はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

イチジク

2018-04-24 17:08:27 | 岩国エッセイサロンより


2018年4月24日 (火)
岩国市  会 員   角 智之

 転居前の我が家には大きなイチジクの木が数本あった。中学生のころ、空腹を紛らすため重宝したが、熟れかけの実をたくさん食べて口角がただれ、食事の時など口を開けるたびに痛くて困った記憶がある。
 平成になって間もなく台風で倒伏したが、6年前、イチジクに改良品種がたくさんあることを知り、今の住所へ植えてみようと思い通販で苗木を買った。
 昨年秋から収穫できるようになったが、まだ木が若く実も小ぶり。だがセールス文句にたがわず、とても甘い。秋の実に先駆け6月下旬に熟れる夏の実も大きく美味という。楽しみだ。
   (2018.04.24 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

心に残る植物観察会

2018-04-24 17:07:44 | 岩国エッセイサロンより
2018年4月24日 (火)
   岩国市   会 員   角 智之

 1979(昭和54)年、山口県周防大島町久賀(当時久賀町)の事務所へ転勤した。
 赴任先の先輩係長は山野草に詳しく、現在中国新聞 「防長路」面に「四季折々 やまぐちの花」を連載している山口植物学会会長の南敦先生と親交があった。その年のゴールデンウイークに先輩は先生を伴っての植物観察会を町内の源明山で計画し、私も参加した。
 先生から、瀬戸内海では島により自生している植物が少しずつ異なり、町内にも珍しい植物がたくさんあると聞いて驚いた。
 その中の数種は自生地が限られた大変希少なものだという。ある先輩から町内の沢でワサビの自生を見たという話を聞いたことがある。温暖で夜間は冷涼な気候が多様な植物を育んだのであろう。
 林道工事で盛り土の中にアケビらしいものが見つかった。根が残っていたため持ち帰って植えると93年ごろ、一度だけ茶褐色で丸い実を付けた。アケビとは異なるようだった。
 この時季になるといつも観察会を思い出している。

     (2018.04.24 中国新聞「広場」掲載)

旭日に願いを

2018-04-24 17:01:21 | はがき随筆
 


 日の出の時刻が早くなっている。水平線近くの雲が茜色に染まり、空の明るさが駆け足で増してくる。犬の散歩の間、光が走る瞬間まで一部始終を眺める。いつから拝むようになったかはっきりしないが、日の出に手を合わせるのが習慣になっていて、妻と並んで拝む。
 ぼくは来る日ごとに「穏やかと健やか」をくり返している。一年中、その時刻は変わらないので、暗い空に祈った日もある。明るさに春を感じ、健康の素晴らしさを味わう。赤く染まった頬を春の風が撫でてゆく。何の変哲もない一瞬だが、幸せを胸いっぱいに感じるのである。
  鹿児島県志布志市  若宮庸成 2018/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

心残り

2018-04-24 00:00:20 | はがき随筆
 亡き母が「いつか晴れの日に着るように」と用意してくれた着物がある。淡い紫色の地に桜の花が散った清楚な一枚だ。だが、桜模様の着物は着る季節が限られ、機会を得なかった。
 ある時、夫と出かけることになった海外で清掃の夕食会が予定されていた。「着物を持っていく?」と母がきいた。身軽に発ちたい私は、深い考えもなく否、と答えた。自分のその愚かさに気付いた葉会場で和服姿の人に会った時だ。ふいに胸が熱くなった。せっかくの母の思いを無にしてまったと。
 あの日の心残りは今も憂いとなって桜と一緒に戻ってくる。
  宮崎県延岡市  柳田 ケイコ018/4/23