「ぐじょうはちまん」という街の名を耳にするたびに、どうも通称らしいと思いながらも、正しくは何という自治体なのか、確認することなく過ごしてきた。岐阜県中央部に位置する、私の暮らしとはまるで接点がない地方であるから、深く知る必要はなかったのである。ただこの街を紹介する書や番組は、夜通し続く盆踊りやお城など、例外なくその風情を讃えているものだから、いつか訪ねたい街だと意識してきた。
「郡上郡」は美濃国の郡の一つで、長良川とその支流が刻んだ谷筋の1町163村で構成されていた。明治以降、それらの町村は合併を繰り返し、2004年にほぼ全域が合体して「郡上市」を名乗ることになった。その中で郡上藩の城下町として栄えた八幡町は、郡時代からの唯一の町で、郡上谷の中核である。長良川に合流する吉田川が穿つ川筋に、密集する家々が細々と延びる街、それがつまり「郡上八幡」なのである。
郡上市の人口は43500人。その30%が八幡町地区に集中している。街の中心部は吉田川で2分され、左岸には商店街が延び、右岸は寺や古い街並みが残っている。「日本の山城の典型の一つ」(司馬遼太郎『街道をゆく』)という郡上八幡城は、そこから急坂を登った丘の上にある。重厚な石垣が斜面を廻り、復元ながら天守は木々の緑を映して小藩の浮き沈みを伝えている。小さな街に小さな城跡。なるほどいい風情だ。
徹夜踊りで名高い「郡上おどり」は、街なかを移動する屋形を囲み、広場や路上で旧盆の4日間を踊り抜く。かつての城主が村々の盆踊りを城下に集め、「4日間は無礼講で愉しむがよい」と奨励したのが始まりとか。踊りは10種類あって、踊り手が鳴らす下駄の歯音が川の瀬音と響き合う。旧庁舎前に建つ「郡上おどり発祥碑」には「郡上の八幡出てゆくときは雨も降らぬに袖しぼる」と、踊り始めの歌詞が彫られている。
400年を経て、今や遠来の踊り手の方が多いくらいの数万人規模になっているという。郡上生まれの住民には「多くの人に来ていただくのは嬉しいのですが、家の前に屋台が並んで、それに悩ませられます」と戸惑いも出るほどだ。秋田の西馬音内、越中八尾の風の盆、徳島の阿波踊りとあちこち旅しているうちに、また盆踊りの街を歩いていることに気づく。踊りはいずれも街の宝ではあるが、暮らしの規模を超えている。
「鮎入荷」の看板に惹かれ、小さな居酒屋に入る。山家のツマミで酒を舐めていると、魚籠を抱えたオヤジが次々と調理場に駆け込んで行く。気がつけば、さっき吉田川で見かけた釣り人たちではないか。なるほど、こうやって鮎は入荷するものなのだな、と期待が高まる。「長良川の鮎」は2015年に世界農業遺産に認定されたが、すでに「郡上鮎」のブランドは大正時代から知られている。塩焼きは期待に違わず!
お医者さんの門柱には、「医院」ではなく昔のままの「療院」の看板が残り、風景に溶け込んでいる。吉田川に架かる「新橋」は深い淀みの上にある。市が「不慣れな方等のむやみな飛び込みは厳に自粛されるよう警告します」と微妙な看板を掲げているのは、わんぱくたちの飛び込みが夏の風物詩なのだろう。そしてこの街は、全国シェアの60%を占める食品サンプル日本一の街でもある。不思議な街だ。(2016.6.22-23.)
「郡上郡」は美濃国の郡の一つで、長良川とその支流が刻んだ谷筋の1町163村で構成されていた。明治以降、それらの町村は合併を繰り返し、2004年にほぼ全域が合体して「郡上市」を名乗ることになった。その中で郡上藩の城下町として栄えた八幡町は、郡時代からの唯一の町で、郡上谷の中核である。長良川に合流する吉田川が穿つ川筋に、密集する家々が細々と延びる街、それがつまり「郡上八幡」なのである。
郡上市の人口は43500人。その30%が八幡町地区に集中している。街の中心部は吉田川で2分され、左岸には商店街が延び、右岸は寺や古い街並みが残っている。「日本の山城の典型の一つ」(司馬遼太郎『街道をゆく』)という郡上八幡城は、そこから急坂を登った丘の上にある。重厚な石垣が斜面を廻り、復元ながら天守は木々の緑を映して小藩の浮き沈みを伝えている。小さな街に小さな城跡。なるほどいい風情だ。
徹夜踊りで名高い「郡上おどり」は、街なかを移動する屋形を囲み、広場や路上で旧盆の4日間を踊り抜く。かつての城主が村々の盆踊りを城下に集め、「4日間は無礼講で愉しむがよい」と奨励したのが始まりとか。踊りは10種類あって、踊り手が鳴らす下駄の歯音が川の瀬音と響き合う。旧庁舎前に建つ「郡上おどり発祥碑」には「郡上の八幡出てゆくときは雨も降らぬに袖しぼる」と、踊り始めの歌詞が彫られている。
400年を経て、今や遠来の踊り手の方が多いくらいの数万人規模になっているという。郡上生まれの住民には「多くの人に来ていただくのは嬉しいのですが、家の前に屋台が並んで、それに悩ませられます」と戸惑いも出るほどだ。秋田の西馬音内、越中八尾の風の盆、徳島の阿波踊りとあちこち旅しているうちに、また盆踊りの街を歩いていることに気づく。踊りはいずれも街の宝ではあるが、暮らしの規模を超えている。
「鮎入荷」の看板に惹かれ、小さな居酒屋に入る。山家のツマミで酒を舐めていると、魚籠を抱えたオヤジが次々と調理場に駆け込んで行く。気がつけば、さっき吉田川で見かけた釣り人たちではないか。なるほど、こうやって鮎は入荷するものなのだな、と期待が高まる。「長良川の鮎」は2015年に世界農業遺産に認定されたが、すでに「郡上鮎」のブランドは大正時代から知られている。塩焼きは期待に違わず!
お医者さんの門柱には、「医院」ではなく昔のままの「療院」の看板が残り、風景に溶け込んでいる。吉田川に架かる「新橋」は深い淀みの上にある。市が「不慣れな方等のむやみな飛び込みは厳に自粛されるよう警告します」と微妙な看板を掲げているのは、わんぱくたちの飛び込みが夏の風物詩なのだろう。そしてこの街は、全国シェアの60%を占める食品サンプル日本一の街でもある。不思議な街だ。(2016.6.22-23.)
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