はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

私に怒られた?

2019-02-15 21:18:37 | はがき随筆
 「I君が話したいって」「えっ!」。大柄で怖い印象のI君とは話したことがなかった。中学校の古稀同窓会。友に促され、彼のいるテープルへ。すぐに打ち解けた。しばらくして「俺、あんたにすげえ怒られたことがある」と言われた。「えっ、何の事で?」「それは覚えちょらん」「いつ、中2? 中3?」。いやこの時は持ち上がりで、I君はいなかった。中1の時か? だが全然思い出せない。嫌な目に会った方が忘れずにいるという。I君はずっと心に引っかかっていたのだろう。全く思い出せない私。ごめんなさい。
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(70) 2019/2/15 毎日新聞鹿児島版掲載

感と勘

2019-02-15 21:09:31 | はがき随筆
 「景気良いって本当だろうか」「ま、実感無かねえ。商店街もあんまり活気無かごたる」「お金持ちには良いのでしょ。私ら年金暮らしだけん関係ないもんね」「これって私の憶測というか勘だけど、何かからくりがあるのじゃなかろうか」。平均年齢90歳が互いに勝手な社会時評をしていたら、厚労省の勤労統計等の不正が明るみに出た。「5年連続賃金の上昇が続いている」とおっしゃったのはどなただっけ。基本の統計が信用できないのなら絵に描いた餅。アベノミクスどうなっちゃうの。「案外年寄りの感と勘もばかにならないよねえ」と話し合った。
 熊本市中央区 増永陽(88) 2019/2/14 毎日新聞鹿児島版掲載

今年を

2019-02-15 21:01:07 | はがき随筆


 朝日に輝く錦江へ、外国船の入港。それを抱く桜島の光景。なんて穏やかなのだろう。なんて平和なのだろう。昨年の天災地変がうそのようだ。しかし、地球温暖化の進行がもたらす事実。環境がこわれたら、その変化に合う能力を作り上げねばならないのだろう。大変だ。やはり壊れる前になんとかしようと環境会議も真剣だが、思考には差異もあるという。それでいいのだろうか。みんなで考えよう。あの降雨、灼ける暑さ、のどもとすぎると忘れてよいだろうか。この美しいかごしまより、願いだけでなく実行しよう。何をどういればいいのだろう。
 鹿児島市 東郷久子(84) 2019/2/14 毎日新聞鹿児島版掲載

鼻歌が!

2019-02-15 20:53:00 | はがき随筆
 外出は町で小回りが効く自転車を利用していた。だが「自転車で転んで怪我をしたら」と言う妻。面倒はかけられない。逆らわずパスを利用している。
 バスの乗り換えは、便数が少なく不便だ。待つ時間を歩けが運動にもなると、自分に言い聞かせている。
 懐メロや童謡を、自然に口ずさみながら、調子よくいる自分に時々気付いた。
 普段体が重たく、何かを背負わされている感じだ。歩く途中で時々休みたいのだが、休める場所が見つからない。口ずさんでいた鼻歌が、がんばって「よいしょ!よいしょ!」に。
 宮崎市 貞原信義(80) 2019/2/14 毎日

方程式

2019-02-15 20:45:52 | はがき随筆
 お正月にテレビで大好きな書道家の篠田桃紅さんの番組がありました。「105歳の声」とあります。篠田さんの着物姿は品格があふれています。
 一番に言われたことは、年を重ねると昔のつまらない話を自慢したくなる、こんな愚かなことはありませんということでした。「作品に夢中になると次々にヒントが生れます。毎日が心身共に自然の中に溶け込んでいっている気がします」と言われたことが宝石のように輝いていると思いました。人生の方程式を学んだようでとてもうれしくなりました。私の誕生日の大きなプレゼントになりました。
 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/2/14 毎日

時の流れ

2019-02-15 20:36:57 | はがき随筆
 「さむなったあ。こらこんにゃ(今夜)あたり、冬将軍がくっど(来るぞ!)」「なあに、冬将軍って?」「冬の神さあの事だよ」。そう言えばこの言葉も最近聞いてないな~とついひとり言の自分がいた(笑)
 これは紫尾の谷間、古びた湯治場で耳にした会話である。思い出すと、季節に応じてふるさとからたくさんの事を学んだ。それが心を豊かにしてくれていたような気がする。あの頃は、季節と結びついた言葉など自然となじんで時間が流れていた。いつの間にか風情ある言葉などを忘れかけていたことに2人の会話できづかされた。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(70) 2019/2/14 毎日

