語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】ゲーテ「捧げることば」 ~『ファウスト』より~

2015年10月21日 | 詩歌
 また近づいてきたか、おぼろな影たちよ。
 かつてわたしの未熟な眼に浮かんだものたちよ。
 今こそおまえたちをしかと捉えてみようか。
 わたしの心はいまもあのころの夢想に惹かれるのか。
 むらがり寄せるおまえたち。よしそれなら思うままに、
 もやと霧のなかからわたしのまわりにあらわれてくるがいい。
 わたしの胸はわかわかしくときめく。
 おまえたちの群をつつむ魅惑のいぶきに揺すぶられて。

 おまえたちは楽しかった日の、かずかずの思い出をはこんでくる。
 なつかしい人たちのおもかげのかずかずが浮かび出る。
 なかば忘れられた古い伝説(いいつたえ)のように、
 初恋も初めての友情もよみがえる。
 苦しみは新たになり、嘆きはまたも人の世の
 悲しいさまよいをくりかえす。
 かりそのめの幸(さち)にあざむかれて、美しい青春をうばわれ、
 わたしに先立って逝った親しい人々の名を私は呼ぶ。

 初めの歌の幾ふしをわたしが歌って聞かせた人々は、
 いまはそれにつづく歌を聞くよしもないのだ。
 したしい人たちの団欒(まどい)は散り、
 最初に起こった好意のどよめきは帰ってこない。
 わたしの嘆きは見知らぬ世の人々にむかってひびき、
 その賞讃さえわたしの心をわびしくする。
 いまも生きてわたしの声を喜んで聞いてくれる人たちも、
 遠く四方にちらばっている。

 しかし今わたしを捉えるのは、あの静かなおごそかな霊たちの国への
 ながく忘れていた憧れ。
 わたしの歌はいまようやくつぶやきをとりもどして
 おぼつかなくもエオルスの琴【注】のように鳴りはじめる。
 戦慄(おののき)がわたしをつかみ、涙はつづく。、
 かたくなった心もしだいになごんでゆくようだ。
 わたしがいま現実に見ているものは遠い世のことのように思われ、
 すでに消え失せたものが、わたしにとって現実となってくる。

 【注】ギリシャ神話、風によって微妙な音色で鳴るという琴。エオルスは風神の名。

 Ihr naht euch wieder, schwankende Gestalten,
 Die früh sich einst dem trüben Blick gezeigt.
 Versuch ich wohl, euch diesmal festzuhalten?
 Fühl ich mein Herz noch jenem Wahn geneigt?
 Ihr drängt euch zu! nun gut, so mögt ihr walten,
 Wie ihr aus Dunst und Nebel um mich steigt;
 Mein Busen fühlt sich jugendlich erschüttert
 Vom Zauberhauch, der euren Zug umwittert.

 Ihr bringt mit euch die Bilder froher Tage,
 Und manche liebe Schatten steigen auf;
 Gleich einer alten, halbverklungnen Sage
 Kommt erste Lieb und Freundschaft mit herauf;
 Der Schmerz wird neu, es wiederholt die Klage
 Des Lebens labyrinthisch irren Lauf,
 Und nennt die Guten, die, um schöne Stunden
 Vom Glück getäuscht, vor mir hinweggeschwunden.

 Sie hören nicht die folgenden Gesänge,
 Die Seelen, denen ich die ersten sang;
 Zerstoben ist das freundliche Gedränge,
 Verklungen, ach! der erste Widerklang.
 Mein Lied ertönt der unbekannten Menge,
 Ihr Beifall selbst macht meinem Herzen bang,
 Und was sich sonst an meinem Lied erfreuet,
 Wenn es noch lebt, irrt in der Welt zerstreuet.

 Und mich ergreift ein längst entwöhntes Sehnen
 Nach jenem stillen, ernsten Geisterreich,
 Es schwebet nun in unbestimmten Tönen
 Mein lispelnd Lied, der Äolsharfe gleich,
 Ein Schauer faßt mich, Träne folgt den Tränen,
 Das strenge Herz, es fühlt sich mild und weich;
 Was ich besitze, seh ich wie im Weiten,
 Und was verschwand, wird mir zu Wirklichkeiten.

