語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】アベノミクス「第二ステージ」 ~失敗を隠す官僚の常套手段~

2015年10月15日 | 社会
 (1)9月24日、安倍晋三・首相はアベノミクス「新三本の矢」を発表した。「アベノミクスは『第二ステージ』へと移ります」
 それを聞いたとき、誰もが呆気にとられた。

 (2)「新三本の矢」の狙いは何か。
 安保法制が成立したが、国民の評判は最悪だ。来夏の参議院選が戦えない、という党内の不満も強い。
 国民の関心を逸らすため、「アベノミクス」と叫びたいところだが、その成果は株高だけで、それも最近は変調をきたしている【注】。このままでは、アベノミクス失敗の責任さえ問われかねない情勢だ。しかし、だからと言って、アベノミクスの看板を降ろすわけにはいかない。
 そこで出てきた官邸官僚の秘策が、「アベノミクス第二ステージ」だ。
 これは、政策失敗の時に官僚たちが使う常套手段、「発展的解消法」だ。
 「第二ステージ」といえば、前の政策を止めたことにはならない。前の政策の続きだ、といえば、前の政策の成否を議論する必要性も下がる。しかも、次のステージに移ったと言えば、前に進んでいるような幻想も与えることができるのだ。
 安倍政権の最大の関心は、来年の参議院選だ。だから、「第二ステージ」の中身は夢の羅列でも問題はない。目標年次は先の話にしておけばいい。賞味期限は1年で十分。その間は、バラマキのオンパレードにすればいい、という計算もある。

 (3)しかし、国民はそんなに単純なのだろうか。
 並べられた夢物語は、実現について何の具体的な根拠も手段も示されず、誰が見てもただの人気取りにすぎない、ということがよく分かる。
 マスコミもマーケットもあまり大きな反応はしなかった。思惑は最初から外れた、とも見える。

 (4)では、どうして、こんなに中身のないものを発表したのだろうか。
 誰もがそう思うだろう。
 しかし、そこには裏がある。それはマスコミの姿勢だ。このところ、安倍政権や自民党には、マスコミから強い批判を受けそうな話がたくさんある。いずれも大問題だが、各紙とも極端に報道を押さえた。
  (a)福山雅治・歌手/俳優の結婚について菅義偉・官房長官が語った「ママさんたちがいっしょに子どもを産みたいという形で国家に貢献してくれればいい」と時代錯誤的発言をした問題。
  (b)報道機関への圧力問題で、役職停止処分を受けた木原稔・衆議院議員の処分期間を1年間から3ヶ月間に短縮して事実上無効化した問題。
  (c)日歯連の迂回献金問題。
  (d)安部総理が、ニューヨークの国連総会後記者会見で難民問題について聞かれたのに、移民との区別も知らずに、「移民を受け入れる前に、女性の活躍、高齢者の活躍、出生率を上げる」と述べて世界のメディアに批判された問題。

 (5)そこには軽減税率の対象に新聞を入れてもらおうという新聞側の露骨な擦り寄りがある。
 つまり、裏で新聞に圧力をかけて政権批判を押さえ、アベノミクスの失敗を棚上げして「新三本の矢」への衣替えを既成事実化するという作戦だ。
 むろん、政権に擦り寄る御用学者や評論家にネット上で新三本の矢を評価するような記事を書かせる。

 (6)これまでのマスコミの動きを見る限り、官邸官僚たちの読みは当たっているようだ。
 国民をコケにした「世紀の愚策」と言われる「新三本の矢」。それは案外考え抜かれた「深慮遠謀」なのかもしれない。 
 恐るべし、官邸官僚。

 【注】<政府が10月の月例経済報告で景気の基調判断を1年ぶりに引き下げ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成果を誇示する強気な発表と、実態とのつじつまが合わなくなったことが露呈した。日本経済の停滞感は強まっており、基調判断の方向性を示さず取り繕った9月のような対応は限界に来ている。
 甘利明経済再生担当相は9月、判断を「据え置きでも下方修正でもない」とした理由を「景気の底流は緩やかな回復が続いており力強くする要素も整いつつあるのに、白黒で表現するとそういう(微妙な)要素が喪われてしまう」と説明。恣意的な大本営発表ではないと強調していた。
 ただ、当時は安全保障関連法の成立直後で、経済政策にも批判が及ぶのを政権が懸念したとの見方が強かった。鉱工業生産指数や機械受注統計など、その後に公表された指標は相次いで市場予測を下回り、見直しを余儀なくされた形だ>【解説記事「アベノミクス誇示限界」、「日本海新聞」2015年10月15日】

