はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

やっぱりそうか

2019-10-19 19:10:05 | はがき随筆
 この年になっても安心のため毎年受診する人間ドック。あの時も軽い気持ちで健診に行ったったが、胃に何かがあるらしい。
 癌だったらこの歳でも切るんですかと、おそるおそる尋ねると、今は90代でも安全に切りますよ。あなたの場合は3分の1切除ですむから大丈夫と。
 エーッ、これって遠回しながん告知? でもそのとき「がんなのですか」の一言を私は言えなかった。精研の結果は2週間後になるという。
 その日から、否定と肯定の堂々巡りの苦悩の日々。
 結局、胃を半分強切除して生還し1年半が無事に経過した。
 鹿児島県 鹿屋市 西尾フミ子(85) 2109/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ガラス越しの別れ

2019-10-19 19:02:56 | はがき随筆
 毎年夏休みに宮崎での生活を終えた孫たちは、楽しい思い出を抱いて、成長ぶりを置き土産に、そろって記念写真。仏壇にご挨拶し宮崎空港へ向かった。
 お土産を手に孫と娘は搭乗ゲートから待合室へ入った。「もしもしコーナー」のガラスの向こう側と最後の別れの電話。
 手を振って「バイバイ」しか言えなかった孫が、小学生になって名残惜しさで泣きじゃくった。今年は中学生で「爺ちゃん・婆ちゃん元気で、いつまでも長生きしてね」が言えた。
 最近、道徳教育の声があるが、孫たちは自然に、それぞれ思いやりのある大人になれそうだ。
 宮崎市 貞原信義(81) 2019/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

腸の汚れ

2019-10-19 18:55:02 | はがき随筆
 最近手にしたあるパンフレットによると腸の汚れは万病の元だそうだ。便秘や下痢は無論のこと、頭痛や肩こり、肌荒れなども腸の汚れのサインだとか。食生活の乱れが原因だそうだ。
 腸の汚れを放置していくと、毒素が発生して血液がドロドロに。つまり、腸がんや腸閉塞、さらには心筋梗塞や脳卒中などの恐ろしい病気を招くそうだ。
 20年ほど前に、私は心筋梗塞を罹患し一応回復したが現在も毎日、薬を服用しているし、2カ月ごとに診察を受けている。
 自分の健康は自分で守るように心掛けているが、いつ何が起きるか分からないのが怖い。
 熊本市東区 竹本伸二(91) 2019/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

なつかしの映画

2019-10-19 18:47:24 | はがき随筆
 なつかしの映画を観る会で「武器よさらば」を見た。50年前に1回見たと記憶。ところが内容は思い出せずラストシーンに泣けてしまった事だけ。今回見ているうちに次はこうなると分かるようになった。数年前にもこの場所で見たのかもしれない。記憶なんていい加減なものだ。主演はゲーリー・クーパー、私の知ってるしぶいクーパーとは違う。八十数年前の映画だから若き日のクーパーはイケメンで見間違えてしまった。原作はヘミングウェイ、50年前の小さな映画館の独特なにおいまでも思い出したなつかしの映画になった。
 鹿児島県霧島市 口町円子(79) 2019/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載

偕老かな…?

2019-10-19 18:30:56 | はがき随筆
 今秋、妻の旧友が30年ぶりに来鹿した。あいにくの雨のなか、私の運転で2人の恩師が経営する農園へ行き、懐かしい一時を過ごすことができた。
 しばらくして、お礼の手紙と写真が送られてきた。西郷どん村の西郷隆盛と坂本龍馬の絵。その前に正座して膝に手を組む妻と私。どちらも握った右手を左手で包み、穏やかな笑みを湛えている。夫婦は似てくるというが、こんな感じなんだろうか。好みも性格も全く違う二人。30年の月日は、歩み寄りの刻だったのか。ふと「偕老」という言葉が頭に浮かんだ。
 つつましき偕老の日々十三夜
 鹿児島県 霧島市 秋野三歩(63) 2019/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

母を思う

2019-10-19 18:21:42 | はがき随筆
 澄んだ青空に薄雲がたなびき家の前に彼岸花がすっくと立つ。針金細工のような花はどこか妖艶な雰囲気が漂う。
 昔、母と手をつなぎ彼岸花の咲く道を歩いたのを思い出す。
 母は幼い頃、母親の葬儀を知らずきれいな着物を着たのがうれしかった。幼かったのね。私と暮らしたいと言う母を引きとった。95歳の母は娘のように素直だった。68歳の私が母のようになった。なんでもすぐに「ハイ」と答えとても可愛かった。
 10年は長いようで短い。もう少し生きて欲しかった。彼岸花を見ると母を思う。可愛い可愛い母。106歳だった。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(92) 2019/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

