12年前の夏。8月半ばの日曜日、前日と同じように老人ホームの母に会いに行った。
すっかり衰弱し、私の問いかけにも理解できているのか、言葉にならない声が返ってくるだけである。枯れ木のような腕をそっとさすりながら「明日また来るから」と言って帰宅した。すぐそこに来ている別れに備え、庭を掃いていたら電話が鳴った。「ついに……」と悟った。
初七日に、住職の読経を聞きながら初めて涙を流した。お寺の周りでは、物音をかき消すほどのせみしぐれ。
十三回忌の朝も、あの夏と同じせみしぐれを本堂で聞いた。
鹿児島市 本山るみ子(56) 2009/9/1 毎日新聞鹿児島版掲載
すっかり衰弱し、私の問いかけにも理解できているのか、言葉にならない声が返ってくるだけである。枯れ木のような腕をそっとさすりながら「明日また来るから」と言って帰宅した。すぐそこに来ている別れに備え、庭を掃いていたら電話が鳴った。「ついに……」と悟った。
初七日に、住職の読経を聞きながら初めて涙を流した。お寺の周りでは、物音をかき消すほどのせみしぐれ。
十三回忌の朝も、あの夏と同じせみしぐれを本堂で聞いた。
鹿児島市 本山るみ子(56) 2009/9/1 毎日新聞鹿児島版掲載