『コロンブス永遠の海』

2010-10-13 10:25:58 | 塾あれこれ
オリヴェイラ監督は1908年生まれ、この映画は2007年、
つまり彼がほぼ100歳での新作です。

前年に発表された「コロンブスはポルトガル人」との
新説を踏まえて、作られたものです。
ドキュメンタリ風のファンタジーと云いましょうか、
ともかく何年に一度出あうか、の
世界映画史上で輝くに違いない傑作です。

年齢にびっくりしてはいけません。
(百歳万歳じゃない)
何歳であろうがこの映画の出来は素晴らしい。

映画が詩的に美しく、人の心に沁む深さを見せ
かつ手法が新しいのです。


世間では饒舌な創造も存在し得ますが、
基本的にはいかに削るかが表現の基本です。

我々シロウトには難しいことですね。
削れと言われると必要な所までも削ってしまいます。

詩を書くと削りすぎて一文字「愛」だの「美」だのと
書きつけて事足りちゃう
・・それはオオゲサですか。

削るには、逆に具体性を残す必要があります。

蛙が池にとび込むという具体性があるから名句になる。
鴉が枯れ枝にとまる、素人でも浮かぶ題材をいかに
深められるかが名人の腕です。

現代の芸術は逆に削りすぎているようですね。

水玉模様を描いてゲージュツと言われてもねえ。
この人は東京芸大をトップで出たなんて言われても
素人が描くように見えるものでは感動しません。

仲間内ではスゴイのでしょう。
でもね、我々素人を掴めないのでは傑作と言えません。

ぎりぎりの省略をして傑作を作るオリヴェイラ監督を
見習ってほしいものです。


オリヴェイラは、ただの水平線を映して見る者の胸を
昂らせます。

たしかに美しい画面ではあります。
でも、それだけでは誰でも撮れるかもしれませんし
少なくとも、心をつかんで離さないとまでには
いたらないでしょう。

だれでも撮れそうな海を見せてこちらの胸をどきどき
させる腕の冴えは素晴らしいものです。

この具体的なカットでどうすれば深い感覚を伝えられ
るか、まるで能の舞台のような難しさでしょう。

たとえばストーリーを作れば意味を付加できます。
哀しい思いの主人公が海を見れば海は悲しい、のですが
それではいかにも平凡・陳腐です。

この映画の場合には、物語ではなく話の大枠を知らせて
います。

主人公が若いころ大西洋を渡って移民したこと。
コロンブスがアメリカ発見に乗り出した海でもあること。
主人公は立派なアメリカ市民となり私的にコロンブスを
追い求めていること。

これらを知らしめての、海のカットです。

しかしそれだけでは素材にすぎません。
素材を組み上げただけではハートは動きません。

どうすれば感動が生まれるか?
秘密は多くあるはずです。

でも私には分からない(ズルっ、ですか?)


海は何回も出てきますが、あるシーンではカットつなぎで
まず波打ち際から水平線を映すカットがあり
次に大海原のカットが繋がれています。

海の色、波の大きさなどは違うのですが、水平線の位置を
ピッタリ動かさないで繋いでいます。
それがディゾルブなのか普通のカットつなぎか記憶に
ないのですが、それくらい「はっとさせる」絵でした。

そんな仕掛けがあちこちに隠されている、それも
ストーリーと相まって詩的なエネルギーを産むのでしょう。

*若いころから一気に高齢者に飛ぶ話の進め方
*橋から見上げた空と鉄の美しさ
*結婚式の誓約の言葉の途中で画面は新婚旅行の車へ
 替わってしまう

などなど、数えればきりがありません。
一つ一つは普通に使われる技法ですけれども、
バサっと削り込み、ぐーっと引っ張るワザが見事です。

エンドロールのバックに行く船も印象的でしたね。


人というもの
生きると云うこと
夫婦とは

色々と考える映画でした。