やればできる

2019-10-19 18:12:14 | はがき随筆
 台所の蛇口に付けていた浄水器から突然、水が噴き出した。
 隙間でもできて、漏れているのだろうか。浄水器本体は簡単に取り外せるがアダプターは工具を使ってみてもびくともしない。数日後、浄水器メーカーのカスタマーセンターに問い合わせのメールを送った。折り返し「このように試してみてください」との電話をもらった。
 アドバイス通りにやってみると頑強に動かなかった固定用のリンクがくるくると回った。新しい器具に付け替え蛇口をひねり、勢いよく流れ出る浄水器に手を浸し夫と快哉を叫んだ。早速係りの方にお礼の報告をした。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(72) 2019/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

黄泉で会おう

2019-10-19 07:01:05 | はがき随筆
 俳優の勝野洋さんがテレビに映っている。訳あってテレビを卒業した私だが、なぜかシンパシーを覚えて見入る。その瞬間、謎が解けた。1949年7月27日生まれ。なんと彼と私の誕生日がぴったり同じ。そうか、彼は青学、私は早稲田。思い出多き青春の同時期をぼくたちは大東京の空の下で過ごしたのだ。そして少年期の彼は母親を知らない。私も母とはいろいろあった。ただその後の彼は「太陽にほえろ」で一躍スターに。私は白旗をあげ故郷へ。歩いてきた道は違うが、ぼくたちは「団塊仲間」。黄泉で会おうとテレビに言った。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(70) 2019/10817 毎日新聞鹿児島版掲載

24年製今日も頑張る

2019-10-19 06:51:54 | はがき随筆
 私は昭和24年製。その間ずっと体のパーツは1日も休まずに一生懸命働いてきた。しかし段々とその性能も落ちてきた。だから気を付けながら丁寧に優しく扱ってきた。
 しかしやはり至る所にガタがきている。今日出来ることが明日は出来なくなるということもあるだろう。
 いくら出来ないことが増えても、それを数えることはやめよう。その出来ないことが出来る工夫を探してみよう。
 そしてそれが出来なくなった時、そのことはスッパリと忘れ出来ることだけを考えよう。それが人生の知恵というものだ。
 宮崎市 谷口二郎(69) 2019/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

娘と息子

2019-10-19 06:43:54 | はがき随筆
 「ママー、学校頑張ってね」と5歳の娘と3歳の息子に励まされて保育園を出る。
 おてんばな娘とヤンチャな息子に振り回され、私が怒ることは日常茶飯事。だが、どちらかが叱られて泣いていたら、一人がかばう優しい子どもたちなのである。
 そんな2人の将来の夢は、看護師と救急救命士だ。
 これから先、生きていくために大変なこともたくさんあるだろう。
 人のことを思えるような、そんな優しい子になって、夢をかなえてほしいと願うばかりである。
 熊本市中央区 佐藤樹里(30) 2019/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

まさかの大発見

2019-10-14 17:50:40 | はがき随筆


 庭にはミカン(日向夏)と柿の木がそれぞれ1本ずつ植わっている。どちらも新築当時植えた。とうに50歳を過ぎた老木だ。
 ミカンは今も元気に毎年実を付けて、孫を喜ばせる。が、柿の方は花芽をいくつか見せるが今は実を付けるまではいかない。それも、施肥をするでもなく成り行きに任せている。
 伸び放題の庭木がジャングルみたいだと、妻が嘆くので仕方なく剪定に取り掛かった。それが、切り落とそうとした枝に葉っぱに隠れてぶら下がっている柿の実1個を見つけた。驚きのまさかの大発見だった。つい、大声で妻を呼んだ。
 宮崎市 日高達男(77) 2019/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載

あおり運転

2019-10-14 17:42:44 | はがき随筆
 ドライバーの命を脅かすあおり運転のニュースが頻繁に流れる。「普通の人なのにハンドルを握ると人が変わったようになる」という言葉をよく聞く。
 実際は逆で、ハンドルを握っている時がその人の本当の姿で、日常の生活が仮の姿だと解釈した方が良い。スポーツ選手や芸能人で有名になるほど横柄になる人がおり、会社でも地位が上がるとそのようになる人がいる。ワンマンで好戦的な性格が出てくるのだろう。
 あおり運転に出会うたびに「この人も横柄予備軍だな。会社で上役にでもなったら部下が可哀そう」とつい思ってしまう。
 熊本県嘉島町 宮本登(68) 2019/10/13 毎日新聞鹿児島版掲載