小さな幸せ

2019-02-15 20:28:56 | はがき随筆


 大晦日、息子が毎年迎えに来て、息子宅で新年を祝うのが習わしとなっていた。しかし今年は行かないと言うと嫁が「自分たちがそちらに行く」と言う。
 ところが当日宮崎の孫夫婦やひ孫たちと6人でやって来た。
 テープル二つに持参した料理をならぺ、金粉入りの酒やビールで早くも5時には年取りが始まった。5歳の男児が園で習ったお遊戯をすると8歳の姉は見て覚えたと参戦し共に踊った。すると母の孫娘まで立ち上がり一緒に踊り大笑いし、予期せぬ幸せな夜となった。そっと立ち暗い川面に「鶴ちゃんな幸せばい」とお国言葉で言ってみた。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(92) 2019/2/14 毎日

こんな仕事も

2019-02-15 20:10:18 | はがき随筆
友人のN君はF県警の警察官だった。
 まだお互い現役のころある宴席で隣同士になったことがある。そのとき彼が「私はこれまで検視を7000体余りしました。この手で」と、両手の平をみせながら話してくれた。
 他殺か自殺か、死亡原因は何か、その他死体が語りかけてくるあらゆる情報を明らかにするのが検視。「F県で殺人が疑われる事件があったら、必ず現場に呼ばれます」とも。
 7000体と言えば、毎日1体と向き合って20年。こんな仕事をしている人もいる。
 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/2/14 毎日

帽子とウイッグ

2019-02-15 20:01:10 | はがき随筆
 帽子がよく似合う友がいる。彼女とは長年のお付き合いで気心も知れ、気が置けない間柄だ。ある日ウイッグを買ったと帽子を取って見せてくれた。若々しく見え素敵だった。
 「でもね、上手につけられないのよ」と困った口ぶり。「すぐに慣れるでしょうよ」と私。
 その後、彼女はある食事会に出掛けたという。事もあろうか、帽子と一緒にウイッグがついてきたそうだ。
 私は思わず笑った。彼女の興奮ぎみな話を聞きながら、また2人で笑った。
 やっぱり私には帽子が一番いいわと、彼女はほほ笑む。
 鹿児島市 竹之内美知子(84) 2019/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

節約上手

2019-02-15 19:54:06 | はがき随筆
 我が家の近くは、大型のスーパーがひしめいている。
 いつの間にか、私たち夫婦も新聞折り込みチラシのチェックが癖になってしまった。同じ品が他店より5円安ければ「お買い得だ」、10円も開きがあれば、宝物でも見つけた気になり「御の字だ」と、女房と一喜一憂している。「お一人様○点限り」には、アッシー君でお供し、お二人様になってレジに並ぶ。
 家計簿を付けながら「今日は得した買い物になった」と、女房は満悦顔で言う。私は「チラシのおかげよ」と相づちを打つ。節約女房が自慢する一つの知恵でもある。
 宮崎市 実広英機(73) 2019/2/11 毎日新聞鹿児島版掲載

教え子の行為

2019-02-15 19:43:34 | はがき随筆
 私が70代のころではなかったかなぁ。宇土高校に勤務していた時の生徒が訪ねてきた。「先生こんにちは。今はいらんでしょうが、後で役に立ちますよ」と口にして階段の両側やトイレの壁などに木製手すりを、浴槽の3方向には金属製の手すりを取り付けてくれた。
 老化して動作が鈍り、歩行が不安定になった今では両腕で手すりをつかまえて階段を上がり下りしているし、浴槽の手すりを握って入浴したり出たりしている。彼が言ったとおりの行動をしている現在では、かつての教え子の行為が身にしみてありがたく、感謝の念しきりである。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2019/2/10 毎日新聞鹿児島版掲載

受験の季節

2019-02-15 19:35:25 | はがき随筆
 3番目の孫がセンター試験を受ける。この孫が高2になる春休みに2人でスペインをツアー旅した。そのとき一緒になったのが灘高生のR君で、妹、母親と参加。R君が言うには、同級生のうち50人が文系へ、150人が理系へ行く。ほとんどが東大希望で、自分は文系で外交官になるのだとはっきりと皆に答えていた。謙遜とか万が一のことを考えてとかいう言葉はないようだった。堂々と公言することで言霊を引き寄せ、自らを鼓舞しているのだろう。R君もわが孫もセンター試験がうまくいきますように。希望する大学へ合格できますように。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(78) 2019/2/9 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度

