今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

1127 札幌①(北海道)開拓使よごらんなさいなこの夜景

2023-10-11 15:00:48 | 北海道
藻岩山から札幌の夜景を楽しんでいると、東の空に月が昇った。顔を出したばかりの天球はオレンジ色に怪しく燃え、人口197万の大都会を照らし始める。中秋の名月からさほど経っていないのに、もう半分近く欠けている。時の移ろいの何と早いことか、などと言うのは年寄りくさいから止す。それよりも、開拓の拠点となったころは暗闇に覆われていたらしいこの大地の夜が、わずか150年で、これほど果てしない煌めきになったことに驚く。



1869年に開拓使を新設し、蝦夷地開拓に本格的に取り組んだ明治政府が、その拠点を「札幌」に置いた時、「一面の原野に居住しているのは7人だった」と書いているものもある。函館や小樽ではなく、そんな原野が拠点に選ばれたのは、水が豊かな平野であることが「世界一の都を造るに適っていた」かららしい。それから50年、第1回の国勢調査で札幌の人口は102580人にまで増えている。だが北海道全体の4.3%を占めるに過ぎなかった。



それからさらに50年後の1970年、100万都市の仲間入りした札幌市は人口を増やし続け、さらに50年を経た今では、全国20の政令指定都市で4番目の人口規模に膨張している。北海道の全人口も522万人を超すまでになったが、その40%近くが札幌に集中している。地下鉄が3ルートに延び、市民は中心部の地下街でショッピングを楽しむ。わずか7人から始まった街が、150年で28万倍も膨張した例は、世界でも珍しいだろう。



「赤れんが庁舎」の愛称で親しまれている北海道庁旧本庁舎は、北海道命名150年を迎えた5年前から、大規模な改修工事が進められている。庁舎のシンボル「八角塔」は取り外され、仮設の見学施設で観察できるようになっている。説明ボランティアらしいおじいさんが「今後100年はこんな近くからは眺められないよ」と言うものだから、ありがたく見せていただく。総高百八尺六寸という3階建ての屋上に立つ塔は、なかなか優雅である。



目立つのは窓の上に飾られた赤い星だ。「サッポロビールみたいですね」と言うと、おじいさんは「そう、五稜星と言いましてな、開拓使時代の主要な建物である本庁舎、時計台、北海道大学などに掲げられています。サッポロビールも開拓使の麦酒醸造所がルーツですから、このマークです」と淀みなく教えてくれる。開拓、新天地、国づくりといったフロンティアな気分が立ち上ってきて、「ああ、これが北海道なのだな」と納得できたような気分になる。



封建社会から近代国家に脱皮しようとする日本が、その理想を思い描いて伐り拓いて行った大地が北海道だった。南進の野望を強めるロシアに対抗する焦りもあっただろう、様々な人材が集められ、街づくり、クニづくりの青写真が描かれた。失われた数十年を漂っている現代ニッポンには羨
ましいエネルギーである。先住のアイヌの人々の平穏を奪ったという側面を忘れてはならないが、視界に収まらないほどの夜景の街が築かれたのである。



札幌駅周辺は高層ビルが林立し、さらに開発が進むという。新幹線工事で道路は塞がれ、バスターミナルも閉鎖されて臨時バス停が街に散った。市民すら戸惑いがちなこの開発ラッシュはどんな結果を生むだろう。滞在中に「市は2030年の冬季五輪誘致の断念を決めた」との報道が流れた。日本の倦怠感が、北のフロンティアまで覆ってしまったのだろうか。人口減少時代になって、札幌市も200万人到達を目前に足踏みしている。(2023.10.3-6)













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