オリヴェイラ監督は1908年生まれ、この映画は2007年、
つまり彼がほぼ100歳での新作です。
前年に発表された「コロンブスはポルトガル人」との
新説を踏まえて、作られたものです。
ドキュメンタリ風のファンタジーと云いましょうか、
ともかく何年に一度出あうか、の
世界映画史上で輝くに違いない傑作です。
年齢にびっくりしてはいけません。
(百歳万歳じゃない)
何歳であろうがこの映画の出来は素晴らしい。
映画が詩的に美しく、人の心に沁む深さを見せ
かつ手法が新しいのです。
◎
世間では饒舌な創造も存在し得ますが、
基本的にはいかに削るかが表現の基本です。
我々シロウトには難しいことですね。
削れと言われると必要な所までも削ってしまいます。
詩を書くと削りすぎて一文字「愛」だの「美」だのと
書きつけて事足りちゃう
・・それはオオゲサですか。
削るには、逆に具体性を残す必要があります。
蛙が池にとび込むという具体性があるから名句になる。
鴉が枯れ枝にとまる、素人でも浮かぶ題材をいかに
深められるかが名人の腕です。
現代の芸術は逆に削りすぎているようですね。
水玉模様を描いてゲージュツと言われてもねえ。
この人は東京芸大をトップで出たなんて言われても
素人が描くように見えるものでは感動しません。
仲間内ではスゴイのでしょう。
でもね、我々素人を掴めないのでは傑作と言えません。
ぎりぎりの省略をして傑作を作るオリヴェイラ監督を
見習ってほしいものです。
◎
オリヴェイラは、ただの水平線を映して見る者の胸を
昂らせます。
たしかに美しい画面ではあります。
でも、それだけでは誰でも撮れるかもしれませんし
少なくとも、心をつかんで離さないとまでには
いたらないでしょう。
だれでも撮れそうな海を見せてこちらの胸をどきどき
させる腕の冴えは素晴らしいものです。
この具体的なカットでどうすれば深い感覚を伝えられ
るか、まるで能の舞台のような難しさでしょう。
たとえばストーリーを作れば意味を付加できます。
哀しい思いの主人公が海を見れば海は悲しい、のですが
それではいかにも平凡・陳腐です。
この映画の場合には、物語ではなく話の大枠を知らせて
います。
主人公が若いころ大西洋を渡って移民したこと。
コロンブスがアメリカ発見に乗り出した海でもあること。
主人公は立派なアメリカ市民となり私的にコロンブスを
追い求めていること。
これらを知らしめての、海のカットです。
しかしそれだけでは素材にすぎません。
素材を組み上げただけではハートは動きません。
どうすれば感動が生まれるか?
秘密は多くあるはずです。
でも私には分からない(ズルっ、ですか?)
○
海は何回も出てきますが、あるシーンではカットつなぎで
まず波打ち際から水平線を映すカットがあり
次に大海原のカットが繋がれています。
海の色、波の大きさなどは違うのですが、水平線の位置を
ピッタリ動かさないで繋いでいます。
それがディゾルブなのか普通のカットつなぎか記憶に
ないのですが、それくらい「はっとさせる」絵でした。
そんな仕掛けがあちこちに隠されている、それも
ストーリーと相まって詩的なエネルギーを産むのでしょう。
*若いころから一気に高齢者に飛ぶ話の進め方
*橋から見上げた空と鉄の美しさ
*結婚式の誓約の言葉の途中で画面は新婚旅行の車へ
替わってしまう
などなど、数えればきりがありません。
一つ一つは普通に使われる技法ですけれども、
バサっと削り込み、ぐーっと引っ張るワザが見事です。
エンドロールのバックに行く船も印象的でしたね。
○
人というもの
生きると云うこと
夫婦とは
色々と考える映画でした。
つまり彼がほぼ100歳での新作です。
前年に発表された「コロンブスはポルトガル人」との
新説を踏まえて、作られたものです。
ドキュメンタリ風のファンタジーと云いましょうか、
ともかく何年に一度出あうか、の
世界映画史上で輝くに違いない傑作です。
年齢にびっくりしてはいけません。
(百歳万歳じゃない)
何歳であろうがこの映画の出来は素晴らしい。
映画が詩的に美しく、人の心に沁む深さを見せ
かつ手法が新しいのです。
◎
世間では饒舌な創造も存在し得ますが、
基本的にはいかに削るかが表現の基本です。
我々シロウトには難しいことですね。
削れと言われると必要な所までも削ってしまいます。
詩を書くと削りすぎて一文字「愛」だの「美」だのと
書きつけて事足りちゃう
・・それはオオゲサですか。
削るには、逆に具体性を残す必要があります。
蛙が池にとび込むという具体性があるから名句になる。
鴉が枯れ枝にとまる、素人でも浮かぶ題材をいかに
深められるかが名人の腕です。
現代の芸術は逆に削りすぎているようですね。
水玉模様を描いてゲージュツと言われてもねえ。
この人は東京芸大をトップで出たなんて言われても
素人が描くように見えるものでは感動しません。
仲間内ではスゴイのでしょう。
でもね、我々素人を掴めないのでは傑作と言えません。
ぎりぎりの省略をして傑作を作るオリヴェイラ監督を
見習ってほしいものです。
◎
オリヴェイラは、ただの水平線を映して見る者の胸を
昂らせます。
たしかに美しい画面ではあります。
でも、それだけでは誰でも撮れるかもしれませんし
少なくとも、心をつかんで離さないとまでには
いたらないでしょう。
だれでも撮れそうな海を見せてこちらの胸をどきどき
させる腕の冴えは素晴らしいものです。
この具体的なカットでどうすれば深い感覚を伝えられ
るか、まるで能の舞台のような難しさでしょう。
たとえばストーリーを作れば意味を付加できます。
哀しい思いの主人公が海を見れば海は悲しい、のですが
それではいかにも平凡・陳腐です。
この映画の場合には、物語ではなく話の大枠を知らせて
います。
主人公が若いころ大西洋を渡って移民したこと。
コロンブスがアメリカ発見に乗り出した海でもあること。
主人公は立派なアメリカ市民となり私的にコロンブスを
追い求めていること。
これらを知らしめての、海のカットです。
しかしそれだけでは素材にすぎません。
素材を組み上げただけではハートは動きません。
どうすれば感動が生まれるか?
秘密は多くあるはずです。
でも私には分からない(ズルっ、ですか?)
○
海は何回も出てきますが、あるシーンではカットつなぎで
まず波打ち際から水平線を映すカットがあり
次に大海原のカットが繋がれています。
海の色、波の大きさなどは違うのですが、水平線の位置を
ピッタリ動かさないで繋いでいます。
それがディゾルブなのか普通のカットつなぎか記憶に
ないのですが、それくらい「はっとさせる」絵でした。
そんな仕掛けがあちこちに隠されている、それも
ストーリーと相まって詩的なエネルギーを産むのでしょう。
*若いころから一気に高齢者に飛ぶ話の進め方
*橋から見上げた空と鉄の美しさ
*結婚式の誓約の言葉の途中で画面は新婚旅行の車へ
替わってしまう
などなど、数えればきりがありません。
一つ一つは普通に使われる技法ですけれども、
バサっと削り込み、ぐーっと引っ張るワザが見事です。
エンドロールのバックに行く船も印象的でしたね。
○
人というもの
生きると云うこと
夫婦とは
色々と考える映画でした。