌仙の歌22首から16首を選び、Iさんと二人で詠みあげました。

ルースさんはアメリカ人の素敵なお茶人さんです。事前に百人一首を勉強して初釜に臨みました。

いよいよルースさんの札の番になり、次の札を詠みあげました。

 

     清原元輔

  ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ

        すゑのまつやま なみこさじとは

(現代訳・・・かたく約束しあったことでしたね。お互いに涙で濡れた袖をしぼりながら、あの末の松山を波が越すことがないように、二人の仲はいつまでも変わりますまいと。)

 

すると、ルースさんが英語でその和歌を詠みあげました。 

       Wringing  tears  from  our  sleeves,

       did  we  not  pledge  never  to  part,

       not  even  if  the  waves  engulfed

       the  Mount  of  Forever-Green  Pines ー

  what  caused  such  a  change  of  heart ?

 

流暢な英語を聞き取れた方もいらしたかもしれませんが・・・思わず「 Once   more,  Please!」

でもなんか、国際的な員茶之式になって楽しかったし、ルースさんの真摯な取り組み(16首の英訳とその意味をしっかり勉強して臨んでくださいました)に感動しました。

 

 

員茶之式の後、三友居のお弁当と吸物の昼食を囲み、S先生や皆様といろいろなお話が和やかに交わされて、これもすばらしいことでした。

・・・・こうして令和2年のS先生の東京教室の初釜が無事終わりました。 今年も 

 

 


有馬温泉・雅中庵の初稽古・・・in 2020

2020年01月13日 | 稽古備忘録・・・東京教室の稽古

   待合 「榊」  宙宝宗宇筆  明堂筆 榊の絵

 

令和2年(2020年)1月5日、今年もまたS先生の初稽古へ東京教室のOさまとYYさまとOYさまと4人で参席しました。
毎年、初稽古は兵庫県有馬温泉の有馬グランドホテル・雅中庵で行われています。

新横浜駅8時29分発のぞみ号で新神戸駅へ向かい、11時30分にはホテルに到着し、ロビーでOYさまと合流。

12時からS先生を囲んで全員で昼食を頂きました。

東京教室からOさま、YYさま、OYさま、暁庵の4人が参加できてヨカッタ!と思いましたし、S先生もご挨拶に廻って来られ、嬉しいそうでした。

その時は「美味しいね!」と皆でお話ししながら夢中で頂きましたが、御献立を見ると、兵庫県有馬温泉らしい料理がたくさん盛り込まれているのに気が付きました。例えば、柚子酒炭酸割り、百合根饅頭と蟹の湯けむり蒸し、神戸牛味しゃぶしゃぶなど・・・写真がないのが残念です。

昼食後に雅中庵の濃茶席と薄茶席へ廻りました。

久しぶりに懐かしい社中の方々とお会いして、ついお話が弾み、濃茶席の開始時間ぎりぎりに到着、入り口で奥様がはらはらした様子で待ってくださって、誠に申し訳ございません。

 

 菓子席御床  淡々斎筆「知足富」  蓬莱飾り

 

待合や菓子席の御床は後でゆっくり拝見することにし、濃茶席へ滑り込みました。

まもなく、縁高が運び出され、末富製(まだ今日庵の初釜の前なので)葩餅にかぶりつきました(懐紙で口元を隠しながら・・・)。

1年ぶりの葩餅に感激していると、縁高が拝見に回ってきました。

縁高は3種、吉野絵(利休好)と溜片木目と唐松蒔絵爪紅です。手に取ると驚くほど軽く、それぞれ違う味わいで素敵ですが、吉野絵が正月らしく華やかでお好みかな・・。

 

  濃茶席 御床   近衛前久筆  元日詠草

 

御床の掛物は、和歌のようですが、元日・・・所々しか読み取れませんで会記より書き記します。

 近衛前久筆  元日詠草

    東よりかすみそめつつ くる春の

       わがものかほに いはふ山さと

    

    立ちそうか春風かすみ老のなみ

 

