はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

秋の予感

2009-09-29 12:51:39 | はがき随筆
 学校の先生をしておられた高齢のK先生は、鈴虫の飼育の名人である。毎年8月の初めになると、遠方なのに決まって幼虫をいっぱい届けてくださる。
 妻は越冬させるコツをいくら習っても失敗ばかりで、最近はその時季になると虫かごを準備して当てにして待っている。
 まだ昼間の暑さは厳しいけれど、盆が過ぎ高校野球が終わりに近づくころになると時々1、2匹が交互に短い声で鳴き始めようとする。
 たしかに朝夕は季節のうつろいを五感を通して予感する。間もなく鈴虫たちのにぎやかな「さえずり」が始まりそうだ。
 志布志市 一木法明(74) 2009/9/29 毎日新聞鹿児島版掲載

病室のつれづれに

2009-09-29 12:44:53 | 女の気持ち/男の気持ち
 入院も長引くと病室が生活の場となる。自分に与えられた安静(自由)時間は十分過ぎるほどあり、テレビ、ラジオ、新聞、読書などでつぶす。が、それらに飽きてくると閉塞感にさいなまれて入恋しくなり、おしゃべりを思いっきりしたくなる。
 しかし今時、病院で病人の暇つぶしの相手をするほど暇な人はいない。私は身近な人には期待せず、30~40年間音信不通になっている幼なじみや同級生、仕事の同僚など3人の連絡先をようやく探し出し、彼女らの顔を思い出しながら手紙をしたためた。
 うれしいことにすぐ返事があった。まだ大学生の「金食い虫」のために働いているという同級生のNさん。小柄で少女っぽかった職場の同僚のMさんは、40代に大病を患いながらもそれを克服して復職しているらしい。健康を害して長年動めた教職に区切りをつけたHさんは、仕事だけが人生のすべてではないと好きな趣味を楽しんでいるという。それぞれの健在ぶりがうれしかった。生きている限り避けて通れないことが山ほどあるが、私たちは離れた場所で頑張って生きてきたのだ。
 今、私は健康を損ね、将来を悲観的に考えることがままある。そんな自分を救えるのは自分自身であり、敵も自分の中に潜む弱さである。振り返れば天からたくさんの恵みを受け、豊かな人生を送ってきた。それに感謝し、穏やかな時間を過ごしていきたい。
  鹿児島県鹿屋市 田中 京子・58歳 2009/9/28 の気持ち欄掲載



風と50円札

2009-09-29 12:37:40 | はがき随筆
 目にゴミが入りそうな風が吹いていた幼い日のこと。
 妹弟と陣取り遊びをしていたら、ヒューツと紙切れが飛んできた。何と50円札!
 母はおやつを手作りしていたが、私たちは買い食いにあこがれていた。喜び勇んで店に行ったら「そのお金は誰にもらったの?」と聞かれた。訳を話したら「そのお金はここから飛んでいったのだから返してちょうだい」と恐い顔で言った。あっけにとられて、3人とも泣きながら走って帰った……。
 ほんとうにあの店のお金だったのか? 風さん、教えてください。
  鹿児島市 馬渡浩子(62) 2009/9/28 毎日新聞鹿児島版掲載


エアメール

2009-09-29 12:23:30 | はがき随筆
 この9月、ヨーロッパ3カ国旅行で最も感動した、スイスのユングフラウ展望所に立ち、紺碧の空と万年雪をいただいた峰々を仰ぎ見た時、俗物の私に衝撃が走り、神々の存在をひしひしと感じた。近くには日本の筒型の赤いポストがあり、今の高揚した気持ちを自分あてにハガキを書いた。6日後、さまざまな国の上を飛んで、そのまま神が下りて来てくださった。
 さて数日後、いつもの通り、庭の手入れ、茶を飲み、温泉に行き、スーパーで特売をあさる。常に興味を持ち、話題がすっ飛んだりする。これでいいのだ75歳。
  指宿市 宮田律子(75) 2009/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載