『日本語の森を歩いて』

2009-04-05 11:34:38 | 本の話
掛け値なしに面白い本と言えます。

フランス・ドルヌ、小林康夫共著、講談社現代新書
こんな立派なそして上手くまとまった本が税抜き¥720
とは!

この本には面白い話題がたくさんありますが
一つご紹介しますと
(不正確で著者に叱られそうですが)

「よく」という言葉があります。
成績がよくなる、病気がよくなる・・・
この言葉は「よく」使われていて例えば以下の如く

○いらっしゃい、よくきたね
○あれでよく合格できたね
○よく働く人だ
○よく洗ったからきれい

上の4つでも微妙に意味が違うでしょ?
子供に違いを分りやすく説明できますか?
次に、なぜ同じ「よく」を使うのか説明できますか?

次はどうでしょう。

○よく泣く子だねえ↔よく笑う可愛い子だね
○よくそんなこと言えますね↔よくぞ言った

良い語感のときも悪い語感でも使いますね。

これらを学校文法で説明すれば
辞書に分類してあるようなものになるでしょう。
(~という場合に使う)ってね。
「頻度が多いことを現す」とか
「意外な結果を示す」とか

昔の医学が何骨何筋の分類で終始したように。

もちろん科学が進みますから骨や筋肉がどう働いて
ヒトが歩けるのか・ロボットに応用できるのかの研究
が、細胞レベル分子レベルからリハビリまで進歩して
います。

それと同じように
「よく」はどうしてそのように使われるのか
日本人はどう意識して「よく」をそのように使うのか
こういう研究も進んでいるのですね。

「使う人間の気持の込め方じゃないか」と
言われそうですネ。

じつはそれがこの本を読むヒントです。

難しいところもありますが、私も飛ばし読みです。

ひどく考えるところとか違うだろとかもありますが
まずはどのような言語学か、ざっとでも知るほうが
先でしょう。


この『日本語の森を歩いて』は著者の説明によると

「構造主義言語学とも生成文法ともまた認知言語学
 とも異なる・・発話操作理論の言語学」だそうです。
人間の言語を話し手を中心にした関係で捉え
個別の言語に留まらない一般化を視野に、人間の
言語能力一般のあり方を研究する・・
いや、難しそうですねえ。

でもわかり易いところだけ飛ばし読みしてもきっと
面白いと思います。

たとえば日本語はなぜ次のように言うのか。

○地下鉄を表参道おりる
○表参道のホームおりる

地下鉄を表参道おりる、表参道のホームおりる
は特殊でない限り言いません。

我々は無造作に言い分けますがどういう考えで
それが可能なのでしょうか。

確か以前私も「教室で勉強する」「教室にいる」の使い
分けに言及していますが、もう少し難しい例ですね。

さて、その答えは・・本でどうぞ。。


外国語の習得はコーパスで示される重要表現を丸覚え
というのが上達のコツです。
リクツはさておきという方向ですね。

これを重ねると一定レベルまでの感覚も自然に出来上
がります。
しかしそれだけでは深い理解には到達しづらい。
言語学や文法の勉強が必要になってくるのです。

この本にも
「ある外国語を学ぶということは一方に文法規則の
習得があり他方に辞書のような語彙の対応表があって
一方を他方に適用すると間違いのない正しい文が次々
と生み出されるというような仕方では進まない」



「に」には次のような言い方もあります。

○先生に本をもらった

なぜ同じ「に」に場所や時間を示す以外の多くの役割が
あるのか。

これを学校文法では教えてくれませんね。
分類だけです。

私が長い間活用させていただいた渡辺正数著右文書院の
『教師のための口語文法』にも格助詞「に」の分類があり
ますが、上記の(先生にもらう)は記載すらありません!

新しい表現だから載っていない?
まさかね。

古文の辞書に「対象となる相手を示す」として古今から
「~織女に宿借らむ」とありますから。

ほかにも「湯を沸かす」とはいうが
「水を沸かす」は日本語として正しくない、
など沢山の話題が載っています。

それらにつられて読み進めば新しい言語学を概観
できるしくみになっています。
日本語の様々な特性、日本文化・・

音楽的に構成されているかと思うほど上出来の本で
最後のコーダが終助詞の話。

ここは「爆発するくらい面白い!!!」

ご一読あれ。


写真は大島桜 葉っぱが美味しそう。。。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