□ヨハン ・ ヴォルフガング ・ フォン ・ ゲーテ(手塚富雄・訳)「捧げることば」(『ファウスト 悲劇』、中央公論社、1971)
□「Johann Wolfgang von Goethe: Faust: Eine Tragodie - Kapitel 1
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 【参考】
【詩歌】J・W・ゲーテ「塔守リュンコイスの歌」 ~『ファウスト』より~
【詩歌】ゲーテ「昔ツウレに王ありき」 ~『ファウスト』より~


【心理】アンリ・ワロンの方法論と業績 ~フランス心理学の特徴~

2015年10月21日 | 心理
 (1)フランスの心理学の特徴は、
   「病理学的方法」
に基礎を置いていることだ。この方法の創始者は、フランス心理学の祖ともいわれているテォデュール・アルマンド・リボーだ。彼によれば、精神病は自然が行ってくれる実験であり、正常の人間の心理は精神病患者の心理の中に拡大されたり縮小されたりして観察される。
 この考え方をさらに遡れば、クロード・ベルナールの実験医学序説のなかにその源流を見出すことができる。物理学や化学のように人為的に条件をつくりあげて、その変化を見るような実験方法を
   「人為的実験」
というならば、医学のようにやむを得ない自然の力によって(人間の手を加えないまま)病気という状況がつくりだされ、その変化の過程や結果を調べるやり方も、考えようによっては一つの実験であり、これを
   「自然実験」
と名づけたのだ。ベルナールによれば、正常なものと異常なものとのあいだには本質的な違いはなく、病気と正常状態との違いは偶然的な条件が入り込んでいるか否かの違いにすぎない。
 この考え方がリボーに受け継がれ、心理学に広く適用されたのだ。
 <例>リボーは、人間の記憶について研究し、名高いリボーの法則(「忘却は不安定な記憶から安定した記憶へ、新しい記憶から古い記憶へ、複雑な記憶から単純な記憶へ及ぶ」)を発見した。このとき観察の対象とされたのは高齢者であり、特にその知能の衰えていく姿を捉えようとした点で、いわば病理的な研究だった。
 リボーがこの方法を用いて以来、病理学的方法はフランス心理学の伝統となり、フランスのほとんどの心理学者はすすんでこれを用い、すぐれた業績をつぎつぎに発表していった。
 <例>ピエール・ジャネは、強迫症状をもつ精神衰弱患者を研究し、精神活動の段階の低下した状態を見出したのだが、そこからジャネは、正常人の精神活動に共通な法則を引き出した。
 <例>知能検査の創始者として名高いアルフレッド・ビネーは、最初に発達遅滞児を手がけた。まず、これら恵まれない子どもたちのために新しい知能尺度をつくろうと努力し、この尺度をさらに広く、正常の子どもに適用するに至った。

 (2)ワロンの業績について考える場合、常にこのような心理学の伝統ないし学問的風土のなかで見ていく必要がある。彼は心理学を研究し、その理論を構築する上で、精神病理学の成果を存分に活用した。と同時に、彼は精神医学者として、従来の精神病理学の概念に対して根本的な修正を企てたのだ。
 初め精神医学者として出発したワロンは、サルペトリエール病院で「強迫妄想」、とくに慢性解釈妄想を研究した。この病気に発展する発病前の徴候を徹底的に究明しようとした。その結果、いわば遺伝的な体質をなす「偏執的素質」だけがその徴候をなしているという従来の考え方(とくにクレペリン学派の考え方)に疑問をさし挟み、むしろある種の障害がこの妄想を引き起こすに違いない、と考えるに至った(1909年)。
 この研究の結果、彼はとくに人間の精神発達に関心をもつようになった。そこで彼は、ビセートル病院で男の子、ヴァレ財団病院で女の子の異常児について214の症例を集め、とくに発達遅滞児、重症の精神不均衡児、てんかん児、落ち着かない子、倒錯児などの組織的な分析的研究を企てた。この研究が、論文『騒乱児--運動発達と精神発達の遅滞と異常に関する研究』(1925年)に結実した。
 ここでは精神生理学の方法によって異常児たちの病前徴候が徹底的に追求されている。その結果、先の妄想に係る研究と同様、病因を遺伝的なものとしてのみ取り上げることができないことを発見し、もっと広く、両親との関係のなかに病気の頻発性を見るべきだと報告している。
 <例>両親が精神病であること、とくに父親がアルコール中毒であったり、梅毒患者であったりすると異常児が出現しやすい。また、妊娠の過程でドラマティックな情動ショックを受けた母親(<例>山で台風にあったり、暴風のさいちゅうに海で座礁した船に乗り合わせたりした母親)から生まれた子どももまた異常児となることが多い。
 しかし、出生時の状況も大きな病因となり得ることをワロンはとくに強調する。産科外傷、出生時窒息、痙攣、核黄疸、麻疹の脳炎などは、てんかんや強度の発達遅滞から軽い行動障害児に至るまでつくりだすことになるし、児童期の激しい情動も、重大な障害、いや小児痴呆の起源とさえなり得るのだ。