先生のお話によると、「最後の一行は俳句のようですが、この時代にまだ俳句は流行っていないので、連歌の発句だと思います」とのことでした。

花は、ふっくらと見事な蕾の曙椿と鶯神楽です。

花入は、又玄斎一燈作、仙叟好窓二重です。今年は又玄斎一燈の生誕300年だそうですが、二重窓の形やカスガイで止めた継ぎ目の斬新なデザインが印象に残りました(ため息~)。

 


襖が静かに開けられ、S先生の濃茶点前がはじまりました。
袱紗が捌かれ、茶入、茶杓と清められていきます。
自然体ですが、指の先まで神経が行き届いているような緊張感のある所作は美しく、全員が先生の一挙一動を息を凝らして見つめます。
そして、茶入から3杓掬いだされた後、サラサラと滝のように緑の抹茶が回し出され、その美しさにうっとりと魅せられます。

12代慶入作嶋台の亀に続いて、鶴茶碗で7人分が練られ、東京教室のお仲間4名と御一緒に頂戴することができたのも素晴らしい思い出になりました。

濃茶席の茶碗は、如心斎好嶋台(慶入造)と飴釉嶋台(九代長左衛門造)と古萩筆洗茶碗です。
濃茶は「延年の昔」(星野園詰)、香り佳く、まろやかな甘みを感じる濃茶で美味しく頂戴しました。

茶入は瀬戸破風窯の翁手で銘「玉津島」、落ち着きのある形、味わい深い茶入と嬉しい再会を果たしました。「玉津島」は玉津島神社(和歌山市和歌の浦)のことで、和歌の神様を祀る神社(他に住吉神社と柿本人麻呂神社がある)として天皇や貴族、歌人たちに崇拝されてきました。


茶入「玉津島」には小堀権十郎箱書があり、箱には素晴らしい和歌が書かれています。

   人問はば知れる翁の夜語りを
        昔にかえす和歌の浦波

茶杓は、坐忘斎作で銘「天眼」、華甲のお祝いにお家元から頂戴した茶杓でした。「天眼」の意味するところをお話し頂いたのですが、思い出せず・・・とほほです。

 

 

濃茶席から薄茶席へ移動しました。今年の薄茶席は花組さんの担当でした。

とても分かり易く丁寧に御床やお道具のことをお話してくださり、濃茶の後の薄茶を美味しく頂戴しました。

薄茶席は先生がいらっしゃらないのですが、その分余計に先生の初稽古への気合いというか、新しい年への思いや、社中に対する熱い眼差しが道具組や茶碗の一つ一つに感じられ・・・幸せでした。

 

   薄茶席点前座の設え

 

今日の初稽古に、どんなにたくさんの時間とエネルギーをかけてご準備くださったのだろう・・・と思うと、有難く涙がでる思いです。

今年も初稽古へ参席できたことが嬉しく、来年も出来る事なら元気で参加したい・・・と願っています。

その日はOさま、YYさまと有馬グランドホテルで一泊し、有馬の名湯・金泉と銀泉に浸かってきました。

「今年も春から縁起がいいわいなあ~」     

 

 


泥縄ですが、和巾の稽古をしています

2019年03月21日 | 稽古備忘録・・・東京教室の稽古

 散歩の途中、大欅が切られているのに遭遇・・・「痛いだろうな・・・」


S先生の東京教室の稽古が来週に迫ってきました。
「和巾」の御指導をお願いしています・・・
頭の片隅に「稽古をしなくっちゃ・・・」という気持ちは強くありましたが、つい延び延びになっていました。

「クロスロード茶会」の準備と社中の稽古で気忙しく、気持ちが集中できなかったということもありますが、一番は稽古をして逆に膝や腰がもっと悪くなったらどうしよう・・・という恐怖心があったのです。
「その時はその時・・・」と思い切り、稽古を開始しました。

先ずは順番、位置、所作(茶道点前の三要素)に気を付けながら1回してみました。
自分で身体を動かしてみると、いろいろな所が気になりました。
和巾の扱い方、濃茶を茶碗に入れるときの茶杓、中次、蓋の扱い方、拝見の清め方、最後に拝見物を持って帰る所作など、いろいろと駄目だしが多く、夕食後にもう一度してみることにしました。

深更の茶室、障子を開け放ってガラス戸に自分の姿を映し、姿勢や所作を時々チェックしながら進めました。
2回目なので、身体が和巾の点前に馴染むようになりましたが、別の身体の方が悲鳴を上げはじめました。今は2回までが限度かしら?


