はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

08年度のはがき随筆年間賞

2009-05-02 18:44:03 | グランプリ大会
年間賞に馬渡さん 見つけた病とのいい距離感

 08年の「はがき随筆」年間賞に鹿児島市慈眼寺町、馬渡浩子さん(61)の「腫瘍に命名」(昨年7月23目掲載)が決まった。表彰式は5月17日午後1時から、JR鹿児島中央駅前の鹿児島市勤労者交流センターである。馬渡さんに喜びの声を聞いた。

 受賞の一報に「冗談と思い、信じられなかった。はがき随筆はいつも気落ちする私を励ましてくれた」と話す。
 受賞作中の腫瘍は、30歳過ぎごろから馬渡さんの視界を脅かし始めた。視力低下や視野狭さくが進んだが原因が分からず憂うつな日々が10年以上続いた。
 視神経に癒着する腫瘍が見つかった時は既に6㌢大。「苦しくていつも死ぬ方法を探していた」。手術で約半分を取り除き症状は安定したが「まだ残っていることがずっと受け入れられなかった」という。
 手術から15年、還暦を迎え「よくここまで生きられたな、と。腫瘤をもう敵みたいに思いたくない」。何気なく命名した。
 デパートで呼ばれた時は腹を抱えて笑った。「憎くてたまらなかった腫瘍に助けられた気がして」。病とのいい距離感が見つけられたと思った。
 手術後に始めた投稿は10年以上。毎日ペンクラブ鹿児島の発足にもかかわった。「つらい時期に新しい友人ができ、生活に広がりをもたらしてくれた」と感慨深げた。
 2月に左ひじを骨折し、最近は気分がふさきがちだったというが「受賞で吹き飛びました。天の助けのよう」と相好を崩す。今後は「長い間、迷惑をかけ続けた夫への感謝をつづろうかと思います」と夫婦並んで話してくれた。【村尾哲】
 
病気との共生軽妙に
  馬渡さんの文章は、視神経にできた腫瘤に名前をつけて共生しているという、軽妙な内容です。
 私たちの「生・老・病・死」の悩みのうち、死は意識できませんから一応別にすれば、大変なのは老いとともに増してくる病気の苦しみでしよう。その病気といかに折り合いをつけながら生きていくかは、高齢者社会において避けては通れない問題だといえます。そのような大きな課題への対処を短くまとめられたところに感心しました。
 忌むべき腫瘍にお名前をもじった可愛い名前をつけ、デパートではぐれて、ご主人から、その名前で館内アナウンスされたというのもに微笑ましく、老夫婦の充実した生き方をほうふつとさせられました。
 文章は、大変なことを「大変だ」と表現すると案外、効果が薄れます。大変なことを相対化して表現されたところで成功しました。
 (日本近代文学会評議員、鹿児高大名誉教授・石田忠彦
  2009/5/2 毎日新聞鹿児島版掲載

年間賞作品
「腫瘍に命名」

 視神経に癒着した腫瘍と長期間、共生している。立ち退く気配など全然ないので、名前でも付けて仲良くしていくことにした。小さい存在であってほしいとの願いを込めて、本名から「子」を削りワタリ・マヒロと命名。何か「いわさきちひろ」風で、本名より良い感じ。
 先日、デパートで買い物中、夫とはぐれた。特売日ですごい人出。携帯は通じない。呼び出しを頼みたいけれど実名では、とためらっていた矢先「ワタリマヒロさん、お連れれの方が………」とアナウンスが。おお!
 よもや、こんな時こんな形で腫瘍の名前が役に立つとは。
  鹿児島市 馬渡浩子(61)










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