 (3)(2)のような事実は、まさに家庭状況が異常児の出現を支配する大きな要因となっていることを示すものだ。精神異常が、遺伝的な体質によるのではなく、後天的な障害に基づくというワロンの学説は、ここでも立証された。
 さらに、この確信を強めたものとして、ワロンにはなお二つの体験があった。
  (a)第一次世界大戦という戦争体験・・・・初め軍医として、次に精神医学センターの医師として動員され、戦後は戦争神経障害者センターで臨床を経験した。脳損傷やショックを初め、その他もろもろの戦争事故による神経精神障害者の診断と治療にあたったワロンは、ここで精神障害の神経的・器質的随伴現象を確かめたのだ。
  (b)1918年から20年にかけてフランスで猛威をふるった流行性脳炎に係る臨床体験・・・・ここでも、それまで体質的ないし遺伝的だと考えられてきた精神的平衡障害や幻覚妄想が多く見出された。つまり、C・ベルナールの言葉を借りると、流行性脳炎がいわば実験的に、これらの症状を作り出してみせたのだ。

 (4)(3)のような臨床体験から、ワロンの眼は、特に錐体外の機能と筋肉的トーヌスの機能へと向かった。これらの機能が障害を受けると運動障害という症状が生じるが、これこそ精神障害を生み出す根源であることを明らかにしようとした。実際、彼は異常児の精神活動障害の基礎として、運動的徴候をとりあげて詳細に記述している。それぞれの精神障害に対して、同じ種類の運動障害が結びついている。だから、運動障害は、いわば精神障害の写像のようなものだといえる。しかも、その運動障害が、錐体外の機能の撹乱によるものであることを発見したところにワロンの創見がある。当時は、精神病の運動障害は錐体の不全によるものであり、それはいわば体質的なものだと考えられていたのであ!る。

 (5)ともあれ、ワロンの業績のなかで大事なことは、精神現象の基盤を運動的事実に求めたことだ。彼は、「心理学者が精神生活の形や変化をもっぱら精神的な要因や要素だけに帰着させることができると、しばしば信じているような錯覚」に常に反対していた。この立場は一貫してつらぬかれ、のち(1942年)に発表された理論的労作過去『行動から思考へ』【注1】で心理学の大系として結実することになる。

 (6)では、運動と精神とを結びつけるものは何か。ワロンによれば、それは情動だ。彼は情動の概念のなかに、常に運動を含めて考察したのである。このことは、名高いジェームズ・ランゲ説(「私たちは悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ。嬉しいから笑うのではなく、笑うから嬉しいのだ」という感情論)以来、神経生理学者も、常に主張してきたことであり、とくにワロン以降、W・B・キャノンやフィリップ・バード(キャノン=バード説)、ヴァルター・ルドルフ・ヘスらの神経生理学者によって再確認されている事実だ。
 ワロンによれば、情動とは筋肉トーヌスの姿勢的変化や運動をひきおこす生理的な情的状態だ。だから情動には、なんらかのかたちで運動が伴う。しかもワロンは、この情動のなかに社会現象を見出したのである。「個人は、情動によって同じような反応をつくりだすすべての他人との結合を見出す」・・・・これが
   共感
だ。生後数ヶ月目の子どもにもすでに存在しているものだ。そして、「共感によって、他人という概念が導入されることになる」。この他人のなかでも、もっとも早く認識されるのは、申すまでもなく母親だ。ついで、子どもを取り巻く人びとだ。そして、子どもと母親(ないし周囲の人びと)とのあいだに生じる漠然たる情動の流れが、子どもの精神発達を条件づけるのである。