  彼岸桜と木五倍子(きぶし)が満開です

それでも久しぶりの稽古に充実感を覚えました。
「あっちこっち痛いんだけれど、それでも稽古が出来たことが嬉しいし、稽古が出来たことが本当に有難いわ・・・」とツレに報告すると、
大きなマメが足裏に出来てしまい、泣く思いで四国を遍路していた時、ある方に言われたそうです。
「宿に着いたら、痛みを嘆かずに「有難う!おかげさまで今日も歩くことが出来ました」と、痛む箇所をさすり言葉に出して感謝しなさい」と。
・・・「本当にそうだなぁ~」と思います。
頑張ってくれた足腰にもう感謝です。有難うございました!





夜更けに松風を聴き、練香の薫りが漂う中、独り稽古に精出す・・・とてもよい時間を持つ事ができました。



東京教室の初釜 in 2019 

2019年02月06日 | 稽古備忘録・・・東京教室の稽古

     白梅が満開でした・・・2019年1月31日撮影

睦月最後の31日(木)は、S先生の東京教室の初釜でした。

昨年は1月末に華紅のお祝いの茶会があり、全員で京都・吉兆へ出かけたので、2年ぶりの東京教室の初釜です。
9時半頃に稽古場に着くと、本堂の前の梅が満開でした。
今年は梅が早いようですので、桜も早いかもしれませんね。


   露地の敷松葉が美しく・・・

10時開始の予定でしたが、電車が遅れているそうで、皆さまが揃うのを待っていました。
皆さま、初釜らしい華やかな着物と帯をお召しなので、もうそれらを鑑賞するだけでも心浮き立つ思いです。
有馬・雅中庵の初稽古を皮切りに社中の初釜や正月を祝う茶事などが続き、なるべく毎回着物と帯を変えることで初釜への新鮮な気持ちを維持したいもの・・・とがんばりました。
この日は金茶色の扇地文のある無地紋付に、金糸銀糸の羽根模様のある水色の帯を結びました。
本当に贅沢なことですが、日本に生まれてお茶をやっていてヨカッタ!とつくづく感じる瞬間でもあります。



床には「春涛」の二字、
まだ寒のうちですが、白梅が満開となり、春の息吹がすぐそこまでやって来ています。
花は白椿と梅、花入は竹一重切です。

あけましておめでとうございます
 今年もどうぞ宜しくお願いいたします




ご挨拶を交わすと、決められた席へ移動し、すぐに「花びら餅」が運ばれました。
なんと!京都・川端道喜製の「花びら餅」です。
味噌餡が柔らかく、上品な美味しさが口いっぱいに広がり、あっちこっちで感嘆の声がしました。
先生のお話では、ゴボウが外に出ていない関東仕様だそうで、柔らかな味噌餡がこぼれにくくなっているそうです。
私たちのために京都からお持ち出しの「花びら餅」に、皆嬉しく感激しました。

S先生の濃茶の初点が始まりました。
今回はご住職が正客として加わってくださって、総勢15名になりました。
しーんと静まり返る中、S先生が襖を静かに開け、茶碗を運び出します。
その足運びや所作を24ならぬ30の瞳が真剣に見入ります。
建水が運ばれ、陶器の蓋置が定座に置かれ、柄杓を引き総礼。
いつもの濃茶点前ですが、一挙手一動、S先生の動きに自分の点前を重ねて拝見させて頂きました。
茶入の扱い、茶杓の清め、茶碗の拭き方、何1つとして見のがしたくありません。

ふっと先生が幽かなため息をつかれたような・・・小さな間違いがあったようです。
お点前に心を重ねていた私も安堵しました・・・誰にでも間違いはあるもの、大切なのはその時の気持ちと対処だと思いました。
先生はあわてずさらりと対処されたので、とても素敵なお手本になり心に留めています。