□古賀茂明「アベノミクス「第二ステージ」の欺瞞 ~官々愕々第173回~」(「週刊現代」2015年10月24日号)
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 【参考】
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【古賀茂明】安保法成立の最大の戦犯
【古賀茂明】軽減税率、本当の問題 ~官々愕々第170回~
【古賀茂明】国民のために働く官僚の左遷 ~読売新聞の問答無用~
【古賀茂明】安倍首相の「積極的軍事主義」が根付くとき
【古賀茂明】電力自由化は進んでいない
【古賀茂明】【TPP】の漂流と「困った人たち」
【古賀茂明】安保法案の裏で利権拡大 ~原子力ムラ~
【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~
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【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?

2015年10月15日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)家庭に普及しつつある白色LED照明は、従来の照明より青色光(ブルーライト)が強い。網膜の細胞に損傷を与え、黄斑変性症(失明に至る)のリスクを高める危険性が指摘されている。
 ブルーライトとは、文字どおり青色の光のことだ。太陽光など自然の光にも多く含まれている(<例>虹)。
 可視光の中で最も波長が短い(波長400~500nm【注1】)ブルーライトは、眼の網膜へ到達する光の中では最もエネルギーが強く、網膜の視細胞に酸化ストレスを起こし、有害作用をもたらすことがすでに証明されている。これは、「青色光網膜障害」と称され、太陽光や強力な発光源を直視した場合に起こる短期的影響とされている。
 しかし、照明器具などの低強度のブルーライトに長期的に曝露し続けた場合の影響は十分に解明されていない。
 従来の蛍光灯などと比べ、白色LED照明ははたして人間に対して危険といえるか?

 (2)昆虫(蚊やハエなど)に強いブルーライトをあてたところ、紫外線より強い殺虫作用があった、というショッキングな報告もある。【注2】

 (3)白内障手術で、光の透明度の高い眼内レンズに交換することで、網膜に入るブルーライトの量が増し、その後、加齢黄斑変性症のリスクが上がる、という疫学調査が複数あるが、結論には達していない。

 (4)照明光に使われる白色LEDのほとんどは、青色LEDを元に、補色である黄色の蛍光体を使って白色光を出している。そのため、光は白色でも、蛍光灯などの光に比べてブルーライトの占める割合が多いとして、安全性を懸念する声が上がっている。
 しかし、蛍光灯(昼光色)と白色LED(昼光色)を同じ明るさ(500ルクス(lx))で比べた場合、含まれるブルーライト成分の光は同程度なので、白色LEDだけが危険とは言えない、という報告がある。【注3】
 理論的にも、白色LEDだけが特別危険とは言えない。

 (5)しかし、マウスの視細胞に各種LED光をあてた実験で、緑色LED光に比べ、青色LED光、白色LED光で有意に細胞障害が多い、という結果が出た。【注4】
 また、白色LEDと蛍光灯を使い、日常的な照明の明るさでラットを飼育した実験で、網膜の視細胞の損傷や酸化ストレスの度合いが、蛍光灯に比べて白色LEDの方が多いという結果が発表されている。【注5】
  (a)光をあてずに暗い環境で飼育したラット(コントロール群)では損傷がなかった。
  (b)蛍光灯のグループにも細胞損傷が起きていた。
  (c)青色LED、白色LEDのグループでは蛍光灯グループの2倍程度多い被害が起きた。
 蛍光灯と白色LEDの微妙な波長光の分布の違いが、ラットや人の網膜へ影響をおよぼす可能性が示唆された。その原因が解明されない限り、白色LEDは安全とは言い切れない。

 【注1】ナノメートル。1nm=10億分の1m。
 【注2】東北大学の研究、2014年。
 【注3】報告書「LED照明の生体安全性について」および補足資料(日本照明工業会や照明学会など4団体、2014年10月・11月発表)
 【注4】原英彰・岐阜薬科大学教授らの研究、2014年。
 【注5】国立台湾大学の研究、2014年。

□植田武智(科学ジャーナリスト)「照明用白色LEDのブルーライトは安全か? いくつかの研究報告を精査してみた」(「週刊金曜日」2015年10月2日号)
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