職員室通信・600字の教育学

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『文藝・臨時増刊・堀辰雄讀本』中味では座談会の伊藤整、大岡昇平、山本健吉の品のなさがおもしろい

2009-10-18 09:24:34 | Weblog


◆『文藝・臨時増刊・堀辰雄讀本』(昭和32年発行・堀辰雄は28年没)は、古書店DAKAでは貴重本として取り扱っているが、店先に野積みしている古書店もないことはない。
 実は、これも、その野積みから300円で仕入れてきたものである。

 主な内容は、堀辰雄論2本(神西清・丸岡明)、エッセイ6本(三好達治・遠藤周作他)、作品論7本(加藤周一・川端康成他)、座談会2本など……である。

 その座談会の1本、「堀辰雄を截断する」の伊藤整、大岡昇平、山本健吉らの、品のなさが、おもしろい。
 一部、抜粋してみる。 
 
★「ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』をよっぽどよく読んだらしくて、『聖家族』が全然、ラディゲのやり方なんだ」(伊藤)
 「あんまり似すぎているんで、アホらしくなったね」(大岡) 

★「人からもいろんなものを吸収できるけれども、読む本からも吸収できる能力のあった人だな」(伊藤)
 「プルーストから、リルケから、モーリアックから意識的に取り入れ、堀さんなりに消化している」(山本)
 「消化してる? 猿まねだと思いますがね」(大岡) 

★「ちょうどその時代の青年たちが影響を受けるに具合のいいような作品を見つけて、先に読んでしまうというような、非常に鋭敏な、利口なところがあった」(伊藤) 

★「堀の頃の軽井沢は閉ざされた社会でね。そんなところで変にセンチメンタルなことを書いてるのは、人の憧れをそそろうという策略さ」(大岡) 

★「ドイツ人のいる教会とかに近づき、恥をかいて帰ってくるんだが、きれいなことだけ書きやがるんだ」(大岡)

 多恵子夫人は、カンカンだったそうだが、品のなさもここまでくると、腹も立たない。
 吹きだしてしまった(*^_^*)。

◆わたしが気になるのは、むしろ、次の黒井千次のような言い方だ。
 黒井の記述は、『文藝・臨時増刊・堀辰雄讀本』ではなく、以前、朝の新聞で見つけた。

 堀辰雄について、
 ①〈甘美な愛の雰囲気〉に惹かれる(新制高校時代)→
 ②堀の小説に惹かれる自分への疑念(大学時代)→
 ③作品そのものの否定、それでいて同時に、後ろめたさ→
 ④(時を経て)『風立ちぬ』最終章「死の影の谷」がより深く心に沁み入る……という堀作品への心の変遷を書いたものだ。

 ズバリ言えば、②・③の部分が、先の座談会の中味とほぼ同じで、違いは、否定しつつ「後ろめたさ」を感じていたという点だ。
 「気になる」というのは、この「後ろめたさ」だ。
 「後ろめたさ」を感じつつ否定される、あるいは、否定されつつ後ろめたさを感じられるくらいなら、「アホらしい」「猿まね」と吐きすてられるほうがいい。
 「否定」を取り消さないで、「後ろめたさ」から④に接続させる黒井千次のやり方は、わたしはキライだ。

 大岡昇平たちの品のなさには腹も立たなかったが、黒井千次の記述には、目眩を覚え、気分が悪くなった。


◆『文藝・臨時増刊・堀辰雄讀本』の巻末には、讀本恒例の「アンケート」が掲載されている。
 質問は、次の3つ。
 ①あなたは堀辰雄の文学をどう思われますか?
 ②堀辰雄の作品で何が一番好きですか?
 ③堀辰雄からあなたの学んだものは?

 2人の答えを紹介する。

〈三島由紀夫〉
 ①青年子女にとって詩の代用をなすもの。
 ②『旅の繪』
 ③小説を大切に書くこと。

〈石原慎太郎〉
 ①嫌いです、感覚的に。しかし、あの世界の小ささはやはり偉大だとも思う。
 ②どれといってありません。
 ③学ぶほど読んでいません。

 この2人は、大岡昇平たちと違って、否定するにしても、品格がある(*^_^*)。

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