今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

729 高知(高知県)ハチキンは今夜も飲むさ土佐だもの

2016-10-25 09:59:36 | 愛媛・高知
高知で、地元の方に飲みに誘われたことがある。はりまや橋からアーケード街が続く繁華街だった。中央にテーブルが並び、その周りに様々な酒の肴を売る店があって、各自が好きなものを買って飲む、楽しい酒場だった。今回は奥方を案内したいのだが、場所が判然としない。ホテルで説明し、「まだ在りますか?」と訊ねると、すぐに承知で案内パンフレットまで手渡された。「ひろめ市場」という地元飲兵衛の人気スポットなのだった。



相席になった土佐美人に店の仕組みを教えてもらい、鰹のタタキやジャコ、そしてビールを買う。感謝を込めて「写真いいですか?」と問うと、どうぞと豪快なポーズをとってくれた。こういう女性を「ハチキン」と呼ぶのだろうか。彼女たちが引き揚げ、次に「相席よろしいですか」とやって来た二人も美しい。近くに友人がいて席を移ることになったが、私達を県外の観光客と見抜いたのだろう、使ってくださいと名刺を置いて行った。



高知県では目下、観光キャンペーンの真っ最中で、県外客は名刺にある美術館や博物館のうち、6施設まで無料で入館できるという観光特使の名刺だった。すっかりいい気分で飲み続けていると、次に座ったのは後期高齢の老夫婦だ。連れ合いに違いないのだが、それぞれが自分の菜だけを買う。財布も別らしい。会話は一言もない。眼を合わすことすらしない。おばあさんの顔は怖い。土佐の女性は美しく、そして厳しく老いて往くのか。



たった一夜の酒場風景で決めつけてはいけないけれど、土佐の女性は(若いうちは)明るく闊達で、物怖じなど無縁の性格なのかもしれない。四国は「讃岐男に阿波女」が名高いが、伊予では「嫁は土佐から貰え」と語り継がれているそうだ。土佐の女性・ハチキンは、働き者だというイメージが定着しているのだろう。軟弱な伊予男など、すぐに尻に敷かれるに違いない。高知県民は個性が強いというのが、私が幾人か知る土佐人の共通項だ。



高知に来るといつも思うのは、強い個性を持たなければやっていけない土地なのだろう、ということだ。県土の84%が山地で、しかも山々が他国との行き来を塞ぐかのように、国境をぐるりと取り囲んでいる。開けているのは太平洋だけだ。自我を張らねば負けてしまいそうな地勢である。このことは経済活動にもハンディとなるのだろう、「ほとんどの指標が46番目。下には鳥取県がいるだけ」と、しばらく雑談した雑貨屋の店主は嘆いた。



中心商店街は賑わいが維持されて、おしゃれな本屋や個性的な店が並んでいる。地方の街で、昔からの繁華街がこれほどの明るさで存続している例は少ないのではないか。ただ四国の内でも高松に比べ、経済圏の規模は小さいのだろう、賑わいの範囲は限られるようだ。しかもこの街も、南海地震の津波想定に脅かされている。古くは島が点在する浅瀬であった街は、津波が何よりも気がかりであるはずだ。多くの課題を抱えた街である。



だからといって人々は沈んでいるわけではない。「ひろめ市場」は今夜も賑わい、人々は明日のがんばりを補給している。昭和っぽい路面電車がそれに似合った騒音を撒き散らしながら交差していく。下校する女子高生が自転車を走らせ髪を揺らす。以前は廃墟のようだったデパートの撤退したビルは、大きなパチンコ店にリニューアルされた。お城はいつものように丘の上から街を睥睨し、桂浜では赤とんぼが夕日を浴びている。(2016.10.6-7)










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