
福井は「恐竜王国」を名乗るだけあって、いろんなところで恐竜に出くわす。福井駅前で全長10メートルの巨体を曝している「フクイティタン」は映像によく映し出されるけれど、それだけではない。駅のベンチで辞書を片手に骨格標本を見つめている仲間や、人影の薄い観光地のバス停でじっと佇んでいる名も知らぬ姿を見かけ、ドキッとさせられたりする。街の人は見慣れているのだろう、ほとんど無視して通り過ぎて行くのも恐竜王国らしい。

恐竜とは「2億年前の地球に生息した多様な爬虫類で、二足歩行する史上最大の陸上生物である」とでも言えばいいのだろうか。男児用のシャツ売り場に行くと、胸の絵柄は電車か恐竜で占められているそうだ。恐竜がそれほどの人気者になったのは、いつのころからだろう。少なくとも私がその年ごろだった70年前は、そんなことはなかった。6000万年前に絶滅するまで、人類との接点はなかったから、研究はもっぱら化石に頼ることになる。

その化石が福井県内でしばしば発見される、それが王国を名乗る所以である。日本列島が大陸から分離されたのは、2500万年前以降とされるから、恐竜は海を渡ることなく、後に日本列島となる土地でも跋扈し、絶滅していったことになる。恐竜やその時代の植物が堆積し、化石として発見される「手取層群」と呼ばれる地層が、富山・石川・福井・岐阜の4県に広がっている。恐竜の化石の発見は全国にわたるけれど、手取層群からが最も多い。

恐竜の研究史には「恐竜ルネッサンス」という画期があるらしい。20世紀前半までは恐竜は「動きの鈍い冷血動物」だったと考えられていた。しかし1964年、米国で発見された肉食恐竜・デイノニクスの全身化石から「恐竜は温血動物で、高度な社会性を持っていた」ことが分かってきた。これにより恐竜に関する関心・研究は一気に盛り上がり、「恐竜ルネッサンス」と呼ばれるほど次々と、進化・生体・絶滅などに説得力のある学説が発表されて行く。

以上の恐竜研究史から、ルネッサンス以前の私の少年時代は、現在のような恐竜人気は生まれようもなかったことが分かる。あの巨体が陸上を縦横無尽に暴れまわる姿は、せいぜいここ50年ほどの間で明らかになってきたわけで、チビッコたちを夢中にさせるのも分からないではない。実は私は、どちらかと言えば爬虫類が苦手なので、恐竜には近づきたくないのだけれど、そうした偏見無しに子供たちを太古に誘う恐竜は貴重な存在である。

そして福井は目聡かった。恐竜が人気者になる確信があったのだろう、いち早くフクイサウルスが出土した勝山市に恐竜博物館をオープン、恐竜王国の足場を固めた。さらに2025年には博物館隣接地に県立大学の「恐竜学部」を開設すると発表している。幼少年期に恐竜マニアになった子供たちが、「恐竜」を冠する学問の場で地質や気候といった地球環境の謎に取り組むとしたら、高齢化や人口減少の流れを打ち破るパワーになるかもしれない。
この旅の小浜での体験。早朝、ホテル7階のベランダに出ると、ツバメが盛んに飛び交っている。眺めを楽しんでいると、突然1羽が私に突進して来た。餌を追って気がつかないのかと思ったら、繰り返し向かって来る。怒りに満ちた目が私と火花を散らす。嘴に刺されるかと思った瞬間、ヒラリと体を交わして態勢を立て直す。近くに巣があったのかもしれない。秘剣・燕返しの奥義を見た思いになるほど鋭い動きだ。さすが恐竜の子孫である。(2022.5.19)




恐竜とは「2億年前の地球に生息した多様な爬虫類で、二足歩行する史上最大の陸上生物である」とでも言えばいいのだろうか。男児用のシャツ売り場に行くと、胸の絵柄は電車か恐竜で占められているそうだ。恐竜がそれほどの人気者になったのは、いつのころからだろう。少なくとも私がその年ごろだった70年前は、そんなことはなかった。6000万年前に絶滅するまで、人類との接点はなかったから、研究はもっぱら化石に頼ることになる。

その化石が福井県内でしばしば発見される、それが王国を名乗る所以である。日本列島が大陸から分離されたのは、2500万年前以降とされるから、恐竜は海を渡ることなく、後に日本列島となる土地でも跋扈し、絶滅していったことになる。恐竜やその時代の植物が堆積し、化石として発見される「手取層群」と呼ばれる地層が、富山・石川・福井・岐阜の4県に広がっている。恐竜の化石の発見は全国にわたるけれど、手取層群からが最も多い。

恐竜の研究史には「恐竜ルネッサンス」という画期があるらしい。20世紀前半までは恐竜は「動きの鈍い冷血動物」だったと考えられていた。しかし1964年、米国で発見された肉食恐竜・デイノニクスの全身化石から「恐竜は温血動物で、高度な社会性を持っていた」ことが分かってきた。これにより恐竜に関する関心・研究は一気に盛り上がり、「恐竜ルネッサンス」と呼ばれるほど次々と、進化・生体・絶滅などに説得力のある学説が発表されて行く。

以上の恐竜研究史から、ルネッサンス以前の私の少年時代は、現在のような恐竜人気は生まれようもなかったことが分かる。あの巨体が陸上を縦横無尽に暴れまわる姿は、せいぜいここ50年ほどの間で明らかになってきたわけで、チビッコたちを夢中にさせるのも分からないではない。実は私は、どちらかと言えば爬虫類が苦手なので、恐竜には近づきたくないのだけれど、そうした偏見無しに子供たちを太古に誘う恐竜は貴重な存在である。

そして福井は目聡かった。恐竜が人気者になる確信があったのだろう、いち早くフクイサウルスが出土した勝山市に恐竜博物館をオープン、恐竜王国の足場を固めた。さらに2025年には博物館隣接地に県立大学の「恐竜学部」を開設すると発表している。幼少年期に恐竜マニアになった子供たちが、「恐竜」を冠する学問の場で地質や気候といった地球環境の謎に取り組むとしたら、高齢化や人口減少の流れを打ち破るパワーになるかもしれない。

この旅の小浜での体験。早朝、ホテル7階のベランダに出ると、ツバメが盛んに飛び交っている。眺めを楽しんでいると、突然1羽が私に突進して来た。餌を追って気がつかないのかと思ったら、繰り返し向かって来る。怒りに満ちた目が私と火花を散らす。嘴に刺されるかと思った瞬間、ヒラリと体を交わして態勢を立て直す。近くに巣があったのかもしれない。秘剣・燕返しの奥義を見た思いになるほど鋭い動きだ。さすが恐竜の子孫である。(2022.5.19)



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