はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

恵みの雨

2011-10-10 22:33:55 | はがき随筆
 魚拓の取り方を聞かれた時、すぐ中学時代の田植えを思い出した。当時の学校には水田があり、季節になると全員で田植えをする。雨になると男子はにんまりした。ぬれたシャツは肌にピッタリ張り付く。女性徒たちのブラウスはシルクのように輝きまぶしかったものだ。
 「ぬれた紙や布は物に張り付きます。適度に湿らせた布や紙を、ヌルヌルをふき取った魚にピタリと貼り付け、その上から墨汁をつけたタンポてたたいてウロコやヒレの形を浮き彫りにしていきます。そうすると魚を墨で汚すことなくできます」まさに恵みの雨であった。
  出水市 中島征士 2011/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

歌で父をしのぶ

2011-10-10 22:26:47 | はがき随筆
 千昌夫さんの「津軽平野」と、今は亡き父とが重なり、聞くたび、泣けてきます。当時は、病弱な母と、祖母、5人の子どもの世帯でした。郵便局の窓口業務より農業がはるかに金になると自信の転換も、いつしか行き詰まり、やむなく出るはめに。学校から帰ると、すでに父の姿はなく、心にポカーンとした穴があいたよう。上京した父は、言葉のなまりで苦労したそうです。
 1年ぶりに夫を迎える母はやはり、そわそわしていました。「父ちゃんだよ!」。手を差し出す父に、幼い妹が恐れをなして、納戸の隅で泣きながら震えていたのを思い出します。
  指宿市 池元民子 2011/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載