はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

もうじき春が

2019-02-23 17:13:47 | はがき随筆
 シュッ、シュッ、シュッ。小枝をおろすリズミカルな音と、明るいトーンに変わった人の声が響き合う。春の足音がひそやかに少しずつ近づいている。
 この冬はインフルエンザが猛威をふるって人々の心が震えた。ドキドキしながらテレビのニュースを見ている年寄りはただ祈るしかない。よその国も大寒波で雪の被害にみまわれるなど困難が思いやられる。
 いつの間にか地球は変わってしまったのだろうか。やたらと夏が長くて四季の区切りが曖昧になった。野も山も薄紅色に染まるまで、おでんを煮ながら待っている。
 熊本市東区 黒田あや子(86) 2019/2/23 毎日新聞鹿児島版掲載

2018年 鹿児島県はがき随筆

2019-02-23 16:40:45 | はがき随筆
年間賞に久野さん(霧島市)

 「はがき随筆」の2018年鹿児島年間賞に、鹿児島県霧島市の久野茂樹さん(69)の作品「幸福感」(8月29日)が選ばれた。介護施設の待合室で目にした高齢の女性と、隣に立つヘルパーの仕草を題材に自らの心情を描いた。鹿児島県内からの投稿作品を対象に石田忠彦・鹿児島大学名誉教授が選考にあたった。

至福の温かみ醸し出す

 フランス語のエッセ、これを語源とする英語のエッセイ、いずれも社会的な出来事や芸術作品に対して自分の意見を述べるという意味の言葉で、明治時代には論文と訳されたこともありましたが、その後、試論という訳語に落ち着いています。また日本では、随筆という言葉が広く使われ、これは中国種ですが、まとまった意見を述べるのではなく、自由に記録するのをいったようです。現在では随筆はエッセイの意味にもつかわれています。
 皆さんの投稿される「はがき随筆」も、大体この振幅の中に納まります。そのために評価の基準が設けにくく、選ぶ者を悩ませます。いままでもそうでしたが、今回も、どのような内容の文章にしろ、少し大げさかもしれませんが、文学的な要素つまり読む人の感性に訴えて、人生を感じさせるものを選ぶことにしました。

 年間賞は、1年間の優秀作と佳作あわせて20作品を候補とし、その中から次の3本をまず選びました。鶴の北帰行からの連想で、シベリア抑留から復員したおじさんの人生を思いやった清水昌子さんの「ツルの北帰行」、再雇用制度で職を得たことに感謝しておいでの川畑千歳さんの「ぜいたくな時間」、病院の待合室で見かけた老女とヘルパーさんの様子を描いた久野茂樹さんの「幸福感」。このうち、久野さんの「こども返りした老女と清楚な女性」の無言の交流に幸福感を感じたという文章は、2人のしぐさが至福の温かみを醸し出しています。年間賞にしました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦


読者と気持ちの共有を

 久野さんのはがき随筆の初掲載は58歳のころ。老いの悲しみを描いた見知らぬ人の作品に強い印象を受けたのがきっかけだった。その後、投稿欄「みんなの広場」や万能川柳、俳句や短歌の投稿もせっせと続け、2010年と14年には毎日俳壇の年間最優秀賞にも選ばれた。
 「ずぶの素人、自己流です」と語るが、日々大学ノートにつづる作品は膨大な数に上る。俳句や短歌だけで一日10作前後をつくり、掲載作を集めて作った小冊子も6冊を数える。
 「文字を通じて読者と気持ちを共有できたら」と投稿の楽しさを語る。「現在小学5年の男の孫にいつか作品を呼んでほしい」というのがもう一つの楽しみだ。