今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

054 富山(富山県)・・・越中はわが道泳ぐホタルイカ

2007-06-23 10:39:05 | 富山・石川・福井

富山県人の知り合いは余り多くない。そのわずかな人たちは偶然だろうか、奇妙な共通項がある。個性的といえばその通りなのだが、むしろ「アクが強い」と言ったほうが早い。頭脳明晰な善人ではあるのだけれど、そのことを知られることを恥じているようなところがある。そしてどこか角張っていて皮肉っぽく、権威に迎合しないが敢えて反発もしない。たまたま私が知り合った富山県人に偏りがあるのか、あるいは案外、そうした県民性の土地柄なのか、ナゾである。

富山市を一日見物しようと市内循環バスに乗る。たった一組の乗客であることをいいことに、運転手からいろいろ聞きだす。「富山の人間はね、みんな富山が一番いいところだと思っているんだよ」「中心部から車で20分も離れたら広い家が建てられるし、魚は美味いし、いい土地だよ」「東京や大阪に出て行く者もいるけれど、どうしてこんないいところを出て行くのかねえ」。私が知っている富山県人は、「こんないい土地を出て行った」変わり者なのかもしれない。

かつて経済企画庁という役所があったころ、毎年「住み良さランキング」という指標を発表していた。いつも最下位あたりに低迷する埼玉県の知事が怒鳴り込んだものだから発表は取り止めとなったが、富山や福井など、北陸の小県がトップの常連という不思議な統計だった。しかしそれもそのはずで、統計は「一極集中排除法」に基づき、政策的に「地方はこんなに暮らしやすいですよ」と強調する狙いがあったのだ。

一人当たりの居住面積や公園面積、交通事故件数、火災件数などの指数を総合すると、確かに富山県は日本でトップクラスの「良い」数値となる。多くのアンケートで「住みたい県」上位になる静岡県が、45位となって知事があわてたものだが、それはワースト1の交通事故件数が足を引っ張っていたのである。

埼玉の知事に怒鳴り込まれて発表をやめてしまった経済企画庁は、そのことで2流官庁であることを自ら証明してしまったが、この指標発表は面白い試みだったと私は中止を惜しむ。項目に「日照時間」など自然条件を加えたらどんな順位になるのか、確認したい気がする。富山が住みよい土地であることに異をはさむものではないが、いささか順位は変動したであろう。

加賀と越後という大国にはさまれ、中央から遠く離れた地で、越中人は自尊心を強く維持しなければアイデンテティを保てなかったのかもしれない。蜃気楼やホタルイカ、さらには「富山の置き薬商法」にしても、何もかもがユニークな土地なのである。

太平洋戦争最終末期、ほとんど「最後の空襲」といっていい爆撃を受けた富山市は、灰燼となった市街地に碁盤目状の区画を引いて街を再建した。いまそこを、縦横に路面電車が走っている。驚かされたのは、その電車が発する騒音である。いまどきこれほどの轟音で電車がのさばる街を他に知らない。あんな騒音を平気で受け入れている富山人は、やはりナゾだ。

集客を諦めたような旧繁華街のデパートあたりを歩いていて、連れの若い女の子がつぶやいた。「そうか、空が広いからなんだ・・・」。何のことかと訊ねると、「さっきから考えていたんです。この寂しさは何だろうって」。金沢の帰りに一泊した日、富山の空は曇っていて、市役所の展望タワーからも、立山連峰を背にした富山平野の絶景は見ることができなかった。(2005.8.17)

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