2019-02-15 19:05:44 | 受賞作品
月間賞に岡田さん(熊本)
佳作は鍬本さん(熊本)、山下さん(鹿児島)、矢野さん(宮崎)


はがき随筆1月度。受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
 
 【月間賞】1日「いっちょん好かん」岡田政雄=熊本市北区
 【佳作】10日「ほっこり」鍬本恵子=熊本県八代市
  ▽ 31日「銭湯」山下秀雄=鹿児島県出水市
  ▽ 31日「準備万端」矢野博子さん=宮崎県日南市

 平成31年元旦のはがき随筆は岡田政雄さんの「いっちょん好かん」でスタートしました。お正月らしい明るく気持ちのいい内容です。病院の待合室では皆、伏し目がちになってしまいますが、この病院の雰囲気の良さには驚きました。おばあさんのことばに反応した看護師さんのセリフ。それを聞いたお医者さんのおおらかさ。何と素晴らしい病院でしょう。この病院のドアを開けただけで病気は治ってしまいそうです。朗らかさこそ病院の一番の役目なのかも知れません。病院での一こまを見事な文章にされた新春の第一作にふさわしい作品です。
 鍬本恵子さんの「ほっこり」。作者がバスから降りようとした時に先にバスを降りられた方が「どうぞ」と傘を差しかけて下った。「まぁ、すみません」と傘の中へいれてもらい濡れずにすんだ。誰とも知らない人の親切が身にしみる。雨の日の作者の胸にぽっとともった小さな灯りが美しい作品になりました。
 山下秀雄さんの「銭湯」。高校生の頃の銭湯での場面を書かれています。銭湯の洗い場で隣の人から飛んでくる湯しぶきにいやな思いをしていた。ところが背中に阿弥陀様が描かれているおじさんに「そう思っているおめえもな、さっきからこっちの方に飛ばしてんだぞ」と言われた。今までイライラしていたのに、自分のことは気づかなかった。翌日は傷つけられたと思っていた友人にも素直になれた。若き日のほろ苦い体験を銭湯の場面とからめて爽やかな一文にされました。
 矢野博子さんの「準備万端」は「延命治療は望まないから」とお母さま。子供各々へ宛てた手紙もあるので一緒に読んでいると「こんなの書いたの忘れてた」。この一言で一転してほほえましい作品になりました。
 みやざきエッセイスト・クラブ会員 戸田淳子

霧の記憶

2019-02-15 18:58:50 | はがき随筆
 霧の朝。手の届かない高みにある蜘蛛の巣に、水滴がきらきら光っている。
 ――牛舎で父母の帰りを待つ私。沸き立つ霧の中から声が聞こえ、人影が白い霧からぬっと浮かび出る。山のような刈り草を背負った父と母だ。母は私の頭をなでて「まま(ご飯)にしよ」と言った。
 あれは本当の記憶か、私は何歳だったろう、もう確かめるすべもない。牛が田を耕し、父母も牛馬のごとく働いた時代だ。
 ダイヤのようにきれいな蜘蛛の巣を見ながら、宝石に縁のなかった母と、あの草をおいしそうに食んだ牛を思い出す。
 宮崎市 柏木正樹(69) 2019/2/8 毎日新聞鹿児島版掲載

ベッド騒動

2019-02-15 18:52:29 | はがき随筆
 畳にふとんを敷いて寝ていたが、腰を痛めて寝起きがきついのでベッドにかえた。左側を壁にくっつけた柵なしベッド。先日、夜中に足がつってもがいていたらふとんごとドサッーと落ちた。恐る恐る起き上ったら目まいもせず普通に歩けた。
 今朝、ひどく寒くて目を覚ますと、ふとんは全部落ちて体は冷え切っていた。もともと風邪気味だったのがひどくなったので、ベッドが憎たらしかった。ベッドを捨てよう。
 「ベッド、ベッドと騒動したのに。物を置くとか柵をつけるとか工夫すれば」。夫も時には良い助言をしてくれる。
 鹿児島市 馬渡浩子(71) 2019/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載