高齢者集う公園

2019-10-12 18:20:19 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市   会 員   吉岡賢一
 令和の時代になるとともに、私が暮らす小さな団地の小さな公園でグラウンドゴルフを通じての小さな交流活動がスタートした。
 造成から四半世紀を経た団地は75世帯が寄り添う。公園は以前、駆け回る子どもであふれたが、少子高齢化の波にのまれて何年もたち、今や子どもの姿を見ることすらなくなっている。
 人生100年、超高齢社会とされる時代。子どもに代わって公園をわれわれ高齢者が活用する方法はないかと、あれこれ考えた。
 「グラウンドゴルフに使ったらどうだろう」。そういう声が寄せられ、周囲の同意も得られた。だが、公園は思いのほか狭く、50㍍のコースは取れない。15㍍、25㍍、30㍍の3本なら何とかなるので、ミニグラウンドゴルフで始めることにした。
 まずは道具を借用して2週間のお試し期間を設けた。その後、マイクラブ、マイボールを手にした者で同好会を発足させた。
 集まったのは11人。平均75歳で、キャディー経験を持つ80歳の女性もいれば、ゴルフの経験が豊かな男性もいる。
 1回約2時間で週3回、屋外で同じ遊びを楽しむ。何とも自然に心を開き、会話も弾む。親交があまりなかった人たちも、一つの話題で盛り上がる。自治会組織はあっても、趣味の会やサロンなどない団地だったので、物珍しさも良いように働いた。
 これからは地域内の支え合いがもっと必要になる。ゆっくり仲間を増やそう。
      (2019.10.11 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)



めだかちゃん

2019-10-12 18:18:46 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市  会 員   稲本 康代

 知人が「癒やしになるよ」とメダカを持って来た。生き物を飼うのは癒やしよりストレスになるのにと、内心は嫌だなぁと思いながら、笑顔で受け取った。
 あれから1週間。毎朝「おはよう!」と声かけをして、餌をまいている。サァーと集まってくる姿は、何とも言えず可愛らしい。何匹居るのかな? 30匹は居るなぁ。めまぐるしく動くので正確な数は掌握できない。
 幼い頃、山かげの小さな流れをせき止めてメダカを追い込み、いつまでも遊んでいたことを思い出した。めだかちゃん! やっぱりあなたは私の癒やしなのかもね。
  (2019.10.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)



はがき随筆9月度

2019-10-12 17:40:26 | はがき随筆
月間賞に立石さん(熊本)
佳作は年神さん(鹿児島)、橋本さん(宮崎)西さん(熊本)

はがき随筆9月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】19日「秋はもうすぐ」立石史子=熊本県玉名市
【佳作】27日「水面の美術館」年神貞子=鹿児島県出水市
▽26日「二つの花」橋本京子=宮崎県延岡市
▽16日「男の料理」西洋史=熊本市北区

 残暑の日々が続きますが、そんな中にも秋を感じる方がいらっしゃいました。今回はそんな方の随筆です。
 秋と言って思い出すのはフランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの「秋の日の ヴイオロンの ため息の 身にしみて ひたぶるに うら悲し……」(上田敏訳)でしょうか。でもこんなに暑くてはおセンチにもなれませんね。
 「秋はもうすぐ」立石史子さんは豊かな感性をお持ちの方だとお見受けします。日常のさりげない風景や感触からふっと秋の気配を感じる。まさか湯船に落ちてきたどんぐりから秋の到来を知る。まさに詩人ですね。
 年神貞子さんは車窓を過ぎてゆく一服の絵画のような美しい球磨川の風景に感動。心洗われるひと時をお持ちでした。山々の木々が色とりどりの紅葉に変わってゆく。それが川面に映る、秋のカラフルな景色も想像できたのではないでしょうか。絵をお描きになるのでしょうか。
 橋本京子さんの随筆も自然の描写です。花壇の中に場違いに育ったケイトウが威勢がいい。花壇の主の日々草をガードするようにナイト然と威張っている。そのアンバランスさについ笑ってしまう。初秋を彩る楽しくて愉快な風景ですね。花を擬人化して面白いです。
 退職後に挑戦した料理。その悪戦苦闘ぶりを描いたのは西洋史さん。息子からバカにされてきたけど、ある日のこと「大事な人を連れてくるから父さんの料理をぜひ」。息子から星一つもらったとさりげなく綴っていますが、さすがに西さんもぐっと胸に来るものがあったに違いありませんね。心温まるお話です。
 他に、井手口あけみさん(宮崎)の「憧れたおっぱい」▽若宮庸成さんの「川の流れのように」▽相場和子さん(熊本)の「独り言」ーーが印象に残ります。
 季節の変わり目、皆様ご自愛のほどを。
熊本県文化協会理事
      和田正隆