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CGWORLD 2012 クリエイティブカンファレンス D-3 OLM Digital

cg |2012-10-29
株式会社オー・エル・エム・デジタル 研究開発部門 ソフトウェアエンジニア マルク・サルヴァティ氏による講演。
おフランスの出身の方で数学・物理を選考して学んだ後、日本の大学での博士課程を経てOLMに入った方だそうです。講演タイトルが「ド根性映像制作をやめないか? 映像制作を支える技術の大切さ」となっている通り、映像制作を下支えする技術がある事のメリットをこれでもかと語っておりました。

ド根性の世界というのは、映像制作の現場に根付いているのではないかと思います。最近話題になった残業時間の実態調査において最も残業の多い職種は「映像クリエイター」という事からも推測されるように、映像制作において根性で残業して仕事を片付けるというのを日常的に行っている現場もたぶん多いと思います。
その原因をマルクさんは予算が無い事で人が足りないあるいは経験者を雇えない等いくつかの原因がある事をおっしゃっていましたが、それらの解決はプロデューサーの仕事であり、しかし、日本の現場でハリウッドの映画のような潤沢な予算を元にした制作は現実的ではなく、ならば技術屋の仕事としては、その解決のために技術を使いましょうと話を始めました。

そこでその技術の力を行使する部署、R&Dの仕事ということになります。人に説明するとき、「(デザイナーの)夢を叶える仕事」であると言っているそうです。コストを削減し、時間を短縮し、不可能を可能にする。
OLMでのR&Dの仕事は「システムの提案と管理」といったSE的な業務から、アセット管理やプロジェクト管理といったパイプラインの開発、映像技術の研究開発といった物になるそうです。またTAを育てるための教育や自分たちの教育(シーグラフに参加して論文読んだりとか)、国際会議で成果を発表したりといった技術の共有も仕事に含まれているようです。

その仕事内容の細部にマルクさんの話は及んでいきます。
OLMはCGスタッフは150名程みたいですが、総勢では300名程のスタッフがおり、彼らの業務を支えるシステムとして基幹ネットワークは20Gbps、ストレージは300TB、レンダーファーム?のCPUは1800コアという数字があげられ、さらにOSもWindows, Mac, Linux が混在しているため(ぼそっと全部Windowsにすればいいのにそうもいかない的なことをおっしゃってますw)、これらを手作業でちまちまと管理するのは困難であり、技術の力を使って管理をしていかねばならないと言っています。各人で自分の使うマシンは管理しろと言ってもいいでしょうけど、結果としてマシンの挙動が不安定になったり、コンプライアンス的にヤバい事になったりするのはよろしくないですしね。ってことで、SIチーム(Sysmte and Interface)がそれらシステムの日々の運用と提案を行っているそうです。
この提案という部分ですが、限られた予算の中でいかにコストを抑えるかという例を一つ話していました。S3Dのプレビューのシステムを導入するにあたって、既存のシステムを入れるとかなり高コストになります。そこで自作PCを使用する事でコストを抑えたという事を言っていました。この場合、普通は代理店からシステムを一式購入し、保守契約を結びという形態をとる事が多いと思います。しかし、技術がありシステムを管理する事が出来る人がいるなら、自作PCを中心に据えたオリジナルの安いシステムを構築できるというわけですね。

パイプラインという物は、つまるところルール決めの事であると定義しています。ワークフローやデータフローのルール。しかしこのようにルールを決めても、それを守らせるのは大変だし(最初はなれなくてかえって非効率になりかねなし)、ミスをする事もある。だから、ツールを作るのだそうです。その辺は技術屋にしかできない仕事です。
ここの所で話されたんだっけな。OLMではかつてはいろいろなDCCソフトウェアを使ってたけど、ワークフローのといういつのためにmayaにしぼったそうです。

映像制作における技術開発では、そのメリットを、効率を上げること、市販のツールを使わずに自作する事でコストを削減できる事と、新たな表現が可能になることをあげていました。そしてそれらを実現したいくつかのツールを紹介していました。
それらのいくつかは公開されており、

Tools [OLM Digital R&D]

こちらから手に入れられます。
OLM Smootherやリップシンクのための物、S3Dのための物(Stroke Selectとかかな)、Noise Deformaerやフェイシャルアニメーションのブレンドのパラメータの自動化のための物なんかがあげられていました。以上は手作業でもがんばれば出来るのかもしれませんけど、技術の力を借りる事で効率を上げているというたぐい物ですかね。
一方、技術の力が無いとどうしようもないという例として、破壊や群衆等の大規模なシーンをあげています。
破壊は、mayaのシャターを使うよりも「ちょっと技術がわかっていれば普通に出来てしまう」ボロノイを利用した物なんかを使うのが良いし、大規模なシーンということで、実験的に制作したムービー [OLM Digital]で鳥の羽が体の表面に大量に生成し並べられるツールを例に挙げていました(いわゆるfeather system [Google 検索] ですかね)。その技術はその後の制作にも、草原といった表現とかに応用されているという例も示されています。
また群衆においては、Massiveなんかを使う手もあるが、そこまでのAIが必要じゃない処理において、Mayaのパーティクルインスタンスを利用したシステムを構築したりという例が示されています。

その後、教育や共有についての話があり、まとめとして、技術にも時間とコストがかかるというお話があり、そこと利益のバランスがとても難しいという話や、デザイナーと一緒に進めていく事の大切さ的な内容が話されていました。

制作の現場には、3DCGや2D、コンポジットのツールを利用するテクニックや美的感覚は重視するものの、それをより効率化したり、表現の幅を広げるためのテクニカルな方向の充実を重視しない所もあるかと思います。がんばれば何とかなってしまうし、力技でなんとかしてきたからこれからもそれで行こうという現場ですね。
そんな現場の意思決定をある程度する権限を持つ人にこそ見て欲しい講演だったんじゃないかって思いました。
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