『一番美しく』

2009-04-06 14:32:36 | 塾あれこれ
先ごろ『野良犬』について少し書きました。
そのときこの映画に触れるつもりでしたが
時間切れで先延ばしになってしまいました。

じつは私、黒澤映画はそれほど好きではありません。
面白いなあとか、すごいなあ、いい役者だなあ、など
とは思いますが例の甘いヒューマニズムとオオゲサ好き
はアメリカ人にはよいのでしょうが、ね。
小津・成瀬・溝口・木下その他の深さがありません。

黒澤は笑うでしょうけれども。

その監督が太平洋戦争中に撮った映画です。
いろいろ話題の多い映画ですが、ちょっとだけ申します。

国策に沿わないと何も出来ない、しかも軍部の締め付けが
子供じみてタイトであった時代ですから、思うような作品
が撮れる訳ではありません。

その意味では黒澤自身の脚本ほか頑張っているともいえま
すし、「お国のため」を謳い上げた映画ともいえます。

どちらと取るかは個人の見解。

当時の空気を知らない現代人にはツマラナイ感じがする
かもしれませんね。


映画は時間の缶詰ですから当時の空気が良くも悪しくも
よく現れています。

制作上の制約が大きかったのでしょう、ロケの多い映画
です。そこで、より時代の空気が見えてくるのです。

ドキュメンタリータッチが強いとも見えますが、
多分ネオリアリズモのように意識的なものではなく
結果として、そう見えるということでしょう。

鼓笛隊の行進などは陳腐なロケです。

工場のシーンは苦労して撮っているのでしょう。
縦深い面白い構図も良いですね。

また、ロシア革命映画のモンタージュに近い編集には
驚きます。とても古典的・・・・・・
戦後の中国革命を賛美する映画と変わらない、かな?

同時代に米国が『風と共に』『オズ』『カサブランカ』
を撮っているかと思うと、いかに窮屈な時代であったか
が良く分ります。
戦争をしても勝てない、とも思えます。


この映画で感心したところを二つ。

一つはラストで小さく聞こえる歌声。
これは軍国主義とは遠いもので黒澤の気持ちが込めてある
ようです。

それ以上に素晴らしいのが
村の雪景色。

それまでの暗い色調がウソのように美しい、日本賛歌です。

こんな日本、無くなっちゃったけど。


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