母の庭にカリンの木がある。
それはいつも厄介で、何が厄介かというと冬囲いの時期になるとかなりてこずるわけで。所々にあるとげが邪魔をして冬囲いがなかなか上手くできないのだ。それでも母は長年の経験からわたしにやり方を伝授するのだが、言葉と行動は一致することが稀だということをこのときに知ったりする。
まあ、わたしのだめさ加減がこういう場面で浮き彫りにされるってことなのだろうけど。
そのカリン。花を咲かせるが実をつけたことがなかったらしい。
冬囲いの作業中、よく母がこぼしていた。
「このカリン、実をつけないままずっと過ごしてきてねぇ」と。
わたしはそういう植物を育てる経験が全くといってだめな人間なので、母のそういった感覚を理解できずにいた。
それがつい最近母のところに行ったとき帰り際、見送ろうと玄関に出てきて、ふと思いついたように話した。
「見てみれ、あそこに実が一つついているんだよ」と。
よくよく見ると確かに緑の中で緑の実が見える。
嬉しそうに実を見ている母の姿。
長年待ち焦がれていたのだろう。
次の日に行くと、痛い手足で、カリンの実がよく見えるようにと周りの不必要な葉っぱを取ろうと悪戦苦闘したらしい。その付けが後で来るのだけど、やりたくてしょうが無かったことだから本人も致し方ない。
毎日、カリンの実を眺めている母。
わたしを見送りながら、風除室の椅子に腰掛け、カリンの木を仰ぎ見る。
たった一つだけ緑の中で緑色の実が隠れている。
まるで我が子を愛でるように、母の目が注がれていることに、かの実は気づいているのだろうか。
それはいつも厄介で、何が厄介かというと冬囲いの時期になるとかなりてこずるわけで。所々にあるとげが邪魔をして冬囲いがなかなか上手くできないのだ。それでも母は長年の経験からわたしにやり方を伝授するのだが、言葉と行動は一致することが稀だということをこのときに知ったりする。
まあ、わたしのだめさ加減がこういう場面で浮き彫りにされるってことなのだろうけど。
そのカリン。花を咲かせるが実をつけたことがなかったらしい。
冬囲いの作業中、よく母がこぼしていた。
「このカリン、実をつけないままずっと過ごしてきてねぇ」と。
わたしはそういう植物を育てる経験が全くといってだめな人間なので、母のそういった感覚を理解できずにいた。
それがつい最近母のところに行ったとき帰り際、見送ろうと玄関に出てきて、ふと思いついたように話した。
「見てみれ、あそこに実が一つついているんだよ」と。
よくよく見ると確かに緑の中で緑の実が見える。
嬉しそうに実を見ている母の姿。
長年待ち焦がれていたのだろう。
次の日に行くと、痛い手足で、カリンの実がよく見えるようにと周りの不必要な葉っぱを取ろうと悪戦苦闘したらしい。その付けが後で来るのだけど、やりたくてしょうが無かったことだから本人も致し方ない。
毎日、カリンの実を眺めている母。
わたしを見送りながら、風除室の椅子に腰掛け、カリンの木を仰ぎ見る。
たった一つだけ緑の中で緑色の実が隠れている。
まるで我が子を愛でるように、母の目が注がれていることに、かの実は気づいているのだろうか。