東日本をおそった未曾有の大震災は、この国の政治や自治体のあり方について、重要な教訓をしめしました。
〝自治体は大きいほどいい〟とばかりに「合併・広域化」を押しつけ、「行政効率化」の名でひたすら公務員を削減し、公立病院や保健所、消防署まで整理・統合する――そうした路線では住民の命もくらしも守れないことが、大震災と、その後の復旧・復興をめぐる政府の施策のお粗末さから、浮き彫りになったのではないでしょうか。
この国の政治・社会を総点検し、おおもとから改革することが必要です。地方自治の分野では、住民と身近につながり、医療や福祉に責任を負うあたたかい自治体か、税・保険料を取り立てるだけで、住民の要求や苦しみには関心を持たない自治体かが、あらためて問われます。
高すぎる保険料や過酷な取り立てに住民が苦しめられ、貧困におちいった人が保険証を奪われて、「広域化」の名でさらなる制度の変質がねらわれている国民健康保険の現状は、そうした対決の集中的なあらわれといえるでしょう
現在、国民健康保険制度の改善を求める住民運動が各地で前進し、国保料(税)の引き下げ、減免制度の拡充、保険証取り上げの是正など、貴重な成果が勝ちとられています。同時に、そうした住民運動の先頭に立っている人たちから、国保会計の用語や分析の仕方について、質問されるケースが増えてきました。「国保会計のわかりやすいハンドブックはないか?」という問い合わせもしばしば寄せられます。
この背景には①政府・厚生労働省による〝猫の目〟のような制度改変、②複雑な制度改変のなかで、国民負担増や住民犠牲がさらに拡大していること、③30年間続いた国保行政のゆきづまりと、住民運動の質的発展の必要性などがあります。
自治体が、国の責任を後退させ、住民への過酷な負担増や無慈悲な取り立てをいくら強化したところで〝被保険者の貧困化〟〝滞納増と財政悪化の悪循環〟〝低所得者の医療からの排除〟など、国保の構造問題は解決できません。
そこでこれから住民運動の側に求められこと、それが、旧来の路線にかわる真の国保再建策を提起することです。そのためには国保会計や自治体財政をしっかり分析し、住民にも自治体当局にも説得力のある政策をしめす、そうした運動の質的発展が求められる段階に来ていると考えられます。
この本はそのような問題意識から、複数の専門家の助力も得ながら、国保会計の基本的な仕組みを解説し、分析の視角を考える実践的な本として発行することにしました。
内容は、第1章では、国民健康保険会計の現状を解説します。国保の基本的なお金の出入りを明らかにし、「前期高齢者交付金」「後期高齢者支援金」「共同事業拠出金」など収支の費目の意味について、説明したいと思います。
第2章では、国保会計が現在のような形になってきた歴史をふり返ります。「なぜ、国保会計はこんなに複雑になったのか?」を追跡し、国庫負担の削減と引き換えにさまざまな〝肩代わり〟の仕組みが導入されたねらいを明らかにして、国保の財政困難の原因にせまります。
そして第3章では、一連の制度改変を受けて各地の国保にどういう変化が起こっているのか、私たちが国保会計を分析するために留意すべきことはなにかを検証します。そのうえで、「財政危機だから国保料の値上げはしょうがない」「滞納者への制裁は当然」など、自治体当局がしばしば持ち出す言い分に、はたして根拠があるのかを考えます。
第4、第5章は、実践編です。第4章では、自治体当局への資料請求の仕方や、どの項目を調査したらよいのかを解説します。第5章では、大阪市など、いくつかの自治体の国保会計(決算)を実際に分析し、「財政難の原因はなにか?」「本当に住民犠牲が避けられないのか?」を探ってみます。
終章は全体のまとめです。ここであらためて、国保にとって本当の「危機」とはなんなのかを考えたいと思います。そして巻末に全国の市町村の国保会計収支決算書を資料として添付しました。
どうぞ、この本を活用してあなたの町の国保会計を掴み、真に住民のために役立つ国保への転換を求める一助としてください。
●書名:国保の危機は本当か? 作られた赤字の理由(わけ)を知るために 自治体国保会計分析のすすめ
●著者:寺内順子/国保会計研究会
●判型/ページ:A5判 171ページ
●定価:1500円(税込)
●発売日:12月3日より
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