 (7)(6)のワロンの考え方は、ジグムント・フロイトの精神分析学にかなり近いものがある。精神病を引き起こす要因として、フロイトは情動の重要性を指摘したし、人間の日常生活における思考や行動を支配するものとして幼児期の家庭環境での感情生活を分析した。ワロンがこの問題を研究していたのと時を同じくしてフロイトが精神分析学を創始したのである。おそらくワロンがフロイトから学ぶところも多かったに違いない。しかし、フロイトが精神病理現象に対してあまりにも心理学的な起源を認めすぎ、その生理学的・神経学的基礎がおろそかにされるきらいがあるがゆえに、ワロンは精神分析学に全面的に共鳴できなかった。
 ワロンはのち(1942年)に『子どもの心的発展』【注2】をあらわし、子どもの発達段階の姿を解明するが、これもまったく異常児によって示された精神障害の症候の分析に基づく点がきわめて多い。ワロンによれば、「正常児は病的な子どものなかに発見されるのだ」。
 
 (8)ワロンの発達段階説は、
  (a)衝動的段階・・・・子どもが誕生したばかりの時期。この時期には、子どもの反応は多量で、トーヌス過剰である。
  (b)情動的段階・・・・トーヌスと姿勢の機能が情動によって利用される時期。それは、他人との接触の始まり、つまり社会生活の端緒を示すものだ。
  (c)感覚運動的段階・・・・子どもは感覚のはたらきと運動のはたらきとを供応させることができるようになって、さらに言葉の習得とともに、それがいっそう豊かになっていく。
  (d)投影的段階・・・・この時期は外界との接触も深まっていき、そのために常に意図的に子どもの行為が動員されるような時期だ。
 このようにして、ワロンは
   運動-情動-精神
の相互の結びつきと、その発展の姿を常に環境との関連のなかで明らかにしようとした。人間の精神発達は、生物学的なものと社会的なものとが絡み合いながら行われていく。個人の生物学的変化と、家庭場面の事件や社会体制の力とは、その強度や時間の大小はあるにせよ、常に発達曲線のうえに反映し、これをゆがめたり変えたりすることをワロンは解明した。
 彼は病理学の研究から出発して、正常人の生きた姿へと接近していったのだ。この意味でワロンは、フランス心理学における病理学的方法を最大限に駆使しているといえよう。

 (9)『病理学的心理学(精神病理学)』【注3】は、ワロンの立場から展望した精神病理学の理論的著作だ。本書が発表された時期に、ワロンはすでに二つの著作、
   『強迫妄想』
   『騒乱児』
を発表し、その画期的な見解によって学界の注目の的となっていた。これらの研究のなかには多くの臨床的症例が集められていたが、これらに対して改めて理論的に考究していったのが本書だ。これによってワロンは、精神医学会にゆるぎない地位を獲得した。
 理論的で独創的な著作が必ずしも大作であるとは限らない。少なくともフランスでは逆のことが多い。むろん、独創的で分厚い本もないわけではないが、それはやむをえない場合に限るとされている。フランス人には、独創性には必ず簡潔性を伴うという考え方が強く、独創的な書物ほど小さくて薄いものなのだ。本書も例外ではない。
 しかし、本書を読んで目を見開いた精神医学者がどれほど多かったことか。本書を読んで、自分のとっている病理学的方法に深い反省を加えた心理学者が、どれほど多かったことか。
 ともあれ、本書はワロンにとっては彼の今までの精神医学的研究の集大成であり、以後行われた心理学や児童心理学の研究の出発点をなしているという点でも、意味深い。私たちは本書からワロンの心理学的なものの考え方を学ぶことによって、のちに展開されるワロンの児童心理学や認識心理学の根本をいっそうよく掴むことができるのだ。

 【注1】邦訳名『認識過程の心理学』、滝沢武久・訳、大月書店、1983
 【注2】邦訳名『子どもの精神的発達』、竹内良知・訳、人文書院、1982
 【注3】邦訳名『精神病理の心理学 --異常心理と正常心理の弁証法的把握』、滝沢武久・訳、大月書店、1965

□アンリ・ワロン(滝沢武久・訳)『精神病理の心理学 --常心理と正常心理の弁証法的把握』(大月書店、1965)の「訳者はしがき」
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【佐藤優】ロシア人の受け止め方 ~ノーベル文学賞~