お点前中、一番驚き感動したのは濃茶を練る時でした。
暁庵は濃茶の時、きっとお客さまから長すぎるのでは・・・と思われるくらい、丁寧に長く練るように心がけているのですが、先生はそれ以上に丁寧且つ長く練っていらっしゃいました。
やがて嶋台が定座に出され、「どうぞ7人さまで」と声が掛かりました。

私は四客で頂戴しましたが、熱々でしかもしっかり練られた濃茶はまろやかな甘みがあり、美味しゅうございました。
濃茶の名前を失念しました・・・思い出したら書きますね。
もう一碗は8名分だったと思います・・・このへんになると集中力もすっかり落ちてきました。
茶碗は嶋台の鶴亀、十二代慶入作です。
茶入は瀬戸翁手の銘「玉津島」、茶杓は認得斎作の銘「杖」でした。
有馬・雅中庵での初稽古の折に用意されたお道具をそのまま東京教室の初点に持って来てくださったのです。
いつもですが、S先生の優しく素敵なお心遣いが有難く嬉しいです。



薄茶は全員で員茶之式、札は百人一首を使いました。
亭主は宗勝さん、札元は宗優氏、目付は宗美さんでした。
札元が百人一首の札を詠みあげるのですが、朗々とよく響く美声にうっとり、一段と優雅な雰囲気が漂います。
(内心、大好きな和泉式部の歌が当たることを願っていたのですが)終わりから3人目くらいで当たりました。
周防内侍(すおうのないし)の歌で、春の短か夜の夢に見た幻のような歌です。

   春の夜の夢ばかりなる手枕(たまくら)に
       かひなくたたむ名こそ惜しけれ     周防内侍



薄茶の後、三友居の懐石弁当と椀物を頂戴し、お開きになりました。

末筆になりましたが、S先生、皆さま、2019年もどうぞ宜しくお願いいたします。



有馬・雅中庵での初稽古 in 2019

2019年01月12日 | 稽古備忘録・・・東京教室の稽古




平成31年1月5日、S先生の初稽古(初釜)へ東京教室のOさまとYさまと参席しました。
毎年、初稽古は兵庫県有馬グランドホテル・雅中庵で行われています。

京都を離れて以来4年ぶり(?)でしたが、先生の初稽古の気合いがひしひしと感じられるお席でした。
それに、久しぶりの同窓会の様に懐かしい方々にお会いでき、嬉しいひと時でした。
なんか、病みつきになりそうですが、忘れないうちにブログに濃茶席の様子を書いておきます。


  「少女羽子揚げ図」 (森寛斎筆  一文字秋石筆)

待合の床には「少女羽子揚げ図」と枝垂レ柳が掛けられ、干支の模様が描かれた羽子板が飾られています。
下には垂涎の炭道具一式とたくさんの箱書、会記もあり、S先生の初稽古への気構えが伝わって参ります。
会記はのちほどゆっくりと拝見することにして、菓子席へ向かいました。


   菓子席の床  「大原女」(森寛斎筆)と蓬莱飾り

菓子席にも床があり、「大原女(柴の上に犬?)」の画が掛けられ、蓬莱飾りが見事です。
2つ(吉野絵と唐松文爪紅)の縁高(六代宗哲と万象造)が運ばれてきました。
袱紗ゴボウの味と歯触りが何とも美味で、垂れないけれど柔らかい味噌餡が入ったはなびら餅(末富製)をぱくつき、京風の味わいを堪能しました。

菓子席隣の書院付広間(16畳台目)が濃茶席になっていました。
広い床には、圧倒するような横物の御軸が掛けられています。
「何処へ座ったら良いかしら?」ウロウロしていると、奥様の鶴の一声がして、なんと!正客席へ座らせて頂きました。
久しぶりに東京から・・・ということで、ご指名してくださったようです(もう汗!!)。


新年を祝う飾り物「ヒカゲノカズラ」(古代の神事に使われていた)

