万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカの対中FTA阻止条項要求-米中二者択一の選択へ

2018年10月08日 13時46分35秒 | 国際政治
報道に拠りますと、ロス米商務長官は、ロイター通信とのインタヴューの中で、日本国、並びに、EUがアメリカと通商協定を結ぶに際し、中国等を念頭に非市場経済国との間でFTAを禁じる条項を設ける意向を示したそうです。この条項が新たな日米通商協定に盛り込まれるとしますと、日本国は、中国も加盟国となるRCEPを締結することは不可能となります。

 日本国政府は、TPP11に次いでRCEPの成立を急いでおり、年内での大筋合意を目指して交渉を加速させようとしています。アメリカの方針は、いわば、この流れに水を差した格好となりますが、RCEPが内包するリスクを考慮しますと、日本国にとりましては、アメリカの要求は‘渡りに船’なのではないかと思うのです。RCEPへと向かう危険な道から引き返すための…。

 アメリカの要求は、交渉相手国に対して、自由に通商協定を結ぶ権利に制約を課しているため、一見、極めて傲慢で他国の主権を侵害しているようにも見えます。しかしながら、アメリカにも、自らの政策に沿う国を通商協定の相手国として選ぶ自由がありますので、アメリカが、自国の求める要件を充たしていないことを理由に日本国との新たな通商協定の締結を拒否すれば、‘それまで’ということになります。言い換えますと、同対中FTA阻止条項とは、日本国に対して‘日米通商協定を選ぶのか、RCEPを選ぶのか’の二者択一の決断を迫っていると言っても過言ではないのです。

 これまで、日本国政府は、アメリカと中国との間の巧みに泳ぐような通商政策を展開してきました。しかしながら、ここに来て、終にどちらか一方を選択すべき時期が到来しているようです。それでは、日本国は、アメリカと中国という選択肢の内、どちらを選ぶのでしょうか。この選択については、今やアメリカを抜いて中国が日本国の最大貿易相手国となっていることから、経済界を中心に中国を選ぶべしとする意見もあるかもしれません。しかしながら、以下の理由から、日本国は、迷わずアメリカを選ぶべきです。

 第一の理由は、FTAを締結しますと、様々な移動要素は‘高きから低きへ’と流れますので、価格競争力において有利となるのは中国、並びに、その他のRCEP加盟国です。また、労働コストや不動産価格等の競争力から、製造拠点の流れは日本⇒中国+その他加盟国となりましょうし、資金力の規模の面からすれば、企業買収資金の流れは逆に中国⇒日本となると同時に、日本⇒中国の技術流出の流れが生じましょう。これらの移動が一斉に起きれば、日本国の産業の空洞化が加速され、日本市場は中国の‘草刈り場’となりかねないのです。

 第二に挙げられる点は、共産党支配による中国の政経一致の国家体制です。中国では、近年、企業に対する共産党のコントロールが強化されており、グローバル展開を志向する政府系企業のみならず、民間企業であっても共産党の息がかかっています。日中経済関係が深化すればするほど、様々なルートを介して日本経済にも中国共産党の影響力が及び、その従属下に置かれるリスクが高まります。意に沿わない日本企業に対しては、中国政府は容赦なく制裁を加えることでしょう。しかも、中国では、遵法精神が低く、かつ、法の支配が確立していませんので、たとえ日系企業が不利益を受けたとしても法的救済の手段はありません。現状でさえチャイナ・リスクが懸念されているのですから、仮にRCEPが成立すれば、この傾向に拍車がかかるのは必至です。
 
第三の理由は、米中関係のさらなる悪化が予測されることです。‘新冷戦’とも称されるように、米中の対立は、経済分野に限定されているわけではありません。この対立構図からしますと、RCEPとは‘旧冷戦’時代にあってアメリカの同盟国である日本国が仇敵であるソ連邦とFTAを結ぶようなものです。現実には、共産主義国への技術流出を防ぐためにココム規制などがあったのですから、FTAを介して軍事に転用可能な民間技術や情報等が‘敵国’に流出する状態を放置するはずもありません。早かれ遅かれ、上記の‘日米通商協定を選ぶのか、RCEPを選ぶのか’の二者択一は、政治的にも、‘アメリカを選ぶのか、中国を選ぶのか’の選択となるのです。

中国という国が、自由、民主主義、法の支配、基本権の尊重といった人類普遍とされる諸価値を蔑にし、共産主義イデオロギーの名の下で犯罪や人権侵害行為さえも正当化しています。こうした非人道的な国を加盟国とした広域的な自由貿易圏を形成することは、アメリカからの要請がなくとも、日本国自らの判断として控えるべきことのように思えます。人には状況の変化に対する高い対応能力が備わっているのですから、中国抜きで経済の繁栄を目指すという方向性もあるのではないかと思うのです。

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