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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【心理】子どもの認識と感情

2015年10月23日 | 心理
 (1)本書は、『子どものものの考え方』(岩波新書、1963)の姉妹編。知的発達に重点をおいた前著と異なるねらいをもつ。
  (a)知育とバランスのとれた情育の発展を促進する。
  (b)感情は知的能力と並んで人間生活の不可分の成素をなす点の理解を深める。

 (2)ジャン・ピアジェの感情論をパリ大学の講義録等から援用する。
 ピアジェは、認識の発達段階それぞれにほぼ対応する6段階の感情の発達を設定する。これは2つに大別される。
  (a)感覚運動的知能の時期で、反射、本能に支配される生後まもない頃から6~8月の言語出現期まで。①から③までの3つの下位段階がある。
  (b)言語出現以後の前操作的段階から、具体的操作の段階をへて形式的操作の段階(11歳頃にはじまり15歳頃に頂点に達する)まで。④から⑥までの3つの下位段階がある。

 (3)ピアジェによれば、認識はある行為の「構造」をあらわすのに対し、感情はその「エネルギー」面を示す。たとえば興味という感情のエネルギーが認識を伸ばす。
 逆に、「頑張って努力しなさい」と叱咤激励しても混乱を招くばかりだ、と著者は説く。努力という感情は認識の発達にそのままでは反映しないのである。

 (4)感情は知性と平行して、別々の発達をする。したがって、科学的認識とは別に、感情は絵画や文学のように別の高みへ達することができる。
 だから、著者はジャネーやクレパレードを援用しても、ワロンにはふれない。ワロンは、感情は知性の下位構造をなすという一元論的立場なのだ。

 (5)④段階の人間関係の発達が興味深い。
 この段階には「表象」「映像」が活発になり、「保存」が成立する。綿1kgと鉄1kgとどちらが重いか、の問いに正解を出せる時期である。「感謝」(日本で言えば「恩」「義理」)が成立すると同時に、劣等感(クルト・レヴィンのいわゆる「要求水準」が背後にある)や義務感も生まれる。ただし、この段階の義務感は「道徳的実在論」とでも呼ぶべきもので、「現場の状況」から独立していない。
 著者は付言して、感情とそれにもとづく反対給付(報恩)は互いに平等な人間同士の関係を前提とし、日本人の「甘え」は平等の関係を育てない、と言う。「子どもを民主的に育てようとおもったらならば、まず、世の中が子どもへの『甘やかし』の習慣をすて、彼らを一人前としてとりあつかう習慣を成立せねばならぬ」
 ところで、本書でいう「感謝」は、社会学者きだ・みのるによる義理の定義「おれもやるから、おまえも寄越せ」(ポトラッチ交換)とまったく同じだと思う。

□波多野完治『子どもの認識と感情』(岩波新書、1975)
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【アベノミクス】破綻の修復戦略 ~「一億総活躍社会」~

2015年10月23日 | 社会
 (1)第三次安倍内閣の発足とともに、「一億総活躍社会」が叫ばれ始めている。
 アベノミクスの柱だった株高が中国経済の不調で下がり、量的緩和も手詰まり。「第三の矢」として打ち出した成長戦略はことごとく討ち死に寸前だ。
 経済を鼻先への人参として馬を走らせたあげくの改憲だけが、違憲として批判される拡大解釈による安保法制の「成立」で一歩を踏み出した。
 アベノミクスの破綻がささやかれ始めた今、飛び出したのがこの「一億総活躍社会」だ。

 (2)「一億総活躍社会」に先立って公表されたアベノミクス「新三本の矢」では、
   ①出生率1.8
   ②介護離職ゼロ
   ③GDP600兆円
が謳われた。
 しかし、この三つのいずれも実現が難しいという声が多数だ。
 ①:出生率1.8の達成には、非正規や長時間労働が多い子育て世代の若者の労働条件の改善が必要だ。ところが、労働者派遣法の改定や「高度プロフェッショナル制度」といった賃下げと長時間労働を促す労働政策が目白押しだ。
 ②:介護離職ゼロのためには、介護労働者の待遇改善が不可欠だ。その介護報酬が今年度から引き下げられ、現場から「どんどん辞められて、まともな介護担当者が育たない」と嘆く声が噴出する。
 ③:GDPの増加には、付加価値の高い新しい産業創出のための研究、よって教育費への公的資金の投入が不可欠だ。しかし、現政権では、返済不要の給付型奨学金は依然として導入しないままだし、ほかも何も始まっていない。加えて、GDP上昇には賃金の上昇による消費の回復が必要だが、①で述べた労働者派遣法の改定はこれに逆行する。
 要するに、①~③のどの課題の解決にも、一般の働き手にカネをまわす政策が必要なのだが、防衛費増うや法人税減税のため、それが難しい。
 そこで、気分だけで済ませる「一億総活躍社会」作戦が登場したわけだ。

 (3)それはどんな作戦か。
 ①:福山雅治・歌手/俳優の結婚報道に際して菅義偉・官房長官が、この結婚で出産が増える、と述べた。「一億総活躍社会」作戦下の出生率向上は、
   社会的条件の整備
よりも、
   ムード作りとやる気の奨励
という気分が優勢だ。
 ②:介護離職ゼロのためには、介護実習生を海外から導入し、辞めようとしたら、実習期間が残っていることをたてにとって離職を防止することで達成する。
 ③:GDPの増加には、竹中平蔵・パソナグループ会長の活躍による労働者派遣法の改定や外国人家事支援人材の導入を活かした。低賃金労働力の売買ビジネスや、カジノなど依存症ビジネスを通じた低所得者の消費をあおる枠組みによって実現させる。

 (4)女性も外国人も低所得者も、なけなしのカネと体力をはたいて総活躍し、アベノミクスの理論的破綻をカバーする。
 主導する一億総活躍社会相は加藤勝信で、女性活躍担当相も兼ねる。加藤は、「マスコミを懲らしめる」発言が問題になった自民党文化芸術懇話会に参加していたことで知られる。女性や働き手の気力を保持するため、マスコミが批判したら懲らしめる役割として適役というわけだ。
 安倍首相が好きな戦前、戦中の国家総動員体制を平時の経済振興にあてはめれば、「一億総活躍社会」政策となるのだ。

□竹信三恵子「「一億総活躍社会」で見えてきたアベノミクス破綻の修復戦略 ~経済私考~」(「週刊金曜日」2015年10月16日号)
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