まもなく、襖が静かに開けられ、S先生の濃茶点前がはじまりました。
その瞬間から総勢24名の客が一心同体になりました。
先生の一挙一動を息を凝らして見つめる中、袱紗が捌かれ、茶入、茶杓と清められていきます。
ゆったりとした自然体なのですが、指の先まで神経が行き届いているような所作は美しく、全員が魅入っていました。
そして、茶入から3杓掬いだされた後、サラサラさらさらと滝のように緑の抹茶が回し出され、一幅の絵を見るようでした。

茶筅が最初は静かに小さな輪を描くように、やがてリズミカルに音楽を奏でるように練られ、かなり離れた暁庵の席へも芳香が満ちてきました。
席を立って取りに出て、その時初めて先生と目が合いました。
先生は優しく茶碗を持ちあげて渡してくださって、「座らなくっても良いですよ」と言い、「5人さまで」とおっしゃいました。まだ、膝が完全に回復していないので、気遣って下さったのです・・・。


   天明さび釜 認得斎銘「古狸」、黒柿の炉縁

茶碗は嶋台の亀(12代慶入作)、5人分の濃茶がたっぷり入っています。
総礼して、口に含むと、
「少し伸ばし過ぎたようですが、いかがでしょうか」
「いいえ・・・とても美味しゅうございます」
丁度飲み易い濃さの濃茶をたっぷり頂戴しました。
服加減を聞くと、先生はすぐに2碗目の濃茶に取り掛かり、次々と4椀(24人分)の濃茶を練ってくださいました。
茶碗は、如心斎好嶋台(慶入造)と飴釉嶋台(九代長左衛門造)です。
濃茶は「延年の昔」(星野園詰)、香り佳く、まろやかな甘みを感じる濃茶でした。

4椀を練り上げてから客付に向かわれて
「皆さま、あけましておめでとうございます」とご挨拶があり、私たちも笑顔でご挨拶を交わしました。
正客でしたがこの時まで、この清々しくも緊張感のある雰囲気を壊したくないと、沈黙を守ってヨカッタ!です(ほっ・・・)。



 
その後、先生から寄付、菓子席、本席の掛物や初釜にふさわしい正月飾りについていろいろお話しいただきました。
中でも2間近くある広い床に堂々と掛けられた横物の御軸が圧巻でした。

「別是一家風」

読み下しは、別(べつ)に是(これ)一家風(いっかふう)
雄渾な御筆は、大徳寺116世・万仭宗松禅師です。

「家風」とは「生き方」、この場合は「茶の道」かもしれません・・・。
今までとは違う「茶の道」を自分で見出し、それを発展させていこう・・・という意味でしょうか。
「茶の道」はそれぞれが自由に考え、自分で見出していくもの、それぞれの家風があって好し・・・という意味にも解釈できます。
新年の席にふさわしく、先生の決意表明のようであり、私たちを新しい境地へ導いてくださっているようでもありました。

床の花が素晴らしかったです。
松、衝羽根、水仙が唐銅立鼓(浄味造)の花入にいけられていました(写真がうまく撮れなかったのが残念!)。
香合は、玄々斎好の富士絵蛤です。


  華やかな認得斎好手桶  又みょう斎在判  八代宗哲造

最後に、茶入と茶杓について書いておきます。
茶入は瀬戸破風窯の翁手で銘「玉津島」、落ち着きのある形、味わい深い茶入と嬉しい再会を果たしました。
小堀権十郎箱書があり、書かれている和歌を詠んでくださいました。
茶杓は竹、10代認得斎作で銘「杖(つえ)」でした。

   人問はば知れる翁の夜語りを
        昔にかえす和歌の浦波


先生のお話は面白く、興味深く、お道具も詳しく書き留めたいことばかり・・・ですが、既に夢の中です。
夢の中のような素敵な時間を皆様と過ごさせて頂き、初稽古へ参席できたことを喜んでいます。来年も元気で参加したい・・・と願っています。
その日はOさま、Yさまと有馬グランドホテルで一泊し、有馬の名湯に浸かってきました。