2015年10月21日 | ●佐藤優
 (1)ノーベル文学賞を受賞した作家には二種類ある。
   ①純粋に芸術的観点から評価された作家
   ②政治的観点から評価された凡庸な作家
だ。10月8日、スウェーデン・アカデミーは、2015年のノーベル文学賞をベラルーシ人の作家スベトラーナ・アレクシエービッチ氏(67)に授与すると発表した。
 <授賞理由を、「私たちの時代における苦難と勇気の記念碑といえる、多様な声からなる彼女の作品に対して」とした>【注1】

 (2)「苦難と勇気」という受賞理由から明らかなように、ソ連やベラルーシの権威主義的政治権力と闘ったというアレクシエービッチ氏の政治姿勢が評価されたわけだ。
 彼女は、ロシア語で本を書いている。アフガニスタン戦争、チェルノブイリ原発事故に係るアレクシエービッチ氏の本は、このレベルのノンフィクションならいくらでもあり、特段の感銘を与えるものではない。
 ノーベル文学賞受賞後の記者会見でも、アレクシエービッチ氏は政治性を遺憾なく発揮している。10月10日、ドイツはベルリンで行われた記者会見では、こんな見解を披露した。
 <ロシアのプーチン大統領について「この3年ほどで(悪い方向に)変化している。本性をあらわした」と述べ、メディアや言論への圧力を強めるプーチン政権を批判した。
 ソ連末期以降、国家の圧力の中で民衆の声を記録する取材を続けてきたアレクシエービッチ氏は、プーチン政権を支えるロシアのエリート層にも「非常に失望している」と語った。
 同氏は10年以上の国外生活を経て、近年ベラルーシに帰国。その理由について、ロシアのプーチン政権や、ベラルーシで独裁体制を敷くルカシェンコ政権が「想像以上に長期化したため」と説明。「民主主義はスイスのチョコレートのように簡単には輸入できないと思い知った」と語り、民主化のために母国で活動していく決意を示した>【注2】

 (3)(2)のアレクシエービッチ発言のどこに文学性があるのだろうか。
 西側のごく普通の新聞や雑誌に記されているプーチン評の再放送にすぎない。
 ロシアの読書人の水準は高い。こんな凡庸な発言を何度繰り返しても、ロシア世論に影響を与えることはできない。
 ロシア人もベラルーシ人も欧米流の民主主義に対しては、米国やEUが自らの価値観を旧ソ連諸国に押しつけて、帝国主義的な権益を拡大するための隠れ蓑であると考えている。
 彼女が「民主化のために活動する」という決意表明をしても、「笛吹けど踊らず」。
 「あんた、30年前のペレストロイカの時のまま時計が止まっているんじゃないの」
というのが、ロシア人、ベラルーシ人の標準的な反応だと思う。
 日本でもアレクシエービッチ氏の本が何冊か訳されている。今回のノーベル文学賞受賞によっても、彼女の凡庸な本がベストセラーになることはあるまい。

 【注1】記事「ノーベル文学賞にベラルーシ人作家 フクシマを積極発言」(朝日新聞デジタル 2015年10月8日)
.com/articles/ASHB854C1HB8UHBI01B.html" target="_blank">ノーベル文学賞にベラルーシ人作家 フクシマを積極発言」
 【注2】記事「「プーチン氏悪い方に変化」 ノーベル文学賞作家が批判」 ノーベル文学賞作家が批判」(朝日新聞デジタル 2015年10月11日)

□佐藤優「ノーベル文学賞 ロシア人の受け止め方 ~佐藤優の人間観察 第132回~」(「週刊現代」2015年10月31号)
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 【参考】
【佐藤優】×池上彰「新・教育論」
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ、親日派のいた英国となぜ開戦
【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~
【佐藤優】沖縄の自己決定権確立に大貢献 ~翁長国連演説~
【佐藤優】現実の問題を解決する能力 ~知を磨く読書~
【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】ネット右翼の終わり、解釈改憲のからくり、ナチスの戦争
【佐藤優】「学力」の経済学、統計と予言、数学と戦略思考
【佐藤優】聖地で起きた「大事故」 ~イランが怒る理由~
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