万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国はダークサイドに落ちるのか―日中友好の行方

2018年10月26日 10時59分11秒 | 国際政治
安倍首相、日中「新次元」を模索=「尖閣」「北朝鮮」懸案ネックに
昨日、安倍首相は中国を公式訪問し、早々、同国の李克強首相と会談しました。米中対立で窮地にある中国側は首相訪問に対して歓迎一色のようですが、日本国内では、警戒論の方が多数を占めているように見受けられます。何故ならば、近年、様々な面における中国の実態が明らかとなり、現状の凄まじさに全世界が驚愕している矢先の出来事であるからです。

 中国に対する警戒論とは、米中貿易戦争に象徴される13億の市場規模を背景とした世界第二位の経済力や「中国製造2025」に描かれた次世代産業でのトップを目指す野心的な産業政策にのみ起因するわけではありません。一般には経済力や技術力の向上は軍事力の増強と連動しますので、中国の経済的躍進は必然的に軍事的脅威の増大を齎すからです。経済関係を深めれば深めるほど、日本国を含む全世界の安全保障上のリスクが高まるという深刻なジレンマがあるのです。

このジレンマを解決する手段として、しばしば政治は政治、経済は経済で分けて考え、相互利益となる経済分野に限定して日中関係を深化させればよい、とする意見も聞かれます。しかしながら、この経済と政治との間のジレンマは、政経一致を原則とする共産主義はおろか、市場経済における政経分離論を以ってしても解くことができません。何故ならば、上述したように経済力と軍事力とは比例関係にあり、体制の如何に拘わらず経済成長による歳入の拡大は軍事予算を増額させるからです。アメリカが、世界第一位の経済大国にして世界第一の軍事大国でもあるのは偶然ではありません。しかも、共産党一党独裁国家である中国は、民主主義国家のように社会保障や社会福祉といった国民向けの分野に予算を割くことなく、軍事分野に優先的に予算を配分することもできます。中国では、一人あたりの国民所得は世界第二位ではなくとも、軍事力ではアメリカを追い越すべくトップの座を虎視眈々と窺っているのです。

軍事的脅威とは、国家のみならず、国民の生命、身体、財産をも危険に晒しますので、政経間のジレンマは、政府レベルに留まらず個人レベルにあっても認識され得ます。加えて、中国は、支配下においた異民族に対しては容赦なくジェノサイドを実行してきました。今般、国家ぐるみの臓器売買ビジネスの実態が指摘され、全世界を震撼させていますが、チベット人やウイグル人に対する非人道的な残虐行為は、中国の周辺諸国において中国脅威論をなお一層に高めているのです。明日の我が身となるのですから。

そして、インターネット、スマートフォン、AI、顔認証システムといった最先端の情報・通信技術を悪用したとしか言いようのない国民の個々人に対する徹底的な国家監視体制の構築は、全人類にとりまして恐怖以外の何ものでもありません。仮に中国が近い将来においてその支配力をさらに全世界に向けて拡大させるとしますと、同様のシステムが中国がその支配下に置く諸国においても導入されることでしょう。ディストピアは想像上の産物に過ぎませんが、中国とは現実に存在する先端的なテクノロジーを支配の道具とした独裁国家なのです。最近、頓にジョージ・オーウェルの『1984年』が中国の現状を説明するに際して引き合いに出されるのも、技術を以って恐怖政治を極める国家体制の類似性にあるのでしょう。

 以上に主要な中国の脅威について述べてきましたが、こうした現状を知れば、中国からの友好の誘いは、悪魔の囁きにしか聞こえません。中国側は、安倍首相の訪中を以って日本国を自国の仲間に加えようと意気込んでいるようですが、日本国の一般国民からしますと、日中友好とは、日本国が中国という国際社会においてその暴力主義と狡猾さから警戒されている国の一味となることに他なりません。この結果として、日本国もまた、人道や倫理観に乏しい国と見なされ、同盟国であるアメリカのみならず、他の諸国からの信頼をも著しく損ねることでしょう。首相訪問を機に日本国がダークサイドに落ち、日中諸共に友好の船が沈没する展開を、国民の大多数が望んでいないことだけは確かです。そして、日本国が、その強権体質から国民の怨嗟の対象となりつつある習近平体制の延命に手を差し伸べたとしますと、恐怖政治からの脱却を望む一般の中国国民の失望をも買い、長期的な視点からすれば、日中友好をも遠ざけることになるのではないでしょうか。

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